第一回:ブルア政権、横暴を極める
かの5000年続く帝国、漢の皇帝は激怒した。隣国の龍(大龍帝国)の国書が無礼だったからである。
「ええい、使者よ、これは如何なる了見か!小国のくせに我が帝国を属国とするか!!」
皇帝の激怒は至極真っ当である。何故ならば、龍から届いた国書には、漢領に眠る膨大な資源を、龍を中心とした国際連盟が一時的に管理することを認めるように書いてあるからだ。
赤茶色のスーツと制帽に身を包み、口髭を生やした使者と呼ばれた男性は、皇帝に対して深々と頭を下げ、にこりと微笑むと、
「貴国を属国にしようとは露程にも思っておりません、陛下。しかし大戦が長引く中、貴国の力が必要なのであります。解放同盟に屈することは、陛下も嫌なはず。」
「ならば!資源の管理権を全て譲ることはないだろう!!!」
「陛下、もう一度申し上げます。この条約に何卒サインを。我が内閣総理大臣徳田は、陛下の好意的な返事を楽しみにしております。」
龍はかつての小国ではあるものの、今では国連の中心となり、漢を超える超大国となっていた。龍に逆らうとどうなるか、それは皇帝でも簡単に理解できた。
「……わかった。サインしよう。徳田は嫌いだが、龍の帝には宜しくと伝えてくれ。」
皇帝は条約にサインすると、それを臣下に渡し、その臣下が使者に渡した。使者は再び深々と頭を下げ、国を代表して礼を述べた。漢皇帝と臣下はこれで忌々しい使者の顔を見ないで済むと思い安堵したが、それも束の間。使者は声を強くし言い放った。
「それともう一つ、我が国は大龍帝国であります。更に一万年の歴史を誇る我が国を小国とお呼びになった事を、帝国は強く非難致します。」
言い終えると使者は幾人の部下と共に、宮殿を後にした。
「長門大臣、あれは流石に無礼だったのではありませんか?」
車の中で秘書が尋ねる。
「ああやって強く言わなければ、条約に調印は出来ませんでした。しかし、軍の進出で脅さずに済んだので、まぁ上出来といったところでしょう。ところで、僕は昼食を屋台で済ませたいので、そこまで走らせてくれるかな。」
使者、もとい大龍帝国外務大臣はそう言い終えると目を瞑り、スヤスヤと眠りだした。
彼の名を、長門和光という。大龍帝国外務大臣として、様々な国家に不平等条約に近い条約を結ばせたことから鬼外務卿、徳田の犬と揶揄され、大戦終結のためならどんな手段も選ばないような人物だったが、それ故に大戦終結の貢献者ともいわれた。しかし、実際の本人は謙虚で礼儀正しく、国内では最も人気のある政治家だった。誰もが次期内閣総理大臣にと勧めたが、本人は飽くまで外務大臣として大龍帝国徳田政権を支えようとした。他国に不平等条約を強いる一方で、野心家には程遠く、謙虚で誠実な臣下、家族には良き父として、あるいは良き友人として生きた、彼の生涯に筆者は興味は興味を持ち、調べ、この物語の主人公として選ぶことにした。
時は戦乱の世。資源豊かな大陸「聖域」を巡って各国間で大戦が勃発すると、戦火は各国に広がり、大戦は百年以上続いた。この世界中全ての国家が巻き込まれた大戦を、百年戦争という。この物語は、その激動の時代を生きた人々を描く。
長門和光は1907年、大和公国(現在の神聖龍国)首都汐城京の右上京に次男として生まれた。長門家は橘家の流れを汲む貴族家であり、かつて大龍王国時代では政治にも参加した一族であったが、ブルア貴族が台頭し、皇室を退け国号を神聖大和公国と変えると、長門家は帝とともに政治から去った。それから代々長門家は帝の信頼が厚く、かつブルア貴族政権との繋がりもあったことから朝廷と幕府のパイプ役を務めていた。
本来、和光は次男として生まれたので、家督は全て兄である和昭が引き継ぐはずだった。しかし、和昭は5歳にして亡くなり、弟である和光が長門家の棟梁となる事が決まったのである。この時3歳であった。和光は容姿端麗な美男子にして博学才穎、性格は穏やかで、それ故に人望があった。小学校の頃、彼と同級生だったという色麻智和氏は、齢90を超えながら、和光の事をよく覚えているという。
「私は勉強が出来ず、運動も下手でしたが、長門君は運動も体育も常に優れていました。それでいて性格が良かったので、憧れたものです。勉強も教えてくれました。彼から教わった難しい漢字は今でも覚えています。」
色麻氏は中学まで同じだったが、中学でも和光は秀才だった。全国学力調査では常に全国トップを保ち、学校生活では生徒会長も務めた。そして秀才は、選ばれた者でしか入学できない最難関校、国立汐城高校に入学するのである。
国立汐城高等学校は、偏差値78を誇るエリート校である。1421年に、汐城大学の附属校として開校し、1810年に大学から分離した。しかし、生徒の半分以上が世界トップレベルの汐城大学に入学している辺り、事実上の附属校と言ってもいいかもしれない。
汐城高校に入学した和光だが、落ちぶれることはなく、全国トップの学力を保ち続けた。
大手企業平野重工の元会長、秋山治氏は長門和光の同級生である。
「私は故郷では一番頭が良く、それを誇っていましたが、高校は全然違いました。落ちぶれてしまって。でもそれ以上に、長門君との出会いは衝撃的でした。非の打ち所がない。優しい瞳で見つめられれば、誰もが怒ることも忘れました。」
この様に周囲からは完璧な人物と思われていた和光だが、本人は自分をそうは思っていなかった。
「僕はこのまま大人になって、公爵を継ぎ、腐敗したブルア貴族政権と凋落の一途を辿る朝廷のパイプ役として生涯を捧げなくてはいけないのだろうか」
漠然とした、将来への不安が彼を覆っていた。秋山氏は貧しい家の出だったこともあり、貴族として一生贅沢に過ごせるのに、何故それを悩むのかと苛立った。
「君は幸せ者だ。名家に生まれて一生贅沢に過ごせる。更に君は公国一の秀才で、イイヤツだ。下手なことしない限り、一生安泰だろうよ。」
そう言われた和光は、少し苦笑しながら、確かにそうだね、と答えた。また、
「せっかくだから世界標準語を生かして、世界中旅してみるのも良いかもしれないな」
とも言った。
世界標準語はブルア語のことで、ブルア帝国が世界を統一し、国際連盟を設立した1600年にブルア語が世界標準語となった。ブルア帝国が崩壊した現代においても、それは使われている。秋山氏はそんな事を言う和光に若干呆れながらも、彼と良く行動を共にした。
1924年のある日の事である。高校2年生の秋山氏と和光は共に銀座に遊びに行った。銀座は汐城京の中でもオフィスやデパートといったビルが並んでおり、西洋化された町である。
「あれは、なんだろう」
帰る途中で和光と秋山は集団を目にした。どうやら演説のようである。集会や演説は当時禁じられており、一昔前まで役人に見つかった場合、すぐに逮捕されるのが当たり前だったが、民主主義の自由ベルサイユ王国がそれを非難し、公国政府は緩めたが、通報されれば則解散であった。帰ろうと秋山は言った。面倒くさい事に関わりたくなかったからであり、和光も賛成し去ろうと思っていた。しかし、その場を離れなかった。演説している男性に、見覚えがあったからだ。まだ小学生だった頃、父と親しげに話していた弁護士がいた。汐城大を首席で卒業し、弁護士として成功したと聞いていたが、その弁護士が演説しているようだった。
「我が国は、龍朝が治める大龍民族の国である。」
演説はこのように始まった。
「約500年前、朝廷はブルア移民を受け入れ、共存の道を選んだ。しかし今はどうだ?ブルアの台頭により朝廷は彼らに屈する事を選び、以後大龍民族の国は、ブルア人に支配されることとなったのだ。」
演説は30分続いた。彼の演説の内容は、誇りある祖国の歴史を振り替えつつ、そこに巧妙にブルア人の批判を沢山織込んだものであった。
前にも述べたが、当時大龍帝国は神聖大和公国を名乗っていた。更にその前は大龍王国であった。(尚、正式な国号は龍である。)その大龍王国に1600年代、白い肌に青い瞳を持つ集団が使節団として訪れた。彼らの祖国をブルア帝国といい、当時世界の統一を進めようと世界各地に使節団を派遣していた。彼らは時の帝、洋受帝に謁見し、祖国ブルアとの国交樹立を求めた。洋受帝と朝廷の臣下達は快くそれに応じた。彼らが龍文化を学び、それを祖国に持ち帰りたいと言ったからであり、実際使節団は本を買い集め、様々な工芸品や文化を学ぼうとしており、学問に熱心な人間は信用できると朝廷が信じたからである。しかし、これはブルア使節団の狙いで、「急に支配しようとしては必ず反感を買われるであろう。まずは文化を学び親睦を深め、先住民に慕われるよう努力せよ。何十年かかっても良いから、先住民が気づかない内に、政権を乗っ取るべし。」という命令を忠実に実行しただけであった。1500年代になると、ブルア使節団の子孫は貴族となり、大龍民族と血を交わなかった為に、未だ純血を保っていた。大龍民族の貴族はやっと危機感を懐き、帝にブルア民族台頭の危険を訴えたが、遅かった。ブルア貴族は政治の要職につき、「朝廷の保護」を名目としてブルア本国から軍隊の派遣を要請。大艦隊が大龍王国に訪れたが、これはブルア貴族に逆らうとどうなるか、と言う警告であった。ブルア貴族は更に移民の受け入れも開始。帝はブルア貴族によって即位したため逆らえず、政権の全てをブルア貴族に譲り、自身と大龍貴族達は政治から退いた。ブルア貴族は帝制の廃止はしなかったものの、国号を神聖大和公国に変更した。大和とは、皇室の先祖が太古に栄えた民族、大和民族であることから由来する。こうして、ブルア民族が政治を行うようになったのだが、大龍民族が反発する事はあまり無かった。何故なら、大龍民族の殆どは庶民で、お上が変わったとしても、飯さえ食えればそれで良い、と言う感覚だったからだ。ブルア貴族も西洋化を進めつつも、大龍王国時代の文化や遺産を尊重し、保護したために大きな不満は起こらず、400年近く体制を維持してきたのである。
しかし、その体制も終わりが見えてきた。1850年、後の世に云う百年戦争が勃発した。前述したが、資源豊かな大陸「聖域」の進出派と、大和公国を含む保護派が戦争を起こしたのである。戦争は泥沼化し、数年間の停戦があったものの、終わることは無かった。1909年、アドルフ・メッケル公が内閣総理大臣に就任したのだが、彼は軍備増強、植民地拡大を名目に本国を始め植民地に重税をかけ始めた。しかし、あろうことかその税金は、ブルア貴族の豪遊に使われた。更に、メッケル政権は百年戦争において20年間の停戦条約を敵陣営、解放同盟と締結したが、この時メッケル政権は解放同盟に対して、停戦条約を受け入れた事に感謝し、莫大な金を献上するなど、道理に外れた行為を何回も犯した。ブルア貴族の腐敗は明らかに進んでおり、賄賂の横行は当然、ブルア貴族の殆どはただ毎日を遊ぶだけで、政治に真面目に取り組もうとはしなかった。危機感を感じた一部のブルア貴族はメッケル政権に訴えたが、聞き届けられず、処罰を受けさせられた。大龍貴族の一部もこのように腐敗が進んでおり、公国の終焉は誰から見ても明らかであった。
だからこそ、今こそブルア体制を打ち砕き、大龍民族と帝による大龍王国時代を取り戻そうと、演説者は訴えているのである。秋山は思わず、彼の言ってる事は正しいかも、と呟いた。和光もそう思った。その時である。
「演説をやめぃ、演説をやめぃ!!」
馬に乗った憲兵等が2、30人ほど駆けつけてきた。
「畏れ多くも、帝に代わって政治をされておられるブルア貴族の悪口をたたくとは何事か!解散せよ!解散せよ!!」
演説者は車に乗り込み、群衆達も我先にと散っていき、広場には長門と秋山と憲兵以外誰もいなくなった。
「貴様等、汐城高校生か。将来が有望な貴様等がこんな下衆の集会に集まるでない。それに、高校生が政治の集会に参加することが禁止されてるのは、知っているはずだ。」
憲兵等は二人を囲み、威圧した。秋山は謝ろうと思った。学校に報告され、退学を命じられたらたまったものじゃないと思った。しかし、和光は憲兵に腕を掴まれると、それを勢いよく払い、強く言った。
「我こそは朝廷の臣下にして古くは尚武帝の末裔、橘家の流れを汲む長門院の和正の次男、和光であるぞ。下衆はどちらだ。私に気安く触ろうと思うな。」
憲兵等はそれを聞くと驚き、平伏した。
「なんと。あの長門家の……!いやはや、大変失敬致しました。お許しください。」
「私の隣にいるのは秋山という友人だ。両親は無位無官であるが、手出しは許さんぞ。」
「はっ。まさかここに朝廷の臣下の世継ぎがおられましたとは……御無礼を何卒お許し下さいませ。どうか道中お気をつけて帰られますよう。」
秋山はホッとし、和光に感謝した。これで何事も無く帰れると。しかし、後ろで声がした。
「待てよ」
憲兵ではない、陸軍士官の軍服を着た青年が憲兵の後ろにいた。
「貴様、何者だ?」
「どうだっていいだろ。それよりオメェら、こいつらを見逃すつもりか?」
目つきが鋭い青年は二人をジロジロと見ている。
「名門貴族家の世継ぎ様だ。無礼千万なるぞ。」
「こいつが名門だかどうか知らねぇが……高校生のガキが政治の集会に参加するのはいけないんだろ?そこに例外も何もねぇよ。それに、本当にこいつは長門家のガキなのか?」
和光はドキッとした。確かにその通りである。間違いは間違いの通りであり、どうしようも出来ない。
「あ……ごめんなさい……。」
和光はポロッと、言ってしまった。この場を逃れたいからでなく、純粋に自分を恥じたからである。青年は暫く黙っていたが、俺は憲兵じゃねぇから、何も出来ない。後は憲兵に任せるとだけ言うと、去っていった。憲兵等は顔を合わせ、しばらく談義した。うち定年に近い憲兵の一人が、二人に言った。
「君達は集会の人に、無理矢理連れてこられたという事にするよ。学校にも報告するけど、退学はさせないよう言っておくから。二度とこんな事をしてはいけないよ。一応家まで送るよ。」
二人は老憲兵と共に帰り、和光は家まで送られた。
「如何にも我が息子和光である。」
門では両親が心配して待っており、自分の息子であることを老憲兵に言い、老憲兵は部下の無礼を詫びて帰っていった。和光の父親、長門和正は普段は穏やかな人物であったが、この時ばかりは、声を荒げ息子を叱った。
「禁止されている政治の集会に参加しておきながら、憲兵等に対して長門家の名前を使うとは何事か!長門の名は言い逃れのためにある訳ではないぞ!!」
父親にそう叱られ、秋山と共に1週間の停学を学校から申し渡された和光は、1日で課題を全て終わらせると、本を探しに行った。ブルア体制を批判する内容の本は、発行発売が禁止されていたが、古本屋や闇市といったところでは、監視の目が届いていなかったのか普通に売られていた。和光はある本を見つけた。「ドラゴニズム」というタイトルの厚い本である。ドラゴニズムという単語に、和光は覚えがあった。この前の集会で、演説者が、ブルア体制の批判と共に、ドラゴニズムという単語を多用していた事を思い出した。ドラゴニズムというのは、恐らく集会に参加していた人達なら誰でも知っている単語なのだろうが、初めての和光がいきなり理解できるわけが無かった。著者は伊藤義正という弁護士で、和光は、あの演説者はこの人物だと確信した。迷わず古本屋の主人に値段を聞き、財布を取り出した。古本屋の主人は中年の男性で、少し小太り気味の主人は和光を見ると驚いた顔をして、「君はドラゴニストかね」と聞いた。和光はその意味を知らないが、興味があると主人に伝えると、主人は椅子を置くから運んできて、座るよう勧めてきた。
「ドラゴニズムの意味を知らないなら、伊藤義正先生も知らないだろう。もし良ければ教えることもできるが。」
「本当ですか?お願いします。」
主人曰く、伊藤義正は、1865年に稲穂県に生まれた。家は代々法律家の家であり、伊藤義正は進学校の県立稲穂高校に進学し、汐城大学法学部を首席で卒業すると、司法試験を受けて弁護士となった。有名な法律家の一族だったので、貴族との繋がりもあった。彼が和光の父と親しく話していたのも、それ故であろう。貴族御用達の弁護士として活躍していた彼だったが、ある事件をきっかけに、生き方を疑問視するようになった。ブルア貴族のノリントン公爵の嫡男が、馬車で大龍民族の農民を轢き殺してしまった事件が起きた。ノリントン公嫡男は過失致死罪、轢き逃げの罪に問われるところだったが、父親のノリントン公は裁判長、検事、そして弁護士の伊藤を買収したのである。伊藤は断ろうとしたが、貴族と平民の裁判ではこのように不正が横行しているのが常となっているのが現状で、抗議したところで無駄だった。この日から、伊藤は今の体制に疑問を感じるようになった。ブルア貴族は決して、自分達の言語や文化を押し付けず、寧ろ文化を尊重し、大龍民族とブルア民族は共存に成功したと云うが、それはあくまでブルア貴族側が言っていることであり、良く考えてみれば、彼らは朝廷の権力を奪い、帝を蔑ろにし、裁判ではこのように民族の違いによって不正が行われている。賄賂の横行は常となり、違法なのに誰も気にしようとはしていない。大龍民族は、見えないところで差別されており、国の腐敗においては、誰もがそれを当たり前と感じているから誰も気付かない。これは非常に危険だと伊藤は感じた。彼は、ブルア貴族から大龍民族の世の中を取り戻し、朝廷を再興させ、帝の名の下に、新しく、強固な国造りをしようと考えた。そして、彼は己の思想をまとめた、ドラゴニズムを発表したのであった。ドラゴニズムは、大龍民族第一主義ともいわれている。この国の民の殆どは大龍民族であり、この時期ブルア体制への不満が徐々に高まりつつあった。そのために多くの人々からドラゴニズムは受け入れられ、書店の主人もつい最近ドラゴニズムを知ったのである。
「それにしても、ご主人は、どこでドラゴニズムを知ったのですか?集会は禁止されていて、見つかったら解散させられます。本も出版禁止になってしまうのです。どうやってドラゴニズムを広めているのでしょう?」
「そこが君の若いところだね。公共の場で、政府を批判したら勿論駄目だ。しかし、どうだろう?自分の部屋、プライベートな場所でも批判はしてはいけないのか?」
「自由ベルサイユ王国は、我が国に対し、言論弾圧を厳しく非難しました。そのために政府は、プライベートな場所では黙認する処置をとっていますね。」
「そのとおり!そこだよ。伊藤先生は、大きな家を持つ同志の邸宅で、集会などを開くのだ。公共の場所ではいけない、ならば、私有の土地ですればいいのだ。そうすれば役人たちも、睨むことはできても、解散させることはできない。」
「なるほど……!」
「そして、時たまに公共の場で集会をする。すぐに解散させられるが、収穫は大きいのだ。君のように、関心を持つ人が現れ、新たなドラゴニストを獲得できる。」
和光は心の底から感心した。本当にこの運動はこの国を変えるかもしれない、そう思った。和光のぼんやりとした将来への不安が、変わろうとしていた。
「僕、実は集会に参加してみたいのですが。」
和光は、主人にそう言った。停学処分になってから、2日のことであった。
伊藤義正の集会は、稲穂県の藤花町にて開催された。汐城京から、汽車で一時間ほどの場所にある。なんと開催地は名門貴族家、雪日院家邸であった。雪日院家は、ペルニシア王家と、漢の皇帝、晋の国王の流れを汲む亡命王家であり、今では貴族として朝廷に仕えていた。長門家より上位の名門だが、代々質素を貫き、食事は農家並に質素。それ故にブルア体制に対して批判的で、だから自分の邸宅で集会を開くことを許可したのである。この時の棟梁は、雪日院忠興が息子、雪日院忠月であった。彼は和光の父と同い年である。3年前、和光は長女雪日院陽子の結婚式に参加していた。相手は工藤守という幼馴染の海軍将校であり、海軍大学には進学せず、艦隊勤務をこなしていた。和光はその二人に会うという名目で集会に参加したのである。雪日院忠興は頑固ながら人情味溢れる人物で、二人が子供を生んだ際、せっかくだからと、近くにある別邸を改装してそこに住まわせた。家の広さは長門家屋敷よりは狭いが、豪邸というには十分であった。
「長門君、良く来られましたな。」
工藤海軍大尉は手をふって迎えてくれた。どちらかというと美男子に当たる彼は、和光を歓迎した。
「 陽子は今、雪日邸にいますよ。なんか集会開くそうで。それより、可愛いでしょ、俺の娘の里見です。今年で3歳になります。こっちは次女の……」
和光は暫く工藤と話をすると、集会を見に行きたいと言った。工藤は特に何も言わず、俺も見に行くかな、というと、子供二人を抱き、和光と外を出た。
雪日院邸は巨大な屋敷だが、そこが多くの民衆で埋まっていた。
「まさかここまで混んでるとはな」
工藤は人混みが好きではないようで、舌打ちをすると裏口から屋敷に入った。
「守!あなた何こんなところに子供連れてきてるの!?馬鹿じゃないの!?」
屋敷に入ると怒号が聞こえ、工藤の妻である陽子が階段から降りてきた。彼女は1900年に、この雪日院家長女として生まれた。絶世の美女とも知られながら、全国トップの学力を誇り、才色兼備を体現したかのような女性であった。高校は貴族やお金持ちが通う御茶ノ水高校に入学するが、飛び級で汐城大学工学部に進学。その後は大手兵器メーカー、平野重工業に就職。7歳下の和光は同じく全国トップの学力がありながらも、彼女には敵わないと思っていた。
「あら、長門君ではありませんか。慌ただしくて申し訳ありません。皆、ここまで集会が大規模なものとは思わなかったので。」
「いや、悪いな。長門君が行きたいと言ったから、せっかくなんで俺も行こうと思ったんだ。それにしてもこの人混みはすごいな。」
「でしょう?お父様も流石にこれは多すぎるって怒っていたところよ。」
「屋敷には人を入れないんだろ?なら別に大丈夫だろうよ。」
工藤夫婦がそう話している最中、外から拍手と歓声が聞こえてきた。使用人が伊藤先生の演説が始まりました、と伝えに来ると、和光は外に出た。壇上に以前見た男が立っている。正に伊藤義正であった。民衆が静まると、彼は両手を大きく広げ、威厳ある声で話し始めた。
「今日の集会に、これだけ多くのドラゴニストの同志諸君が駆けつけてくれた事に対して嬉しく思う。そして、今回会場を提供してくれた、雪日院家には心より感謝する他ない。雪日家は純粋大龍民族ではないが、何処かの朝廷を愚弄し権力を思いのままに操る民族より、ずっと大龍民族精神を持っている!」
そのとおりだ!と、民衆が叫ぶ。
「長きに渡る聖域大戦は未だ終結が見えない!本国及び植民地を守るために軍備を強化するための税金は、彼らの贅沢のために使われているのだ!諸君!私や君が懸命に働いて得た金を、彼らは横取りし、贅沢にふけっている!なのにブルア貴族は、我々をなんと呼んでいるか?下衆と呼んでいるのである!我々の金を横取りし、毎日遊び三昧、朝廷の意向を無視し、聖域戦争を泥沼化させ、ブルアの女共は淫らに男達と交わっている!どちらが下衆だ!?」
民衆の真ん中から、「ブルアの奴等だ!!」と叫んだ。
「そのとおり!ブルア貴族こそ下衆!今や朝廷の活動費でさえ横取りしようとしている奴らを許すわけにはいかない!諸君!我と共に立ち上がり、ブルア民族を粉砕しようではないか!そして、大龍民族と帝による国家を復興しよう!我と、我が戦線に加われ!!ジィー·ディー!
!」
『ジィーディー!ジィーディー!ジィーディー!』
伊藤と民衆達はジィーディーを連呼した。ジィーディーとは、大龍を世界標準語にしたGreat dragonを省略したGDのことである。この単語は、大龍帝国時代から現在にかけて、民族の結束を強めたいときに使われた。
興奮していたのだろう、和光は演説が終わると拍手を送り、隣にいる工藤に話しかけた。
「本当に凄いですね、もうすぐブルア貴族の世が終わり、僕達大龍民族の時代になると思うと、胸が踊ります。帝がブルア人討伐の詔を出せば、彼らは迷いなく立ち上がるでしょうね。」
しかし、工藤の反応は冷ややかなものだった。
「あの演説の内容、少し極端だ。今帝が詔を出してみろ、ブルアの恩恵を受けた者達と国軍、ドラゴニストとの間に戦いが起き、国は内戦状態になる。それで誰が得をすると思う?」
「え……。」
「解放同盟の奴らだよ。我が国が内戦をしている間、彼らは艦隊を派遣して聖域を奪おうとするだろう。植民地もそうだ。内戦を機会に独立しようとする。いいか、今の国が腐っているとしても、内戦が始まれば腐敗を早くするだけなんだよ。」
「………。」
和光は沈黙してしまった。彼の言うとおりである。
「和光君、君は朝廷の臣下の家柄だ。帝が無碍にされているのには耐えられないでしょう。……しかし、武力に訴えてはいけない。国内には平和を望む人達がいっぱいいるんだ。武力に訴えたら、彼らが巻き込まれてしまいます。」
「あ……。」
和光は自分の顔が赤く赤面していることに始めて気づいた。
「恥ずかしがるのは分かります。私は落ちこぼれの海軍士官、君は秀才だ。でも、君は若い。若いから、多少の過ちは仕方ないんですよ。」
工藤は微笑んで諭した。大龍帝国時代、大龍帝国第一主義という思想が流行った。伊藤の思想に近いもので、大龍帝国を中心に世界をまとめようという考えだった。その時、反対的意見を述べたのは、長門和光であった。何も我々は、世界の中心になる必要はない。世界中の国々と交流を交わし、文化を尊重しあえる、それが一番肝心なのだと、彼は言ったが、それはやはりこの時の経験から来ているのであろう。彼と工藤は、地位こそ違ったものの晩年まで交流は続いた。工藤は後に公国艦隊を再編成したばかりの大龍帝国海軍をまとめあげた海軍将校の一人で、連合艦隊司令長官として世界中の海を駆ける名将となるのだが、それはまだ先の話である。
ちなみにこの集会の一ヶ月後、公国政府は流石にドラゴ二ズムの危険性を感じ、再び集会を禁止した。発見されれば解散を命じられただけだったのに対し、逮捕、最悪の場合射殺と厳しくなった。1924年7月のことである。自由ベルサイユ王国はすぐに非難をしたが、公国が受け入れることはなかった。
翌年、1925年2月17日、急遽朝廷に衝撃が襲った。時の帝、仁霊帝が倒れたのである。和光の父親、和正は朝廷臣下のため内裏に向かった。
「帝、御容態芳しからず!」
「なんと、なんと……!帝がお倒れになったのか!御年58とはいえこんな時に……!」
「長門院、幕府(ここではブルア政権の事)はまたは無理難題を?」
「……実は青仁親王殿下を、帝の座につかせるべきとのことです……。」
「それは正気か!?」
「あな恐ろしや……!」
青仁親王は、紛れもない帝の子である。しかし、母親がブルア人であった。龍朝、もとい皇室は大龍民族、あるいは大和民族の末裔民族以外の女を帝に嫁がせることはなかった。それは皇室が伝説上の神の末裔、大和民族の子孫だからであり、その血に別の民族が交じることを何よりも恐れ、そのため帝も代々純血を保ってきた。しかしある年、ブルア政権首相メッケル公は、自分の娘を帝に嫁がせようとした。朝廷は猛反発したが、仁霊帝は大の女好きで、メッケル公の娘が美少女だったことにより、それを承諾した。彼女は青子と大和名を与えられ、深い寵愛を受け、皇子を生んだ。それが青仁親王である。
「しかし幕府め、帝はまだ御倒れになられただけだというのに、新しい帝を決めようとするとは何たる不忠……!」
藤原家の長、藤原忠道公は怨めしそうに言った。しかし、確かに帝に万が一の事があれば不味い、帝に次の帝を誰にするか聞かなくてはならないと和正は考えた。
「帝には、二人の皇子がおります。一人は光仁親王殿下、母親は純粋大龍民族ですが、身分は娼婦。もう一人は青仁親王殿下、ブルア公国の名門貴族の娘を母に持っておりますが、所詮西洋人、瞳は青、髪は金髪……。」
和正の言葉に対して朝廷臣下達は嘆いた。
「帝のお子嫌いには困ったものだ……。皇子は二人だけ、それも問題あり。どうしたものか……。」
「娼婦の子を帝には出来ぬ!!知らぬか、漢の帝に、娼婦を母に持つ者がいた!血が穢れておる故に、政治は混乱し、内乱が起きた!」
「では神聖たる血に穢れた血を混ぜよと?それこそ龍朝の崩壊を意味している!」
「では、帝の弟君であらせられる北宮親王殿下は如何でしょう?海軍将校として現在第1植民地に勤務しております。」
「たしかに……!あの方が帝になっていただくより、他に手はなかろう……。」
「いずれにせよ、次の帝を決めるには帝の御判断を仰がなくてはならぬ。」
朝廷の重臣達は帝の寝台に赴き、帝の判断を仰ぎに行った。
『龍朝臣下二十官、皇帝陛下に拝謁致します。』
一同は声を揃えて挨拶すると、寝台で体を休めていた帝は起き上がり、臣下達を驚かした。帝の顔が青白くやつれ、何というか、死相が出ているのである。つい先日までの帝とは全く別人のようであった。痰が詰まったような声で帝は何のようか、と不機嫌そうに言った。
「帝、ご容態芳しからずと聞き、参上致しました。おいたわしや…」
「藤原忠道公、一同揃って御見舞御苦労。しかし、それだけではないようだな。」
帝の言葉に対し和正は率直に申した。
「帝、幕府が、次の帝を青仁親王殿下にされるよう要求してきました。しかしそれでは、神聖たる血が穢れてしまいます。かといって、青仁親王殿下の兄君、光仁親王殿下は娼婦を母にもちます。これではいずれにせよ皇室の栄光の歴史に傷がつきます。」
「朕にどうしろと言うのか?」
「弟君であらせられる、北宮親王殿下を帝に指名して頂きたいのです。さすれば、皇室は安泰です。」
「……幕府は、朕の死を望んでおるというわけか。お前達も、彼等と同じく無能な帝を早く退き新しき有能な帝を立てたいのであろう?」
帝は自嘲的に言った。
「何を仰っしゃります!……たしかに帝は、お子嫌い、公務も嫌ってらっしゃる。しかし、我らの帝には変わりませぬ。私達は何があろうと帝のために忠義を貫きます。」
「……どうであれ、朕はまだ死ぬつもりはない。幕府に伝えよ。次の帝を決めるのは朕ゆえ、幕府は黙って政治をしていろとな。お前達も下がれ。朕は疲れておる。」
「かしこまりました。」
臣下達は内裏を去ると、溜息をついた。帝が北宮親王を帝に指名さえすれば、皇室は安泰であったのに帝はそれをしなかった。このため再びブルア政権は帝のことについて何か言ってくるだろう、そう思うと臣下達の気分は暗くなった。和正は馬車で首相官邸に赴き、メッケル公に報告した。
「メッケル首相閣下に拝謁致します。帝は幕府に対し、次の帝を決めるのは帝御自身ゆえ、助言は不要とのことです。」
「なるほど、帝はそう仰ったか。」
メッケル首相と呼ばれた丸眼鏡をかけた初老の男性は、机に座って執務を行っていた。
アドルフ·メッケル、これがメッケル首相の本名である。ブルア貴族の名門中の名門、メッケル家の嫡男として生まれ、今迄不自由なく暮らしてきた。しかし大層な野心家な事で有名で、自分の娘を帝に嫁がせようとするなど朝廷の反感を買っている事は先に述べたが、重税を課して植民地、本国国民を苦しませているのも彼であった。
「長門公、私は別に、青仁親王殿下を帝につかせ、朝廷を乗っ取ろうとしているわけではありせん。」
メッケルは和正に紅茶を出すと、そう言った。どうせ嘘だと感じながら、
「では何故殿下を帝に?」
と和正が聞くと、メッケルはこう答えた。
「私は肌の色、瞳の色が違おうと、貴方達大龍民族として生きて参りました。もし、青仁親王殿下が帝におなりあそばせば、我らブルア民族と大龍民族の絆は一層深まるかと。」
「なるほど。確かに両民族の絆が深まるのは大変良いこと。しかし、朝廷としては、一万年続く純血を守らねばなりません。ご理解の程を宜しくお願い致します。それにしても……沢山の書類ですね。首相閣下は毎日これほどの執務をこなしているのですか?」
「あぁ、今度また税を増やそうと思っているのです。植民地は独立戦争を仕掛けてきますし、今の税ではとても。」
和正は愕然とした。今は朝廷からも税を搾り取っているのである。あらゆるところから、いや、ブルア貴族を除く全てから税を取り立てているというのに、それでもまだ足りないのか?決まっている。ブルア貴族が税を横領して、私腹を肥やしているのだ。
「馬鹿な!本国を始め、植民地から税を取り立て、更には神社に寺、教会、そして我が朝廷からも税を取り立てているのに!?いくらなんでも酷すぎる!」
和正は大声で言ったが、メッケルは涼しい顔で、
「軍拡などは金がかかるのですよ。」
とだけ言うと、相変わらず書類にサインをしていた。
「……本当はどうなんです。ブルア貴族が横領しているのでしょう?」
「我々を疑うのですか?幕府は帝より大権を与えられ政治を行っています。その幕府を疑うは、帝への不敬でありますぞ。」
和正は何も言えず、そのまま邸宅に帰った。
「和光はいるか?」
妻に聞いたが、今夜は部活の合宿でいないということだった。湯槽に浸かりながら、和正は思った。
(朝廷は、もはやただの形骸。一万年続く皇室はこれからも存続するのだろうか……?いや、これもそれも、全ては我々臣下の力不足。和光は将来私の跡を継ぐだろう。すると、私の苦しみも息子に継がせてしまうのだろうか……?)
気づくと目から熱いものが込み上げてくるのを感じた。バシャバシャと湯を掬い顔を洗う。昔、自分は父の跡を継ぐとき、帝の権威を取り戻し、朝廷を盛り上げようと固く決心していた。そして、いつもやつれて帰ってくるくせに、何も出来ない自分の父親を見下していた。公爵を継ぐとき、父は憐れみ、若しくは同情の目で自分を見つめていた。恐らく、気の弱い父は私以上に苦しんでいたのだろう、和正はそれを理解した。
1925年3月4日、神聖大和公国海軍の新型主力戦艦、天城型巡洋戦艦は進水式を終え、艤装の最中であった。帝の弟君、北宮親王は視察でその造船所にいた。
「中々立派な戦艦となったな。完成ももうすぐかな。」
親王は目の前にある、まるで巨大ビルのような大きい軍艦を見上げながら、スーツを着た平野重工の社員に話しかけた。
「はい、殿下。目の前におりますのは、一番艦天城にござります。乗艦されますか?」
「うむ。進水式の時は乗りそこねたが、今回は乗ってみたい。」
「北宮親王殿下、大型装甲巡洋艦一番艦に乗艦す!」
甲板に出る階段を登りながら、親王は側近に自分が帝になるかもしれないという話をした。
「存じております、殿下。陛下の皇子はどれも帝に相応しくありません。殿下こそが、帝位に即くべきかと。」
「これ、そんな事を申すでない。……確かに皇子の御二方は、帝位には相応しくない血が流れているかもしれぬ。しかし、帝の血が流れている事は確か。光仁親王、青仁親王も、話してみれば実に心優しき方々であった。私は、どちらが帝でも大丈夫と思っている。」
「そうなりますと殿下、朝廷からの願いを断ったと言うことにござりますか?」
「その通りよ。」
親王は呆然とする側近の顔を見て、ふふっと笑みをこぼした。
「私は帝位につくより、海軍士官として戦場に命を捧げたい……。古文書にある、日本武尊のようにな。」
「殿下……。殿下がそう申されるなら、私は何も申しません。」
「そうか。」
その時である。騒ぎ声が聞こえた。朝廷が、どうだとか、帝がどうだとか叫びまわっている。
「何の騒ぎだ?」
側近が造船所の社員に聞いた。
「わ、わかりません!急に労働者が叫びはじめまして!」
下を覗いてみると、一人の中年と思わしき男性が、何か装置のような物と刃物を持って暴れている。警備員らが駆けつけ、囲んでいるが、あまりに暴れるもので捕まえられないようだ。
「国は腐敗している!!!」
男は叫んだ。
「聞け、同胞諸君!!朝廷の権威は地の底までに落ち、碧眼、金髪の異人共が横暴を振る舞っている!!」
「右翼か。」
側近の横にいる親王が、そう呟いた。側近は、この言葉が、北宮親王最後の言葉となる事も知らず、ただ相槌を打つだけだった。
「聞け!!この醜悪なる戦艦は、ブルアの下衆共が、我らの血税を搾り取って造っているもの!いわば悪政の象徴!!私は、この象徴を破壊し、革命を起こさん!!」
男が握っていたのは、起爆装置だった。途端、1番艦天城の4番砲塔が爆発した。衝撃により盤木は外れ、船台から天城は外れて地面に叩きつけられた。4番砲塔の近くにいた親王達は吹き飛ばされ、側近が目を覚ましたときには血の海であった。
体中が痛く、骨が何本も折れているか分からない状態で、側近は血まみれになりながら倒れている親王に向かって這いずった。
「でんか……っでんかっ……!」
親王の白い軍服は血に染まり、頭部からはおびただしい血が流れていた。即死であった。
「ああ、殿下……。」
側近は痛みを忘れ親王の死に涙した。
男は、天城を爆発させたあと、同型艦の赤城、高雄も爆発させようと試みたが、直後憲兵隊が突入し、問答無用で射殺された。この事件を、天城爆破テロという。天城の工事は遅れが生じ、多くの作業員が巻き込まれ、死人の中に皇族もいることが、本国のみならず、植民地、全世界に衝撃を与えた。事件はすぐに朝廷とブルア政府に伝えられ、帝の耳に届いた。
「陛下に拝謁致します。帝、昨日、工事中の軍艦天城がテロリストによって爆破されました。」
「さようか……。それがどうした。」
「お嘆きを抑え、お聞き下さりませ。事件当時、帝の弟君であらせられる北宮親王殿下が乗艦されており、殿下は……!」
「……なんだ。」
「爆発に巻き込まれ、御逝去あそばされました…!!」
どよっと辺りが騒ぎ、帝は暫く俯いたままだったが、やっと口を開き、
「幼少より、あやつは文武に優れ、決して驕らず、皇室の誉れであった……。帝なら、朕よりも、やつの方がずっと向いていたというに……。悲しいかな。悲しいかな。」
そう言うと、帝はぽろぽろと涙をこぼした。
「北宮親王殿下がいなくなってしまえば、次の帝は…!?」
「皇室の崩壊じゃ。」
朝廷臣下の一部がヒソヒソと次の帝をどうするか話し合っているのに腹をたてたのか、帝は病人とは思えぬほどの大声で怒鳴った。
「お前たちは朕の弟が死んだというに、悲しみもせず、ただ皇位継承者の一人が死んだという認識しかないのか!!そういうところじゃ!何が忠臣だ、お前たちも、ブルアの賊と変わらぬ!!」
「へ、陛下、申し訳ござりませぬ!どうかお許しください!私はただ朝廷の……」
「うるさい!!黙れ、黙れ!!自分の立場しか考えていない下衆が!!朕は、いや、俺は、もう皇室なんてどうでも良いのだ。こんな形だけの皇室なぞ!滅んで当然というに!!」
一同は静まり返った。帝の荒い息遣いだけが聞こえる。帝は寝台に戻り、横になると、長門院和正を呼んだ。
「和正、朕は次の帝を決めぬ。」
「帝、しかしそれでは………。」
「もう休ませてくれ。頼む。」
「……仰せのままに。ゆっくりお休みなさりませ。」
和正はそう言うと寝台から離れ、貴族達に言った。
「誰しも家族を失うは辛いであろう。帝もまた然り。今日だけは帝を静かにさせてあげようではないか。」
貴族達もそれに頷き、この日の朝議は閉朝した。
この物語を描くに至って、筆者は高校時代の和光の描写について大きく悩んだ。彼の友人は多いが、学生時代を知る友人は既に数少ない。秋山氏に再び話を伺おうとしたが、この物語の執筆中に倒れ、病院に入院しており、とても話を聞ける状況ではない。氏の健康が回復する事を切に祈る。しかし、この年に和光は高校3年生となり、彼の進学先である国立汐城大学法学部の難易度を考えれば、受験勉強に専念していたと推測できる。汐城大学は約2000年前、難波京から汐城京へ遷都した時に創設された学問所で、神道や仏教を学ぶ事を目的とした。鮮やかな赤色で塗装された和式建築であったが、現在ではブルア人によりレンガ造りの洋式建築になっている。学部は数多いがいずれも難関で、和光が進学した法学部は文系の方で一番最難関の学部であった。浪人する者も多いが、和光はそこを現役で受かっている。
1926年、和光は汐城大学の学生として毎日を過ごしていた。秋山氏も汐城大の商学部に入学し、休日は良く共に遊んだという。大学のキャンパス内には緑豊かな公園があり、和光はそこでベンチに座り、読書を楽しんでいた。ふと秋山と女子の笑い声が聞こえたので、顔を上げると、秋山が長門に向かって走ってきた。
「こんなところで読書か?暑いだろ。」
「それほど。彼女は?」
「俺の彼女だよ。同じ学部で。頭も良いんだ。」
「はじめまして、西といいます。」
秋山に続いて、彼女も和光のいるベンチまで来て名乗った。
「僕は長門和光です。あの、西さんって、もしかして朝廷臣下の西家?」
「あ、いや、庶民です。祖先は確かに豪族だったらしいんですけど。」
彼女は恥ずかしそうに笑った。慌てて秋山が、
「お前いきなり貴族かどうか聞くなんて失礼だろ。西さんは凄く頭が良いんだ。お前には劣るかもしれんが……。」
「あぁ、確かに失礼だったかもなぁ……。ごめんね、西さん。でも凄いよ。」
三人は暫く世間話をして楽しんでいたが、西は家の手伝いをしなければいけないと言って帰っていった。
「お前彼女作らないのか?」
秋山の突然の問に和光は飲んでいた麦茶を吹き出した。
「ゲホッ、なんだい、とつぜん!」
「羨ましいだろ?」
「どうでもいい。」
「あんな事やこんな事まで出来るぞ。」
「興味ない!」
和光は思わず大きい声でそう言ったため、辺りから変な目で見られた。
「お前、本当に女に興味ないのか?ただ話せないんじゃなくて?」
「普通に女子の友達はいるよ!昨日だって妹とトランプをした!」
「……。」
「……なにその目は。」
「変わってるなと。」
和光は別に女子が嫌いというわけではない。
恋愛が馬鹿馬鹿しいとは思わず、寧ろ羨ましいと思う普通の学生であった。ただ女子に対して恋愛感情を持ったことはなく、いずれ好きでもない女性とお見合い結婚するのだろうと思っていた。そしてその予想は当たった。和光はこの一週間後、お見合をさせられた。相手は藤原忠道卿の妹であり、19歳の女性だった。
「はっはっは。忠道卿、愚息にこのような美しい女子をありがとうございます。勿体無いくらいですよ。」
「いえいえ、和光君は秀才として有名。妹を彼に差し上げられたらこちらとしても幸いにござります。」
お見合いと言っても、二人を囲み、藤原家と長門家の食事会のようなものだった。和光は隣に座っているお見合い相手の名前を忘れてしまっていた。何を話せば良いかも分からないから、ただ黙って座っている。
「いやー、しかし懐かしいものですな。私も昔このようにお見合いしたものですよ。」
「そういえば、雪日家の御令嬢は一介の海軍軍人に嫁いだとか。海軍省勤務ならともかく、艦隊勤務の将校に嫁ぐとは……。よく認められましたな。」
「あそこの女子が強いのもありますが、どうやら嫁ぎ先の将校が、工廠藤原家の直系子孫のようで……。」
「あのブルア民族の移民に強く反対したために都を追放された一族ですか?」
「ええ。雪日家も元は亡命してきた王家。元は本国に送り返されるところを工廠藤原家が保護したので、いわば命の恩人というわけですな。雪日家は一族を挙げて工廠藤原家の再興を願い出る予定とか。」
「ブルア幕府が反対するから無理でしょうなぁ……。」
周りが今の政権の話だとか、雑談を交わす中で和光と見合い先の女性は黙ったままであった。忠道卿は酒に酔い、
「私の千代は天下一品の美女だ、お召し上がれ!!」
と大声で叫んだので、ここでようやく和光は彼女の名前が千代と思い出した。しかしどう話しかければ良いかも分からないので、
「千代殿の兄上は酔ってらっしゃる。」
と一言言った。千代は緊張が解けたのか苦笑し、
「兄上はそういうところがありますので。」
と返した。これが二人の最初の会話であった。このあと忠道卿は酒乱状態で暴れまわり、家臣の者に抱えられて千代と共に長門邸を後にした。結局千代は和光の許嫁となったが、和光は学業を優先するために結婚は見送られた。
翌年の1927年、和光は4年ぶりにドラゴニズムの集会に参加した。初めて見たときのような胸の高鳴りはなかったが、驚きの再開を果たした。初めて集会を見た時、憲兵に捕まった折に現れた陸軍将校を再び見たのである。軍服は着ていないが、鋭い目つきですぐに分かった。彼は気づいていなかったが、和光は何故陸軍軍人がこんな所にいるのか不思議に思い、話しかけた。
「あの。」
「……。」
「あのー。」
「……俺か?誰だお前は。」
「4年前、汐城の銀座で、集会を見てた高校生です。憲兵に捕まって解放されそうだったところ、貴方が現れた。」
「知らねぇな。覚えてるわけ無かろうが。」
「で、でも僕は知ってます。貴方が陸軍士官であることを。」
そう言った途端、目つきの鋭い彼は和光を力強く掴み、壁に叩きつけた。
「あぁ……。その通りだ。何故それを知っている?」
「いや、その。」
「名乗れ。」
「朝廷臣下の長門和正公爵が嫡男、長門和光です……。」
「長門……?覚えてるわけがねぇだろ。」
「ちょっと、何してるの!ハジメさん!」
胸ぐらを掴まれ今にも殴られそうな瞬間、一人の女性がそれを止めた。
「めんどくせぇ奴が来たな……。」
「ハジメさん、この人が何をしたというんです?そうやってすぐに手を出すのはもう止めて!」
ハジメと呼ばれた彼は舌打ちをするとどこかへ行ってしまった。女性はため息をつき、和光に言った。
「ここは騒がしいですし、喫茶店に行きませんか?」
すぐ近くの喫茶店に入ると、彼女は目の鋭い青年に代わって詫びた。
「ごめんなさい。元々ああいう人なんです。……あっ、私の名前、徳田薫って言います。でも良かった。朝廷に仕える家の跡継ぎが殴られたとなれば、洒落ですみませんからね。」
「はは……。その……あの人は一体どういう人なんです?」
「鬼狼ハジメ、あの人の名前です。一応陸軍将校で、階級は中尉。どこの部隊かは知りませんけど……。」
陸軍将校よりも、ゴロツキだ、和光はつい呟いてしまった。薫はクスクス笑うと、
「実際そうなんです。彼、汐城の貧困街で育ったらしくて……。ゴロツキのリーダー格として暴れまわっていたところ、軍にその高度な戦闘能力を見込められて入隊させられたそうですよ。」
華やかな都汐城にも影はある。長年整備を怠っていた場所にはスラム街が形成され、当局も見ぬふりをする程凶悪な犯罪都市となっていた。鬼狼ハジメはそこで生まれそこで育った。ゴロツキのリーダー格として暴れまわっていたところ、軍は彼の戦闘能力を見込んで無理矢理入隊させた。ハジメは命令通りに植民地の独立運動を鎮圧したり国内の不穏分子を極秘に殺したりしていたが、ある日ゴロツキに絡まれていた薫を助けたのがハジメと薫の出会いという。
「私……彼がかわいそうと思って。今まで誰にも愛されたことが無くて、知ってるのは暴力だけ。私、分かるんです。あの人は心の奥で、誰かに愛されたい、癒されたいって思ってることを。……だから私、彼を支えようと決めたんです。」
「支える……。」
「とは言っても……私にできる事といったら、勉強を教えたりすることで、大して役に立ってないかもしれませんが。」
薫は苦笑した。しかし和光は、立派な女性と思った。
「いえ、心の底から感服致しました。きっと彼の心に届くかと……。しかし、何故そんな話を僕に?僕は赤の他人のはず。」
「何だろう……。私、将来貴方が、あの人の良い友達になってくれそうな予感がするの。根拠は無いわ。でも、直感……。」
彼女がそう言い終えると、喫茶店にハジメが入ってきた。
「やっぱりここか。帰るぞ。……なんでオメーがここにいるんだ?」
「ハジメさん、この方の名前は長門和光さん。私の友達よ。」
「またホラを吹きやがって……。仕方ねぇ。長門、何故俺がドラゴニズムの集会に参加したか教えてやる。」
ハジメは和光にこう話した。自分は今まで政府に従ってきたが、それは本心から従ったのではない。むしろ貧しい国民から税を絞りたて、自分たちはぶくぶくと肥えていくブルア貴族を憎んでいた。そこで薫から誘われ、集会に参加するようになったのだという。政治の話は良く分からないが、自分達のようなストリートチルドレンを放置する政府は何とかしなければならないと共感したのだった。
「長門、薫がお前を気に入ったということは、何か見どころがありそうだ。また会おう。」
和光はこれを後に奇妙な体験と語っている。
後に鬼狼ハジメは徳田一を名乗り、大龍帝国内閣総理大臣として33年間この国に君臨することになる。和光は外務大臣として彼と共に百年戦争を戦い抜くが、それはまだ先の話。
1929年4月、仁霊帝が崩御した。
「お前達には散々迷惑をかけた。朕を許してくれ……。皇太子は、光仁にせよ。しかし、青仁も朕の血をひく子の一人。皇族の待遇を忘れるでない……。」
それが、帝の最後の言葉だった。臣下達も光仁親王を帝位に、と意見をまとめていたが、そこで最悪の事態が起きた。
「外が騒がしいが……。」
その日、宮城外で騒がしい音が聞こえていた。臣下達は帝がいない朝議を開いていたが、その音が気になった。すると、一人の近衛兵が駆け込んできた。
「申し上げます!宮城を陸軍部隊が包囲しています!メッケル公を始めとする幕官(ブルア役人)もおり、参内の許可を求めています!」
「ならぬ!通すな!脅しに屈してはならぬ!」
「いや、ここは通しましょう。彼らは本気です。何をするか分からない。」
和正の意見でブルア役人の参内が認められた。
「ブルア幕官、剣を帯び履物を履いたままの参内を認める!」
和風の建築物に、装束を着用した貴族達とは全く合わない洋服を着用した集団がズカズカと宮廷に上がった。一見穏やかそうな丸眼鏡をかけ綺麗な白髪の老人、メッケル公が姿を現した。
「皇帝陛下の崩御、我々としても悲しみを隠せません。しかし、我々は皆様と共に、皇室の永遠の繁栄をお祈りいたします。」
感情の無い言葉に苛立ちを覚えた臣下であったが、更に激怒させることを彼は言った。
「青仁親王を帝位におつけなさいませ。」
「本性を現したな貴様!!皇太子は光仁殿下と決まっておる!」
「青仁親王殿下ばブルアと龍民族の血をひく御方。帝位につけば我々の絆は更に深まるかと。」
「それは何度も聞いたわ!実際は朝廷を乗っ取ることしか考えていないことは明白なるぞ!」
「貴様等が我等を買収しようとしても無駄だ!我々は代々龍室の恩恵を受け生きてきた!もし朝廷が滅ぶとならば、我々は死んでやる!」
「近衛兵はどうした!この賊を追い出せ!」
朝廷の猛反発にメッケル公はため息をつくと、ならば仕方ない、と呟き、部下に合図した。その途端、多くの兵士が宮廷に入ってきたのである。
「な、ここは帝のおわす神聖な場所なるぞ!近衛兵!近衛兵!!」
「ほら、近衛兵だ。」
一人の兵士が3つ何かを投げつけた。よく見ると、人の首ではないか。
「ギャアッ!!」
「恐ろしや……。」
「これは……近衛兵の首ではないか。」
和正の言葉にメッケル公は頷き、
「我々に銃を突きつけてきたので、首を切りました。外をご覧ください。」
和正と何人かが宮廷の外を見ると、近衛兵達は皆武装を解除させられていた。
「今宮城の周りには戦車隊を始め陸軍部隊が駐屯しております。貴方達の行動によっては、ここを血の海にも出来るのですよ。」
「もう許せぬ!」
怒りが頂点に達した忠道卿は太刀を抜いた。
「神聖たる朝廷を汚す賊は摂関家の私が切ってやる!」
一触即発の雰囲気が漂う中、バタバタと騒がしい足音が聞こえた。見れば、古島春沖卿ではないか。彼もブルア民族の人間だったが、他の貴族とは違い朝廷に忠誠を誓い、皇室の歴史を研究する学者の一族であった。
「幕府の方々、ここは神聖な朝廷です。人を切ったり、首を晒す場所ではありません。何卒お下がりなさりませ。」
優しい口調で、忠道卿にも太刀を納めることを説いた。
「忠道卿、お怒りは最もですが、ここにいる幕官を切ったところで何か変わることはござりませぬ。お怒りをお鎮めなさりませ。」
「古島卿……。」
忠道卿は太刀を納めると悔しそうに泣き出した。
「帝……申し訳ござりませぬ……。」
結局、朝廷臣下は光仁親王を廃太子にし、青仁親王を皇太子に決めた。和正はこの日から体調を崩し寝込むようになり、即位式は和光が出席した。
「父上、言って参ります。」
寝込む和正に優しく言った。
「和光……よう似合っておる……。すまんなぁ……。私が不甲斐ないばっかりに……。」
「いえ……。父上は、よく体を休めてください。」
「和光様ー!!牛車の用意が出来ましてござります!!」
「うむ、今行く。」
牛車に乗ると、ゆっくり牛が歩き出した。元々牛車は貴族の乗り物だったが、馬車、自動車の誕生により徐々に数を減らしていった。今ではこのように朝廷の儀式でしか用いられない。宮城につくと和光は教えられたとおりに即位式の場に向かった。
高御座がある紫宸殿を前に、大龍貴族達は左側に並び、ブルア貴族達は右に並ぶという形で式は始まる。ブルア貴族達は洋服を着用し剣を帯びたままである。和光は横目でそれを見ていると、太鼓の音がドンッドンッと響き、青仁親王、新しい帝が姿を現した。年齢は16歳だろうか、若い帝が高御座に座る。
『龍皇帝陛下に拝謁致します。』
大龍貴族、ブルア貴族が声を揃えそれを言う。大龍貴族達が三種の神器と玉璽を渡し、メッケル公が祝辞の言葉を述べると、帝は立ち上がり即位礼の勅語を述べる。
「朕、先に大龍憲法及び、皇室典範の定めるところによって皇位を継承し、今ここに即位礼正殿の儀を行い即位を内外に知らしめん。この時にあたり、元号を碧瞳と改め、先帝に仁霊皇帝と諡す。朕はブルアの血をひけども、一万年王朝の歴史を存続するために努力する事を誓う。臣下は、ブルア大龍かかわらず、皇室のため国家のために誠意を尽くすべし。」
「山呼!!!」
勅語が終わると、朝廷の長老、武内正明卿が号令し、臣下達は唱和した。
『一万年王朝及び我が皇帝陛下、万歳、万歳、万々歳!』
『バンザーイ!!バンザーイ!!バンザーイ!!』
1930年1月1日、龍朝史初の、碧眼金髪の帝が誕生した。時代は確実に、混沌の世の中へと向かっていく事は明らかだった。