Sensei..
「先生あのね、」
名前を呼んで?
高橋さん・田中さん・沢木さん・井上さん・森山さん…
「先生あのね、」
名前で呼んで?
だってほら、名字でなんて呼ばれたら誰もかれも一緒じゃない。
私なんてきっとみんなの中に埋もれちゃう。
私には名前があるの。
世界にたったひとつだけの素敵な名前がある。
私が生まれた時、パパとママが私にくれた初めてのプレゼント。
【いい名前だね。素敵だと思う。】
先生に褒められたあの日あの瞬間から、私の中での宝物になったの。
だからね…
だから…
「先生お願い、」
名前を呼んで。
名字もさん付けもいらない。
たったひとつでいい。
先生の口で、先生の声で、先生の言葉で私を呼んでほしいの。
先生、私の名前知っている?
覚えてくれていますか?
'あ'から始まるよ。
思い出してくれた?
「ねぇ先生、」
こっち向いて?
「ねぇ先生…」
大好きです。
【ちゃんと覚えてるよ。】
先生は笑ったの。
先生が笑ったんだよ。
「それなら先生、」
たった一回でいいから私の名前、呼んでみて。
「先生?」
私の名前は、'あ'から始まる…
【梓。】
先生の口からこぼれた私の宝物は、キラキラと輝いて私の耳元へと届いたの。
その次の瞬間には、私の瞳から涙がキラキラとこぼれおちていました。
「先生あのね、」
私、嬉しかったの。
「あのさ先生、」
私本当に嬉しかったんだよ。
ありがとう。
名前呼んでくれてありがと、先生。
私、先生に、梓って呼んでもらえてとっても幸せよ。
大満足よ。
なんて幸せを今夜も夢見る私は、先生にとってはやっぱりただの女の子で。
先生にとっては、他の生徒たちと全然大差はないの。
あ〜ぁ。
結局私は沢木さん。
田中さんや高橋さんの中に埋もれるただの生徒。
「先生、私ね…」
私だけ特別になりたい。
だから…
だからさ…
「一度だけでいいから、先生…」
私の名前を呼んで。
梓って…
梓って呼んでもらえませんか?
「先生あのね…」