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10日目. 村に住人が増えました

 今度草をかき分けて現れたのは、クマのぬいぐるみ(?)だった。

 葉月の膝くらいの身長で、こげ茶色のもふもふとした姿はどう見てもテディベアだ。

 どう見ても凶暴には見えないくまのほんわりとした姿に、思わず葉月は叫んだ。


「くまー?」

「くまっ!」

「え?」


 まさか返事が返ってくると思っていなかった葉月は目を見開いた。


(クマの鳴き声ってこんなだっけ?)


 クマが葉月たちに攻撃を仕掛けてくる様子はない。

 葉月はひとつ思い当たることがあった。


(これは、テイム(手なずける)のチャンスじゃない?)


 ソラを従魔にした時は、ソラが葉月に対して攻撃を仕掛けてくる様子がなかったので、食べ物を上げたら懐いていくれたことを思い出す。

 まさに今の状況と同じだった。

 葉月はインベントリを開いて、クマが好みそうな食べ物を物色する。

 お出かけ用に常備しているりんごと、今朝クラフトしたばかりのメープルシロップくらいしか入っていない。

 野生のクマは雑食だと聞いたことがあるが、この世界のクマにも当てはまるだろうか。

 葉月は望み薄だと思いながらもりんごとメープルシロップの瓶を取り出す。

 クマはりんごには反応しなかったが、メープルシロップの瓶を見せると、反応を示した。

 ソラがりんごに反応して肩で揺れているが、葉月はソラにかまわず、キュポンと瓶のふたを外し、クマに向かって差し出した。


「くまー!!」


 クマは葉月の手から瓶をひったくるように奪い、一気にシロップを飲み干した。


「くっくまー!」


 クマの喜びの叫び声に、地面に転がっていたハチがびくりと体を震わせた。

 どうやら意識を取り戻したようだ。

 けれど葉月たちに襲い掛かっては来ない。

 ソラに敵わないことを理解したのか、先ほどまでの状態が異常だったのかはわからないが、とにかく大人しい。

 シロップを飲み干したクマは葉月に瓶を返してきた。

 クマの目は期待に満ちている。


「えっと、ごめんね? 今朝試験的に作ってみたものだから、あんまり数がないんだ。なんだったらうちの村に来る? 村に帰って作れば食べられるよ?」

「くっくま!」


 こくこくとクマがうなずく。

 どうやら村の住人になってくれるようだ。

 葉月がステータス画面を確認すると、従魔の欄に『ハニーベア』の記載が追加されていた。


「ハニーベアってことは、蜂蜜が好きなの?」

「くまっ!」

「じゃあ、もしかして蜂蜜を作ったりできる?」

「くー、くまっ」


 半分正解で、半分不正解のようだ。


「えーっと、蜂蜜を作るには普通ハチがいないとダメだよね……」


 ソラ、クマ、葉月の視線が地面の上でじっとしているハチに注がれた。


「くまーっ!」


 クマがハチに駆け寄り、軽々と抱き上げる。クマは葉月に駆け寄り、訴えるように見つめてくる。

 ハチはクマの腕の中で大人しくしていた。


「くまっ! くまっ!」

「ってことは、このハチさんがいれば蜂蜜が作れるってこと?」

「くまっ!」


 葉月の予想は当たっていたようだ。


「なら、君もうちの村に来る? ハチが好きなものと言えば……花の蜜かな?」


 葉月はインベントリの中から採取したばかりのマナフラワーを取り出し、ハチに差し出す。

 するとそれまで大人しくしていたハチがビクリと震えた。

 クマの腕の中から飛び出し、花に飛びつく。

 ぶんぶんと花と戯れていたハチは、しばらくすると満足したらしく、クマの頭の上に着地して動かなくなった。

 葉月がステータス画面を確認すると、今度は従魔の欄に『ハニービー』の記載が追加されていた。


「ハニーベアに、ハニービーか……」


 葉月はしばし考えたのち、新しく従魔となったふたりに名前を付けた。


「ハニーベアくんは、琥珀(こはく)色だからコハクね!」

「くまっ!」


 葉月のネーミングセンスは通常運転だった。ハニーベア改め、コハクは満足そうにしている。


「ハニービーくんは、こげ茶色だから、こげちゃのビー……チャッピーでどう?」


 もはや原形がわからなくなっているが、チャッピーは喜んでいるようだ。

 ぶんぶんと羽を元気よく震わせている。


「じゃあ、家に帰ろう。ソラも仲良くしてあげてね」


 ぷるりとソラが葉月の肩で震えた。

 家に帰る途中でチャッピーが小さな白い花が房状に咲いている小さな木を見つけてきた。

 ぶんぶんとチャッピーが木の上で八の字を描いて飛ぶと、コハクが木に飛び掛って木を切り倒してしまった。

 コハクが切ったというよりも折った木を葉月に差し出す。

 葉月が受け取った木をインベントリに入れて確認すると、『ニセアカシア』と表示されていた。


「おおー、これって蜂蜜の材料になる木だよね。チャッピーはこれが欲しかったんだね」

「くまっ」


 チャッピーがぶんぶんと飛んで、コハクが肯定する。


「じゃあ、もう少し採取しておこうか」


 チャッピーが木のある場所を教えてくれたので、葉月はさっくりと万能ツールを使って採取していく。

 葉月はニセアカシアを街路樹などでたまに見かけたことを思い出した。

 けれどこれほど小さな木ではなく、十から二十メートルくらいはあったような気がした。

 十本ほど木を採取したところで、ニセアカシアの苗がドロップした。


「やった。これで家でもニセアカシアを植えられるね」

「くまっ!」


 ナラの木とは違ってどんぐりが取れないので、やることのないソラは少しつまらなさそうにしていた。

 コハクとチャッピーが喜んでいるので、よしとする。

 こうして葉月はマナグラスの材料を手に入れ、新たな従魔と共に家へ戻った。


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