13日目. いよいよ魔法少女になります!
葉月は桶の中の匂いをかいだ。
腐ったりカビが生えている様子もなく、変なにおいもしない。
葉月はインベントリから小瓶を取り出し、桶の中の茶色い液体を汲み上げた。
手についた液体を少し舐めてみる。
「う~~~~。これだよ! これ!」
葉月はうっとりと目をつぶった。
これこそ葉月が待ち望んでいた醤油だった。
一般的に作られている醤油の製法ではなく、味噌を作る際にできる副産物としてできるたまり醤油のため、さほど量がない。
味噌でもこれだけ短期間で熟成するのであれば、本格的に醤油を作るのもありかもしれない。
葉月は久しぶりの醤油の味に浸った。
醤油も大事だが、味噌も大事だ。
葉月は桶の上部の変色した部分を少しはがして、味噌を取り出した。
こちらも少し舐めてみる。
「ん~~~~! こっちもいい感じ」
葉月は味噌を小皿に移し、食卓となっている作業台に並べた。
先ほど収穫したばかりの菜の花はさっと湯がいておひたしにしよう。
湯気が立ち上っているシイタケステーキにソラが作ったバターを乗せ、その上に醤油をたらす。
蒸しあがった竹の子は包丁で皮に切れ目を入れて中身を取り出した。
かなり熱いが、取り出して薄くスライスする。
これは竹の子の刺身になる。
各自で、味噌か醤油をつけて食べることにする。
従魔たちがそろったところで朝食の始まりだ。
「く~~~~。たまらんっ!」
「くま~っ」
ほんのりとした苦味が、春らしさを感じさせてくれる。
が、この世界にそもそも季節が存在するのかもわからない。
今のところは温かい日が続いていて、五月くらいの過ごしやすい気候で、葉月としても助かっている。
これが全てが雪に閉ざされるような厳しい冬だとしたら、ろくに食料を得ることができなかっただろう。
いずれにせよ従魔たちも醤油と味噌を気に入ってくれたようだ。
調味料はあまり量がないので、できれば追加で作っておきたいところだが、今日は他にもやりたいことがあるのだ。
終わってから時間があれば作ることにする。
そう、今日はいよいよ魔法を使ってみるのだ。
朝食の片づけが終わると、それぞれの作業に取り掛かる。
チャッピーとコハクは蜜集めと養蜂作業に。
クラウドは今日は地下へ行かずに裁縫作業をするようだ。
ソラは葉月と一緒に作業台に移動した。
マナの書を作業台に乗せ、魔法の章を開く。
『一番最初の呪文。ファイア。火の根源を消費して火を起こす』
葉月はマナの書を読み進める。
『ファイアの魔法は、マナワンドに火の根源を持つチャームを取り付け、杖を振れば魔法が発動します』
「待って、火の根源を持つチャームって何?」
葉月は慌てて道具の章を開く。
そこにはちゃんと火のチャームの作り方が乗っていた。
『火の根源を持つマナフラワーの花びらを四枚、鉄塊、金塊をクラフトして作ります』
鉄塊は鉄インゴットをクラフトすれば九個得ることができる。金塊も同じだ。
葉月はストレージから金属系の素材を取り出した。
あわせてマナフラワーも一種類ずつ取り出しておく。
マナフラワーが何の根源を持っているのかを調べるには鑑定すればいいようだ。
手持ちのマナフラワーを鑑定した葉月は、火の根源を含んでいるものを発見した。
どうやら赤っぽい色の花は火の根源、青っぽい色の花は水の根源を含んでいるようだ。
「マナダリアをクラフトして……っと」
葉月はマナフラワーをクラフトして花びらを用意する。インゴットをクラフトして鉄塊、金塊を取り出して置く。
そしてすべての素材を作業台に並べてクラフト。
炎の形をした可愛らしい飾りが鎖の先にぶら下がっているチャームが出来上がった。
「これをマナワンドに取り付ければいいんだね」
よく杖を見ると鎖をつけられそうな穴が空いている。
葉月はさっそく火のチャームをマナワンドに取り付けた。
「で、杖を振ればいいんだよね?」
ソラがぷよりと揺れた。
葉月はなにも考えずにかまどに向かって杖を振った。
ソフトボールほどの火の玉が杖の先から生まれ、かまどの中に飛び込んだ。
「うわっ!」
葉月が想像していたよりも火が大きい。
せいぜいライターくらいの大きさだと思っていたので、無防備に魔法を発動させてしまった。
「やばいやばいやばい!」
幸いにして火の玉はかまどに飛び込んだので、被害は皆無に等しい。
葉月は慌ててかまどの火を消した。
「くまっ!!」
従魔たちも驚いたのか、葉月の周りに集まってくる。
「ひ、ひ、ひ、火打ち石がなくても火が起こせるのはいいね。でも、気をつけないと山火事になっちゃうね」
葉月は苦笑いしながら誤魔化そうとしたが、皆の厳しい目が葉月に降り注ぐ。
「ごめんなさい。ツギハキヲツケマス」
葉月はひたすら謝るしかなかった。
気を取り直して、再びマナの書を開く。
『水を生み出す魔法。ウォータ。ウォータの魔法は、マナワンドに水の根源を持つチャームを取り付け、杖を振れば発動します』
「ってことで、水のチャームの作り方は……と、マナアイリス、鉄インゴット、金塊をクラフトかな」
葉月は先ほどと同様にクラフトして水のチャームを作る。
マナワンドに水のチャームを取り付けて振ってみる。
今度は周囲に被害が及ばぬように、最初からため池のほとりで杖を振った。ここならば拠点の端っこの方なので何かあってもどうにかなる。
ソラとコハクが葉月の様子を監視……もとい、見守っている。
葉月が杖を振ると水鉄砲のように勢いよく杖から水が飛び出した。
「よかった。うん、大洪水にはならなさそうでよかった」
これくらいならば水に困ることはなさそうだ。
「で、このままファイアを使うにはどうすればいいんだろ?」
葉月が何気なく杖を振ると、杖の先から火の玉が生まれ、ため池の中に飛び込む。
ジュワッと水が蒸発する音がした。
「お、おう。使いたいと思えばいいのかな?」
葉月はウォータ、ファイア、ウォータ、ファイアと交互に思い浮かべつつ杖を振った。
水が勢いよく飛び出す音と、水が一気に蒸発する音とが交互に辺りに鳴り響く。
最後にファイアの魔法を思い浮かべたのだが、火の玉は途中でかき消えてしまった。
どうやら杖に溜まっていたマナがなくなってしまったらしい。
あとで拠点の西にできたマナの木のマナ溜まりで補給してこなければならない。
「よし。魔法少女に一歩近づいたかな?」
ふと葉月が視線を感じて振り向くと、従魔たちが冷たい視線を注いでいる。
「ご、ごめんなさい。自重します」
自然破壊とまではいかないが、ずいぶんと従魔たちを心配させてしまったようだった。




