10日目. 材料を集めよう
マナストレージを作るには金とマナクリスタルが必要になる。
先日鉄のフライパンを作った際に、鉄インゴットを使い果たしてしまったので、鉄鉱石も必要だ。
それに、煮炊きに使っている石炭はあればあるほどいい。冬が来るのかはわからないが、できるだけストックしておきたい素材だ。
「今日は、採掘に行くよ!」
いつもの日課を終えた葉月はソラに向かって宣言する。
ソラはぷよりと揺れて葉月の肩に飛び乗った。
葉月は採掘に必要な材料をクラフトすると、鳥小屋の隣にある採掘場へ続くはしごをゆっくりと下った。
前回の採掘では、鉄鉱石、岩塩、石炭を採取することができたので、今日は鉄と金、石炭を目標に掘る。
万能ツールをつるはしに変化させ、葉月は五メートル四方ほどの空間を確保した。
ここを拠点として採掘を進めることになる。
用意してきたたいまつを設置して明るさを確保すれば、いよいよ採掘作業の開始だ。
葉月が用意してきた道具は作業台、たいまつ、ストレージ。
作業台は採掘をしながら、必要な道具をクラフトしたり、合間の気分転換のために新たにクラフトしてきた。
たいまつは坑道の明かりの確保用で、ストレージは採掘した材料を一時的に保管しておくための場所だ。
インベントリだけではどうしても足りなくなるので、整理をかねてクラフトしてきた。
前回はとにかく鉄鉱石を入手したかったので、適当に採掘をしたが、今回はブランチマイニングという方法で掘り進めようと葉月は考えている。
ブランチマイニングとは、効率よく素材を採掘するためにファークラ内で流行していた方法の一つだ。
まずは、前回掘り進めた方向とは逆側にまっすぐに坑道を掘り進める。
百メートルほどまっすぐに進み、進路を右に変える。そこから更に百メートルほど進んで、再び進路を右に変える。
そして更に百メートルほど掘り進んだ場所で右に進路を変え、掘り進めれば最初に掘った坑道に突き当たる。
これでぐるっと一辺が百メートルほどの正方形に区切って坑道ができる。
次に、端から横に二メートルほどずらして、最初に掘った坑道に対して垂直になるように掘り進めていく。
こうすることで、鉱石の見落としが少なく効率的に採掘ができるので、ファークラで採掘を行う際の基本的なテクニックとされていた。
まるで枝のように坑道を掘ることから、ブランチ(枝)マイニング(採掘)と呼ばれていて、風車型に掘り進めたりする人もいて、いろいろな変化形も存在する。
葉月の場合はつるはしが消耗して破損するまでを一辺として作業をすることが多かったが、いまは万能ツールを使っているのでつるはしが壊れるということがない。
適当に百メートルほどと思われる場所で方向を変えながら掘り進めていく。
堀った際に取れる石材は勝手にインベントリに溜まっていくのだが、しばらくするとインベントリが圧迫されてくる。
たいまつを設置しながらの作業なので、少しずつインベントリの中身は減っていくが、それ以上に石材を採取する量の方が多かった。
葉月は何度か石材をインベントリから捨てながら掘り進めていく。
葉月が捨てた石材を見たソラは、最初は飛びついて吸収していたのが、あまりおいしくなかったのか、すぐに見向きもしなくなった。
二度目に方向を変えた辺りで、赤っぽい鉄鉱石を発見した。
採掘を後回しにすると忘れることが多いので、葉月はさっさと鉄鉱石を掘り出し、インベントリに収納する。
ぐるっと一周する頃にはかなりの鉄鉱石と石炭が集まっていた。
はしごのある広い空間に戻ってきた葉月は、採掘の作業の間に鉄の精錬を行うことにした。
最初に広げた空間に、インベントリから取り出した作業台を設置する。
作業台の上に、採掘したばかりの石材を並べてかまどをクラフトする。
多めに四つほどかまどをクラフトし、作業台の周りに設置した。
早速、かまどの中に鉄鉱石を放り込み、下段には石炭を入れて火をつける。
これ四つすべてのかまどで行い、一気に鉄インゴットを作成する。
鉄インゴットは放置していてもできあがるので、その間の時間を利用して更に採掘を進めるのが効率的なのだ。
すべてのかまどに鉄鉱石をセットした葉月は、ソラと共に採掘を再開する。
正方形の通路の間を縫うように最初の辺に対して直交するように掘っていく。
二メートルほど間を開けていても、鉱脈はある程度連続しているので、見落としが少ないというわけだ。
一本目の通路では石炭と岩塩以外の素材を見つけることはできなかった。
ソラは途中で石炭と岩塩をつまみ食いして、美味しくなかったのかぺっと吐き出していた。
最初の辺の対角辺の通路に突き当たるまで掘り進めてから、二メートルほどずらし、今度は最初の辺に向かって突き当たるまで掘り進める。
「あ!」
鈍い金色の輝きに葉月は思わず声を上げる。
「落ち着け……」
葉月は震える手でつるはしを振るった。
インベントリの中を確認すると、『金鉱石』と表示されている。
「やった!」
これでマナストレージが作れる。そう思うと、葉月のテンションは上がった。
鉱脈が途切れるまで掘り進めたが、残念ながらさほど量は確保できなかった。
けれどこの場所から金鉱石が採掘できることはわかった。
あとはひたすら頑張るしかない。
葉月は無心に掘り進めた。
ブランチの通路に戻って再び掘り進める。
今度は途中で土に掘り当たった。
「なんだ、土か……」
土であれば地上でも簡単に採取できるので、はっきり言ってインベントリを圧迫する邪魔者にしかならない。
葉月はつるはしをスコップに変えて掘っていく。
が、途中で土の色が変わったことに気づく。
わずかに発光しているように見える。
まさかと思いながらもインベントリを確認すると、『マナの土』と表示されているではないか。
「こんなところで見つかる物なんだ」
葉月はマナの土も採取することにした。
正方形の半分ほどを掘り進んだ時点で葉月が採取できたのは、鉄鉱石、金鉱石、石炭、岩塩、マナの土の五種類だけだった。
けれどかなりの分量を確保できたので、今日の採掘はここまでにする。
ゲームの中では採掘をしていると、仕事のストレスを忘れることができ、無心になれた。
こうして異世界に来てみると、大好きな農業をしている所為か、ほとんどストレスは感じていない。
少々の不便はあるが、それもまた生活のスパイスとなっている。
次に何を作ろうかと考えるのが楽しく、次々とクラフトした道具によって便利になっていく達成感もある。
「よし、今日へこの辺にして残りの時間はクラフトに当てよう。魔法が使えるようになるかもよ?」
葉月は肩のソラに声をかけた。
ソラがぷよりと揺れて、葉月に是と答えた。
葉月は精製しておいた鉄インゴットを回収して、石材をストレージに収納してから、地上へと続くはしごを上った。




