10日目. 敵は忘れた頃にやってくる
「あ、やばい」
採集に夢中になっていたせいで、周囲はずいぶんと暗くなっていた。
もう少しで敵対MOBが湧く時間になってしまう。
「ソラ、コハク、アルパカさん、急いでお家に帰るよ!」
「くっくま!」
「フエェェェェ」
コハクを先頭に、アルパカ、葉月とソラの順で慎重に拠点へ向かう。
アルパカの歩みは遅く、来たときよりも二倍ほどの時間がかかっている。
葉月は万能ツールの剣を手にびくびくしながら進む。
これまで葉月がMOBと戦うような場面では、建物の陰で攻撃を受けないようにしか戦ったことがなかった。
全方位から狙われるような場所で戦えるような知識も経験もない。
怯えていると、案の定敵対MOBが現れた。
「げ、ゴブリンだ……」
身長は一メートル少しくらいと、低いが、尖った耳に、尖った鼻。
醜い姿はゲームでよく見かけるモンスターでもある。
「ギョギョギョッ」
ゴブリンが変な鳴き声を上げながら、先頭のコハクに襲い掛かる。
葉月の肩からソラが飛びおり、コハクと共にゴブリンに挑みかかった。
コハクは可愛らしい見た目とは裏腹に、シャキーンと爪を出し、ゴブリンに切り掛かる。
ソラがゴブリンの頭に飛びついて鼻と口を塞ぎ、窒息させる。
葉月が出る幕はなかった。
「が、頑張れ~」
「フエェェェエ!」
葉月とアルパカは少し離れた場所から二匹に声援を送った。
「フエ?」
アルパカの変な鳴き声に背後を振り返ると、そこにもゴブリンが迫っていた。
「っきゃああ!!」
葉月の心臓は飛び出てしまいそうなほど早く脈打った。
何とか剣を振り上げ、ゴブリンに向かって切り付ける。
「グギョギョギョ!」
切り付けたところから緑色の血が噴き出す。
「うえぇぇぇ」
葉月は涙目になりながら、どうにか剣を振るう。
けれど不意を突かれ、動揺しまくっている所為で、なかなか決定打を与えられない。
そこへ先頭で戦っていたコハクが駆け付ける。
「くまぁぁぁぁあ!」
コハクが鋭い声を上げながら、ゴブリンに突進し、跳ね飛ばす。
コハクの爪や身体はゴブリンの緑色の血にまみれていた。
「あ、ありがとう」
「くまっ!」
コハクはゴブリンと向かい合ったまま、小さくうなずく。
コハクがゴブリンの注意を引き付けてくれている隙に、葉月は剣を振ってゴブリンの首をはねる。
「グギャ?」
ゴブリンの首が不思議そうな顔をしたまま飛んで行った。ご臨終である。
コハクもソラもゆっくりと警戒を解いた。
葉月はほっと胸をなでおろす。
「うう、人型のMOBを殺すのって気分のいいもんじゃないね」
「くま~?」
コハクはMOBを倒すことになんのためらいもないらしく、首をかしげていた。
葉月とて、ゲームの中ならばただの敵だと割り切って戦うことができていたが、こうして実際に敵対MOBと向かい合ってみると、かなり抵抗感が強い。
戦わなければ死ぬだけだとわかっていても、まだためらいが捨てきれない。
それに、敵対MOBからのドロップ品でしか手に入らない素材もこの先きっと多く出てくるはずだ。
葉月が戦闘に慣れるのは急務と言える。
ともかく、いまは安全地帯である拠点に帰り着くのが先決だ。
葉月はアルパカを急かし、家路をたどる。
途中で大ミミズと遭遇したが、コハクが腕のひと薙ぎで倒してしまったので、敵対MOBはコハクとソラに任せて葉月はアルパカを拠点に誘導することに集中した。
その後は特に敵対MOBと出会うことなく拠点の柵を越えることができた。
「はあ……。やっぱり私がどうにかならないとダメだね」
葉月は自分の戦力をどうにかしなければならないことを痛感していた。
今のところコハクとソラがいれば、何とかなっているが、これからもそうとは限らない。
葉月はアルパカをはなこと太郎のいる牛小屋へ連れて行った。
しばらくはここで暮らしてもらうことにする。
「フエェェェェェエ」
「ブモー」
一気に牛小屋の中が騒がしくなった。
はなこと太郎の様子を見る限り、アルパカを受け入れてくれたらしい。
「みんな、仲良くしてあげてね」
葉月は賄賂代わりにストレージから出したトウモロコシをエサ箱に入れた。
アルパカがさっそく飛びついていたので、良しとする。
「ソラ、コハクの汚れを吸収してあげてくれる?」
コハクの毛はゴブリンの返り血を浴びて緑色に染まっている。
ソラは葉月の願いにぷよりと揺れて、彼女の肩からコハクの足元へ移動した。
コハクはじっと動かず、ソラがゴブリンの血を吸収するのを大人しく待っている。
ソラが揺れるとコハクがソラをすくい上げ、汚れた部分に押し当て、汚れを吸収してもらっていた。
ふたりの間の意思疎通はばっちりだ。
やがてコハクの身体はすっかり綺麗になった。
「今日は疲れたし、ベッドだけ作ったら残りは明日にしよう」
「くま~」
コハクもうなずいてくれたので、葉月はストレージから木材を取り出し、取ってきたばかりのアルパカの毛と合わせてベッドをクラフトした。
夕食の時間はとっくに過ぎていたが、食欲はほとんどなかった。
葉月は新しい寝室にベッドを二つ並べて置くと、着替えもそこそこにベッドに入った。
落ち込む葉月を慰めるように、ソラとコハクがベッドにもぐりこんでくる。
葉月は二匹の温もりに、強張った体から力が抜けていくのを感じていた。
異世界移住10日目
経験:Lv.27→31
従魔:ソラ(スライム:Lv.13→15)+子分スライム×8(トイレ用)、コハク(ハニーベア:Lv.1) New!、チャッピー(ハニービー:Lv.1) New!
家畜:ニワトリ×3、はなこ(乳牛:雌)、太郎(乳牛:雄)、乳牛、アルパカ New!
称号:開拓者、豆腐建築士、臆病剣士、ソラの飼い主、二級建築士、節約家
スキル:土木:Lv.5、建築:Lv.6→7、農業:Lv.6、伐採:Lv.6、木工:Lv.11→12、採掘:Lv.5→7、調教:Lv.4→6、石工:Lv.5、料理:Lv.7、鍛冶:Lv.3、畜産:Lv.4、マナ:Lv.1→2




