2日目. 木、木、木!
葉月はタブレットを手に北へ進む。
ぼんやりとしていると、いつの間にか右に曲がってしまい東にそれてしまっていることが多い。しばらく進んでは地図で現在位置を確認しては進むことを繰り返す。
地図上では葉月が通った周辺だけがグレーから色のついた地図に変わっていた。
三十分ほど進むと、草原の景色が変わり始めた。背の高い草が増えている。
それから十分ほど進むと、ようやく葉月が捜し求めていた木が姿を現した。こんもりとした神社ほどの大きさの森だ。
「やった!」
ゲーム内では木さえあれば、大抵の物はクラフトができるようになっている。いわばクラフトの基本のアイテムだ。木があれば石のアイテムを採取でき、石があれば鉄のアイテムを採取できる、というように段階を踏んでクラフトを行わなければならなかった。
ただし、木で作ったアイテムは壊れやすく、鉄であれば壊れにくい。
採取道具に関しては万能ツールがあるので、葉月には不要だが、家具や日用品を作るには木は必須のアイテムだ。
スギの木のような外観の木に近づくと、葉月は万能ツールを斧に変え、根元付近に向かって斧をたたきつけた。
スパーンと、小気味のいい音がしてバラバラと何かが葉月の目の前に降り注ぐ。
目の前にあったはずのスギの木は姿を消し、五十センチほどの長さの丸太となって、地面の上に散らばっていた。
木についていたはずの小枝や葉は全てなくなり、スギらしき木は丸太状のブロックとなっていた。
「おお、便利だ」
ゲーム内では一箇所に斧を入れると、その周囲の一メートル四方くらいが木のブロックとして切り出されていて、木を丸ごと一本採取するには、何度も斧を使う必要があった。
けれどこの万能ツールでは、一度斧を入れるだけで木を丸ごと採取することができる。手間がかからないのがありがたかった。
葉月が地面に散らばる木のブロックに近づくと、姿が消える。
インベントリを開いて確認すると、スギの丸太が十四個、ストックされていた。
これから何を作るにしても木が必要となることは多い。
葉月は張り切って、斧を手に木の採取を開始した。
木を切る。
散らばった木のブロックを回収。
また、木を切る。
葉月はとにかく木を切って切って切りまくった。
五十本ほど木を切り倒したところで、森の半分が消えた。
(やりすぎた……)
木の場所はわかったので、また取りに来れば良いだろう。
葉月は斧をタブレットに変えると、現在位置に『スギの木』とコメントを入れてマークする。
次は布団の材料となる綿もしくは羊毛の入手だ。
葉月は可能性の高そうな野生の羊を探し出すことにした。
綿花でもいいのだが、羊であれば何度も毛を刈ることができる上に、繁殖させれば羊肉も手に入るのでいいこと尽くめだ。
拠点へ帰るついでに、羊を探すことにした。
羊は草原地帯にいることが多いので、来た時とは違う場所を通るようにして進む。
(もしかして、あれ!)
葉月の視界の端を茶色っぽい影が横切った。
慌てて葉月が駆け寄ると、羊らしき生き物がいた。だが、何かが違う。
羊にしては首が長すぎるのだ。
(なんだっけ、これ……)
葉月は首を傾げた。
「フェェェェエ」
鳴き声も羊ではないような気がしたが、毛が採れるならばなんでもいいと思い直し、葉月は万能ツールを毛刈りはさみに変化させた。
「動かないでねぇ……」
葉月が近づいても羊らしき生き物は、逃げもせず草を食んでいる。
葉月はこれ幸いと、はさみを手に近づいた。そっと毛に触れると、とてもやわらかい。二十センチほどの毛を掻き分けて、根元を二センチほど残してはさみをチョキンと動かす。
毛が一瞬で刈り取られ、すっきりとした姿になる。そして足元には毛のブロックが落ちていた。
(やった! 今日はお布団で眠れる!)
葉月はブロックを回収して、インベントリを確認する。
『アルパカの毛』
「あ、アルパカ……」
どうやら目の前の生き物は、羊ではなくアルパカであるらしい。
異世界移住2日目
空腹度:●●●●●●●●○○
体力 :●●●●●●●●●●
経験 :Lv.15→17
称号 :移住者 (かけだし)、豆腐建築士、臆病剣士
スキル:土木:Lv.2、建築:Lv.1、農家:Lv.1、木こり:Lv.2 New!