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箱庭の異世界でスローライフ万歳!  作者: Jade
村づくりを本格化させよう
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16日目. のんびりいつもの農作業

「フリードリヒさん、もっとちゃんと混ぜて!」

「うむ、こうか?」


 フリードリヒは農作業をしたことがなかったらしく、葉月がきちんと指示をしなければどうしていいのかわからない様子だった。


「肥料が直接植物の根っこに当たると、肥料やけを起こすので、種を植える場所よりも少し深い場所に肥料を混ぜ込まないとダメなんです」

「ほう。その肥料やけというのは?」

「典型的な症状としては、葉の先端が茶色に変色したり、枯れてきたりするからわかるよ。肥料が多すぎるから浸透圧の問題で水分を吸い上げられないから根っこが枯れてくるの」

「ふうむ。浸透圧がなにかはよくわからぬが、説明されても理解できぬ。要するに、きちんと土と肥料を混ぜてから種を撒けばよいということであろう?」

「まあ、大体それでいい……かな?」


 面倒になってきた葉月は、それ以上の説明を放棄した。

 葉月はフリードリヒに手伝ってもらいながら、すでに栽培中の野菜の収穫と種まきを行った。


「ハジュキの畑ではいろいろな野菜が採れるのだな」

「うん。いくつかはこっちに来てから見つけたものもあるけど、ほとんどは謎の種から生えてきたものだね」

「我はこのトマトという野菜が気に入った。酸味とほのかな甘みがよいな。生もよいが火をくわえた方が好きだ」


 フリードリヒは収穫したばかりの真っ赤なトマトにかぶりついた。


「トマトにはうま味成分がたくさん入っているから、美味しいよね。酸味と甘みのバランスもいいし」

「うま味とはなんだ?」

「えっと人の味覚は今のところ基本的な五つの味覚に分類されるの。甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の五つだね」

「最初の四つはわかるが、そのうま味というのはやはりわからぬ」

「うーん、言葉で説明するのは難しいなぁ。甘味、酸味、塩味、苦味では説明できない味で、昆布とか干した魚、貝、あとは干したキノコとか、うま味が出る食べ物はいくつかあるけど、私が今育てている植物の中だと、トマトとシイタケくらいかな?」

「ふうむ。そなたの言うことが本当なのかはわからぬが、現実としてハジュキの料理はうまい。我が食べたことのない味がする。それがうま味だと言われれば、そうなのかもしれぬ」

「ま、私としては別に嘘でも本当でもいいけど、ちゃんと手を動かしてね。次はあっち」

「うむ」


 トマトを食べ終えたフリードリヒに、果樹の収穫を依頼する。

 果樹の世話をしているアンネリーゼに任せておけば問題ないはずだ。たぶん。


「ソラは害虫駆除をお願いね」


 ソラがぷよりとゆれて野菜の株に飛びついた。

 特に葉っぱの裏は気づかぬうちに虫がたかっていることが多く、ソラならば農薬を使うことなく虫だけを吸収することができるので、とても助かっている。

 葉月は畑の畝の間に目立ち始めている草刈りをすることにする。

 万能ツールを鎌に変え、雑草を刈り取るだけで根ごと枯れてしまうので、雑草を取るのはたまの作業で済んでいる。


「くまっ!」


 養蜂作業を終えたコハクがやってきて、葉月に瓶を差し出した。


「なんだかいつもと色が違うね?」


 葉月はコハクから受け取った瓶を日の光に透かせながら眺める。


「くまくまっ!」


 コハクがオレンジの木を指した。


「おお、いつものニセアカシアの蜜じゃなくて、オレンジの蜜ってこと?」

「くま!」


 葉月は瓶のふたを開け、匂いを嗅いだ。

 かすかにオレンジの香りがする。


「コハク、ありがとうね」

「くまくまぁ」


 コハクは少し照れていた。

 いつの間にか近づいていたチャッピーが葉月の頭上でブンブンと飛び回る。


「チャッピーもお疲れさま。いろんな花の蜜で作ってくれてるんだね。ありがとう」


 チャッピーはブブブンと元気よく飛び去った。

 害虫駆除を終えたソラが葉月の肩に戻る。

 葉月はコハクから受け取った蜂蜜をストレージに片づけた。


「よしっと! 次はメープルの樹液の回収だね。コハクも手伝ってくれる?」

「くまっ!」


 葉月はソラとコハクと共にメープルシロップの元となる樹液の回収を行った。

 コハクがメープルの木に爪で穴を開ける。

 穴にはクラフトした蛇口を取り付け、蛇口の下にバケツをセットしておけば、翌日には樹液が溜まっている。

 葉月とソラが行うのはバケツを取り換えることだけだ。

 ある程度樹液がたまったら鍋で煮詰めればシロップが完成する。

 樹液を採取する木はコハクが選んでいる。

 ある程度木を休ませることも必要らしく、その辺の見極めはコハクに任せっきりだ。

 バケツを交換し終えた葉月は、ブドウを収穫していたふたりに近づいた。


「フリードリヒさん、アンネリーゼさん、そっちの作業はどんな感じ?」

「終わったぞ?」

「収穫は終わりました。ブドウは全部ストレージに入れておきましたよ」

「うん。ありがとう。もう少し量が確保できてからじゃないと加工できないから、それでいいの。さて、ウルリヒさんの作業はどうかな?」


 葉月はフリードリヒ、アンネリーゼと一緒に家畜の世話をしているウルリヒのところに移動した。


「手伝うことはある?」

「ううむ。一気に家畜が増えた所為で手が回らんのじゃ。ココの世話は終わっておる。モウの世話を頼む」

「わかりました。おじじはメエとブヒを仕分けに専念してください」

「うむ」


 ウルリヒはフリードリヒが連れてきてくれた羊と豚の世話に追われているようだ。

 葉月たちもウルリヒの手伝いに回った。

 牛舎の床に敷いた麦わらを一か所に集めて捨てる。

 捨てると言っても、フンを含んだ藁を一か所に集めて積み上げて置けば立派な堆肥となるので無駄はない。

 あとは掃除をし、新しい麦わらを敷き詰め、飲み水を交換し、新しいエサを補給すればよい。

 フリードリヒは実作業にはあまり役立たなかったが、マナを発して牛を威嚇して牛舎から遠ざけておいてくれたので、掃除は捗ったような気がする。

 牛の世話を終えた葉月たちはウルリヒの作業に加わる。


「ここに柵を立てればいい?」

「うむ。真ん中を行き来できるようにしてもらえるかの? メエとモコは同じ厩舎でもええが、ブヒとは分けねばなるまい」

「モコってあのアルパカのこと?」


 葉月がアルパカを指すと、ウルリヒがうなずいた。


「そうじゃ」


 どちらかと言えばアルパカよりも羊の方がもこもことしているように見えるので、葉月としては羊の名前がこの世界でメエと呼ばれているのは少し不思議な感じだった。


「フリードリヒさんは、これだったらできるんじゃない?」


 葉月はフリードリヒにクラフトした柵とフェンスゲートを手渡す。


「なにをせよと?」

「放牧地の真ん中を柵で仕切ってくれればいいよ。真ん中にはフェンスゲートを設置してね」

「うーむ。頑張ってみるか」


 フリードリヒは首をかしげつつも柵の設置作業に鳥かった。

 葉月はアンネリーゼに手伝ってもらい、新たに羊と豚のために小屋を作ることにした。

 


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