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箱庭の治癒術士は幸せな夢を見る  作者: 御堂廉


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第十一話 調査

ちょっと時間が空きましたすみません

『ユウ、一体そっちでは何が起きているんだ?私の声は聞こえているのか?頼む、返事をしてくれないか』

『私にはこれくらいしかしてやれることはない。今はこれで我慢していてくれ。すまない』

『後少し、後少しなんだ。だから待っていてくれ』


 □□□□□□


「…………!!」


 息が出来ずに飛び起きた。

 また勝手にセルフチェックの画面が目の前に浮かぶ。

 バイタルが……異常な値を示している。

 血圧は異常に低く、心拍も低い。体温は32℃と低体温症の状態を示している。

 状態は……何も書かれていない。


 息の仕方を思い出したかのように、僕の肺が空気を取り込む。

 呼吸が始まると同時にバイタルはあっという間に安定していって、全てが正常値に戻っていった。


 ……何だ今の。

 セルフチェックだけではなく、きちんと自分に診断をかけてみる。

 が、毒も何もなし。全てが正常を示していた。


 そして久しぶりに見た夢は……相手がなにか焦っていたように思えた。

 何を言っているのかはわかるけど、いまいち理解できない。

 こっちから質問はできないし、まるで何かの映像を見せられているかのようだ。


「なんかのお告げ……とか?ああもう訳わからないな。記憶戻らないかな……そうすればもしかしたら分かるかもしれないんだけど」


 っていうか……病気とかじゃないよな、僕。

 嫌だぞ、エリーと結婚する前に倒れるとか……。


 着替えをして準備を済ませて部屋を出ると、エリーが食事を作って待っていた。


「何してたの?なんかドタバタとうるさかったけど」

「え?そんなうるさかった?ごめんちょっとナイフをどこに置いたかわからなくなって焦ってたんだ」

「何してるのよ……まあ良いわ。はい朝ごはん。時間もないからこれでいいでしょ?」

「問題ないよ、ありがとう」


 パンに切れ込みを入れてその中にたっぷりの野菜とお肉を詰め込んだサンドイッチ。

 新鮮な牛乳で飲み下して腹を満たす。

 あまり食べすぎると途中で腹が痛くなったりするから、少ないくらいで丁度いい。

 そのかわりに水と塩は必ず多めに持っていく。


 鋼鉄製の無骨な剣を腰に刺し、反対側にはナイフを下げ、マナライトを肩に固定して準備は完了だ。

 前にブレナークで購入した丈夫な革で補強された服も、既に僕の一部ってくらいに馴染んでいる。

 調節をしてもらって革鎧の方もとても着やすくなり、もう違和感もない。


 外に出てみると煌々と明るく周りを照らすランプの周りに、出発する人たちが既に集まっていた。

 あれ、遅れたか?


「やべ、急ごうエリー」

「そうね」


 走って行くと調査団の団長アクラと、混成団の団長エドの姿が見える。

 今見ると種族も色々だな。


「お前達がメディックか?」

「はい、ユウとエリーです」

「待て、お前達は見習いと初級じゃなかったか?」

「ええそうですが……」

「初級ヒーラーのエリーです。彼は見習いのユウ、私の従者として連れて行きます。特に制限はなかったですし、メディックは初級以上で問題ないはずでは?」

「そうだが……」


 混成団団長のエドが眉間にシワを寄せて答える。


 メディックは初級以上でなければ登録できない。ってことで今現在は初級のエリーで登録して、僕が従者という形だ。

 こればっかりはまだどうしようもないんだけど……やっぱり頼りなく見えるんだろうなぁ。

 今回もちょっと渋い顔をされてしまった。

 この反応は危険度が高いところに行く人に顕著ではあるけど、制限をかけてなかった方も悪い。


「エド、今回はさほど深い場所へは行かないんだろう?問題ないなら別にいいだろう」

「シリル……しかし……危険だぞ」

「彼らはこの村の住人だし、何度も森へと行っている。それに彼らはかなり有能らしいよ?途中でブレナークに寄った時にもたまに名前を聞いているんだ。珍しいヒーラーの卵がいるってね」

「有能と言っても見習いと初級だぞ、それ以上の事があったら……」

「その時は戻ってきたら良いさ。それにあの2人……ヒーラーとしてはそのへんの中級より役に立つって話だ。それにヒーラーだけじゃなくてちょっとしたウィザードや剣士としても活躍しているみたいでね」

「はあ?」

「面白いだろ?噂ではあるけど、本当なら連れて行くには十分だ」

「……なんかあったら責任取れよ」

「はいはい」


 なんか、ちょっと離れてぼそぼそと言っているからよく分からなかったけど、副団長のシリルって人が説得してくれたらしい。

 溢れ出る筋肉と大剣を背負った見るからにソードマンのエドと違って、軽装で弓を方に引っ掛けたシリル。体格も細身で優男って感じがする。

 いい人、なのかな。多分。


「あー……。まあ、今回は特に深いところまでは行かないし、危険は少ないだろうから良いだろう。エドだ、よろしく頼む。こっちは副団長のシリル。女ったらしだから気をつけろよ、エリー」

「酷いな。よろしく、ユウ、エリー。で、こっちはモモ。ウィッチだ」

「……よろしく」

「あ、よろしくおねがいします」

「こちらこそよろしくね、後悔はさせないわ」


 モモと呼ばれたのはエルフの少女だった。

 うわ可愛い。

 でもなんか凄く睨まれてる気がする……。


「ねえ、なんか僕怒らせること言ったかな?」

「いえ?エルフとは言え人見知り激しすぎるんじゃないの?」

「そうなのかな……」


 ふいっと目をそらしてフードを被りエドに隠れてしまった。

 恥ずかしがり……なのかなぁ。


 そして後3人。


「調査団団長のアクラという。エドが言う通り今日はそこまで危険はないだろう。事前の調査で大体の地理も分かっている。彼は魔獣使いのマーレ、そして彼女はマナ学者のライラだ」

「……」

「よろしくね、ユウ、エリー。二人共若いのねぇ」


 アクラはなんというか見た目でもわかりやすいくらいに堅物だな。

 ビシッと綺麗に着こなした研究者の制服。髪の毛もきっちりと撫で付けていて、髭も全く無い。

 マーレは肩に鳥を乗せた魔獣使い。この鳥も魔獣の一種で彼はこの鳥と同調して空からの視点で物を見れるらしい。が、壊滅的に言葉を発してくれない。

 無視されているわけじゃないみたいだけども……やりにくいな。

 で、最後の1人はマナ学者というライラ。狐の獣人で頭の上に大きく尖った耳がついてておしりからふさふさしたしっぽが出ている以外は普通の人だ。

 狐系の獣人はマナを感知する能力に長けているらしくて、こういう研究職にはもってこいなんだとか。

 ただなんというかこう、大きな胸に目が行ってしまう……なんで微妙にはだけてるんだよこの人……。

 やたら色っぽいし!


 ともかく。

 調査団の人たちの準備が整ったのを確認して、出発となった。


 □□□□□□


「ねえねえユウくん。あなた凄いのねぇ」

「へ?な、何がですか?」

「とっても大きなアレよぉ。さっきからずーーっと見せびらかしてるみたいよ?」

「えっ!?」


 下を見る。……いやそもそも鎧してるから見えないよな。

 と、横でライラさんがクスリと笑った。


「あらやだ、男の子のところも大きいの?楽しみねぇ」

「え!?いや!そういうわけじゃ……!!」

「そうじゃなくて魔力よ、魔力。あなたからとても強くて大きな魔力の放出が見えるわぁ。その若さでだとなかなかお目にかかれない位」

「あ、ああそうなんですか?」


 くそ……遊ばれてるな。

 エリーも横で笑いをこらえてるんじゃないよ!


 っていうか魔力か。マナを感知するのに長けているってのは本当らしい。

 今までは診断とかで初めて驚かれたりする程度だったんだけど。


「さっきモモちゃんに睨まれてたでしょ?あの子もウィッチとしてだけじゃなくてエルフとして魔力を感知できるわ。自分よりも大きな魔力を持っているのが田舎にいるのがちょっと気に入らないだけよ、大目に見てあげてねぇ」

「……ライラ、余計なことを言わないで」

「あら、怖いわぁ。じゃあねユウちゃん」


 そう言ってライラさんが離れていく。

 モモは……またこっちを見て睨みつけてから隊列に戻っていった。

 なんなんだよもう……。


 時々隊列を停止して、マーレが鳥を放つ。

 これがものすごく便利だった。

 なにせ鳥だから小さくてすばしっこい。遠くにいる敵を見つけてくれるし、敵からは見つからない。

 ただし夜は苦手だ。


「シリル」

「うん、確認した」


 シリルが狙いをつけて矢を放つ。

 音もなく飛んでいった矢は、弧を描き……突然加速して一瞬で見えなくなった。

 次に聞こえてきたのは何かのうめき声と倒れる音。


「おお凄い」

「あの弓、魔道具みたいね。確実に獲物を仕留めるなんてやるじゃない」

「これは本当に今回は楽かもなぁ」

「何言ってるのよ。どうなるかわからない状態だっていうのに」

「確かにねぇ。……ん」


 警告が出る。

 接敵中。そして確かに何かがおかしい。いつもと違うものがそこにある感じ。


「あの、まだ進まないでください。多分敵がいます」

「何?何も感じないぞ。ついさっき魔物は倒したばかりだろう」

「いえ、アレじゃないです。恐らく何かに擬態しています」


 モモにエドが確認を取る。

 が、モモも首を横に振った。近くにはいない……のか?

 でも何か……。


「ユウ、また違和感ね?」

「そう。しかも確実に敵がいるんだ。何処かに……」


 今まで来たところではなく、前の方の違和感が強い。

 よく目を凝らしてみる……ん……あの木、なんか違うぞ。


「シリルさん、ちょっといいですか?」

「何かな?」

「ここからまっすぐ先に見える、二股の木が分かりますか?」

「アレか。分かるよ」

「攻撃してみてください」

「んー……まあいいや、君が言うならやってみよう」


 姿勢を低くして音もなく弓を構えて矢を番える。

 またもや無音で放たれた矢はまっすぐに木へと向かい……空中に波紋が広がった。


「なっ!?」

「スライムか!」

「ユウ!凍らせて!」

「分かった!」


 何やってんだかという目で見ていたエドとモモだったが、その結果に驚愕する。

 僕とエリーは即座にスライムに効果的な攻撃を選択して放つ。

 足は遅いはずだから周辺に対してディープフリーズを選択した。

 効果範囲に突然現れた霧と、急激に冷やされたことで空気の流れが起きて周りの木々がざわつく。

 数秒後には白く氷漬けになった森の一部と……逃げようとしたままの状態で完全に凍りついたスライムの姿がそこに残されていた。


「もういないみたいだ」

「そ、ならこのスライムは核を潰して持って帰りましょ」


 こいつは無色透明の厄介なやつだ。ティアスライムと呼ばれていて森に落ちた涙のように見つけにくい。

 獲物が触れた瞬間に包み込み、即座に神経毒を注入して安全なところまで獲物を運んだらゆっくりと溶かしていくのは他のと変わらないけど、とにかく気配がなく見つけにくいのだ。

 色がない上に、自分の身体を大きく薄く広げて限界まで気配をちらしてしまう。


 さっさと核を潰してスライムを殺し、固まった粘液をストレージに仕舞い込む僕達にあっけにとられていた皆の中で、いち早く僕達に近づいてきたのはライラだった。


「凄いじゃない二人共!私も分からなかったのによくわかったわね!」

「ユウが違和感があるって言ったときには気をつけたほうが良いわ。これに何度も命を救われている私が言うんだから間違いないわよ」

「それにしてもこんなとこにティアスライムなんて出るっけ?僕は本でしか見たこと無いんだけど」


 もちろん薬学書だ。

 ティアスライムの身体を構成する粘液は、上質なポーションを作るのにとてもいい。

 死ぬとどういうわけか毒は消えてしまうけど、そのかわりに抽出した薬効を溶かし込み、その効果を何倍にも高めてくれる効果な溶剤なのだ。

 味付けも簡単だから飲みやすくて効果の高い高級品が出来上がる。


 粘度を高めたら軟膏よりも塗り拡げやすいローションにも出来るんだよね。

 皮膚に即座に吸収されるから薬効が出やすい。


「話には聞いていたけど……これ程とはね。ユウ、さっきの魔法は何かな?君はヒーラーだったと思うけど」

「ええ、ヒーラー志望ですが、人より魔力が多いらしいんで、他にもウィザードの協会にも登録したりウィザードのハンターから教わったりで身を守れるようにしてるんですよ。エリーも出来ますよ?」

「……あの攻撃、範囲攻撃みたいだけど、アレよりも広げられるのかな?」

「出来ますよ。前にゴブリンとオークの群れを凍らせて足止めしました」

「足止めっていうか、そのまま凍死させてたじゃない。……ね、私達を連れてきて良かったでしょ?損はさせないって言ったわよね」

「そのようだ。これは頼もしいね、改めてよろしくお二人さん!」


 シリルさんに褒められた。ちょっとうれしいな。

 エリーは来る時に渋い顔されたのが気に入らなかったらしくて、少し得意げだった。

 まあ気持ちはわかる。


 ただモモからの視線がめっちゃ痛いのはなんとかならないんだろうか。

 アクラとエドはじっと品定めするような目を向けてくるし。

 なんなんだ。凄く居心地が悪いぞ。


「ユウと言ったな、もう動いても問題ないのか?」

「あ、大丈夫です。もう違和感はありません」

「そうか。次からまた何か感じたら声をかけてくれ」

「分かりました」


 エドも……認めてくれたのかな。

 仏頂面ではあるけど……。


 その後も皆が索敵しながらあっという間に仕留めていって、今までついて行ったチームの中でもトップクラスの優秀さを見せつけた。

 やっぱり派遣されてくるだけはあるんだなぁ。


「エドさん、ここが良いわぁ」

「そうか。……アクラ」

「ああ、確かに丁度いい。……全員離れていたまえ」


 アクラが言うと、エドが大剣を背中から外して構えた。

 ライラさんに言われて僕達はかなり離れた位置まで移動して……その意味を理解した。


 気合とともに自身の身長ほどもあり、僕の胴体くらい太い剣が……いとも容易く振られ、目を開けていられないほどの風を感じた。

 目を開くとゆっくりと周りの木々が中心……つまりエド達に向かって倒れていき、もう一度振り回された大剣によってその木々は一定の大きさに切り刻まれていく。


 次にアクラが何処からか取り出した長い杖を持ち、勢いよく地面に突き立てた。

 地面が生きているかのように蠢き、先程の剣撃で散らされた低木や草などを飲み込みながら、エドが木を切り倒した範囲が固く踏みしめられた地面へと変化していく。

 もう一度地面を叩けば、地面が盛り上がり……頑丈そうな建物が出来上がった。

 何だあれすげぇ……。


「地属性魔法だけど、凄いわねあれ」

「あんなこと出来るのか……。土魔法も面白いね」

「……意外とできそうよね、ユウ……」

「いやあれは無理でしょ……」


 土ねぇ。

 地面に手を当てて魔力を流す。

 んー……なーんかジリジリと魔力が通るな。

 意外といける?


「ん、おお?おおー……エリーこれ見て」

「ちょっ……え、何、今作ったの?」

「やってみた」

「やってみたじゃないわよ……なんで出来るのよ。っていうか何気にちょっと上手いし」


 ちょっと作ってみたのはマグカップだ。

 魔力を土に通して練り上げる感じにしながら、ゆっくりと自分の頭の中で完成形をしっかりとイメージする。

 そうして整形していった後に固めると完成だ。


「……しっかり出来てるわね」

「初めての作品だし持ってかえろ。ただ、体感だとあのサイズのやつをしっかり作るには相当集中しないと無理。あれ凄いよ」

「いやあんたも大分凄いからね?今更だけど」

「ええ?今の初めてやったの?凄いわねぇ」

「うおっ!?」


 なんか!柔らかいのが!頭の上に!!

 ポヨンって!ポヨンって!


「どれどれ?……へえ、初めてにしてはしっかりと出来てるのねぇ。聞いているよりもずっと凄いじゃない」

「あー、どうも。まあまぐれだと思うますけどね」

「まぐれじゃぁ出来ないのよねぇ。……君のこともぉーーっと知りたいわねぇ」

「ひぃ!?」


 胸元に手を突っ込まないでくれ!

 ラウラさんエロすぎないか!?


「その辺にして貰えるかしら?もう準備をするのでは?」

「あらぁ……残念ねぇ」

「全くもう……ユウもしっかりしなさいよ」

「ごめん。……言っとくけど僕はエリーだけだからね?」


 赤くなったエリーに肘鉄食らって悶絶しているうちに、調査団の3人はアクラの作った建物の中に何かを設置したりしているようだ。

 あれが拠点ってことかな?


「シリルさん、あれって何やってるんですか?」

「ん?今後の活動拠点だよ。ここに来るまでの道は安全を確保したからね、ここを安全地帯として拠点を構えられるようにしたというわけ。こうやって徐々に深い場所へと向かうための安全な道を作っていくってわけさ」

「安全を確保って……魔物はまたすぐに集まりますよ?」

「もう殆ど集まらないはずだよ。一定間隔で魔物よけを設置して歩いていたの気づかなかった?」


 全然気づかなかった。

 殿を務めていたアクラが地面に打ち込んでいたらしい。

 魔物よけはあまり強力な魔物だったりすると効かないけど、大抵の魔物は他の強力な魔物のテリトリーと勘違いして入ってこなくなるという。


 で、作業を終えたのかアクラたちが出てきた。


「これでここは安全だ。作業が終わるまで休憩していてくれ」

「分かった。……と、言うことだ。今のうちに飯でも食っておけ」


 ここからが彼らの本領発揮ってことか。

 ラウラさんも真剣な顔をして色んな方向を見ながらアクラに報告している。

 エド達はやることが無くなったので普通にご飯を食べ始めていた。


 僕達もストレージからご飯を取り出して食べる。

 朝に食べたものと同じようなサンドイッチだけど、ボリュームが違う。

 凍らせたシチューを温めてそれと一緒に食べる。

 少し濃い味付けのそれが、程よく疲れた身体に染み渡るようだ。


 さわさわと揺れる森の木々に、強い日差しが遮られて丁度いい涼しさとなっていて眠くなってきてしまう。


「休憩中すまないが、集まってくれ」


 アクラが皆を建物の中に呼ぶ。

 建物、と言っても大きなものではないけど、この人数が入ってもまだ余裕がある程度には広い。

 簡素で窓もないけど簡易的な扉が付き、魔道具のランプで中は明るく照らされていた。


「現在地はここ。森の全体からすればほんの表層ではあるが、先程の戦闘を見ていても明らかに出現する魔物の種類がここで普段見られるものとは異なっている。……そうだな?」

「ええ、この付近にはあんな危険なスライムは出ないし、レッドファングもいない。さっき出てきたゴブリン達だってあんなに統制が取れてるわけ無いもの」

「群れで行動する魔物はより危険な存在になるというのは、以前の報告にもあった。大体の場合は上位の個体が出現したことによって指揮系統が生まれた事によるものだ。しかし今回はその指揮系統となるような上位個体の存在は確認されていない。……恐らく付近にコロニーが形成されているのだろうが、マーレの目で発見できていないとなると……地下にいる可能性が高い。この近くで洞窟などがある場所は何処か知っているかね?」

「ここからなら一箇所心当たりがあるわ。この地図だと多分この辺り。川が蛇行している所の外側に切り立った崖があるの。そこにぽっかりと洞窟が開いてるわ」

「なるほど、マーレ」

「……」


 無言で頷いたマーレが、肩の鳥を放つ。

 近くで見ると結構大きいな。木々の間を抜けて森の上空へ出たところで、マーレが座り込んで目を閉じる。

 多分こうしてあの鳥の視覚に入っているんだろう。


「今マーレのマカニを偵察に出した。幸い位置はさほど離れていない、もし上位個体がいるのであれば今のうちに潰しておいたほうが良いと思うが、どうか」

「俺は別に構わん。後から一斉に群れを成して襲われるよりは小規模のうちに潰しておいたほうが楽なのは確かだ」

「私も賛成だね。群れは驚異となり得る。それがどんなに弱い群れであっても数の暴力というのは恐ろしいものだよ」

「それだけじゃないわよぉ?こういった群れは更に上位の個体を生み出すの。そうなると周りの強い魔物も吸収して群れが膨らんでいくわぁ」


 アクラの提案にエドとシリルが同意する。

 ラウラさんが言っているのはほったらかした場合の最悪の事態のようだ。

 弱い個体が上位個体に変化して統率の取れた群れへと変化する。

 これは例えるならば賊だ。荒くれ者が一人のボスの元に集まってある程度の作戦を立てて行動をする。

 だけど更に上位の個体が生まれてくれば、その戦い方は更に変化するのだ。

 やがて数が増えるに連れて武器や道具などを使う者たちも出て、魔獣や魔物を従える場合もある。

 これが人の形をとる魔物の恐ろしいところだという。


 なら当然、危険度が低いうちに潰そうとなるのは当然のことだな。


「私達もそれに賛成するわ。それにあの洞窟はどん詰まりで、少し深いところは広くなっているけどそれだけ。逃げ場はないわ。……アクラ団長は土魔法が得意と見えるし、入り口を塞いであげればそれだけで勝ちよ。後は水責めなり焼き尽くすなり好きにすればいいわね」

「エグい……」

「……良いだろう。ん?戻ったか。マーレ、報告を」

「……洞窟の中、沢山のゴブリンが居た。頭に飾りをつけたゴブリンと、杖を持ったゴブリンも見えた」


 マーレが喋った!ボソボソとして聞きにくいけど結構やばい状況、なのかな?


「二段階ほど進んでやがるな。リーダーとメイジがいるってことは、その上が既に生まれている。殲滅するぞ」


 やばい状況だった。

 賊が更に力をつけて、小規模の班などを形成し、それぞれの役割を決めて組織的に攻める段階だろうという。

 僕達が出会ったのは恐らく偵察班。

 戻らなかった場合は恐らくその場所に攻撃班を送り込むだろうと予想している。


 だから叩くならば今だ。気づいていない状態への不意打ちを狙う。


 ゴブリンの総数は見えているだけで30を超えていたというから、恐らく内部には更に多くのゴブリンが控えていることだろう。


「……どの道女性の敵よ。人形の形を取っているのには意味があるわ」

「そうねぇ……エリーちゃんの言う通り、ゴブリンやオークなんかは特に私達女性にとっては最悪の魔物よ。繁殖のための道具にしか思ってないから万が一捕まった場合は……自ら命を絶ちたくなるでしょうね」

「ユウ、一匹も漏らさないわよ。全部あそこで仕留めるわ」

「……分かった」


 繁殖のための道具って……そういうことなんだよな?

 ああそれは生かしてはおけない。

 エリーが犠牲になったらと思うとそれだけでも怒りが湧く。


 よし、殲滅しよう。



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