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9日目. 異世界で初めての友達ができました?

「えっと、ここで飼っているのがニワトリさんたちです。毎朝タマゴを生んでくれるいい子なんです」


「ああ、ココか。我らの国でも育てている者がいる」


 どうやらこの国ではニワトリではなくココと呼んでいるらしい。

 欲を言えばもう少しタマゴが多めに手に入ると、料理の幅が増えるのだが、今のところほかからニワトリをつれてくるしか方法はない。


「だが、これだけしかいないのでは、肉にするには足りぬだろう?」

「そうです……ね」


 正直なところ葉月にはニワトリを絞めて肉を得ることに抵抗があった。

 スーパーで切り身の状態で売っている肉となんら変わるところはないはずなのに、毎朝ニワトリや牛たちの世話をしていると、情が移ってしまって、とても殺そうとは思えない。

 それにタマゴがあれば、たんぱく質は何とか足りている。

 偽善かもしれないが、今のところはニワトリや牛を食べる気にはなれなかった。


「あちらはモウか?」


 フリードリヒが牛小屋から聞こえてくる太郎とはなこの鳴き声にあたりをつけて尋ねてきた。


「牛です。こちらではモウと呼ぶんですか?」

「ああ、ハジュキの国では牛というのか」

「牛からは毎朝ソラが牛乳を搾ってくれるんです」


 ソラが葉月の肩でぽよんと跳ねた。


「ふうむ。なかなか優秀な助手だな」


 フリードリヒに見つめられて、ソラの体がかすかに赤っぽくなった。


「あそこのはしごからは地下の採掘場に繋がっています」

「ほほう。おおよそのものはそろっているのだな」


 最後に採掘場へと続くはしごを紹介して、葉月の案内は終了した。

 そろそろかまどのぎゅうぎゅう焼きができる頃だ。

 葉月はかまどと作業台が並んでいるあたりにフリードリヒを誘導した。


「あ! 椅子がありませんね。ちょっとクラフトするので待ってください」


 椅子がないことに気づいた葉月は、作業台の上に木材を取り出して、椅子をクラフする。

 作業台の上で食事をするのも味気ないと思い、ついでに食卓用のテーブルも追加でクラフトした。

 インベントリに仕舞ってから配置しようとした葉月を、フリードリヒが制止した。


「これくらいならば、我ひとりで動かせる」


 フリードリヒに食卓と椅子を設置してもらっている間に、葉月はかまどから鍋を取り出した。

 じゅうじゅうと野菜が焼ける音を立てている。

 葉月は家の中から食器とフォークを持ってきて、鍋といっしょにフリードリヒの前に並べた。


「どうぞ、召し上がれ」


 葉月が勧めると、フリードリヒは恐る恐る野菜を口に運んだ。

 すこし熱そうだったが、すぐに食事に夢中になっている。

 葉月は彼の様子を満足そうに見ながら、自分の皿にもぎゅうぎゅう焼きを移して食べる。

 ほんのりとした塩味と野菜の甘みがアボカドオイルによってうまく調和している。

 これでチーズがあるともっとおいしくなるはずだ。

 いずれはチーズも作りたい。

 ぼんやりとしているうちに、葉月の皿からソラが勝手に野菜を吸収していた。

 フリードリヒは無言で料理を口に運んでいる。

 かなり気に入ってもらえたようだ。あっという間に鍋の中は空になり、食事の時間が終わる。

 久しぶりにほかの人と一緒に食べる食事の時間は、思ったよりも楽しかった。


「ハジュキ、素晴らしい料理をありがとう。このお礼はできるだけ早くする。ついでで申し訳ないのだが、先ほどの野菜を少し分けてもらうことはできないだろうか? 今は手持ちがあまりないのだが、これくらいで足りるだろうか?」


 フリードリヒがジャラジャラと金貨らしきものを懐から取り出し、食卓の上に乗せ始めたところで、葉月は大いに慌てた。


「えっと、野菜が欲しいのなら分けるよ。ジャガイモとかにんじんとか保存の利く野菜なら大目にあるから。私が作ったものだし、お金もかかってないからお金はもらえないよ」


 本業の農家ほどの出来の野菜ではなく、お金をもらうのが恥ずかしい。

 葉月はフリードリヒが差し出した金貨を押し返す。


「いや、それでは我の気持ちが治まらぬ。なにか、礼をせねば……」

「いやいや。素人が作った野菜と料理にお金をもらうわけには……」


 葉月とフリードリヒの間で押し問答が続く。

 ソラは……葉月の肩で居眠りをしていた。


「なら、次は我が手土産を持ってくる。望みがあれば言ってくれ。何か困っていることはないか?」


 フリードリヒの提案に、葉月は少し考えてみる。

 今のところ何か買い物をするわけではないので、お金がなくても不自由はしていない。

 が、何かを彼からもらうのも違う気がした。


「それなら……、温泉がある場所を知っていたら、教えて欲しいな」


 葉月はずっとお風呂に入りたかった。

 上下水道は何とか整備したが、まだシャワーまでには至っておらず、ほとんどソラに頼り切っている。

 もし、温泉があればかなり入ってみたい。


「温泉だな、わかった!」

「うん。おねがい」


 葉月はストレージから日持ちのしそうな野菜をいくつか取り出して、フリードリヒに渡した。

 レジ袋という便利なものはないので、急遽亜麻から麻袋をクラフトしてそこに入れる。


「やはり無料(ただ)でもらうのは我の流儀に反する。少し取っておけ」


 フリードリヒは金貨を何枚か葉月の手に押し付けた。


「そんな……」

「では、我は帰る。すぐに手土産と温泉の場所を調べて戻ってくるから、楽しみしているがいい。ではな、友よ!」


 フリードリヒは葉月に断る暇を与えず、ドラゴンに姿を変えて飛び立った。

 葉月の知らぬ間に彼と友人になっていたらしい。

 麻袋を手に飛ぶドラゴンの姿は、かっこいい……。いや、かなりシュールだった。


「う、うん」


 葉月は力なくフリードリヒのうしろ姿に手を振った。


「いつの間に友達になったの?」


 葉月の問いにソラはぶるぶると震える。

 フリードリヒに押し付けられる形になった金貨には、どこかで見たような少年の横顔が彫られていた。


「きっと気のせい」


 葉月をこの世界に送り込んだ神様ではないと、信じたい。


異世界移住9日目


経験:Lv.25→27

従魔:ソラ(スライム:Lv.12→13)+子分スライム×8(トイレ用)

家畜:ニワトリ×3、はなこ(乳牛:雌)、太郎(乳牛:雄)、乳牛


称号:開拓者、豆腐建築士、臆病剣士、ソラの飼い主、二級建築士、節約家

スキル:土木:Lv.5、建築:Lv.6、農業:Lv.6、伐採:Lv.5→6、木工:Lv.10→11、採掘:Lv.5、調教:Lv.4、石工:Lv.5、料理:Lv.5→7、鍛冶:Lv.3、畜産:Lv.4、マナ:Lv.1

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