第十話 発展する村
ブレナークから戻り、オーゼルが家に来て治療院を見学した。
セシリアさんが色々と無茶じゃないのかっていう注文をしていたけど、それを全て無理とは言わずに聞き、メモを取ったりどのようにしてほしいのかを更に掘り下げたり……。
この村のことは少し話だけは聞いていたみたいだけど、大分物々しい感じに防御を固めつつあるのを見て1つ提案をしてくれた。
「魔物の被害が予想されるかもしれねぇってのはちらっと聞いていたが、話を聞いてみれば今活性化している魔物に関するものだってな?」
「ええ。だから壁を作ってます。そして調査団と、ハンターの人たちが泊まれる建物を建築中ですね」
「見た所、ここにゃ魔道具技師はいねぇな?」
「そうですね……鍛冶屋はいますけど」
魔道具使う人なんてほとんどいないからなぁ。
武器も基本的な金属製で十分だし。
農具は言わずもがな。
特殊なものが必要になる治療院でも、一度作れば研ぐだけでかなり持つからそれで十分といえば十分だ。
もっとも、これからはあの魔道具セットが大活躍することになるだろうけど。
「ハンターやウィザードが使う武器なんかにゃ魔道具に通じる技術が使われていてな、鍛冶屋だけじゃ対応出来ねぇ事が多い。俺の知り合いの魔道具技師を寄越すから、俺との連絡なんかもそいつを通してくれ」
「良いんですか?こんな村に……」
「無論だ。そもそも……こんな立派な治療院があるからこそ、ここを拠点としたんだろう。普通の村とか町ならそこまで重要視されることはないだろうが、ここは認定ヒーラーと上級ヒーラーが揃ってる。大体の怪我には対応できるだけの設備もだ」
だからこそ、何かあってもここならば戻ってくれば治療できる。
さらに大きな畑などが揃っている為、食料に関する問題もある程度人数が増えても耐えられる。
後方には更に大きな農地と牧場を要する町があり、そこからならば馬車で1日程度で往復も出来る。
一番端っこにあるだけでなく、ここを突破された場合にはその後に控えた大きめの町などが被害を受けるのだ。
平原が広がっているから森から出てきた魔物は目立つし、遠距離からの狙い撃ちも可能。
「この治療院は最前線の治療院となる。色んなやつがこの村に集まってくる事になるかもしれん。ここにウチの系列店を入れておくってのはそれだけでも意味はあるさ」
「怖いこと言わないでよ……」
「つったってなぁ。前にここじゃないところで新しい魔龍脈が開いたことで魔物の活性化が起きた時、壊滅に近い被害が出たことがあるんだ。だから危険度が高くなってきているなら遅かれ早かれそれなりの準備を絶対にするぞ」
「そんなに大事だったなんて……」
あんまり呑気にしてられないのか。
いつも明るい村の人達がちょっといつもと違って元気がないって思ってたけど、その事を知っているからなのかな。
いつどうなるのかわからないけど、頑張らないとならないな。
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夏の暑さが厳しい時期を過ぎたけど、まだまだ暑さが残る頃。
僕もヒーラーとしての実力をつけてエリーと共に色々と経験を積んでいった。
たまにメディックとしてハンターに同行し、ウィザードの人から魔法をちょくちょく教わってみたりしながら自分なりにある程度魔法も使えるようになってきた。
一番気に入っているのは……ストレージだ。
覚えるまではかなり苦労したけど、一度覚えるとこれくらい便利なものはないと思う。
魔力を使って空間を作り出して、その空間に物を詰め込む。
気をつけなければならないのは魔力切れ。意識がなくなったとかなら良いけど、維持するための魔力が切れた場合、中身がその場に撒き散らされるハメになる。
死んだ場合もそうなるってことになるわけだけど。
少しの間仕事を休んでウィザードの協会に登録して……と面倒ではあったけど、色々と収穫はあった。
こんなことならもうちょっと早くやっとけばよかったと思う。
エリーには出し惜しみせずにやり方とかを教えてやり、セシリアさんからはヒーラーの勉強をする。
色んな事を一気に覚えてるから混乱したりするけど、結構楽しい。
その結果、あのブリザードもどきとストレージはエリーも覚えることが出来た。
ブリザードもどきはエリーがディープフリーズと名付け、他にもいくつかの魔法を作ったり覚えたりして、本業であるヒーラーの方もついに範囲回復が出来るようになった。
エリーと共に実力的には既に中級以上とセシリアさんやキールに言ってもらえたのが本当に嬉しい。
コリンは……もっと勉強しないと抜かれるぞとキールに脅されてたけど。
ああそうそう。
お金の話。あの後しばらくして本格的にオーゼルが売り出したらしくて、翌月になって物凄い額が預けられていた。
お陰で僕の治療代は完済し、このままエリーの家にいるっていうのもアレなのでセシリアさんに相談したわけだけど……。
「こっちとしてはいつまでも居てくれて構わないんだけど……確かに私がいるとしたいことも出来ないわね」
などと言われてしまった。
何を……なんてすぐに理解できずに聞いてしまった僕は、その後に続く男の子が見たいわねぇなんて言葉で理解し、横ではエリーが真っ赤になってうつむいていた。
……後で思いっきり小突き回されたのは言うまでもない。
そんなこんなで僕達の家も作ることになったわけだ。
それと同時に例の調査団とハンター集団のための集合住宅も完成し……彼らが到着した。
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「遠い所来ていただき感謝いたします」
「王命によりこの地での調査を担当する、王立研究所所属魔龍脈調査団団長アクラだ。調査団総勢10名、世話になる」
「我々がハンター、ウィザードの混成団だ。一応団長を務めているエドという。何かあったら俺に言って欲しい。全員で20名、事前に通達したとおりとなっている」
ぞろぞろと大量の荷馬車と共に調査団と混成団が到着した。
国から派遣された調査団と、彼らと僕達を守るために派遣された混成団。
色々と物資なんかも持ってきてくれたらしい。
予想以上に立派な住居が確保されていたことに驚いたみたいだけど、やっぱり物資は乏しい。
ちょっと物足りなそうな顔をしている人も居たけど……まあ仕方ないだろう。
彼らが来て最初にやったことは、周辺のチェックと、詳しい地図作りだった。
ウィザードが使い魔と呼ばれる手なづけた魔獣などを使い、空や地上を探索し、細かいところまでどんどん書き込んでいく。
地図を作る専門職ってのもあるらしくて、その人が魔獣使いからの報告などを全て絵として落とし込んでいった。
……あれ、一枚欲しいな。
「ユウ、お前の家ようやく取り掛かれるぞ」
「あ、ジェロイさん」
「いやぁついにお前も家を持つか!最近街の方でも名前が売れてるらしいじゃねぇか。俺たちの方にも金を回してくれたりしてすげぇ助かってる」
「こんな時ですからね。協力できることはやりますよ」
アイディア料で儲かったお金を僕は村のために使ったりしている。
微々たるものではあるけど、食料を購入したりとか、材料を購入したりとか。
なにせ何をするにもこっちだけじゃ間に合わないから結構お金がかかるんだ。
「んで、ベックのやつに書かせた設計図だがこんな感じでいいか?これからのことを考えて頑丈に作るつもりだ。どうせなら石も使ってな。そして……お前さんが欲しがってた風呂の設計図だ」
「おおおお!ついに……!」
「この村じゃお前だけだぜ。流石大出世しただけはあるわな!俺たちのためにも作ってくれるってんだから、本当にお前に足向けて眠らんねぇや」
「ああいや完全に僕の趣味ですからねこれ。皆の公衆浴場はどんな感じですか?」
ベックは建築家兼石工兼農家だ。
この村じゃいくつかを兼業しているのも珍しくはない。
で、お待ちかねのお風呂だけど……その前に公衆浴場の話をしよう。
あの時ブレナークに行ってからというもの、公衆浴場が恋しくて仕方なかったわけで。
そこでボイラーに関して少しだけオーゼルに聞いてみた。
湯沸かし用のものは要するに大きな鍋だ。
大量の水を大きな加熱器で加熱して、お湯としてちょうどいい温度に保っているそうだ。
ずっとつけっぱなしにしているならそれでいいけど、僕達の所ではもっと簡単で効率のいい仕組みでやっていくことにしたのだ。
大きな釜を使わずに済むように、沸騰するまで一気少量の水を加熱。
そこに湖の水を混ぜて丁度いい温度に調節して貯める。
朝食後から夕飯後少しってところの時間を営業時間として、さほど高くない金額で提供する。
これはあの調査団とか混成団の人達に対する配慮にもなる。
一応先に間に合うようにと色々とやってもらっていたからもう施設自体は出来ている……はず。まあまだ準備が必要だから稼働できないけども。
魔道具は……オーゼルの知り合いという魔道具技師オーウェンに作ってもらった。
多分今設置している。
オーウェンも自分の工房がまだ出来ていないから、荷馬車をそのまま工房にしている状態だけど、そんなのも気にせず仕事をしているのには頭が下がるな。
「もう内装も浴槽も出来上がってる。オーウェンが魔道具を取り付けてくれたらすぐにでも試運転だな。浴槽は木製だから水入れたらずっと水を張っておけよ。乾くと割れちまう」
「分かりました。まあ、あまり大きい浴槽ではないけど、順番に入れば大丈夫だよね」
「まさかこの村に公衆浴場がなぁ……入ったことあるがあれは良いものだった」
「といっても、サービスはないし……石鹸とかオイルとかも無い。本当に湯に浸かって温まるだけだけどね。それでも疲れを癒やすだけでなく身体を綺麗に保つってことは出来る」
「それを自分の家に取り付けるってんだから相当な道楽だよ、ユウ」
「あはは……」
だってエリーと2人だけでゆっくり入りたいじゃん?
ほら僕も一応男だし?いちゃいちゃしたいなぁとか?
セシリアさんに言われてからというもの、事ある毎にそっちのことが頭をよぎって仕方ないんだ。
「で、これが図面だ」
この村としては普通のサイズだ。
大体家族が6人程度が暮らせる程度。
ただし中はオーゼルの魔道具でいっぱいだ。
照明は全て夜光石ではなくてマナライトを全方面にてらせるようにしたタイプ、マナランプとして、魔力コンロと湯沸かしようの小型魔力ボイラーが付く。
水を川から供給するためのポンプも取り付けられるついでに水道も付くことになる。
そして水道が作られるのは……僕の家だけじゃない。
「水道の方は誰が?」
「鍛冶屋のデニスだ。あいつがパイプ作ってこっちまで引っ張ってくれば……この村全体に水道を引ける。まさかあの公衆浴場の魔道具が水を引き上げる事もできるなんてな」
「嬉しい誤算だよ。お陰で一々水を運んできたりしなくても済む。ここが調査団たちの駐留地になるってこともあるからそのへんの整備は僕の家よりも早めによろしくね」
「あいよ」
オーゼルから来たお金の大半はもうこれで無くなってしまったけど、……多分またすぐに来るんだよなぁ。
これで僕なりの恩返しはこの村にできたんじゃないだろうか。
そして王都から来た調査団や、その他の街なんかから来た混成団の人たちも、あまり不自由しなくて済むかな?
何もないところよりはある程度の暮らしを約束できる状態になるはずだから、それなりにつらい思いはしなくていいと思うけども。
ジェロイさんと別れると、さっきまで調査団の団長たちと話をしていた村長が来た。
「ユウ、君のお陰で彼らも驚いていたよ。本来ならば私の仕事なんだが……ありがとう」
「お金も記憶も身寄りもない僕を助けてくれた皆には感謝しか無いですから。こんなに早く恩を返せるようになるとは思ってなかったですけど」
「恩を返すどころか……こっちが恩を背負ってしまったくらいだが……。正直彼らを迎え入れるのにどうするかかなり悩んだんだ、本当に助かったよ」
都会に比べてなにもないってことでのトラブルなんかを気にしていたらしい。
ただちょうどいいタイミングで大金が舞い込んだ僕が、色々と作ることを提案したってわけだ。
ある意味村だからここまで出来たんだけどね。
これがブレナークでやろうとしたら絶対無理だったに違いない。
材料費から何から全てにお金がかかるようだと……とてもじゃないけど無理だ。
実際、僕が出してるお金はその工事の規模からすれば相当に少ないわけで。皆がお金を受け取らずに協力してくれたり、土地の許可をすんなりと出してくれたから色々出来るだけだ。
まあ、そんなわけであの団員達が田舎だと思ってきたら意外と整った設備があってびっくりしていたって言うわけだ。
間に合ってないのもあるんだけど、すぐに完成するから問題ない。はず。
村長と別れて家に戻ると、エリーが大量の薬草に囲まれていた。
やべぇ調合しなきゃな。
「ユウ!何してんのよ!手伝ってよ全然終わんない!」
「ごめんごめん!色々話ししてて……。これ、僕達の家だって」
「え?わぁ……なんか、実感ないわね……」
「嫌?」
「違う違う!そうじゃなくて、ここを出るってことの実感がなかったのよ。そもそも……誰かいい人と付き合うなんてことも全然考えてなかったし……。ユウが来て一気に色んな事が進んで……。ユウはあっという間にお金持ちになっちゃったり。そして村はどんどん変わっていって。頭がついていってないだけよ」
確かに色んな事が一気に起きた感じはある。
記憶がない僕からしたら、全てが初めてだから逆に抵抗なく受け入れられたのかもしれないけど。
「でも、そっかぁ。ユウと私の家かぁ」
「そうだね。最初は僕だけ出ていくつもりだったんだけど……」
「ユウが行くなら、私も行くに決まってるじゃない。まああの家はお手伝いさんでも雇えば良いわけだし……そうでなくても私達の家もすぐ近くなんだから行けばいいだけよね」
「だね」
「それに……お母さんにあんなこと言われたら嫌でも意識しちゃうじゃない」
「……だよね」
あ、やっぱりエリーも意識してたのか。
そりゃなぁ、あんだけはっきり言われたら……。
ただ、結婚とかってなると……今の僕達で本当に大丈夫なんだろうかって不安になる。
「お金的には私の収入もあるし、ユウの収入が圧倒的だから問題ないけど……。問題はメディックの仕事よね」
「そうなんだよね。なんだかんだで結構危険な仕事だからどうしてもそれを考えちゃうよなぁ」
「でも……その、子供を作らなければ問題ない、よね?」
「あ、そうか」
結婚=子供という考え方がそもそも間違ってるのか。
ってことは、もうやっちゃってもいい、のか?
「ねえ。この際だしもう結婚しちゃわない?えっと、子作りは……まだ、だけど……やっぱり、したい……よね?」
「え、あ、う……うん。まあ、それなりに……」
「いつも我慢してるなーっていうのは感じてたの。湖とかでおっきくなってたりしたし……」
バレてら。
必死に小さくしてから出てたつもりだったのに。
ヤバイめっちゃくちゃ恥ずかしいぞ……エリーにバレてるってことは他の人にも?
ああああああ!!
他の奴らと顔合わせにくいじゃないか!!
「だからね、お家ができたら、しようか?」
「え、いいの?」
「ぷっ……あっはははは!!ユウってば必死すぎ!もう……。もちろんよ。それにね、赤ちゃん出来ない方法っていうのもあるの。ユウが薬飲むだけで済むわ。調合は私達でも出来るくらい簡単だし、素材も森で採ってこれる程度よ」
「笑わなくてもいいじゃないか……。でも、そんなことまで言わせちゃってごめん。恥ずかしかったよね?」
「いいの。記憶もないんだから知識だってまだ足りてないことも多いでしょ?」
そうは言っても、顔は赤いのがわかる。
子作りの仕方?そんなもんエリーと付き合い始めてから酒場で何度も何度も言われてやり方だけは知ってるよ。だから余計に意識してしまってるんだ。
あそこに入るのかぁとかちょっと考えただけでもヤバイ。
「楽しみね、完成するの」
「本当にね」
早く完成しないかな。
□□□□□□
「パイプもこれで全て繋がったね、よし試運転するよ!」
オーウェンの声が響く。
僕たちの村に出来た初めての公衆浴場。
そして全ての家につながる配管は水道だ。
その試運転が今、始まった。
マギジェネレータが稼働を開始して、少し遅れてポンプが動き始める。
加熱用の釜に水が注ぎ込まれ、同時にパイプを伝って全ての家々に水が分配されていく。
「おおすげぇ……水が出た……」
「こっちも出たぞ!!」
「俺のとこも来た!」
次々に報告が上がる。
最後に一番遠くにある村長の家からも水が出たのが確認できた。
途中のパイプからも水漏れは一切ない。
「パイプは問題ないね。後は……浴槽だけど」
「問題ないさ、オイラが作った新型ボイラーだ!」
オーゼルと同じドワーフだけども、まだとても若い技師のオーウェン。
若くてもオーゼルが認める位には技術を持っているし、新しいことにはとことん挑戦したがるという頼もしさがある。
自分で考えてどうしたら一気に加熱できて、時間も早く沸き上がるかを教えてくれて、実際にその仕組を組み込んだ新型ボイラーは……あっという間に組み上げた水を沸かし、沸騰直前まで熱くした。
そのお湯は水と混ぜられ、一度混合用のタンクに入り……そのちょうどよくなった温度のお湯が湯船へと流れ出てくる。
オーウェンは更にお湯を循環させることで、常に湯船の温度は一定に保ちつつも、溢れ出た分のお湯を一度浄化することで常に綺麗に保つ仕組みも作ってくれた。
これでいつでも綺麗な状態の風呂に入れるというものだ。
「どうだい?ほら、丁度いい温度になってる」
「……完璧だよオーウェン。流石オーゼルの弟子だ」
「当然!ユウの家の分のももう作ってあるんだ。家が完成したらすぐに取り付けに行くよ!」
「ありがとう。その前にオーウェンの家もなんとかしなきゃなぁ」
「オイラは身体が小さいからね、あの荷馬車の中でもなんとかなってるから気にしなくていいよ。あ、でも広い工房は欲しいかなぁ。ものを作るのにちょっと手狭だから」
「今設計図作ってもらってるところだから、出来上がったらどういうふうにしたいかをベックに伝えてよ。そしたら希望通りにしてくれるはずだから」
「わかったよ。……さて。試運転のつもりだったけど、もうこれ問題なさそうだしこのまま稼働開始ってことにしようか。もし何かあったらオイラが直してやるからさ」
そう言ってニヤリと笑う。
頼もしいな。最初見たときには大丈夫なのか?って思ったんだけど。
どう見ても人の子供にしか見えないもんだから、マジで?って思ったらエリーから若いドワーフだって言われたんだった。
第一印象はいたずらっ子って感じ。
ちょっと日焼けして赤い髪の毛の、ドワーフらしからぬスマートな見た目。
でも服を脱ぐとすげぇんだよ……ものっすごい筋肉。
足とか腕とかもだけど、腹筋とか胸筋、背筋なんかのあの付き方は半端ない。
当然ながら力も強くて、切り出した丸太を適当に二本くらい片手でひょいひょいと肩に担いで歩いたりとか。
そして技術力の高さを見てからはもう、僕の中での偏見は完全に消えた。
「さて」
「お、おい、何してんだよオーウェン!」
ぽいぽいとその辺に服を脱ぎ捨て、素っ裸になっている。
前を隠そうともせずにこっちを振り向き、仁王立ちのままでニッコリと笑顔になり……。
「製作者の特権だよ!ユウ!お前も来いよ!」
「あっ、この野郎!僕も!」
ダッシュで湯船に飛び込みやがった。
既になみなみと十分な深さまで溜まったお湯からは湯気が立ち上り、そこにオーウェンが飛び込む。
負けじと僕も服を脱ぎ捨てて飛び込み、2人でたっぷりと風呂を堪能した。
あったけぇ……気持ちいい……。
「ユウは筋肉無いなぁ」
「あんまり付かないんだよなぁ。これでもこっちに来たときよりは大分付いたんだけど。オーウェン見てると自信なくすよ」
「まあ種族的なのもあるし?あー……まさか田舎にきて公衆浴場に入れるなんてね。ユウのお陰だ!後は剣の方も仕上げてやるからちょっと待っててくれよ」
「ああ、アレね。ゆっくりでいいよ」
そういやすっかり忘れてたな。
レッドファングの爪を使った剣を仕立ててもらうことになってたんだった。
魔物の素材は鍛冶屋では加工できないものが多い。
特に魔法剣になると、金属の加工とは違って魔力的な加工が必要になってくるのだ。
こうなると魔道具技師の方が適任となるわけで。
更にその素材の力を制御しやすくしたり増幅したりといった仕組みも作ることが出来る。
そのへんは全部オーウェンに任せてるけど、先にこのボイラーなどの魔道具づくりをお願いしたから後回しになっている。
どうせまだ使う機会は無いから良いけど。
ゆっくりと温まった後で服を着て出ていく。
入浴料の徴収は村の女の子に任せて、明日から稼働開始だ。
……今日は無料開放と行こう。
村長を通じてその事を知らせてもらうと、皆から歓声が上がる。
特に調査団たちの方はよっぽど嬉しいらしい。
無料で一日開放しておくのも、浴槽の汚れ具合とか、浄化の状態とかを一番ひどい状況で見れるかと思ったからだけど……大丈夫だよな、本当に。
ちなみに調査団や混成団の皆は、この村のハンターなどと一緒に防御用の壁を設置している。
ものすごく間隔を開けて置いてるから意味があるのか?と思ったんだけど、あれ自体が魔道具だった。
ウィザードが起動させると離れていた部分が光の膜で繋がり、この村を大きく囲う壁……いやドームが出来上がった。
徐々に光が弱くなっていって失敗なのかと思ったけど、しっかりと起動しているらしい。
その他にも守りを固めるためのものや、研究のためのテントと設備など……色々なものを設置して疲れていたみたいだし、ちょうどよく出来上がった公衆浴場はありがたいだろう。
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調査団や混成団……面倒だから調査団で統一するけど、彼らが来て早速村周辺のマナの流れなどを調べてもらった。
数日かけて調べた結果、やっぱり森の奥の方で魔龍脈の反応があるという。
またこの辺のマナの濃度が上がっていて、魔物はこのマナ濃度の関連もあって活性化している可能性が高い。
翌日から森へ入って道を作りつつ奥へと向かう。
途中途中で拠点を構築しつつ、安全地帯となるように魔物よけの魔道具を設置していくらしい。
まあそのへんはよくわからないからお任せだ。
こっちはこっちで獲物を狩りに行ったハンターの怪我が増えているからちょっと忙しいし、早めに解決できたらして欲しいところだ。
まあ彼らはきちんと食料とかも購入してくれるし、色々と収入が増えて入るからいいっちゃ良いんだけども……安心という意味ではこの異変が早くなんとかなってほしい。
こういった情報は村長を通じて僕達村人に対してもちゃんと開示してくれる。
集会所に行けばそういった張り紙とかもしてあるし、たまに○○をして欲しいとかみたいな依頼もあったりする。
今日も行ってみた所……メディック募集が出ていた。
調査団からの募集だ。
この村だとまあ……僕しか居ないから当然僕がその張り紙を引っ剥がして受付に持っていく。
明日の朝、暗いうちからの出発のようだ。
ハンター達が怪我をしている率が高いから少し準備をして行こう。
エリーとセシリアさんにも話をして、治療院はお休みさせてもらうことになる。
「いよいよ調査団が動くのね。どういう事をするのか楽しみだわ」
「そうだね。明日は一日で帰ってこれる距離しか動くつもり無いようだし、深いところには行かないと思うよ。ただまあ、やたらと怪我人が多く出ているのが現状だし、都会から来ているとは言えどうなるかわからないから色々薬とかは準備していこう」
「ストレージの本領発揮ね。メディックって荷物かなり増えるからありがたいわ」
薬草だけじゃなくて瓶に入った薬とかを持ち歩くことになるからなぁ。
音が立たないように気を使ったり、間違っても転んだり出来ないしで大変なのだ。
そういう意味では放り込むだけでいいストレージは最高にいい。
転ぼうが何しようがストレージ内の物は傷つかず、手荷物はごくごく最小限でいいから身軽に出来る。
調合道具ももっていけば現地でも調合できるし、マナライトやナイフなんかも持ち運べるのだ。
便利すぎてもう戻れないね。
ってことで用意をしっかりとして、早めに寝ることにした。
おやすみ!




