第六回:工藤守、海軍を志す
この物語は、約100年間の歴史を描く壮大なプロジェクトと言ってもいいだろう。つまり、主人公は長門院和光だけでは足りないのである。そのために筆者は何人かを主人公として選んだ。工藤守はその選ばれた主人公の一人である。大龍革命では反乱艦隊を率いて大龍帝国樹立に貢献し、大龍帝国時代では連合艦隊司令長官として活躍。戦後も軍部において絶大な権威を持っていた工藤守を語らずして、この物語を語れないのは当然と言っても過言ではないのである。
1900年9月3日、和光が生まれる7年前に、汐城京の隣に位置する稲穂県の藤花町に守は生まれた。父親は教師で、工藤勘吉といい、母親は漢人の桜という美人だった。神聖大和公国は漢の領土の一部を植民地としており、桜は漢民族と大龍民族両方の教育を受け、二カ国語を喋れた。大龍帝国時代になってもそうだが、神聖大和公国は植民地に自分達の文化を押し付けるような事はせず、相手の文化をなるべく尊重した。これはブルア民族の習性であったが、その為、桜が育った植民地では独立運動は盛んではなかった。勘吉は桜と結婚した後に大和公国ヘ戻り、故郷の稲穂県で子供を生んだ。最初は女の子が生まれ、勘吉は春香と名付けた。その5年後、桜は男の子を生んだ。
「この子の名前、どうしようか?」
桜が夫に尋ねる。勘吉は「もう決まっている」と言いカバンから紙を取り出した。工藤守、紙には大きく達筆で書かれてある。
「工藤守!守だ。大切な人を守れるような、大きな、立派な人間になって欲しい。」
桜は嬉しそうに笑いスヤスヤと眠る赤子の頬を撫で、
「まもる、まもちゃん。良い名前だね。」
そう言った。そしてこの次の日、藤花町の領主であり朝廷の臣下、雪日院家で女の子が生まれた。彼女を雪日院陽子と言い、彼女もまた、物語に必要不可欠な人物となる。当主の雪日院忠月公爵と勘吉は幼馴染であり仲が良かった。雪日院家は藤花町では町長を凌ぐ絶大な権力を持ちながら、多くの民に慕われている名門貴族家で、そんなこともあり平民である勘吉と貴族の忠月が親友となるのはさほど藤花町では珍しい事では無かった。父親同士が親友だった為に、同い年の守と陽子が仲良くなるのはさほど時間がかからなかったという。母親である桜は守が6歳の頃に亡くなり、家事は姉である春香が担当した。
守は母親似の色白、美少年でその為か幼い頃はいじめられた。
「おねぇちゃん、おねぇちゃん」
守はいじめられたらすぐに姉のもとへ逃げた。春香は父親似で逞しく、喧嘩が強かった為に木刀を持っていじめた相手をよく倒しに行ったという。
「あんたら、また私の弟をいじめたね、覚悟はできてるね」
「姉貴だ、やっちまえ!!」
餓鬼大将を中心としたグループが春香に襲いかかるも、彼らは数分も経たず惨敗して敗走した。
「おねぇちゃんは強いなぁ。」
隠れながらそれを見ていた守だったが、春香は守を持ち上げて
「いじめられるのは、お前がそうやってナヨナヨしているからよ。男ならしゃんとなさい。」
そういって近くの池に放り投げた。守は自著において姉の事をこう記している。
『いじめっ子よりも恐ろしかったのは姉だった。姉に逆らえば叩かれるし、剣道の練習では正に鬼で、今でも思い出す度に戦慄する。しかし、いつも私を助けてくれたり、母親の代わりとして頑張っていた姉は、私にとって憧れの女性だった。』
また、春香は雪日院家の陽子にも容赦なく接した。陽子が自分の洋服を自慢し、守の和服を地味と評した時は、春香は陽子を小川に放り投げ、問題となった。温厚な当主の忠月卿はこの時は流石に不愉快に思ったが、隠居した忠月卿の父、忠興が
「この馬鹿娘は容姿は大変優れているが性格が悪い。大きくなったときに悪女となれば当家の恥であるから、厳しくするのは当然である。」
と言って陽子を木に縛り付け、春香は逆に褒められた。
守はその後、藤花第一小学校に入学し、陽子と転校生である森林光太郎といつも一緒にいた。森林光太郎は後に、工藤守と同じく海軍軍人になり、第4艦隊司令長官として活躍するのであるが、彼は陰で自分が二人に劣ることを長い間苦しんだ。1913年に藤花第二中学に進学すると、陽子は全国統一試験で常に一位をとる才女となり、守は学年順位では常に2位を維持する優等生で、光太郎は10位以内というところであった。守も陽子も人気者で、光太郎は二人を羨んだ。守は中学三年生の頃にはいじめられる事はなく、逆にいじめていた餓鬼大将の勉強を教えていた。
「守!お前の話は先公より分かりやすいぜ。」
「あの先生は難しい単語が好きで、それしか使わないんだよ。簡単な表現をしないからね。でもお前、高校には進学しないんだろ?」
放課後の教室で守と元餓鬼大将の田中が勉強していた。
「おうよ、実家の八百屋を継ぐべ。お前はどこ行くんだ?名門の汐城高校か?」
「いや、俺は美術の学校に進むんだ。画家になりたいから。」
「画家?確かに絵が上手いもんな。そろそろ時間だから帰るぜ。気をつけて帰れよー。」
田中が裏門から帰るのを見届け(田中の自宅は裏門の方からだと近い)守は正門に向かった。
「そんなボールキャッチできなくてどーすんのよー!」
「陽子、今変に投げたろ!?ふざけんな!」
グラウンドに二人の声が響いている。陽子と光太郎はキャッチボールをして守を待っていた。
「お待たせ。」
「守、また教えてたの?あなたも物好きね。自分をいじめてた奴に勉強教えるなんて。」
「陽子の言う通りだよ守。それより陽子の奴ボールをわざと変な方向に投げるんだ。」
「そんなの光太郎が下手糞すぎるからだろ。帰るぞ。」
光太郎が怒るのを無視して守と陽子は正門を出た。まだ4月で、桜が咲き誇る道を歩く。
「私達、もうすぐ受験だね」
「言うなよ。お前は御茶ノ水に進学するのか?」
陽子は少し驚いたのか、目を丸くした。
「よく分かったわね」
「あそこは全国でもトップレベルの学校だからな。通ってる人も貴族やブルジョア階級だろ?すごいよ。」
「守は汐城高校?」
「俺の偏差値じゃ行けないな……。」
「偏差値何よ」
「73。」
少しドヤ顔をして言った守に陽子は
「私は80よ」
キッパリ言い放った。自慢は聞きたくないよ、と思いながら守は後ろを振り返り、追いかけてきて息を切らしている光太郎に高校はどこを目指しているのか聞いた。
「そんなの何で言わなきゃいかんのだ。」
光太郎は答えることを拒み、お前はどこへ進学するのかと問うた。
「美術の学校へ行こうかなー。」
「汐城高校かと思ったぞ。」
「そんなに汐城へ行ってほしいのか?」
守は高校の進学に悩んでいた。周りは後に和光も進学した汐城高校への進学を勧めるが、守としては画家になりたかったので、美術学校への進学を志していた。しかし守の家は裕福とは言えず、美術学校に進学しては父と姉に負担をかけるのではないかと恐れていた。父の勘吉は最近病気がちで、仕事を辞めていた。だから工藤家の家庭は貧しかったのである。
そんな守に転機が訪れたのは、5月の下旬である。守は陽子と二人で江戸県ヘスケッチに出かけていた。国内有数の大河、江戸川の景色は美しく、古来から歌にも詠まれてきた。陽子は美術にも秀でていたが、この日は隣で本を読んでいた。
「軍艦!」
陽子の言葉に守は反応した。なるほど、全長70mクラスのコルベットが守と陽子が座っている土手の方に向かってきた。江戸川は幅が広く、汐城京の港にも繋がる為に、軍艦などが航行しているのは珍しくなかった。
「おーい、そこの君!!」
軍艦のマストにいる士官が大声で守に尋ねた。
「鍛冶屋か、修理屋はいるかね」
軍艦は汽笛をあげながら止まった。守は稲穂出身なので、知らないと答えた。
「そうかー。ありがとよ。お前達、上陸して使えそうな人を探してこい。」
マストから降りた士官は部下と共にカッターに乗り、土手に上陸した。
「こんにちは。」
守が挨拶すると、士官は敬礼を返した。
「よう。」
彼の部下が修理屋と鍛冶屋を探している間、守と陽子は海軍士官と話した。目の前に停泊する軍艦は1870年に就役した装甲艦渚山という軍艦で、今は沿岸警備艦隊に編入されていたこと、彼はその渚山の副長であることなどを話してくれた。
「45年以上現役の大艦だから、おんぼろなのさ。汐城に向かう途中で機関の調子がまた狂いだしたんで、ここで停まったというわけだ。」
「タイカン?」
海軍は当時の少年にとってはヒーローのような存在であり守は海軍について詳しかったが、大艦という単語に関しては聞いた事が無かった。
「大艦ってのはな、渚山のように艦歴が長く、多くの戦いで活躍した軍艦に与えられる位の事だ。」
ちょうどその時、同じくカッターで年老いた海軍将校が上陸してきた。守は雰囲気から、彼が渚山の艦長とすぐに察した。
「出雲君、機関科が頑張ってくれて何とか汐城まで保ちそうだ。彼らが戻ってくるまで、休憩とする。」
「はっ。」
「ところで出雲君、このお二人さんは?」
艦長は不思議な顔をして二人を見つめた。出雲と呼ばれた海軍士官は、二人は稲穂に住む中学生だそうです、と説明すると微笑み、自己紹介した。
「私も稲穂出身なんだよ。柿本市だがね。自己紹介しよう。私は冬山芳樹、海軍中佐だ。今年で60歳になる、退役間近の海軍軍人というわけだ。」
守と陽子も自己紹介する。
「僕は稲穂の工藤守です。こっちは雪日……」
「朝廷の臣下にして漢室と経西亜王室の末裔、雪日院忠月公が長女、雪日院陽子です。」
冬山艦長は目の前にいるのが貴族家とは思わなかったようで、驚いていた。
「雰囲気からしてただのお嬢さんではないとは思っていたが、名門貴族家の方だったとは。もし良ければ、艦内を案内しましょうか。ライスカレーを御馳走しますよ。」
艦長のお誘いに陽子は少々困惑したが、守が「せっかくだから」と言ったので、渚山に乗艦した。
「艦長、旧式艦といえども一応軍艦です。内部を公開するのは不味くありませんか。」
副長の出雲が心配したが、
「おんぼろ艦の機密を晒したところで、我が海軍に大きな損失は無かろうて。」
と気にすることは無かった。渚山は元々帆走兼蒸気機関だったが、近代化改装の折に蒸気機関のみとなり、同型艦の主砲が20cm単装砲の中、渚山は25cm砲という前弩級にも勝るとも劣らない大砲を搭載していた。これは旗艦として運用する艦は通信機能及び装備を強化するという神聖大和公国海軍の伝統であり、これは大龍帝国海軍にも受け継がれている。戦艦赤城はその良い例で、同型艦の天城、高尾とは異なり、艦隊通信システムや50口径40cm砲等を装備していた。(天城高尾は45口径)
渚山は全長70mという小型艦であるが、いざ乗艦してみればそれは広く感じた。小さく、旧式でおんぼろ艦であったものの、守は海に浮かぶ城だと思った。
「かっこいいですね。」
守がそう言うと艦長は微笑んだ。出雲によって艦内を案内され、通信室、艦長室、調理室を紹介された。
「いいんですか?本当に僕達にこんなの見せちゃって。」
守が尋ねると、
「艦長が良いと言ったしな。大丈夫だろ。」
出雲はそう返したが、少し歩いて立ち止まった。
「ここは見せられんがな。」
指さした方向には「舟霊安置室」と書かれた部屋だった。扉には銀行の金庫かと思われるくらいの鍵が掛かっている。
「フナダマ?」
「いわば、舟の精霊だ。艦を動かす時には舟霊をこの部屋の中にある棺に入れるんだ。云わば一体化というやつだ。」
「舟霊はどんな形をしているんですか?」
陽子が尋ねる。
「舟霊は女性の姿をしている。中にはお前さんみたいな中学生の姿をした奴も。」
「何で女性なんですか?」
陽子が更に問う。出雲は何だっけなと暫く考えていたが、思い出して話した。
「伝説の話になるが五千年前、天下一の造船工がいた。だがそいつは醜男で、女性に愛される事は無かったらしい。ある日、神々が彼のもとに訪れ、天界へ渡る為の舟を造ってほしいと依頼した。男はそれに応じて見事な舟を造った。そしたら、神々は喜び、御礼の印と言って彼に能力を与えた。それが、舟に霊を宿らせる能力だ。彼は自分が造った舟に霊を宿らせ女の形にし、妻として愛し、その一族は能力を受け継ぎ、今でも舟に霊を与えているんだ。」
「でも男ばかりで軍艦という閉鎖された空間の中だと、いくら精霊でも女の形をしていれば、色々ありそうですね。」
守は冗談のつもりで言ったのだが、後にいた艦長は嘆くように呟いた。
「誠に。彼女達は精霊なのにのぅ。」
その後二人は士官室に案内されライスカレーを食した。ライスカレーは各艦によって味が異なり、渚山は海軍の中で最も甘いカレーと云われていた。甘口のカレーというより、マイルドなカレーに砂糖を大量に混ぜているようなものなのである。口の中に入れた途端、スパイスの香りというより甘さが口を占領し、その不味さに二人は閉口した。
「渚山のカレーは海軍一美味くての。このマイルドさが特徴じゃ」
美味そうに食す艦長に申し訳ないので、相槌を打ちながら笑顔で食べようとするが、陽子は顔が引きつっている。
「どうだ、不味いだろ」
出雲が守に囁く。不味いです、と守も小声で返した。
「そうだろう。俺もこの不味さには正直参ってるが、艦長が美味い美味い言うもんで誰も何も言わないんだ。でも艦長……おやっさんは凄いんだぜ。」
「凄い?」
「おやっさんは海軍大学も国防学校も出ていないんだ。元々漁師の息子さんで、海軍の給仕係として働き始めてから、ここまで出世した叩き上げなんだ。いいか、給仕係から海軍中佐だぞ。もし学校を出ていたら、今頃海軍大将は当たり前だったろう。最も俺も、叩き上げで海軍大尉だがな。」
「何をヒソヒソ話しているのかね?」
ライスカレーを食し終えた艦長はヒソヒソと何かを話している事に気づいたようで、出雲は焦って答えた。
「艦長の偉大さを話していたところであります。」
「ふむ、そうかね。それにしても守君とやら、君は海軍に入隊するつもりはないかね?」
「僕がですか!?」
驚くのは無理もない。体育の成績は良いとしても、軍隊の教育など体育とは比べ物にならない程厳しいだろうし、画家を志している自分が軍人など進路が180度変わっている。顔つきも軍人には遠く、入隊してもイジメられるのがオチだろう。そんな自分が何故、と聞いた。
「これは私の勘……と言ったほうが良いだろう。直感で感じたのだ。この少年、海軍軍人となれば、大艦隊を率いて大業を成せる名将になれると。」
守は阿呆らしいと感じた。直感など当てにならないというのが守の考えだったが、艦長の目は真面目だった。出雲も頷く。
「守、おやっさんの勘はよく的中すんだ。外れたことは一度もない。おやっさんは勘に頼ることは滅多にしねぇぞ。」
「でも……。」
「いいじゃん。守、画家なんて成れるのは少数よ。」
「陽子は黙ってろよ!」
画家になりたい、小学生の頃からの夢だった。軍人などありえない。聖域大戦はまだ終わっておらず、軍人となれば戦いに出て戦死する可能性もある。嫌だ、軍人にはならない。守はそう考えていた。
「俺は、画家になりたいんです。だから、軍人にはなりません。それに軍人というのは愛国心に溢れる勇士が成るべきで、俺みたいな人間が軍人になってはいけないと思います。」
守の言葉に艦長は頷き、なりたい夢があるなら、それは仕方ないと言ってくれた。しかし出雲はこう言った。
「たしかにお前の言っている事は一理あるけどな、皆元から軍人を志していたわけじゃないぜ。俺だって元々、農家を継ぐつもりだったんだからな。」
出雲は元々農家出身の人間だったが、家は非常に貧しく、幼い妹と弟は学校に行けないほどだった。出雲は中学校を卒業後、海軍出て働くことを決め、その給料を家族に仕送りしているのであった。
「俺が働けば、妹も弟も学校に通える……。だから海軍にいるんだ。死ぬかもしれないが、その分給料は良いしな。」
この時代、公務員(軍人は非常国家公務員)の中でも給与が良かったのは軍人だった。中卒や高卒でも大卒の平均給与を超える事も多く、更に海軍に入ればタダで美食にありつけるというので、軍人の人気は高かった。
「ちなみに、光太郎は国防学校を受験するらしいわよ。」
「国防学校?聞いた事はあるけど。」
「海外でいう士官学校で、4年制の学校よ。将校を教育する為の学校で、勉強が出来る上に御給料までいただけるの。ただ倍率が高くて、偏差値は高いけども。」
勉強が出来る上に金まで貰えるのかと、守は驚いた。それに、卒業すればエリートコースなのだから、戦場に出ることを除けば人生安泰だ。亡くなった母、病気の父に代わって一生懸命働いて家事をもこなす姉。心配して声をかけても、平気だからあんたは自分のやりたい事をおやりなさいと言っている姉に、いつも胸を痛めていた。画家になりたいと言うのは、自分の描いた絵が後世まで評価されたいという欲と、家族を養ってあげたいというシンプルなものだった。画家など皆成れるものではない。それを考えれば、国防学校に進学するべきなのかもしれない。
「……考えてみます。」
守はそう返し、艦長と出雲は優しく頷いた。ちょうどその時に機関の修理が終わったので、守と陽子は帰された。
「ま、お前の人生だ。自分が進みたい道を進め。短え間だったが、またいつか。」
「出雲大尉こそ、ありがとうございます。艦長にも宜しくとお伝えください。あと、名前をお聞きしていいですか?」
「おう。俺は出雲信二。出雲信二だ。工藤守、覚えておくぞ。」
渚山はボォーッと汽笛を鳴らすと、鐘を鳴らしつつ汐城に向かって進み始めた。守と陽子は渚山が見えなくなるまで見送った。出雲信二、この男は後に大龍帝国海軍最強と云われた第2艦隊の司令長官として工藤と共に戦う事になるのであるが、それはまだ先の話。猛将出雲提督はこの時オンボロ艦の副長である大尉であり、大提督として歴史に名を残す工藤守は、中学三年生であった。
守は次の週に、幼馴染の光太郎と汐城軍港に行った。国防学校への進学を考えているというので、光太郎が連れて行ってくれたのだ。軍港には今年就役したばかりの最新鋭戦艦、三笠と同型艦が入港していた。
「あれが戦艦三笠か。連合艦隊旗艦なんだろ。」
光太郎は頷き、
「守、これが海軍だよ。東洋一の大海軍だ。」
軍楽隊による華やかな演奏、入港する戦艦、敬礼する水兵達、国旗を振って歓迎する国民。守はこの壮大な景色に感動した。
「あぁ。これが海軍だ。俺達の海軍だ。」
守は心の中で呟いたが、口にも出したかもしれない。この後、守と光太郎は国防学校へ入学し、陽子は御茶ノ水高校に進学した。守は85年間という膨大な年数を、海軍と共に生きることになる。