9日目. 新素材を手に入れました
雨は夜のうちに止んだらしい。一夜明けると、抜けるような青空が広がっていた。
葉月はいつものようにソラと共に朝の日課をこなした。
昨日植えた謎の種からは謎の木が生えている。葉っぱの形からすると楓ではないかと、葉月は予想した。
とげとげしい実がなっていたので、先に枝を回収しておく。
木を伐採してインベントリに仕舞ってみると、『サトウカエデ』と表示される。
「やった!!」
葉月は思わず飛び上がって喜びをあらわにする。
ソラは葉月の喜びの理由はわからないが、楽しそうに揺れている。
「メープルシロップが取れるよ! お砂糖だよ! お菓子、甘味だよ!」
葉月はさっそくサトウカエデの実を畑を囲うように植えていく。
明日になれば樹液を採取できるだろう。
樹液を煮詰めればメープルシロップ、お砂糖がクラフトできる。
お砂糖がクラフトできれば、せっかく小麦があっても断念していたパンが作れるようになる。
葉月の夢は広がった。
「ふふふ~ん。今日は目玉焼きにしよう。あ……」
朝食の準備に取り掛かろうとした葉月は、フライパンをまだクラフトしていないことを思い出した。
慌てて作業台に鉄インゴットを乗せ、フライパンをクラフトする。
これで鉄インゴットは全て使い切ってしまった。
また、鉄鉱石を採取に行かなければならない。
マナストレージを作るのに、金が必要なので、鉄とあわせて採掘しに行けばちょうどいいだろう。
葉月は頭の中の予定表に採掘を追加した。
フライパンをかまどに乗せ、石炭をかまどに投入する。
フライパンが温まってきたところで、アボカドオイルを垂らす。
今朝採取したばかりのタマゴを割り入れ、弱火でじっくりと火を通していく。
タマゴの殻はすぐにソラが吸収した。
黄身のふちに火が通ったところで、砕いた岩塩を振り、万能ツールをフライ返しに変化させて皿に取る。
「じゃじゃーん! 目玉焼きの完成で~す」
砂糖の入手に目処が立った葉月は、かなりハイテンションになっていた。
アボカドとイチゴ、トマト、キャベツを添えて、葉月の朝ごはんの完成である。
牛乳も食卓代わりの作業台に並べる。
ソラが搾乳した牛乳をビンにつめ、池で冷やしておいたものだ。
「いただきます」
ソラがぷよりと揺れて挨拶する。
ソラはくず野菜のほかにも、大好きなりんごを出してもらい、上機嫌で揺れながら吸収している。
目玉焼きを口に運んだ葉月は、油のありがたさにジーンとした。
アボカドオイルにはほとんど癖がなく、タマゴの味が濃く感じられる。
「あー、これで醤油があればなぁ……」
葉月は目玉焼きには醤油派だった。
醤油を手に入れるためには、やはり味噌作りを進めるのが一番早いだろう。
ソラに食器やフライパンなどの汚れを吸収してもらえば、後片付けはすぐに終わる。
葉月は昨日の味噌作りの続きに取り掛かる。
麹菌はある程度温かくないと増えないので、昨夜葉月はソラと麹菌を包んだ箱と一緒に布団で眠った。
箱を開けて、保存しておいた種麹を確認する。
うまく麹菌が増えているだろうか。
ほんのりと甘いにおいが漂ってくる。
麦を包んでいた布をのけると、麦が白っぽくなっている。
「これは……成功、でいいのかな?」
ソラがぴょんと跳ねる。
「じゃあ、これで行くよ」
葉月は麹菌に塩を振り、そっと手で混ぜてから、もう一度布で包みなおしておく。
昨日吸水させておいた大豆を桶から取り出し、鍋に移す。火にかけて、指でつぶれるほどやわらかくなるまで煮なければならない。
葉月は万能ツールを玉じゃくしに変化させ、鍋をかき回した。
ふつふつと湧き上がってくるにつれ、アクが浮いてくる。
葉月は丁寧にアクをすくいながら、大豆を煮込んだ。
「そろそろ、かな?」
取り出した豆を親指と人差し指ではさむと、ポロリとつぶれた。
鍋をかまどから外し、お湯を捨てる。
葉月は茹で上がった大豆を麻布で包み、木の棒で叩いてつぶした。
ソラも布の上で跳ねて、手伝ってくれた。
あらかたつぶれたところで大豆を桶に移し、種麹と混ぜる。
均等に混ざったところで、おにぎりのように握っていく。
全部で十五個ほどの味噌の玉ができた。
新たな桶を用意して、桶の底に叩きつけるように味噌の玉を中に入れる。
全部の玉を叩きつけたあと、表面を平らにならして布をかぶせる。その上にクラフトした木のふたをかぶせ、更に石の重石を乗せた。
あとは味噌ができることを信じて待つだけだ。
普通ならば十ヶ月から一年ほどかかるはずだが、この世界ではどうだろう。
葉月は味噌の桶を家の隅に置く。
「やっぱり味噌蔵みたいなものも作らないとダメかな?」
家の中に作業台を作ってしまったこともあり、家の中が思ったより手狭になってきた。
一人+ソラ暮らしなのでワンルームで十分だと思っていたが、改築も考えたほうがいいのかもしれない。
幸いにして土地は十分にあるのだから。
家の外に出た葉月は空を見上げた。
太陽はまだ真上には差し掛かっていない。何かをするには十分時間があった。
「よし。今日は拠点の周りをぐるっと探索してみようか」
装備を整えた葉月は、ソラといっしょに周囲の探索に出発した。
畑の横から東側に向かって進む。
川に突き当たる前に南に向かって曲がり、ぐるっと一周する予定でいる。
よく見ると、ほのかに光る花があちこちに点在している。
これまでに発見しているマナデイジー、マナアスター、マナローズ、マナダリア以外にも、マナリリーとマナアイリスを新たに発見した。
「うふふ。これでマナ関連のクラフトが進みそう」
葉月はマナフラワーを採取しつつ、上機嫌で歩いていく。
「あっ!」
不意に何かに引っかかり、葉月は転んだ。
「ったたた」
葉月はすこし手のひらをすりむいてしまった。
一緒に地面に転がったソラが、心配そうに葉月の周りを飛び跳ねている。
「大丈夫。擦り傷だから」
葉月はソラに声をかける。
ソラが葉月の手の平に飛び乗り、擦り傷の周りについた土や汚れを吸収してくれた。
「ソラ、ありがとね」
何につまづいたのだろうと、葉月はそちらに目を向けた。
地面からは三角形をした緑と茶色い物体が生えていた。
「た、たけのこ?」
葉月は自分の目を疑った。
尖った先端はどう見てもたけのこにしか見えない。
葉月は手のひらの痛みも忘れ、万能ツールをクワに変化させた。
たけのこを傷つけないように、慎重に周囲を掘っていく。
二十センチほど掘り進めていくと、赤っぽいたけのこの根が見えてきた。
クワで根っことたけのこを切り離し、インベントリに仕舞う。
「たけのこ、とったぞー!」
葉月は思わず叫んでいた。
雨後のたけのこという慣用句があるくらいなので、昨日振った雨のおかげで生えてきたのかもしれない。
たけのこを増やせれば、竹が手に入るだろう。竹があれば籠など、いろいろとクラフトできるものが増えるはずだ。
葉月のテンションはいよいよ上がった。
不意になにかの影が葉月の頭上を横切った。
葉月が空を見上げると、大きな飛行物体が視界の端をよぎる。
「鳥……じゃないよね?」
その影はとんびや鷹よりも明らかに大きかった。
そしてその影が向かっているのは葉月の拠点がある方角だった。
「ソラ、急ぐよ!」
いやな予感に襲われた葉月はソラを肩に乗せ、全力で拠点に向かって駆け出した。




