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箱庭の異世界でスローライフ万歳!  作者: Jade
村づくりを本格化させよう
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13日目. 金の斧、銀の斧、マナの書?

 マナの森にはマナの泉もあった。

 以前に見つけた南西にあるマナの泉よりも少し大きいくらいで、同じように水底が淡く光っている。


「近くにあるのはすごく便利かも」


 泉のほとりは少し開けた場所になっていて、そこだけが明るくなっている。

 ひと休みするにはちょうどいい場所だ。


「ちょっと休んでいこうか」

「くまくま」


 コハクとソラも同意してくれたので、腰を下ろして休むことにした。

 先ほど採取したばかりのパッションフルーツをナイフで半分に切って、中身をスプーンですくって食べてみる。

 甘酸っぱさが口の中に広がり、独特の甘い香りが鼻を抜けた。

 少し酸味が強いので、もう少し熟したほうがおいしいのかもしれない。

 中の黒い小さな種を植えれば畑で栽培できそうなので、インベントリに仕舞っておく。


「せっかくだからもう少しマナの書を読んでおこうかな?」


 葉月は体育座りをしながらマナの書を開いた。

 ヒールとダークの魔法の使い方もほかと変わらないようだ。

 まだチャームを作っていない土と無の魔法はそれぞれアースクエイクとショックの魔法らしい。

 葉月が読んだ限りでは、このマナの書で説明している魔法はこれだけしかない。

 だが、魔法の種類が根源の七種類だけということはないはずだ。


「ん~? 何かが足りないっぽい?」


 それまで葉月の周りで周囲を警戒していたソラが、急にちゃぷんと音を立てて泉に飛び込んだ。


「そ、ソラ!?」


 葉月が驚いて立ち上がった表紙に、マナの書が葉月の膝から泉の中に転がり落ちた。


「あっ、やばっ!」


 マナの書は無情にも泉の底に沈んでいった。

 が、幸いにも泉の深さは五十センチほどと浅い。

 葉月は手を伸ばしてどうにかマナの書を拾い上げた。

 だが何かがおかしい。

 葉月は違和感に首を傾げた。

 ゆっくりと慎重な手つきでマナの書を開く。

 ページが水で張り付いて読めたものではなくなっているという予想に反し、開いたページが濡れている様子は無い。


「えっ?」


 葉月は慌てて表紙の文字を指でなぞった。


『マナの書 初級編』


 葉月は慌てふためきつつ、目次を開いた。

 章の構成自体に変わった様子は無い。

 魔法の章を開き、魔法を確認する。

 これまで使ったあるファイア、ウォータ、ライトはもちろん載っていた。

 使ったことはないがヒール、ダーク、アースクエイク、ショックの魔法もある。

 ページをめくり、ブレイズの記述を見つけた葉月は目を大きく見開いた。

 炎を意味するブレイズであれば、ファイアよりも火の勢いが強いはずだ。

 よく見るとマナの書が分厚くなっている気がする。


「レベルアップしたってこと?」

「くま~?」


 コハクは首を傾げているし、ソラは泉の中でぷかりと浮かんでいる。

 葉月の問いに答える者はいないが、おそらく間違いない。


「ま、考えても仕方ないね。怪我の功名というよりは金の斧の話のような」


 マナの書を泉に投げ込んだたら、レベルアップしたのだ。

 さすがにもう一度投げ込んで、もう一段階レベルアップするとは考えにくい。

 今のところ魔法については使いこなせているとは言えないので、あまりレベルアップについては考えなくてもよさそうだ。


「ソラ、コハク。お家に帰るよ」


 葉月は従魔たちを促して拠点に帰還した。

 まずは忘れずに採取したマナパッションフルーツの種を畑に植えた。

 (つる)が伸びるタイプの植物なので、支柱をクラフトして周囲に挿しておく。

 ウォルナットの木材は多めに欲しいので、クルミを植えてマナウォルナットを植林しておいた。

 葉月の拠点はどんどんと柵の外に広がり始めている。

 けれどせっかくの自由なスローライフだ。

 葉月には自重するつもりなど毛頭ない。

 ソラとコハクが手伝ってくれえるので、今のところ人手は足りている。

 さて、次は味噌と醤油作りだ。

 味噌は以前に作ったのと同じ作り方でかまわない。

 きれいに洗った大豆を吸水させ、やわらかく煮てつぶし、塩と種麹と混ぜて桶の中で発酵、熟成させるだけだ。

 醤油もほとんど同じ作り方だが、乾煎りした麦を砕いて入れることと、塩ではなく塩水にして作るのが大きな違いだ。

 まずは大豆を洗って一晩吸水させなければならない。

 前回よりも多く作るつもりなので、桶も必要になる。

 葉月は桶のクラフトに取り掛かった。

 とりあえず味噌と醤油を三つずつ仕込むことにして、同じ数だけ蓋も作る。

 このときのためにせっせと大豆を増やし、ストレージに溜め込んでいたのだ。

 豆腐も作りたいが周囲に海がなくニガリの入手が難しそうなので、溜め込んだ大豆を全部使って作る。

 なに、無くなればまた作ればいい。

 葉月、ソラ、コハクの三人で大豆を洗い、桶の中で水に浸す。

 三つの内、一つだけ葉月のウォータの魔法で出した水で仕込んでみる。

 違いが出てくるのかどうか、実験を兼ねて作ってみた。

 とりあえずはこれで様子を見てみる。

 葉月は続けて大きめの瓶をクラフトした。

 これに水と蜂蜜を入れて蜂蜜酒(ミード)を作るのだ。

 蜂蜜と水の割合は一対二くらいでいいらしい。

 蜂蜜に水を混ぜて放置すればできる、とても簡単で大昔から作られてきたお酒の一つだ。

 きちんと発酵するのか不安なので、葉月はすりおろしりんごから作った酵母も追加しておく。

 日本では酒税法の関係で作れなかったが、この世界ならば葉月を咎める者はいない。


「くふふ」


 葉月の口から思わず笑いが漏れた。

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