第十六話 到達
誤字報告してくれた人たち本当にありがとうございます。
ものすごく助かります!
めちゃくちゃ便利でびっくりだ……。
何度か苦しめられることもあったけど、ついに僕達は魔龍脈の中心地へと到達した。
プレイグ発生までは間近ではあったけども、その付近を厳重に壁で固めて防御陣地を敷く。
同時に古なる者が埋まっているその場所を掘り進めて、深い傾斜のある洞窟が形成された。
真っ暗なトンネルを進んでいくと、結構な人数が集まれるくらいの広い空間となる。
その目の前には高濃度のマナがわずかに噴出している硬質な岩の塊がある。
何も知らなければ岩盤かと思ってしまうだろう。
本当に見た目はただの岩だった。
あのときの説明を聞いていた人以外は、ここが魔龍脈の源泉であるという説明をしてあり、その近くはマナが濃く危険であるということで限られた者だけが入れるように規制を敷いていた。
だからいまここに居るのは秘密を知る者達だけ。
「これが古なる者……なんですね」
「その通りだ。見ての通りこの外殻は特殊で何者の干渉をも受け付けない。……エド、気になるなら試していいぞ」
「良いのか?」
「もちろんだ。傷つけられる術が見つかるのならばそれに越したことはない位だ。全力でやってくれ」
「へえ……。なら、全員ちょっと下がってな」
全力をぶつけられるとあって、ちょっとおもしろくなってきたのかエドが剣を振って準備にはいる。
エドの後に回ってその様子を見ることにした。
ぐっと腰を落として大きな剣を横に構えた。
集中しているようでなかなか斬撃を放つ気配はない。
でもどんどん何かが高まっていくのが分かる。
殺気なのかなんなのか、それがプレッシャーとなって僕達まで届いた。
「おおおおおおっ!!」
エドが吠えた。
同時に剣を振り抜きながら一瞬で外殻に到達して、一閃。
風圧と熱量が後にいても届いた。
正真正銘エドの全力の一撃に、古なる者の外殻は……耐えきった。
「ちっ、駄目か。あーくそっ!刃こぼれしちまったじゃねぇか!」
「やはり駄目か。これをどうにか出来れば楽なのだが……仕方あるまい」
「なんて頑丈な外殻だ全く……。おいユウ、お前の魔法でもやってみろ」
「へ?」
「気の抜けた返事してんじゃねぇよ。あれを穿けって言ってんだ。お前の馬鹿みたいな魔力で全力でやってみろ」
なんでここで僕に振るんだよ!?
でも確かに今ここには攻撃用の魔法を使えるのは僕とエリーだけだ。
その中でも僕だけが高威力の一撃を放つことが出来る。
本当に魔力任せの一撃だけど。
穿つ。
土属性……かな。
そして熱も必要だと思う。高熱でどろどろに溶けるのが溶岩だ。
更に力を掛ける場所は細く、小さく……よし。
「……行きます」
剣を抜く。
僕のレッドファングの剣は魔力を少し増幅してくれ、更に指向性を増してくれる特徴があった。
何度か使ううちにその使い方を見出し、それがとても有効であることは既に実践済みだ。
一点に、ほんの僅かな……砂粒みたいな点に力を集中させる。
「……穿てっ!」
声に出すことでより、自分の意志を固めてイメージをそのまま叩きつける。
凄まじい光と熱が外殻から発せられて、その余波は僕達の方へと帰ってくる。
時間にして数秒。
たったそれだけの時間なのに僕の魔力の8割近くを消費したその攻撃は……。
熱によってその表面を赤熱させることには成功したようだ。
しかし残念なことにそれまでだった。
外殻そのものには特になんの変化も見られない。
「駄目かぁ……」
「凄まじい。しかしそれでも無理だったか……もしやと思ったのだが……」
「ありゃ大抵の魔物は一撃でやれる程度にゃ強力だぞ?お前今まで出し惜しみしてやがったな?」
「使うのも初めてですから出し惜しみと言われても……。エドに穿けと言われたからそれに特化したやり方でありったけの魔力を使ったんです。でも、駄目でしたね。古なる者の力はとてつもないか……」
「その初めてやることを今ここで作り上げてきちんと放ってるのがおかしいって言ってるのよユウ。前から言ってるでしょ」
僕が悪いみたいに言わないでくれよエリー……。
ただ正直ちょっと疲れた。
あれだけの魔力を一撃に乗せるっていうのは、戦いの中では怖くてできない。
魔力を残していないと不安で仕方ないんだよね。
ともかく、結局の所これに穴を開けるという方法は今の所無いようだ。
結構いい線いったと思ったんだけどね。
エドが言う通り魔物であればかなり強力なやつでも貫く自信はある位だ。
超が付くほどのピンポイントの攻撃だからミスったら終わりだけど。
「ではそろそろ出ることにする。長時間居ても良い濃度ではないことには注意するように。拠点を作った辺りであれば今はまだ問題ないが、プレイグが発生した場合には1個前の拠点でなければ危険だろう」
「まだなんともなさそうだが……」
マナの存在は激しく感じられるけど、正直な所感覚としては強風の中で立っているような感じだ。
それほど脅威とは感じ無いのも当然だろう。
息苦しくなったり、入っただけでどんどんおかしくなっていくというのならまだしも、どちらかと言うと調子が良くなったようにも取れる。
「何も症状が出ないうちに撤退するのだよ、エド。エリー理由は分かるかね?」
「ええ、高濃度のマナにさらされると、体内の魔力が急速に濃度を高めて暴走状態にはいるわ。その結果めまいや吐き気から始まり、最悪の場合には自分の魔法で自分の身体を傷つけてしまうの。ヒーラーであれば過剰に回復することによって本来ならば正常である肉体が無意味に増殖していくなどの現象もあるそうよ。エドの様に自分の筋力を底上げしていれば……全ての筋肉が壊れて大出血と共に激痛にのたうちながら死ぬわね。治せてももう自分で立ち上がれなくなる可能性も……」
「あー……流石にそれは御免こうむる。出るか」
「それが懸命だ」
今までは自分からマナに干渉して、それを身体に取り込むことで魔力としての力を発現させていた。
でもここでは外から強制的に干渉されるような状況なわけだ。
ふと思いついてセルフチェックをかけてみる。
血圧と心拍が上昇している。身体に負荷がかかっている状態だな。
魔力は……既に5割程度まで回復していた。
いつもは数日かけてようやく完全に回復するくらいだから凄く早い。
「えっと、素朴な疑問なんだけど……ここに居ると消費した魔力は強制的に回復する感じになるんですよね?」
「少々違うが、まあ概ねその様に捉えても問題ないだろう」
「さっきのような魔力を大量消費する魔法をずっと撃ち続けて、消費と回復が釣り合うようにしたらしばらく居れませんかね?」
「並の魔力保有量では一瞬で自分の保有魔力を突破する。消費のほうが追いつかなくて無理だ。やろうとしても自分の保有魔力量以上の力を持った魔法は使うことが出来ない……結局は難しいと言わざるを得ないだろう」
じゃあ、僕がおかしいのか。色んな意味で。
魔力はいくらあっても足りないと思えるくらいに容量があると思う。
身体への負担は少しあるけど、ちょっと運動している程度だから今の所問題ないし。
「僕、さっきの魔法を放ってから、今の時間でまだ半分ほどしか回復してないです。今の濃度ならあれくらいのよりも弱いのをずっと使いながらここに居れるような……」
「何?済まない、少し見せてもらうぞ」
「どうぞ」
アクラが僕に手を当てて診断していた。
この人ヒーラーの技術も持ってるのか。
「……最初にあったときよりも異常に魔力が増えているのではないか?」
「どれくらい、と言われるとわからないですけど……体感だとかなり増えてますね」
「嘘でしょ……なんでこんなに魔力持ってるのよ。いつ増えたの?」
「分からないけど、魔力を使えば使うほど伸びていく感じがするんだ。特に魔力を多く使う時は……
」
と、アクラが笑い始める。
何が起きたのかと皆が見つめる中、ひとしきり笑い……。
「まさか、今このタイミングで最高の人材がいるとはな。喜べ、今回の作戦は必ず成功するだろう」
断言した。
「初めて会った時からおかしいとは思っていた。しかしその違和感が何であるか、何がその要因であるのか分からずに居た……。だがここでようやくはっきりした。ユウ、お前の力の真価はその魔力への適性の高さにある」
適正の高さに関しては散々エリーに言われてたんだけど、それだけじゃないみたいだ。
通常魔力を行使する場合は、マナを取り込みマナを自分の力として使える魔力として蓄えて使う。
ざっくり言えば少しマナを魔力として変化させて使うのだという。
魔物はマナをそのまま変化させずに自分の力として使えるようだ、というのが最新の研究結果らしいけど……僕はそれに近いようだ。
「プレイグが発生した時に、高濃度のマナの中平然と動ける魔物はなんだと思う?……ドラゴンだ。あれは存在自体がマナの塊のようなものだと言われている。我々の歴史の中で一例しか無いが、無限とも思える力を発揮して当時の軍を壊滅させかけたという」
「そんな化物どうやって倒したんだ?」
「倒しては居ないのだ。プレイグの発生源となる魔龍脈……つまり高濃度のマナの噴出を弱めた所で消えたそうだ」
高濃度のマナの中で平然と動けたのではなく、高濃度のマナの中でしか存在し得ないもの、ということか。
それと僕にどんな関係が?
「わからないか?君は人の身でドラゴンと同じようなことが出来るということだ。つまり……高濃度のマナの中で力を行使し続けることでアレと同じ様に渡り合えるということ。お陰で研究が更に速く終わるかもしれん。ただ今回は体内に入るのは諦めてくれ、あれは研究所と王家の方で協議して決まった者達だけが入れる事になっているのだ」
「いや別にそれは構わないんですけど。……というかなんですか、僕は魔物と同じってことですか……」
「勘違いしているようだが、我々よりも魔物のほうが高効率で魔法を扱っているのだ。我々はあくまでも後天的にこの力を使えるようになったに過ぎないが、魔物は違う。生まれつきの才能だ。研究の結果から周りのマナをそのまま使って魔法として顕現させるものもあるほど……君は同じことを出来るかもしれない、ということだ」
僕はつまり効率よくマナを魔法として放つことが出来ると。
そして、思いついたことをそのまま実行できるというのもその性質が大きく関わっているのだろうと。
僕のこの性質を研究することで、同じようなことを皆が出来るようになるか、もしくはその機能を再現するような魔道具を作れるのではないか?などと若干興奮気味に話すアクラに、僕は少々引いた。
「待って、それはユウを実験対象として見るってこと?流石にそれは許さないわよ」
「あくまでも協力してもらうというだけだ。もちろん報酬も払う、このような機会はなかなか無いだろう……今後の発展のためにも、頼む」
「変なことしないなら良いですけど……」
「そういう事をするなら即座に帰るわ、それでも良い?」
「もちろんだ。……少々長くなったな、出るとしよう」
洞窟から出て拠点に戻る。
入っていた時間はそこまで長くはないし、実際まだまだ余裕はあるそうだ。
だけどある程度時間を置かないと身体に掛かった負荷は取れないってことで、早めに作業を切り上げて色々とプレイグに向けての作業を急ぐ事になる。
軍が到着するのは5日後。
それに伴う村の人達の移動は明日。
残るのは僕達や治療院の人達、一部の職人たち以外全員だ。
……寂しくなるな。
僕とエリー、ハンター達や調査団の人達は明日からこの中心地の拠点で生活することになる。
プレイグが発生……つまりマナの噴出が本格的に起きたら1個前の拠点に後退するけど、時間を限定してここでの作業は続けていく。
あの日、本当の事を知った僕達と、調査団の面々に関しては古なる者の近くまで行って調査。
洞窟内には魔物は出てこないから護衛は必要ない。
そのためエドたちに関しては洞窟を死守することが目的となる。
表向きはプレイグの発生を早く終わらせるために、調査団が頑張ってるっていう体を取る。
まあ嘘は言ってない。
僕とエリー、そしてセシリアさんは洞窟内で割れ目付近に行って診断をする。
今やろうとしても魔力が内部に届かずに診断をすることすら出来なかったのだ。
5日後に来る軍と共にヒーラー達も到着するけど、今回内部に入って色々とやるのは彼らとなる。
中に入らなくても良いっていうだけでも気は楽だな。
□□□□□□
翌日。
隣りにいるエリーの柔らかい肌を感じながら起きる。
……これ、毎日しても足りない……。
まあそんなアホなことを言ってる場合じゃないな。
今日は皆が避難を開始する日で、僕達は今日から最前線に籠もることになるのだ。
セシリアさんももちろん一緒に行く。
「……おはよ」
「おはようエリー。もう朝だよ」
「そうね。……ついに皆居なくなっちゃうのね……」
「うん。僕達もここにはしばらく戻ってこれない。……後少ししたら皆が避難するでしょ?見送りに行こうよ」
「ええ」
今日、このダラム村の大多数がブレナークへと避難を開始する。
外に出ると昨日の内に用意されていた馬車がずらりと並んでいた。
それに皆がみっちりと詰まって行くわけだけど……持ち物はほぼ自分の身の回りのもののみ。
ブレナークに一応は受け入れるための建物は用意しているとは言っているけど、ちょっと不安だ。
護衛を合わせるとかなりの人数が移動することになる。
不自由しなければいいけど……。
「グリスさん!」
人混みの中にひときわ目立つ大きな熊を見つける。
相変わらずあの人はどこっからでも見つけられるなぁ。
「おお、なんだユウじゃないか。見送りに来てくれたのかい?」
「ええ。グリスさんのご飯が食べれなくなるのは寂しいですよ」
「私もよ。元気でね」
「なんだなんだ、二人とも……今生の別れというわけじゃないんだ、またここに戻ってくるさ」
もう二度と会えないわけじゃない。けどその可能性はあるんだ。
主に僕達が魔物に飲まれた場合。
ついついそういうのが顔に出てしまうのかな。
この村自体は軍の人達に頑張って守ってもらうしか無い。
自分たちがいれないのはちょっと残念だけど……もっと重要なことをしなければならないしね。
他にも色んな人に挨拶をして。
不安そうにしている人。楽観視している人。悲観的になっている人。色んな人が居た。
全員が馬車に乗り込んで……号令とともに出発していく。
「行っちゃった」
「……そうだね。皆が帰ってこれるように頑張ろう」
「ええ、そうね……。さ、私達も準備をしましょ?ご飯食べたら出発よ」
「荷物はもうまとめてあるけど……最後にちゃんとチェックしておくか」
僕達も全てが終わるまではここに帰ってこれない。
昨日の内に治療院の人達には事情を話して挨拶は済ませておいた。
まあ。僕達が居なくてもキールさんとコリンだけでも大丈夫だろう、ヒーラーも来るからこの拠点となる村の治療院で手伝ってくれる事になってるわけだし。
「さぁ、食べましょう!私も今日から頑張らなくちゃね、メディックなんて何年ぶりかしら」
「そう言えばセシリアさんも結構すごかったんだっけ?」
「私はお母さんとお父さんのやり方に影響受けてる訳だし……色々教えてもらってるわ」
「そうねぇ……私がエリー位の年にはメディックやって頑張ってたわね。丁度あなた達みたいに。従者として手伝いをしてくれる人は居なかったから大変だったけど」
風のうわさで聞いてるセシリアさんの実力は……結構凄いものだったと思う。
僕やエリーのように普通の攻撃用の魔法だけでなく、結界魔法にも長けていたって話だ。
違うのは剣術はやってないってことくらい。
そこはエリーのお父さんの影響ということか。
アクラの所に荷物を持って行く。
調査団や混成団の全員がそこに集まっていた。
しばらくして全員が集まり……アクラの号令で転移を開始する。
何度もそれを繰り返して中心地……最終防衛拠点へと到達すると、それぞれが自分のやるべきことをするための準備を始める。
混成団の一部は陣地の外に出て警戒にあたり、マーレと同じ様に魔獣使いの人達も鳥などを駆使して監視を行う。
ライラのような学者達は防御陣地の結界を更に強固なものとして、混成団の方も大型の武器などを設置していく。
どんどん作り上げられていく本格的な拠点。
僕たちヒーラーはちょっとやることがない。
と、思っていたらセシリアさんが来た。
アクラの方でなにか話をしていたようだけど。
「さあさあ、二人とも一緒に洞窟に行くわよ」
「え、僕達だけでですか?」
「エドさんが来てくれるから大丈夫よ、私もちゃんと見ておきたいから頼んだの」
確かにまだセシリアさんは見てなかったな。
昨日色々と話しをしたから気になってたらしい。
エドが来ると同時に僕達は下へと向かう。
昨日とは違って照明が設置された洞窟内を進み、古なる者の元へと到着する。
「……これが古なる者……なのね」
ペタペタと岩肌を触るセシリアさん。
岩肌に見えるのは時を止められた古なる者の外殻。
色々と自分でも試してやっぱり何も通らなかったのを確認したセシリアさんは、今度は関係のない岩肌の方を触る。
かなりの魔力を使って診断をしてるだろうことは分かるけど……なぜ関係のないただの岩を……?
「ユウ、エリー、覚えておきなさい。診断できるのは何も生物だけではありません。これは診断と同じ様に物質に対して行う探査。コツを掴めばこっちのほうが楽にできるのよ」
岩肌に魔力を通して、その内部組成などを把握する方法らしい。
こっちの方は知らなかった。
ドワーフなどが得意とする方法で、地中に埋まる鉱物などを見ることが出来るという。
通常の方法だと外殻は普通の岩盤と同じように感じられるけど、外殻というものを認識している場合は違うみたいだ。
「確かにかなり大きいわね。ここに見えているのは人で言えば丁度首の横、左の鎖骨と首の繋がる部分……大体だけど鎖骨部から胸鎖乳突筋部にかけての部分という所かしら。大まかな形にしか見えないから分かりにくいけど、確かに人の形をしているわ」
「そこからマナが溢れてくるってこと?……呼吸器系とかが悪いとか?」
「そこまでは外からじゃわからないわね……。形としてはこう……何かを抱きかかえるようにして埋まっているって感じよ」
そういってセシリアさんが古なる者のポーズをとった。
力を抜いて水に浮かぶときのポーズと言うか、それに近い。
顔を下の方に向けて身体を軽く腹の方に曲げて足をだらんと伸ばしたような形。
ってことは結構深くまで掘らないと全部を掘り出せないってことか。
「大きさは……そうね、それこそ天を衝くというのがしっくり来るほどよ。私達が中に入って動けるというのを考えるとまあ確かにそうね」
高さだけで僕達の数千倍近い大きさ……?もう大地そのものと言っても差し支えないほどの大きさじゃないか。
詳しい形を知る位まで魔力を使ったわけではないらしいけど、今はそれ以上やれることもない。
僕は僕でアクラとセシリアさんの指導の元で、やることが増えたからそれの練習だ。
エリーもそれに付き合ってくれる。
いつも色々と力を合わせている僕とエリーとセシリアさんだから息が合うだろうということだった。
洞窟から出て少ししてお客さんが来た。
トロール。
地響きを鳴らしてゆっくりと近づいてくるそれは……爬虫類を思わせる外皮、二足歩行ではあるけどどちらかと言うと猿のように腰を大きく曲げて長い腕をなかば引きずるようにして移動している巨人。
顔は人というよりは亀やトカゲといったほうが近い位。
身長は森の木々よりも頭一つ分大きい。40m程度といったところか。
防御陣地と言えどあの大きさの魔物には対応しきれない。
簡単に突破されてしまうのは目に見えていた。
結界だってあれくらいになると感覚が鈍くて足止めにしかならないと聞いている。
だから、混成団の人達は既に動いてた。
「ウィザード隊、バリスタ隊、狙え!敵はトロール3体。接近される前に動きを止めろ!撃て!」
様々な魔法と、巨大な矢……というより銛のようなものが飛んでいく。
一斉に放たれたそれは、動きが遅いトロールに間違いなく命中していった。
火や氷の矢が皮膚を突き破り、巨大な銛が腹へ食い込む。
触れるものを切り刻む風が表皮を傷つけていく。
「敵は健在!第二射、足元を狙って撃て!」
今度は重点的に足元へと放たれるそれらは太ももや脛を的確に攻撃していき……。
地面は巨大な杭のようなスパイクに変化していく。
そして2体を地面にひれ伏す事に成功する。
「倒れればこっちのもんだ!行くぞ!」
エドが凶悪な笑みを浮かべて、倒れたトロールの元へ混成団の近接集団を引き連れて走る。
少しした後に凄まじい音が響きトロールの悲痛な声が聞こえた。
「敵はまだいるぞ!近くには味方もいる、しっかり狙え!」
最後の一匹は逆上しているのか、こっちに向かって突っ込んできた。
近くにあった大きな木を根本から引っこ抜いて振り回しながら。
……なんて力だよ。
「ユウ。あの魔法って使える?」
「あの……って、ああ。分かった」
エリーが提案したのは古なる者に向けてはなった強力な一撃。
距離はあるけど一点に集中した力はその程度ならば威力が落ちないだろう。
頭を狙って集中して……。
「穿てっ!」
細く頼りない光の線が、一瞬でトロールの頭に到達し……。
少し光が強くなったと思った瞬間、背中が弾けた。
致命傷だったらしく、前のめりになって地面に叩きつけられたそいつはもう動くことはなかった。
陣地から歓声が聞こえる。
トロールは既に知られた魔物だったけど、ある程度用意していないと簡単には迎撃できない危険な魔物だ。
それが3体。
念入りに準備をしてきた僕達の前に倒されることになったけど、被害を全く出さずにというのはなかなかないことだという。
「あらぁ……ユウってば知らない内に凄いのを使えるようになっていたのね」
「ユウって凄いのよ。思いついたことをその場で魔法として使えるだなんて……熟練のウィザードとかでも難しいのに」
エリーが自慢げにセシリアさんに話しているのを聞きながら、僕は少し考えていた。
外殻に向けて放ったものの半分程度でこの威力。
もっと弱めても良かったかもしれない。
何にせよ、この場所は僕にとって魔法を使い放題にしてくれるような所だ。
出し惜しみせずにどんどん使っていこう。
あの後トロールをよってたかってボコボコにしたエド達は、僕が倒したやつの検分もしたようだ。
結果は、顔の中心に小さな焦げたような穴があいていて、その場所から後頭部を通り背中に突き抜けた力が、内部で爆発を起こしたものとみられる……という結果が出た。
……こわっ。
頭はもちろん、体の中はメッチャクチャ。
あれを食らったら大体の魔物が一撃で沈むだろうとのお墨付きをもらった。
これによって僕の力も大勢にバレて、結界やらなんやら色々と教えてもらう代わりに良いように使われるのだった。
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