第十四話 初めての
衝撃の事実を知らされ、この目で見て3日が経った。
正直な所……未だにあの光景が信じられない。
エリーとセシリアさんもそうらしいけど、流石にセシリアさんは日々の仕事に戻りいつも通りに振る舞っている。
エリーは……少し落ち込んでいると言うか、あの衝撃でふさぎ込んでいるようだ。
「エリー?大丈夫?」
「……ええ、大丈夫。ねえユウ、怖くないの?」
「んー……多分、記憶がないからかな。この世界のことを何も知らないし、今までこの村で頑張っていこうとしていたからそもそも外に興味がなかったから……僕の中ではこの村が全てだった。だから外の世界が実は嘘でした、って言われてもああ、そういうこともあるのか……って何処かで納得している自分がいる。もちろん、あれが信じられないほどに衝撃的な光景だったのは変わらないけど」
「そっか。ちょっとだけ、記憶がないっていうのが羨ましく感じてしまったわ」
受け答えはしてくれるけど、やっぱり元気がない。
僕とエリーはメディックとして同行する事が主になるから仕事を休んでいる為、エリーの落ち込みはまだ知られてはいないけど。
「はぁ……なんというか……。私達皆……騙されてたのね」
「ぶっちゃけてしまえばそういう事だけど……。でもそれは……」
「分かってる。分かってるわよ。皆が不安にならずに、絶望せずに暮らせるように……幸せに暮らせるようにするための優しい嘘だって言うことくらい」
「でも僕達は知ってしまった。……だからあの世界が本当に復活して、僕達の子孫が本当の世界へと旅立てるようにしなきゃならない」
そのためにも今回の任務を成功させなきゃならない。
すぐに原因と場所を突き止めて、ゲートを設置して治療する。
そしたら色々と研究して、いつか彼らを救う手立てが分かるかもしれない。
僕達が生きている間に出来るかは分からないけど。
「子孫……。子供達……そっか。私達の子供が幸せに暮らせる世界を作らなきゃならないのね。この王国よりもずっとずっと広くて素晴らしい世界を取り戻して……皆がそこに旅立っていけるように」
「そうだね」
「子供かぁ。そういえば私達の家、作れなくなっちゃったわね……」
「あー……そうだね。まあ仕方ないよ。これが終わったら作ってもらおう」
「でも、プレイグのど真ん中に行くのよ?無事じゃ帰れないかも……」
一応、マナ濃度が濃すぎて魔物もあまり寄ってこないとはいえ、中には狂ってるようなやつも居るから油断できない事に変わりはない。
マナが濃い場所っていうのがどういう感じに作用するのか、僕は全くわからないけど……それに対応するために色々と訓練が始まる。
今は合同診断ってのをやってる最中だ。
これは2人とか3人とかで診断をする方法だけど、僕達がやるのは規模が違う。
アクラの話だと数十人単位の認定ヒーラーと上級ヒーラーがやってくるという。
1人でやる分には自分の流した魔力を辿るから特に問題もないし簡単だけど……。
複数人数となると、それぞれの魔力が混じり合って自分の物が分からなくなる。
多くなれば多くなるほどそうなるわけで……だからこそ、自分のものではなくて他人のものを利用して診断を下せるようにするのが合同診断となる。
こういうのは基本的に巨大な魔物を検分する時くらいにしか使わないわけだけど、今回はそもそも大きさが桁違いだからその分人数も多くなるってわけだ。
ただ、僕とエリーはたまに2人で1人を診断したりもしていたため、知らず知らず大体のコツは掴んでいたから覚えは早かった。
僕の診断をチェックしてもらう時にエリーの魔力が入ってくる感覚、あれに自分が乗っかればいいっていうのが感覚的に分かっていたわけだ。
「そうだけど。色々と訓練してもやられる時はやられちゃうわ。ハンターの人たちがあれだけの大怪我をして帰ってきたり……見てきたじゃない?」
「まあ、確かに」
「……今日の夜、ユウの部屋に行っていい?」
「どうしたの急に」
「不安なのよ。やることは分かってるし理解もしてるけど……その時死ぬかもしれないっていう漠然とした不安があるの。あの時からずっとそれが消えないのよ。……だからちょっと一緒に寝てくれない?」
「い、良いけど……」
「……約束だからね!」
そう言ってエリーは自分の部屋に戻る。
ああそうか。単純に怖かったんだな、きっと。
色んな感情があるけど不安で……怖かったんだ。
そういえば僕は……あまり恐怖を感じていないかもしれない。
魔物と遭遇しても、あの光景を見ても、どこか自分がそこにいないような……どこか後から自分を見ているような、そんな感じだった気がする。
記憶を失うほどの怪我をしていたのに、攻撃を受けて怪我をしても体が動くんだ。
なんでかは分からないけど……ある意味でありがたい。
こんな状況で怖くない方がおかしいんだ。
だけど、だからこそ僕はきっと集中できる。
絶対エリーとセシリアさん達は僕が守り抜く!
……流石にちょっとかっこつけ過ぎかな?
夜になって僕の部屋にノックの音が響く。
「入るわよ」
「どうぞ」
「……久しぶりに入ったけど……結構整頓されてるのね」
「まあ、一応ここってエリーのお父さんの部屋だしね。僕の私物とかもさほど多くないからほとんどそのままだよ」
「そっか。……ありがと。気を使わせちゃってるのね」
「いずれは出ていく予定だったっていうのもあるけどね」
別にずっとここにいてもいいのに、と言ってくれてはいるけど……やっぱり僕は僕の住む場所を決めるべきだと思う。
……色んな意味で。
「あ、そうだ。エリーはベッドに寝ていいよ。僕はソファの方に……」
「は?何言ってるのよ。一緒に寝るに決まってるでしょ?」
「いやでもこのベッド……一人用なんだけど……」
「……いいの。その方がユウとくっつけるから」
本気ですかエリーさん。
そんな事したら俺もう本当に寝れなくなるんですけど?
でもそんな僕に構わずエリーは……ベッドの中に潜り込む。
早く入りなさいともぞもぞしているエリーの横に僕も入っていく。
……ヤバイ。
横にエリーが居るっていうのが色んな意味でヤバイ。
と、エリーの手が僕の……。
「……硬いんですけど」
「ちょっ……エリーさん?」
「もう……そんなんなってるのになんで来てくれないのよ!バカぁ!」
「えっ。え?なんで裸……」
「……死んじゃうかもしれないんだから、その前にちゃんとユウとしておきたいの!奥手過ぎ!」
「して……って……んむぅ!?」
眼の前いっぱいにエリーの顔。
口には暖かくて柔らかいもの。
素肌のエリーの胸が僕にくっつき、柔らかい肌と体温を感じる。
その夜、僕達は……大人への階段を登った。
控えめに言ってとてもやばかったです。
□□□□□□
『動揺しているのか、ユウ。一体どうしたというんだ?』
『大丈夫、ユウは何でも出来る。もう心配要らないんだよ、だから後は自分で解決するんだ』
『きっと出来る。きっと』
□□□□□□
久しぶりにまた夢を見たな。
自分で解決するんだって、何を……?
とりあえずなんかしなきゃならないって言うなら、古なる者を何とかするってことくらいじゃないかな。
寝起き眼で周りを見渡す。二人共何も身に着けずに眠っていたのを見て、昨夜のことを生々しく思い出す。
……あ。シーツに血が……。っていうかめっちゃあれだな。
汚れたな。
横でまだ寝息を立てているエリーの姿。
なんというか、ついに僕達は本当にしたんだなぁって思う。
凄く幸せな時間だった。
「……ん……。あ、ユウ、おはよ」
「おはようエリー。身体は大丈夫?」
「んー……ちょっと痛い……。でも大丈夫」
自分の下腹部に手を当てて、治癒と麻酔をかけていた。
なるほど、初めてのときもああしてたなそう言えば。だからだろうけどエリーは初めてでも全然痛がらなかったか。
聞いていたのだとかなり痛いって話だったから凄く心配だったけど、こういう時はある意味でヒーラーの能力は役に立つんだなと。
「しちゃったわね」
「そうだね……。……その、どうだったかな?」
「それ聞く?……気持ちよかったわよ。そうじゃなきゃあんなにしないわ」
「そ、そっか。ごめん変なこと聞いて」
「それにユウの必死な顔見れたし」
「ちょっ……」
初めてなんだから仕方ないじゃないか……。
まあでも、満足してもらえたから良かった。
自分だけ満足してたんじゃないかってちょっと怖かったってのはあるし。
独り善がりのじゃ駄目だってよく言われてたからなぁ……酒場で。
軽く昨日の汚れを拭って、ベッドのシーツとかをまとめて洗濯しようと持っていったらセシリアさんがご飯を作っていた。
「おはよう二人共、今日はお祝いね」
「お祝いですか?」
「ええ、大人になったお祝い。夜は期待しててね!」
「……はは……ありがとうございます……?」
ぐっ!と親指を立てるセシリアさん。
バレてるじゃん……。
エリーもものすごく気まずそうな顔して僕を見ていた。
なんでバレたんだ。音とかもしないようにしてたのに。
「はぁ……後のことは全く考えてなかったわね」
「なんでバレたんだ……」
「その洗い物と……臭い、かもしれないわね……」
「あー……」
まあその、確かに……今僕が持っているこのシーツ達は色々とアレな臭いがしてる。
自分で出したものではあるもののなんでこんなにキツイ匂いがするのやら。
ただ、バレたとは言え……怒られなかっただけマシだったかもしれない。
祝福はされてるわけだし。
さくっと洗濯物として放り込んで、少々気まずい朝食をとる。
メディックとして調査団についていくことになるけど、今日からは色々と心構えが違う。
あの事を知っているのは調査団の人達以外では、僕達とセシリアさん、村長さん、エドとシリルだけ。
だから基本的には誰にも話してはならない。
ただ……必死で中心地まで行って掘り当てるまではしなければならないということは変わらない。
集合場所に着くとアクラを始めとした皆が既に待っている。
「来たか。今日の朝早くに速信が届いた。……やはりここで間違い無いということだ」
速信。
アクラ達調査団が使う緊急用の伝達手段だそうだ。
距離に応じて魔力が必要になり、ここから王都までだと国の端と端に等しい為かなりの魔力が必要となる。
そんなわけで毎回はやれないってことらしいけど……めっちゃくちゃ便利じゃないか。
で、結局アクラ達の見立通りにここが魔龍脈……つまり古なる者が埋まっている場所であるという結論となったようだ。
今日からは特に安全な道を確保しながら、確実に中心地を目指す。
そこで限られた人だけで掘り当てて、後は古なる者の患部が破壊されて高濃度のマナが吹き出るのを待つのだ。
そこからは防衛戦となる。
ゲートの設置に数日かかるということだし、その前に診断をしなきゃならない。
患部を特定しながら、ある程度古なる者の状態を確認。
もしも出来るのならば……何処がどう悪いのか、何が原因で高濃度のマナが噴出しているのか、なぜそれが古なる者を蝕むのかを知りたい。
多分無理かもしれないけど……もしも見れるならば。
世界が復活していく様を見たい。
あの全てが止まってしまった世界が、元の美しさを取り戻すところを見たい。
「王都から軍も派遣される。彼らが到着する前に関係者以外は全員この村から退去することになるだろう。……これは私から村長に話を通しておく」
避難は避けられない。
家を捨てるわけじゃないけど、戦闘がここまで到達した場合……まともな状況では残っていないかもしれない。
皆は恐らくブレナークまで避難することになる。
何日かかけて……それまでに色々と準備もしなきゃならない。
治療院は……そこにいる人達は全員村に残ることになるだろうな、傷ついた人たちを治すために。
村長も残ると思う。
「我々は早急に魔龍脈の元までたどり着かなければならない。ただし、近づけば近づくほどに危険は増すだろう。魔物も既にかなり強力な物や初めて見る物が増えてきている、これまで以上に拠点は重要になっていくだろう」
今ならその拠点の重要性は分かる。
プレイグの発生している最中に、ある程度安全に補給や帰還が出来る道だ。
短距離転移の人員を残しておけば、リレー形式で即座に村まで後退させることが出来る。
先に村長に報告するということで出発を少し遅らせて、調査は名目上となった安全地帯の確保に向かう。
□□□□□□
「あの、どれくらいでプレイグが発生する可能性があるんですか?」
道中でアクラにちょっと聞きたいことを聞いてみる。
最後の拠点までは馬車で移動できるようになったのでとても楽だ。
一応周辺への警戒はしているけど、本当に周りに魔物は来ないようになっている。
「……そうだな、今のところはまだ少し時間がある。徐々にマナの濃度と量が増えていき、限界に達することで開く。一月……いや半月ほどだろうか」
「半月……あまり時間無いんですね」
半月から一月。
長いようで短い時間だと思う。
現時点で拠点を作れているのは道のりの半分ほど……そこから先はどんどんマナも濃くなっていくせいもあって魔物もかなり強く、危険なものが多くなってきた。
身体も大きな物も多くて、前衛であるエド達も少してこずるようなやつも出てきている。
逆に身体が小さくてもヤバイのも……。
毒であったり、数に任せて食い尽くすようなやつだったり。
「だからこそ急がなければならない。魔物が本格的に出てきてからではまともに拠点を構築することすら難しくなる。……ヒーラーや研究者を生還させることが難しくなるということだ」
基本的には研究者はもちろん、ヒーラーも戦闘をメインに出来るほどの力はない。
ある程度、というレベルだろう。
メディックとして働いたことがある人であればそれなりに。
僕やエリーのように戦闘もある程度こなせるというのはかなり希少な方だったりする。
「到着しました」
御者を務めるハンターから報告があり、僕達は降りる。
辺り一面に立ち込める霧がとても濃い。
「霧か……」
「厄介だな」
「マーレの偵察も使えないか。ライラ」
「ええ、……うーん……やっぱりこの霧、マナが乗ってしまっているわぁ。ちょっとまずい状況ねぇ」
「だからか、さっきから殆ど気配が読めねぇのは」
「そうねぇ。この霧が晴れるまで待ったほうが良いと思うわぁ」
マナの影響を受けた霧のせいで視覚も魔力を使った探査もやりにくくなってしまった。
それでも出発しなければどうしようもないってことで無理やり出発することになる。
途中で霧が晴れるのを祈りながら。
「モモ、頼む」
「……ん。我らの征くべき道を照らせ」
すーっと光の道ができた。
まるで霧の中に道ができたかのように見えるそれは、中心地を常に向くという。
暗闇の中やこうした霧の中でしか視認することが難しいから、あまり昼間の外では使う機会はないらしいけど。
光のとおりに歩いていく。
足元を確認しながらとなる上に、周りを見ても隣の人から先は殆ど見えない為、モモの光の道だけが頼りみたいなもんだ。
一応離れすぎないように一本のロープを皆が掴んでいるけど……本当にびっくりするくらいに視界が効かないんだよな。
しばらく何事もなくあるき続けていたその時。
「ぐあっ……!」
後ろの方で小さな悲鳴が聞こえた。
すぐにエドが全体を停止させて誰が怪我をしたのか、その怪我の具合を聞く。
僕の5人位後にいた人の左足が、ほぼ切断されていた。
皮一枚というのがぴったりなくらいに恐ろしく綺麗な切断面。
近くにいた人たちは防御態勢に入り、近くに何か痕跡がないかを探っていく。
僕とエリーはすぐに彼の元に行って治療を開始した。
「出血がひどい、止血するよ」
「麻酔をかけます。……どうかしら?痛みは?」
「助かった……痛みはもう無い。俺の足はどうなった?」
「左足の脛骨と腓骨を含めて綺麗に切断されてる。本当にふくらはぎの皮だけで繋がってる状態だよ、だけど大丈夫洗浄してやればきちんと元通りになるからね」
「そうか……」
切断面が少し土で汚れていたから洗って消毒していく。
綺麗に切られているからあまり神経も筋肉も傷ついているわけじゃないからくっつけるのも楽だった。
毒なども無く直ぐに立ち上がることが出来るようになる。
「ジェイク。もう問題ないか?」
「あ、ああ。元通りに動く。これなら大丈夫だ……若いのに凄いな。エド、原因はわかったのか?」
「……これだ。近くにこれが落ちていた。素手でさわるなよ、触れるだけで切れる危険な糸だ」
そう言ってエドが見せたのは……蜘蛛の糸よりも細いんじゃないかって位の糸だった。
今も僅かな空気の流れにふわふわと揺れている。
触れただけでって、凄いな。
「……エド、指を切ったの?治しておくよ」
「ああ、すまないな。これを拾おうと触れた瞬間にばっくりと裂けた。近くにあった枯れ葉もことごとく切れていたのに気づかなかった俺が悪い。……まあ、幸い金属は切れないようだが……こんなものがあるとすれば下手に歩くことも出来なくなった」
こういう糸を出すような敵というものは、罠を張って敵が動けなくなったところで初めて出てきたりする。
基本的にハンターではあるんだけども待ち伏せタイプの厄介なやつだ。
蜘蛛なんかはそういうやつがおおいけど、他にもスライムのようなのもそのたぐいとなる。
ただこの糸は火にめっぽう弱いらしい。
周囲にある物を処理するためにも軽く火の魔法を使って森が燃えない程度に炙って処理した。
当然、自分の罠に何かが掛かったということを察知した持ち主はこちらに来るわけで。
僕の目の前に警告の表示が現れる。
……なんか、いつもと違うんだけど?
「敵襲!恐らくこの糸の主だ!戦闘準備!」
やっぱりエドは僕と同じ位は早く敵に気づく。
気配を読むことに関してはとても優秀なようだ。
ライラ達は定期的に探査をかけてはいるけど、常に監視しているわけじゃないから急襲されたりするとあまり意味がない。
「ウィザード!この霧をなんとかしてくれ!」
エドが色々と対処している中、僕も周囲を警戒しながら目の前に浮かぶ表示を見る。
邪魔にならなくなった。
視界の隅の方に表示が移動して視界を塞がなくなったのはありがたい。
そして敵の方向を示しているらしい矢印?のようなマークが見える。
ウィザード達によって霧が少し払われ、うすらぼんやりと何かが見えた。
マークの方向。毛の長い熊でもなんでもないような不気味なシルエット。
「何だあれ……」
「知らないわよ。見たことないわ……首がない熊?のようにも見えたけど」
気持ち悪いやつだ。
そうしている間にもエドとシリルが号令を飛ばして、さっき敵の姿が見えたところに矢を撃ち込んでいく。
表示はまだ接敵中だ。生きているな。
火で糸はすぐに消滅させられたこともありウィザードの誰かが僕達と魔物の間に火の壁を作り上げる。
もし糸を飛ばされてもこれならば問題ないだろう。
……困ったことに見えないわけだけど。
矢印がゆっくりと移動し始める。
僕が攻撃しようと思った時、綺麗に切断された枝葉眼の前に落ちてきた。
とっさに攻撃対象を上空に設定し直して炎を爆発させる。
爆風が僕達を巻き込むけど、それ自体には特に攻撃力はない。
だけど……落ちてきた糸は全て焼き尽くすことが出来たはずだ。
ただ何も言わずにとっさに行ったことで、全員の意識が上に行ってしまった。
「何をしている!」
「いや、これが落ちてきたんです。多分上から糸を降らせて……」
「……何……?なるほど、そういうことか。よく気づいてくれた、対処しなければ恐らく全員が被害を被っていただろう」
ちょっと触っただけで切れてしまうような危険なものが上から降ってくる。
つまり……下手をすると頭を細切れにされる可能性があったというわけだ。
そうなると僕達でも治すことは出来なくなってしまう。
ただ、まだ敵は健在だ。
僕達が混乱している間に移動してしまっている……けど、僕達を諦めたわけじゃないらしい。
エドが指示して僕達全員の頭上を囲うように木の枝のようなものを張り巡らせた。
上からの攻撃には対応できるな。
この辺は流石に戦闘リーダーだなっていう気がする。
機転とか対処法とかをすぐに思いついて実行できるっていうのはなかなか出来ない。
不意打ちが出来なくなった魔物は位置を特定され、攻撃を受け続け……ついにその身を血に沈めることとなった。
近づいてみると不気味な姿が顕になる。
茶色く長い体毛は今もふわふわと風に靡き、頭は熊のような胴体の付け根部分にすっぽりと収まるようになっていた。
目と口は穴のようであり、その口らしき穴からでろりと伸びているのは筒状の何か。
手足の指は長く多少は器用そうだなと言うのが感想だ。
後は研究結果待ちとなるだろう。結構大きな体だったけどストレージの中に吸い込まれるように消えていった。
最初からあの糸の雨を降らされていたら……下手をしたらそのまま全滅もあり得たかもしれない。
かなり危険なやつだったな。
これくらいなら大丈夫……だよね?多分。




