1日目. 拠点候補地を探そう!
葉月は今日の目標を定めた。
拠点に便利な場所を探し、最初の夜をやり過ごすことだ。
うまくいけばベッドをクラフトして、眠ることができるだろう。
葉月は手にしていたナイフを剣に変じるように念じた。
ゲームと同じ仕様ならば、昼間に敵対MOBに襲われることはほとんどないはずだが、念のためにいつでも戦えるようにしておきたかったのだ。
果たして、万能ツールはありふれた鉄の剣に変わった。実際の鉄の剣であれば重くて、葉月が振り回せるような代物ではないが、そこは万能ツールらしく、竹刀程度の重さしかない。
振りまわしてみると、草くらいならば簡単に切断できたので、おそらく敵対MOBに出会ったとしてもなんとかなりそうな気がした。
葉月は剣を手に、あてもなく歩き始めた。
葉月が降り立った草原は拠点とするのに便利な場所だった。
広く周囲を見渡すことができるので、敵対MOBの接近に気づきやすいという利点がある。地面が平らな場所が多いので整地も最小限で済むし、家を建てたり、農場を作るにもとても便利な場所だ。
だが、農場を作るには水が必要となる。
土を掘って、原始的な横穴式または竪穴式の住居を作ることもできるが、やはり木で作った家のほうが断然快適だ。
葉月は水と木を捜し求めて草原を移動した。
あちらこちらでタンポポのような花が咲き、名前のわからない草が茂みを作っている。生活基盤が整えば採取をしたりするのにとてもいい場所になるだろう。
しばらく進んでいくと池が見つかった。直径十メートルほどの丸い形をした池だ。
流れ込んでいる川がないので水源が湧き水なのか、それとも一時的にできたため池なのかはわからない。
葉月は池にほとりに近づき、中を覗き込んだ。
水深はそれほど深くない。一番深い中央部でも二メートルはないように見える。
水底には砂がたまっていて、ぽこぽこと水が湧き出ている。どうやら湧き水でできた池のようだ。
小さなエビが水底で動いているのが見えた。
どうやら飲用可能な水のようだ。
「やった!」
手を入れてみると、ひんやりと冷たい。
葉月は少しだけ水をすくい、口に含んだ。
雑味はなく、おいしい。
どうやらあたりのようだ。
ひとまず葉月はこの場所を拠点にすることにした。
過ごしてみて気に入らなければ移動すればいい。
残念ながら木は見つからなかったので、土で簡易の小屋を作ることにする。
窒息しない程度の大きさで、敵対MOBが立ち去るまでやり過ごせるだけの小屋があればいいのだ。
「よし、やろう」
葉月は剣をスコップに変えて池から五メートルほど離れた場所を掘り始めた。
まずはごく浅く表層だけを五メートル四方に削る。
これだけで百個ほどの土ブロックを採取することができた。
次は掘った場所の外周をぐるりと囲むように掘った土を積み上げ、壁を作っていく。
本当は石やレンガなどを使いたいところだが、今は時間がないので土をそのまま積み上げる。
二段分を積み上げ、三段目に取り掛かったところでインベントリの土ブロックがなくなってしまった。
葉月は少し離れた場所に移動して、再び浅く表層だけを削って土ブロックを採取する。
再び拠点に戻り壁を積み上げる。
あとはひたすら掘っては積み上げることの繰り返しだった。壁が高くなるにつれて、土を乗せるのが難しくなってきた。
ゲームでは土で足場を作り、その上に乗って積み上げていたので、葉月は同じように土ブロックを積み、その上に乗って壁を積み上げていった。
六段ほど積み上げたところで、今度は屋根の部分に取り掛かる。
ゲーム仕様ならば、謎の物理的法則によって採取した土のブロックを配置すると、ブロック同士が吸い付き、下に支えがなくとも横にブロックを配置することができていた。
葉月が手にしたブロックを壁の一番上の横に押し付けると、ゲームと同じようにくっついた。
「やった!」
謎の物理的法則のおかげで、土で屋根を作ることができそうだ。
葉月は思わず喜びに飛び上がり、足場にしていた土から落ちそうになって慌てる羽目になった。