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第一話 目覚め

久しぶりの投稿となります。

鉄の竜騎士などとは完全に別な世界の物語となっています。

 ずっと遠くで男の人の声がする。

 息が苦しい。

 身体が動かない。


 こんな苦しいのはもう嫌だ……辛い、苦しい、助けて……。


 眼の前が暗くなっていく。

 僕の周りがなんだか騒がしくなっていくけど、何を言っているのか全然わからない。


 いやだ。死にたくない。……死にたくない!


 □□□□□□


「……死にたくないっ!!」


 がばっ!と上体を起こすと、窓から入ってくる大量の光が朝になったことを物語っている。

 吐気がするほどにとても怖い夢を見た。

 えーっと……。

 あれ?僕はなんでここに居るんだっけ?

 っていうかここ何処だ?


 っていうかなんで裸!?

 えっ?えっ??


 混乱していると、突然後ろでドアが開く音がして……


「あっ、気がついたのね!お母さん!あの子目を覚ましたー!!」


 金髪で凄く可愛らしい女の子が、木桶をもって入ろうとして、僕を見てびっくりした顔をしたかと思ったらお母さんを呼びながらバタバタと階段を降りていった。

 どういうことか考える前に、女の子の前で素っ裸になっていることを思い出して服を探すけど……何処にもない!

 僕の荷物もない!

 何処!?


 え、やばい足音が近づいてくる!


 とりあえずベッドの中に入ってシーツをかぶる。


「ほら!」

「あら、ホントね」

「あ、あのっ!今ちょっとなんか服着てなくてっ!」



 母親の方もめっちゃ美人!

 長い金髪を編み込んでてなんか映画とかで見るような……。

 というか、この人達の服装がなんかおかしい?

 素朴というかなんというか……いやこれが当たり前だったっけ?なんか頭がおかしい。

 映画……ってなんだっけ?

 なんでこんなに思い出せないんだろう?

 名前……僕の名前……思い出せない。


 シーツから顔だけだして必死に説明しようとしながら、自分が何も覚えてないことに初めて気がついて愕然とした。

 そんな僕の顔をみて、心配そうに母親の方が僕に優しく話しかけてくる。


「ねえ、体調はどう?痛い所無い?」

「あ、えーっと、特に無いです」

「そう、良かった。君の服はもうぼろぼろで服として使えなくなってたし、血で酷いことになっていたから洗って修繕してるの。もう少し待っててね」

「え?なんでそんなに……」

「覚えてないの?あなたこの村から近い森のなかで大怪我して倒れていたのよ?」

「そうだよ。私達が行かなかったらきっと死んでたわ」


 死ん……大怪我?全然覚えてない。

 でも大怪我した割に身体には全く傷はないけど。


「お母さんは治癒術士よ!この村で一番腕がいいの、凄いでしょ!」

「治癒術士……」

「ええ。私はセシリア。この村で唯一の治療院を経営しているわ。あ、お金の心配はしなくていいわよ?流石にお金ない子から取ったりはしないから……。荷物とかも何も近くになかったし、もしかしたら盗賊に全部盗られちゃったのかもしれないの、ごめんなさいね」

「いえ、それは良いんですけど……」


 シーツに包まったままで少しずつ僕の状況を確認していく。

 セシリアさんは治療院を経営していて、必要な薬草を取りに娘のエリーと共に森へ向かって……そこで大怪我して死にかけていた僕を見つけたそうだ。

 急いで治療院に運び込んで3日ほど何度も何度も治癒魔法をかけて……完全に回復しているとか。

 その後僕はセシリアさんの家に移されて2日ほど眠って……今起きた、ということらしい。

 全然覚えてない。


 持ち物も全部なくしてるなんて本当に最悪。

 記憶もなければ荷物もない。色々と持っていたはずなのに……当然お金も。


「そうだったんですか……。実は僕何も覚えてないんです。そこで何をしていたのか、何が起きたのか、生まれたところとか自分の名前すらも思い出せないんです。これはなんとかならないですか?」

「えっと……ごめんなさい。記憶は直せないの。全然何も思い出せない?」

「はい」

「そう……私達も色々と人にあたって調べようとしたんだけど、あなたのことを知っている人は誰もいなかったの。この村の子じゃないのは分かるんだけど、隣村でもいなくなった子はいないって言うし」


 僕を知ってる人が誰もいない……。

 ってことは僕は……知らない土地で完全にひとりぼっち?

 うそでしょ?


「ねえお母さん、この子家で面倒みない?帰る家がないなんてかわいそうよ」

「エリーは本当にこの子が好きなのね」

「ちょっ!?」

「良いわ、もう少し養生して元気になったら……治療院で働いてもらおうかしらね。君はそれで良い?もちろんお給料も少ないけど出せるから。ここに住み込みで働いてもらえると助かるわ!最近忙しくて人手不足なのよ」

「僕は凄くありがたいですけど……良いんですか?」

「ええ。さっきも言ったけど人手が足りないのは事実なの。最近魔物が活性化しているみたいで、怪我して帰ってくる人が多くてねぇ」


 帰る家もなければ記憶もお金もなにもない。

 それだったら働かせてもらえて、住む場所があるなら……当然その言葉に甘えたい。

 ここが何処なのかもわからないし、村の人達のことも知らない。

 そんなところで信用できる人が居るというのはとても心強い。


「よろしくおねがいします!僕一生懸命働きますから!」


 まさか記憶をなくして文字通り裸から始めることになろうとは思っても見なかったけど……。

 優しそうな親子のところでお世話になれるのはラッキーだ。

 セシリアさんは美人だしエリーはとても可愛いし。


「よろしくね。えーっと……名前どうしようかしらね。何か少しでも覚えてること無い?」


 ……名前……覚えてないんだよなぁ。あ。夢の中でユウって言われてたのは覚えてるぞ!

 もしかしたら僕の名前かもしれない。


「ユウ、ね。やっぱり知らない名前ね……。ま、時間が経てば思い出すこともあるわ。落ち込まないでゆっくり思い出していきましょ?」

「はい!」

「よろしくねユウ!仲良くしてね!」

「ありがとうエリー」

「あらあら。じゃあ、私は治療院に行っているからエリーはお世話してあげなさい」

「うん!任せて」


 そう言ってセシリアさんは部屋を後にする。

 エリーは……そのまま残るみたいだ。


「さて、体拭いてあげるわね!」

「え、いや自分でやるから!」

「なによ今更……ずっと私がユウの世話してたんだからね!」

「えっ」

「最初は大変だったんだよ!傷口酷くて……何回も何回も水換えて血をふき取って。おしっこまで真っ赤だったんだから!死んじゃうかと思って本当に怖かったのよ?」

「えっ、おしっこって……」

「ああ、おちんちんに柔らかいのがくっついてるでしょ?そこからチューブを通って……ほら、こうして桶に流れるようにしてるの。これ私が考えたのよ!凄いでしょ!作ったのはお母さんだけど」


 待って。僕この子に全部見られてるの?


「当たり前じゃない!汚れやすいから外して洗ってあげなきゃ病気になっちゃうよ?もげるよ?今日だってうんちもしてたからお尻も拭いてあげて……身体洗ってから替えのおむつを持ってきたら起きてたからびっくりしたんだけど」

「……うああぁぁ……」

「恥ずかしがる必要ないわよ。意識のない患者さんなんて男も女もみんなそんな感じなんだから……。ユウもそのうち慣れるわ」


 ……僕は患者、彼女は治療してくれる人、うん。なにも恥ずかしくない。うん。

 恥ずかしいに決まってるだろ!

 同い年くらいの女の子にお尻まで拭かせて……ああもう死にたい。


「ちょっと!?せっかく助けたのに死にたいとか言わないでよ!ほらいいから、おしっこも出てるし綺麗にしなきゃ!」

「ちょっ!じ、自分でやるから!これ抜けば……痛ってぇぇぇ!!」

「バカ!そんな事したら怪我するわよ!外し方があるんだから!」


 結局、やってもらった。

 薄緑で半透明な何かが吸い付くようにちんちんにかぶさっていて、皮膚に思いっきりくっついているのか剥がそうとしたら死ぬほど痛かったんだ。

 だけどエリーがやってくれたらするっと抜ける。

 どうなってんだこれ……。


 有無を言わせず全部キレイに拭いてもらって……おむつの代わりに下着を貰った。

 長めの丈で真ん中が荒目にボタンで止めてある感じ?

 全部外すとお尻まででるから排便はしやすそうだけども。

 シャツも似たような素材でゴワゴワしているかと思ったら意外と柔らかくて着心地は良い。


 服も出してくれた。

 着心地は良いかもしれないけどちょっとでかい。

 しかも着方よくわからなくて手伝ってもらってしまった。


「んーちょっと大きいわね。まあ腰紐とかで調節して頂戴、それお父さんの服だから大きめなのよね」

「そういえばお父さんは仕事?挨拶しないと……」

「あ、居ないわよ。2年前に死んじゃったから。端切れにして使おうと思ってた服だし気にしないで使っちゃっていいよ。ユウの服は……この際雑巾にしちゃおうかな……あれを直すのは流石に……」


 そんなひどかったのか?と見せてもらったら……分かってても服とは思えないほどにズタボロだった。

 そこかしこが切り裂かれて、未だ生々しく残っている血の跡。

 僕、あれを着てたんだよね?なんで死ななかったんだよ……。


 っていうかお父さん死んでるのか。

 僕の両親は顔も名前も全く覚えてないんだけども……心配してるだろうか。

 そもそも死んでるんだろうか。

 逃げている最中にという可能性もあるのか。


「運が良かったとしか言えないわね。多分私達が見つけたのが早かったんだと思うわ。その場でとりあえずの傷口だけ塞いでから身体綺麗に洗いながら……。骨も折れてたけど致命的なところは奇跡的に無事だったって聞いてるの」

「本当に感謝しか無いよ。ほらもう全然痛くないし。よっ!」


 かっこつけて勢いよく立ち上がってしゃがんで立ち上がって……ぶっ倒れた。

 一気に目の前が暗くなって声が遠くなっていく。

 あ、なんかこの感覚覚えが……。


 でも今回は真っ暗になる前にゆっくりと目と耳が回復する。


「ちょっと!病み上がりでそんな事したらだめに決まってるじゃないの!まだ血が戻ってないんだからしばらく安静にしてなさい!!」

「……すみません」


 エリーが出ていってから部屋の中を見て回る。今度はむちゃしないようにゆっくりと起き上がって歩く。


 結構綺麗にしてあるな。

 置いてあるものはよく使い込まれた道具だったり、家具だったり。

 武器とその手入れ道具なんかが結構あったから猟師かなんかだったんだろうか。


 窓に近づいてみる。

 簡素な木の扉が付いてるだけのものだ。

 2階建ての窓から見る景色は……素晴らしかった。

 どこまでも青くて澄んだ空。平原が続き小高い丘が見える。その反対側の方は僕が倒れていたっていう森だろうか……とても広大な森が広がっている。


 近くの方に目を向けてみれば、土むき出しの道に石と木を使った住居がいくつか立ち並ぶ村の様子が見て取れる。

 あまり大きくない村みたいだけど……。

 農地や牧場なんかが少し離れた場所に見えて、そこでは人々が働いている。

 僕も早く働かないとな……お金ないし。助けてもらっといてお金も払わずには居れないよなぁ。


 とりあえず……まだなんにもわからないけど、僕はこの村で生きていく。

 セシリアさんやエリーに恩返しできるようになるまで頑張ろう。


2話までは短めですが、それ以降はいつもの通り長くなります。さーせん。

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