12日目. キノコ! キノコ!
「あったー!!」
倒木の上に茶色いキノコが鎮座していた。
葉月が見つけたのはどう見てもシイタケだった。
念のためマナグラスで鑑定しておく。ツキヨタケという毒キノコと間違われて食中毒になったというニュースを聞いたことがあるので、念のためだ。
『名称:シイタケ。説明:食用可能なキノコ。干すとうまみが増す』
「デュフフフフ!」
嬉しさのあまり変な声が出た。
ソラ、コハク、チャッピーが若干引いている気がする。
しかしシイタケを干して作る干しシイタケからはおいしい出汁がとれる。
これを逃す手はない。
葉月はシイタケに飛びついた。
すこし腐りかけた木の幹から十個ほどのシイタケが採取できた。
周囲を見回すと、マナの木ではなくナラのような木が生えている。
葉月はナラによく似た木を鑑定した。
『名称:クヌギの木。説明:落葉高木。つるばみとも言う』
幹の質感がナラの木に似ていたので、大して気に留めていなかったのだが、クヌギの木だったようだ。
枝についているどんぐりをよく見てみると、確かに形が違っていてまん丸のどんぐりだった。
子供のころによく爪楊枝を刺して、コマにして遊んでいた記憶がある。
「シイタケはこの木に生えるっぽいから、この木も伐採していくよ!」
「くまっ!」
葉月が斧に持ち替えてクヌギの木を伐採すると、コハクが木のブロックを集めてくれた。
拠点でほだ木にするのがよさそうだ。
シイタケを栽培するならクヌギの木も植林して増やしておきたい。
「ソラ、このまん丸などんぐりを集めておいてくれる?」
ソラがぷよりと揺れてお手伝いを始める。
その間に葉月は周囲を探索する。
すると葉月は少しだけ耕されたような場所を発見した。
小さいながらも畑のようで、そこには小さな黄色い花が線香花火のように咲いていた。
根元はたまねぎのように白く膨らんでいる。
葉月の期待が高まる。
おそらく葉月の想像どおりの植物であれば、また一歩目標に近づくことができる。
葉月ははやる心を抑え、マナグラスで鑑定する。
『名称:フェンネル。説明:ハーブの一種。ウイキョウとも呼ばれる。種はスパイスとしても使われる』
「ひゃっふううう! カレーの材料ゲットだぜ!」
香り付けに使うスパイスの一つであるフェンネルが手に入った。
葉月は万能ツールを鎌に持ち替えた。
根元の膨らんだ部分はたまねぎのように食べられるのだ。
「くまっ!」
葉月が採取しようとした瞬間、コハクの警告とチャッピーの羽音が同時に聞こえた。
これほど暗い森の中では、敵対MOBが湧いていても不思議ではない。
葉月は慌ててインベントリから出した竹光に持ち変える。
何かがこすれるような音が近づいてい来る。
クラウドのたてる音に近い。
どんぐりを集めていたソラも、作業を中断して葉月のそばにやってきた。
「うわぁ……」
「キシャアァァァァッ!」
木の間を伝って、紫色のクモの大群がやってきた。
クラウドよりは少し小さいが、二十体ほどいるかもしれない。
一応マナグラスで鑑定しておく。
『個体名:なし。種族:フォレストスパイダー。魔法:気。説明:森に住むクモ』
葉月が鑑定している間に、チャッピーは空中から、おしりの針でつついてフォレストスパイダーに攻撃を仕掛けていた。
コハクは爪で、いつもどおりの力押し。
「ぐまっ!」
ソラはクモに飛びついて、動きを封じている。吸収しているのか、窒息させているのかはわからないが、フォレストスパイダーの動きが徐々に鈍くなっている。
葉月は竹光を鞘から抜いた。
敵対MOBを倒すのに容赦はいらない。ソラが動きを抑えてくれている間に倒すのだ。
竹光が風を切ってフォレストスパイダーに襲い掛かる。
葉月が直接切りつけたクモだけではなく、軌道上の二メートルほどの範囲で攻撃が当たる。
「ソラっ?」
葉月が思っていたよりも攻撃力が高くなっているらしく、ソラまで攻撃が当たってしまったのではないかと心配になる。
ソラはクモを押さえ込みつつも、ぷよりと揺れている。
どうやら大丈夫のようだ。
安堵した葉月はもう一度竹光で切りかかる。
クモが動かなくなって、地面の中に消えていく。
けれど葉月はそれを確かめる間もなく、次のクモに襲われていた。
「イタっ!」
クモの爪が葉月の腕をかすめる。
が、かすり傷程度でたいしたことはない。
今はクモを減らすのが第一だ。
葉月は竹光を振り続けた。
従魔たちの活躍のおかげで、全てのクモを撃退することができた。
だがあれほどの数が一気に襲ってきたのが腑に落ちない。
葉月たちはは警戒を解かずに周囲を探索してみる。
チャッピーが羽を鳴らして、茂みの中を示している。
葉月が恐る恐る覗き込むと一メートルほどの大きさのクモの巣が張っている。
おそらくクモたちはこの巣からやってきたのだろう。
巣を壊してしまえばいいのだろうが、はっきりいって触りたくない。
葉月が触れるのをためらっていると、ソラがクモの巣に飛び込んだ。
そうしてソラがクモの巣のあった場所から出てきたときには、すっかり巣は吸収され、ぽっかりと穴が空いた状態になっていた。
「ソラ、ありがと」
ソラがふよりと揺れた。
地面から葉月の肩に飛び乗ったかと思うと、葉月がわずかに傷を負った部分に移動してくる。
「え、なに?」
ソラが傷口を覆うように平たく伸びたかと思うと、体がピカリと一瞬強い光を放った。
ソラの体が元の球状に戻って葉月の肩の定位置に収まる。
葉月が傷口を見ると、わずかに滲んでいた血が消えて、傷口がなくなっている。
「も、もしかして魔法を使ったの?」
ソラが葉月の肩で揺れる。
どうやら魔法を使って葉月の傷を癒してくれたようだ。
「ソラ、すごい! 私より先に魔法を使えるなんて……すごい! 治してくれて、ありがとね」
「くまくまっ!」
絶賛する葉月にソラの体がわずかに赤く染まる。
コハクとチャッピーもソラを褒め称えている。
ソラはますます赤くなった。
「ふふ。いろいろあったから一回お家に戻ろうか」
「くまっ!」
フェンネルがあった場所に戻って、クモの出現で中断していた採取を今度は無事に済ませる。
そうして葉月たちは意気揚々と拠点へ戻ってきた。




