第十七話 プレイグ
少しずつ終わりに近づいてきています。
更新ペースが落ちてますが、ちゃんと終わらせますのでご安心ください。
ブックマーク、評価ありがとうございます!
誤字報告も凄く助かりますのでよろしくおねがいします!
軍が到着してからというもの、防御陣地とその前の拠点はとても強固な守りへと変貌した。
特に大きいのはやっぱり巨大な荷車で運ばれてきた各種防衛兵器だろう。
今までに確認されてきた魔物を分析し、それらに対応できるだけの力を持つ兵器を彼らは開発し、保有してきた。
巨大な大砲。
バリスタも更に大きく強力なものが運び込まれた。
もう一つ面白いものがあって、魔道具の大砲だ。
ウィザード数名の力を集めて束ね、それを集中して撃ち出すというものだった。
特徴は魔法を撃ち出すというものではあるけど、何種類かの撃ち出し方があって……その中でも速射と呼ばれるものの制圧力は半端なかった。
ゴブリン程度の群れならそれだけで蹴散らすことが出来ると言ったら分かると思う。
彼らが到着するまではこの防御陣地の中で寝泊まりしていたわけだけど……。
その間にも僕は夢を見た。
こっちに来てから殆ど変わらない同じ夢。
真っ白な空間で、ただ声だけがかすかに聞こえてくる。
ピーピーという無機質な音。そして慌てている人の声。
それが何であるか、どういう意味であるかも分からずにただ見せられている。
終わるときも今までと違って唐突だ。
まあ、そんな事はどうでもいい。
朝起きると活躍できなかったとばかりに大きくなってるやつの処理に困る方が問題だ。
まだたったの二回しかしてないのに……もうその体験に囚われてしまってる。
絶対帰って自分の家でエリーとゆっくりしまくりたい。
とりあえず……今は我慢して……静まってくれ、本当に頼むから!
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「アクラ、マナ濃度が急激に濃くなっていっているわぁ。数日中に穴が空くわよぉ」
「ふむ。となれば本格的にこちらの陣地では交代制で入ることとしよう」
軍が来てから7日が過ぎた。
じわじわとマナ濃度が上がっていくのを肌で感じる。
比較的マナに敏感ではないハンター達もそわそわと落ち着きが無いのはそのせいだろう。
これ以上濃度が上がると、耐性がない人は症状が出始める頃だ。
アクラ達調査団は半日毎の交代から更に短く区切るように指示する。
ウィザードやヒーラーはマナに対してある程度耐性はあるからまだまだ大丈夫だけど。
とは言っても、本格的にマナが吹き出した時はこの程度の比ではない濃度に跳ね上がるからなぁ。
僕はあまりやることがないのでアクラとセシリアさんと一緒にマナの吸収と魔法の使用を同時に使う訓練をしてる。
もう大体出来るようにはなってるから、あとはまあぶっつけ本番って所だ。
ただ、あれに慣れるとものすごく便利なんだ。
まず簡単に持続性が物凄い。
ずっと出しっぱなしに出来るのだ。
一時的な効果じゃなくて、マナが尽きるまでずっとその効果を維持できる。これはものすごく大きい。
例えば……ヒーラーとしてエリアリカバリーを使いながらだと……一定の場所の範囲内にいる人の怪我などを治しながら戦い続けてもらえたりする。
はっきり言って便利だ。
僕はこれを基本的にはあの場所で診断に使う。
色々と事前に考えておける時間があるから心構えが出来てきた。
地上に居る兵士たちはとても心強いし、ハンターたちとの連携も取れてきている。
何よりも……この洞窟内に運び込まれてきた木箱。
これがゲートの部品だという。
研究者達も一緒に入って病変部位の近くにこれを設置するというわけだ。
彼らはかなり危険な任務につくことになる。下手をすれば帰ってこれないわけだし。
そして……。
そこから3日ほどが過ぎて、ついにその時がきた。
時間は夜中。
突然鳴り響く鐘の音。
慌ただしく皆が動き始めて、僕達も慌てて準備をする。
直後に急激に上昇するマナの濃度……。
これは……少し前までとは全くレベルが違う。
そして僕のセルフチェックが表示されて危険を示す表示に変わった。
……こんなのも出来たのか。
マナ濃度が危険域に達しているのが分かる。
すぐに着替えをして余分な魔力を放出するため、一度思いっきり地面に向けて魔法を放つ。
範囲はこの防御陣地のすぐ近くの壁の外側。
入口付近の所に設置式の魔法を仕掛けた。
アクラがやっていたのを見て真似をしたんだけど、案外うまく行ったのでそのまま練習してみたわけだけど上手く行ったようだ。
もしもあの上を許可したもの以外が通ると……地面が突如として鋭い槍のように突き出して来る。
魔力を半分ほど消費して設置した範囲はかなり広い。
でもそれをしてもまた目に見えて魔力が回復していってしまう。
エリーやセシリアさんは拠点内部に強力なエリアリカバリーを重ねがけしていた。
「凄いわね……このマナの圧力、こんなの感じたことがないわ。使ってもすぐに勝手に魔力が回復しちゃうなんて」
「でも安心できないのよ。勝手にマナが変換されていくのは良いけど自分の身体への負担が想像以上。……大体……頑張っても1時間までね。ここはまだいいけど裂け目はもっと酷いはず」
「……よし、行こう」
洞窟内部に入るのは護衛の兵士とヒーラー達。
当然僕達も行く。
到着したら即座に結界を張り、マナの外部への影響を最小限に抑える。
あれだけ硬かった外殻が大きく破れて、オークが出入りできるくらいの大きな穴があいていた。
そこからは凄まじい勢いで高濃度のマナが溢れてくる。
これが魔龍脈……。
その中は暗くよくわからない。
でもそんな事を気にしている暇はない。
「ヒーラーは全員位置につけ、共同診断開始!」
アクラが号令を出し、僕を含めて総勢20名ほどのヒーラー達が一斉に裂け目の近くに手を触れる。
診断開始。
僕はマナを吸収しながらありったけの魔力を使って古なる者の巨体を診断していく。
「な、なんだ?この強力な魔力は……!?」
「凄い……これほどまでに広範囲を見通せるというのか!」
どよめきが上がる中、僕達3人は集中していく。
「……ユウ、あの出力でもやっぱり無理よ。自分たちから近い場所しか見通せないわ」
「範囲を限定しながらやっていくしか無いかな?」
「それでも大きいわ……」
ありったけの魔力をそのまま流しているんだけど、それでも全体の数十分の1程度しか見通せない。
巨大すぎる。
そして魔力の通りが悪い。何かが物凄い抵抗しているような感じなんだ。
しかも濃度の高いマナが充満しているせいで、余計に分かりにくい。
これは歴代の人たちが頑張っても見通せなかったというのも頷ける。
でも範囲を限定していくって方法はいい。
最後に全部を組み合わせて診断すればいいし、一度に必要な魔力も少なくて済む。
魔力のない人が編み出した方法ってことは知っているけど、今まで必要としたことがなかったから考えてなかった。
古なる者を診断するにしても、同じく必要としてやっただろうけど……範囲が広大すぎて対応しきれなかったのだろう。
ここに居るヒーラー達は選ばれただけあって魔力量も豊富だ。
面積を広く、全身を見るには……。
「輪切りだ」
「え?」
「輪切りにすれば良いんだ。診断する時に限りなく薄くて広い範囲を見ていくんだ。頭から足まで」
「……なるほど。皆の体力が消耗する前に試してみましょう。一度中止させるわ」
セシリアさんが手を止め、一度中止させる。
アクラに理由を説明してその内容を皆に伝えてもらう。
相手の巨大さ故に分割診断をすること。
そのためには皆で1人の魔力に自分の魔力を乗せて行かなければならないこと。
そしてその相手が僕だと聞いて、少しばかり文句が出た。
が、あの魔力の元が僕だと聞けば皆黙るしか無かった。
この場で僕以上の出力を出せた人はただの1人もいない。
それが何を意味するかわからない人もいない。
「……では、時間もないので改めて僕から説明します。思うところがある人もいると思うけど、今は我慢して欲しい。まず、事前の探査から埋まっている古なる者はこのような姿で埋まっています」
セシリアさんが割り出した姿を自分で再現してみせる。
ある程度の大きさなども一緒に。
何人かは大きさの知識もなかったのかびっくりしてたけど。
「病変部位を探すためにとても広範囲、しかしとても狭い範囲を診断していきます。全員でやればきっとこの大きさでもしっかりと追っていくことが出来るかと思いますが……」
横に広く、高さは出来る限り薄く。
それを頭部から順番に下に向かって行っていく。
ぶっつけ本番の難しい操作になると思うし、時間も少しかかる。
でも恐らく正確に見ることが出来るはずだ。
「では、質問はありますか?」
「質問というよりは提案ですが。確かに斬新な方法でなかなかおもしろい。しかし、胴体部分はかなり時間がかかると思われる……。この際ある程度当たりを付けてからの方が良いのではないだろうか」
「なるほど、確かに頭から順番にやる必要はないですね。この穴の位置は頸部です。……呼吸器系、循環器系などが怪しいと思いますがどうでしょうか」
「研究でも血流によってマナが全身に広がっていると考えられている。今までの部位としては内臓に集中しているというのは分かっているから、まずは胸部から腹部にかけてを行うのはどうか?」
色々と案が出る。
位置だけは把握できているのはこの分業体制によることだろう。
一緒に入っていたら全員助かっていないんだから情報を持ち帰ることが出来なかったはずだ。
ただ胸部から腹部、腰部の辺りは面積が広いから……半分ずつで見たらどうかっていうのも出た。
要するに左側と右側に真っ二つに分けてみていくわけだな。
以前はかなり時間をかけていたらしく、前回の記録だと部位を見つけるまでに10日掛かっているそうだ。
当然その分の消耗は激しく、ヒーラーもかなり倒れてる。
軍隊の方もかなり死亡者が出ていたそうだし。
「決まったか?」
「ええ。頸部から腰部にかけて順番に診断します。……皆さん、僕の魔力の流れに合わせてもらっていいですか?」
「現状、君が一番強力な診断を出せるのだ。まずは早くプレイグを抑えるために我々は原因を突き止めねばならない。やろう」
「ありがとうございます」
洞窟の外が騒がしくなってくる。
この濃度でも分かる、近くに強力な魔物が現れているんだ。
今はまだ大丈夫だろうけど、いつこの中心部に近づいてこれるようなやつが来ないとも限らない。
僕は意識を目の前に集中して手をかざした。
魔力を通じていく。
頭の中には古なる者の体制は入っているから、それに沿ってゆっくりと進めていけばいい。
でも、早く。正確に。
首の部分が薄く輪切りにされて居るのが感じられる。
実際に輪切りにしているわけじゃなくて、僕の頭の中に詳しい状態がその様に見えているという感じだ。
それが徐々に伸びていって……肩まで来る。
肩から先の腕の部分は除外して胸部に向けて下げていく。
ここからは一気に魔力を通じていかなければならない。
マナを吸収しながら魔力として放出する……古なる者の身体は人間とは異なっている。
初めて見る構造がいくつもある。
……まるで迷路だ……。
「そろそろ限界の時間だ、ユウ」
「もう?……もう少し、もう少しだけ……」
「駄目だ。君がよくても他の者達が消耗してしまう。一度切り上げるぞ」
「……くっ……分かりました……」
くそ。一回目だけでは足りなかった。
首から下を見るのにとても時間がかかる……。
僕達が切り上げた後に、別なチームが来て続きを引き継ぐ。
やり方は伝えるけど……僕がいなければ難しいんじゃないだろうか。
一度地上に戻ることにして、1つ前の拠点に飛ぶ。
そこでは既に戦闘が行われていて、巨大な魔物が軍の攻撃を食らって沈んでいた。
……何だあれ。
「……もうこのような物まで出ているのか?プレイグが発生するたびに早くなっているではないか……」
アクラの呟きは、近くにいた僕にようやく聞こえる程度だった。
そうだとすれば……やっぱり早くなんとかしなければならない。
「交代要員と一緒にまた僕も入ります。良いですか?」
「……身体は問題ないのか?」
「ええ、自分の身体は自分で診れますから……。魔力が今少し減っている状態ですから、僕の体に異常が現れるとすれば……長時間あそこにいることによる肉体的な負荷のほうが早いです。後3回位は入れるはずです」
「分かった。本当に問題ないのだな?今回はお前が要だと思っている、倒れたらその分遅れると思え」
「分かりました。無茶はしません」
アクラの許可は出た。
セシリアさん達にも話をして許可はもらった。
流石に2人はまだ休息が必要で、特にエリーは既に限界ギリギリの状態だった。
あそこで僕が粘っていたら……危なかったのかもしれない。
少し休憩した後、次のメンバーたちと一緒にまたあそこに戻る事に決まり、進捗を報告していった。
驚かれたものの、僕の魔力で今回の診断がすぐに終わるかもしれないという事を言えば皆が喜んでくれた。
時間がかかればかかるほど、こちらの損害は大きくなるから当然だろう。
僕が指揮を取ることに関しては、やっぱり反発はあったけど……一緒にやってくれた人が説得してくれてなんとかおさめてくれた。
一度休憩ということでセシリアさんたちの所に行くと、エリーが少しつらそうにしていた。
「エリー、大丈夫?」
「ええ、平気よ。……ちょっと目眩がするけど……これくらいなら明日にはもう回復してるわ」
「なら良いけど……。ちょっとごめんね」
エリーを診る。
貧血に近い症状がでているのに血圧は高くて心拍も早い。
特に何かしらの状態変化があるわけじゃないけど、異様に魔力が身体に巡っているのが分かる。
……これを抜けば……。
「……えっ……?うそ、ユウ?」
「ん?」
「今、私に何をしたの?」
「何って、魔力が変に体の中を巡ってたから……。それを抜いただけだけど」
やってみるもんだ。
意外と簡単に出来た。
徐々に体の調子も戻っていって、今はもう平常時の状態になっている。
「ユウくん。今、魔力を抜いた……って言った?」
「ええ。身体に巡り巡っている魔力を平常時の時まで減らしたんです。……どうしたんですか?」
セシリアさんが変な顔をして僕を見ていた。
エリーもか。
「あのね、魔力を抜くって……人の魔力に干渉したって言うことよ。普通はその人の魔力はその人に馴染んでるから簡単に奪うとかそういう事はできないの。エリーに今やったのは……一部の魔物が使うドレインと同じ事なの」
「えっ。じゃぁ……やらないほうが良かった……?」
「いいえ逆よ。ちょっと試しに私にもしてもらえるかしら?」
「良いですけど」
セシリアさんを診る。
……初めて知ったけど、セシリアさんもかなりの魔力を保有しているのが分かる。
僕の半分くらいだろうか。
それでもエリーの何倍という魔力であることを考えれば、やっぱりこの人もかなり優秀なんだなって思う。
わずかに身体に漏れ出た魔力を抜いて自分の方に流す。
僕にはまだ余裕があるから問題ない。
とは言え流石にセシリアさんのを受け取ったらもう完全に回復してしまった。
「……凄いわ……。あなたは大丈夫なの?」
「流石にもう吸えないですけど。適当に何か派手に放出したら出来ると思います」
「そう、でも凄いことよ。本当に魔力への親和性が高いと言うか……。人というよりも魔物に近い性質を持っているみたいだわ。でもこれを皆使えるようになれば高濃度のマナの中でも長時間活動できるようになるかもしれないわね」
説明がとても難しい……というかなんとなくやったら出来るっていう感じなので説明の仕様がないのが辛い。
これで魔力を無駄遣いしながら行うことで、何人でもやることが出来るだろうと思うけど……この魔力保管しておく方法って無いんだろうか。
「魔力を貯めるっていうと、魔石かしら?」
「そうね。ただ……魔石は基本的に算出する時に魔力を溜め込んでるんじゃないの?使ったらただの屑石になるはずじゃない?」
セシリアさんとエリーが話をしているけど、よく考えてみたらきちんとした仕組みを知らない。
魔道具を作ってもらったりしているけど、その作り方とかに関しては丸投げしているわけだからなぁ。
こうやって使うんだって言われたらそのとおりにしていただけだ。
「ある程度の魔力を溜められる物は、マナジェネレータで一時的に貯めるためにも使われているのよ?普通は容量が多かったり、魔力じゃなくてマナを入れることになるから人が魔力を通してとなると無駄なロスがあったり、そもそも容量の分入れられない問題があるけど……ユウくんなら出来るんじゃないかしら」
「あ、僕がジェネレータになるってことですか?なるほど……魔石あります?」
「外で沢山使ってるじゃない。1つ借りてやってみたら?面白そうだから私も行くわ」
使用済みになってマナ補充待ちになってるやつを借りてきてやってみることにした。
僕はマナを魔力に一々変換しないというかその変換の効率がとてもいいみたいなことを言われていたから……少しロスが出るにしても魔力からマナとして注ぐことが出来れば良いんだろう。多分。
で、やってみてわかった事は……これは確かに難しいということ。
ロスが多いというだけじゃなくて、そもそも注入する時に抵抗が凄いのだ。
時間をかけてゆっくりと充填しなければならないって言われている理由がこれなのか……本来ならば地中等のマナをゆっくりと吸収して出来たものが魔石なのだから、無理やり入れようとしたらそれは難しくなるのも仕方ない気はするけど。
そうは言ってもやってやれないことはないし、溜まった魔力をこうして外部に保管できるって考えるととても利用価値があると思う。
っていうか、この魔石1個で僕の魔力半分近く持ってったんだけど。
実際はロス含めてそれよりは少ないだろうけど……魔道具の兵器がどれだけ強力なのかって言うのがよく分かるというものだ。
1人以上の全力をずっと放出し続けることが出来るって考えると……恐ろしいな。
マナジェネレータは洞窟内部が一番いいけど、あそこは色んな意味で危険だからなぁ。
とりあえずやれると分かったからいいか。
魔力を抜いても身体への負担はある程度残るから……すぐに復帰は無理なんだけど。
そういう意味ではまあ、特に問題ない人ならそのまま放っといて休んでもらったほうが良いか。
動きすぎても僕が先に倒れてしまったら意味がない。
ただ一応アクラには報告して置いたから、何かのときには言ってくれるだろう。
ま、結局安直に使おうと思うなと釘を差されてしまったんだけど。
その後、僕は第二、第三のチームと共に出向いて診断をしていった。
流石にその頃になると僕の体の方に影響が出始めたのでアクラによって強制的に戻されてしまったけど。
まあ……なぁ……わかりやすく鼻血出してたからなぁ。
ものすごく心配されてしまった。
結局の所1日では出来ずに、明日に持ち越しとなる。
何度か襲撃はあったものの……まだまだ負傷者も誰も出ていないし、村の方にはゴブリンが来たくらいで特に問題なかったらしい。
あそこには交代で下がっている人たちがたくさんいるから、戦力だけ考えればこっちより上だしな。
作ってきた防御用の壁も強固だし。
そんな感じで初日は終了した。
ちょっとびっくりしたのはご飯の豪華さだった。
流石だなぁって思ったのは……調理用の班が編成されていて、村の方で料理を作ってこっちに送ってきてくれるというもの。
倒した魔物でも食べれると分かってるやつはそのまま調理に回されていくので、ものすごく肉料理が多い。
パンとかもかなり多く来るからしっかりと力を付けることができるのだ。
夜になると襲撃は激しくなっていく。
夜行性の魔物が多いせいだろう、空を明るく照らす魔法の明かりに照らされて魔物の姿が見えていた。
それらに危なげなく対処していく軍人達とハンターの集団。
まあ彼らに任せておけばいいだろう。
僕達は拠点の中に入って睡眠を取る。
明日はもう少し先に進めるはずだ。
□□□□□□
……目を開けると白い世界だった。
いや、部屋だ。
全てが白い。
天井も、壁も、カーテンも……。
ピーピーピーピーと何かが鳴いている。
何だ?煩い……。
息を吸い込もうとして、口の中に何かが入っていることに気がついた。
反射的に引っこ抜くと思いの外奥まで管のようなものが入っていたのか、激しい吐き気と痛みに襲われる。
シーツも真っ白。
ベッドも真っ白。
僕の腕には……何かの管が沢山刺さっていた。
「なんだ、これ……なんだこれ!?」
引きちぎるように剥ぎ取る。
痛い。凄く痛い。
今どうなっているんだ、僕は。
セルフチェック……。……出ない。
なんだ、どうなっているんだ?
そうだ、ヒールを……。くそ、なんだ?なんでこんなに力が出ないんだ?
手が震える……。
慌てた様子で白い服を着た人たちが入ってくる。
治療院で皆がしているような格好に、みたことのないマスクと帽子、手袋をつけていて不気味だ。
何を言っているのか分からない。
暴れる僕を押さえつけて何かを怒鳴っている。
怖い。
なんだコイツらは……。
やめろ。
やめろ。
僕に触るな……っ!
ありったけの魔力をかき集める。自由が効かない僕に出来るのはこれだけだ。
マナが少ない……。
まだ、まだ……よし。
「離れろぉぉ!」
僕を中心に吹き荒れる暴風。
爆発のようなそれは僕を巻き込みながら彼らを吹き飛ばす。
やった。
けど…………魔力を一瞬で使い果たした僕は……意識が薄れ、やがて世界は黒く塗りつぶされていった。




