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箱庭の異世界でスローライフ万歳!  作者: Jade
村づくりを本格化させよう
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16日目. 温泉! 温泉! 温泉!

「ふぁー!」


 立ち上る湯気。ほのかな硫黄の匂い。

 本当は硫黄ではないらしいが、この匂いを嗅ぐと温泉という感じがするので、温泉の匂いだと葉月は思う。

 葉月は駕籠(かご)が地面に着地するやいなや飛び出した。


「温泉だー!」


 葉月は両手を突き上げ、感動に打ち震えた。

 異世界に来てから二週間以上経った今、ようやくお風呂に入れるのだ。

 ソラのお風呂もありがたいが、やはりゆっくりと湯船に浸からなければお風呂に入った気がしない。


「葉月さんは本当に温泉が好きなんですね」

「日本人なら、みんな好き! のはず」


 みんなに聞いてみたわけではないので、葉月は正確なところがわからないが、葉月が切望しているのは間違いない。


「では、まずは別荘に行くぞ。荷物を置いてひとやすみしてから温泉に入ればよいだろう」

「うん。そうだね」

「フリードリヒ様、案内をお願いいたします」

「うむ」


 駕籠をインベントリに仕舞って、フリードリヒを先頭に歩き出す。

 フリードリヒが着地したのは、山の中腹で岩が舞台のように平らになった場所だった。

 周囲は岩場になっていて、木もほとんど生えていない。

 岩場の所々から湯気が立ち上っているところが、いかにも温泉という感じがする。


「こっちだ」


 フリードリヒが指した方向には木々が生い茂っていた。

 森と岩場の境目のような場所に二階建ての立派な邸宅が見える。

 かなり大きな建物で、ちょっとしたホテルほどの大きさがあった。


「あれが別荘?」

「うむ。連絡してある故、準備は整っているはずだ」


 ホテルのような別荘の前にそろいの服を着た人影が並んでいる。


「えっと、あの人たちは?」

「使用人たちだ。我らを出迎えてくれているのだろう」


 一列に並んだ使用人たちをよく見るとメイドっぽい服を着ている人もいる。

 なかからひとりだけ裾の長い上着を着た男性が前に進み出た。


「ようこそいらっしゃいました。我らが守護者のご友人をお迎えできること、喜ばしく存じます。滞在中のお世話をさせていただきますテオと申します」


 進み出た男性は葉月たちに向かってうやうやしく一礼する。

 スーツではなかったが一人だけ服の質が違っている。

 葉月は期待を込めてフリードリヒに尋ねる。


「もしかして、執事さん?」

「家令だ。なにか用事があれば申し付けるといい」

「何なりとお申し付けくださいませ」

「あ、よろしくお願いします」


 テオにお辞儀をされた葉月は慌てて礼を返した。


「さあ、部屋に案内するぞ」


 葉月はフリードリヒに促されて、葉月たちは別荘に足を踏み入れた。

 葉月たちが通り過ぎると、使用人たちはばらばらと何処へと姿を消していく。

 玄関を入ると大きなホールがあり、二階へと続く大きな階段が目に入る。

 天井には大きなシャンデリアがぶら下がっている。

 葉月はすっかり圧倒されていた。

 隣を歩くアンネリーゼも目を丸くしている。

 一階は使用人の使う部屋ばかりらしく、すぐに二階へと案内される。

 階段を上ると食事用の広間と、大きな居間があり、主人の部屋と客室が五室ほどあり、ほとんどホテルと変わらない。

 フリードリヒは主人の部屋に、葉月とアンネリーゼはその両脇の部屋にそれぞれ案内された。


「温泉の準備が整いましたら、呼びに参ります。それまでお部屋でゆっくりとお寛ぎください」


 葉月を部屋まで案内してきたテオが頭を下げて部屋から出ていく。

 部屋は二間続きになっていて、居室と寝室に分かれているようだ。

 特に寝室に用はないので、葉月は居室に据え付けられたソファに腰を下ろした。


「くまー」

「なんだか、落ち着かないね」


 葉月はコハクと顔を見合わせて、思わずつぶやいた。

 ソファや内装が高級すぎて、どうにも落ち着かない。部屋も広くて、旅館ならばかなりの高級宿になるだろう。

 コハクも同じ思いらしく、座ってはいるものの落ち着きがない。

 ソラはどうだろうと肩に視線を向けてみると、葉月の肩でゆらゆらと揺れている。

 どうやら眠っているようだ。

 葉月は窓の外に視線を向けた。

 窓は掃き出しになっていてバルコニーに続いている。

 葉月は立ち上がって窓を開けた。

 バルコニーはかなり広く、テーブルと椅子まで置いてあった。

 葉月がバルコニーの端にある手すりに近づいてみると、山の麓がよく見える。

 美しい景色を楽しむのもいいのだが、葉月はとにかく温泉に入りたかった。


「ううーん、なんか思ってたのと違うなぁ……」

「お茶の用意が整いました。こちらでお召し上がりになりますか?」

「うひゃっ!」


 いきなり背後から声をかけられて、葉月は飛び上がった。

 振り返るとメイドがお盆を手に立っている。


「あ、はい」


 メイドはてきぱきとした動作で、バルコニーのテーブルにお茶の用意を整えていく。

 葉月はふらふらと椅子に腰を下ろした。

 メイドは五人分のカップとソーサーを並べている。

 葉月がメイドの手つきに見つめながらしばらく待っていると、フリードリヒとアンネリーゼもバルコニーに姿を現した。


「どうやらあまり我のもてなしは気に入ってもらえなかったようだな。お茶を飲んだら、温泉に入ってくるといい」

「そういうわけでもないんだけど……お言葉に甘えさせてもらおうかな。アンネリーゼさんも一緒に行く?」

「はい。葉月さんをここまで駆り立てる温泉には非常に興味があります」

「よしっ! では、しゅっぱーつ!」


 葉月はアンネリーゼを追い立てるようにして、メイドに案内を頼んだ。

 一階に降り、脱衣場に案内された葉月はいそいそと服を脱ぎ、タオルを巻いてお風呂へと続く扉を開けた。


「アンネリーゼさん、先に行ってるね~!」


 木でできた浴槽からは、温泉の匂いに混じって木のいい香りがしている。

 そしてさらに外へと続く扉まである。

 葉月は迷わず扉を開けて外に飛び出した。


「露天風呂―!」


 思わず両手を上げた葉月の体からぽとりとタオルが落ちた。


「くまっ!」

「ありがとう!」


 コハクからタオルを受け取って、再びしっかりと巻き直す。

 石で舗装された道を歩き、岩でできた湯船に近づく。

 これぞ葉月がずっと求めていたものだ。

 葉月はしっかりと掛け湯をする。


「コハクもしっかりと汚れを落としてから入るんだよ~」

「くまっ!」

「ソラも、ほら」


 ソラにも掛け湯をしてから、葉月はゆっくりと湯船に体を沈めた。


「ふぃ~」


 思わず変な声が漏れる、が、もうどうでもいいくらい葉月は幸せだった。


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