8日目. インフラは大事
葉月は朝食として用意したゆで卵の殻を剥いては、ソラに渡した。
ソラはタマゴの殻が好きらしく、小刻みに体を揺らしながら吸収している。
砕いた岩塩をかけて、ゆで卵にかじりつく。
ゆで卵は黄身が半熟でおいしかった。
が、葉月はそろそろ目玉焼きが恋しい。
「いっちょ作ってみましょうか……」
葉月は手を叩いて、作業に取り掛かった。
まずはインベントリから木材を取り出し、作業台を作成する。
作業台はかまどの隣に設置した。
「まずは石臼かな」
石臼はすでに水路に設置してあるが、この雨では動かせないので、今回は屋内で使うための手回しの石臼を作る。
葉月はアボカドの種を石臼でひいて、油を採取するつもりだった。
亜麻からも油が取れるが、種は全て栽培にまわしてしまったので、今はアボカドの種だけで作る。
油の回収用に木材で箱を作り、石臼の下に設置する。
箱からは油をビンに注げるように穴を開けてある。
さっそく葉月は石臼にアボカドの種を入れていく。ちなみにアボカドの実は、葉月が朝食としていただいた。
残ったアボカドの種はソラが食べたそうにしていたが、採れたばかりのトマトを代わりに渡して、どうにか種を確保する。
ソラはトマトを食べながら、ちょっと赤くなっていたのがおかしかった。
「ソラ、種の外側だけって吸収できる?」
ソラが『まかしておけ』、とでも言うようにぷよりとゆれた。
ソラが取り出してくれた種の中身を石臼に投入する。ゆっくりとまわしていくと石臼の隙間から白っぽく濁った油が染み出てきた。
箱の中に油が少しずつたまっていく。
箱の底よりも少しだけ上の位置につけた穴のところまでたまれば、上澄みだけがビンに移るはずだ。
「あれ?」
葉月が思っていたほどは油がとれず。箱の底に油がたまっているだけだ。
「うーん、もう少し改良したほうがいいね」
葉月は底面積の小さい箱に作り直して、もう一度アボカドの実をすりつぶした。
先ほど抽出した油も新しい箱に移してある。
今度はあふれた油がきちんとビンに溜まっていた。
完全に透き通るというわけにはいかないが、葉月はアボカドオイルの抽出に成功した。
「あとで使ってみよう」
葉月はオイルの入ったビンをインベントリに仕舞う。
次に時間のかかりそうな味噌を仕込んでおくことにする。
味噌を作るには、麹、塩、茹でた大豆が必要になる。
葉月は木材で桶を二つクラフトして、収穫したばかりの大豆を中に入れた。
もう一つの桶には石臼で精麦した麦を入れる。
どちらも洗う必要がある。桶に水を入れようとして、葉月は水道が通っていないことを思い出した。
「よし、先に上下水道を作ってしまおう」
葉月は家の中の床を一部を横一メートル、縦五十センチほど壊し、石材に張り替えた。
石のブロックを半分くらいの大きさに加工して、流し台を作り、張り替えた石床の上に設置する。
それから木材を加工して、ちょっと太めな無骨なパイプを作った。
池から水を引くための木の樋と、池から水をくみ上げるための水車も作る。
それから鉄インゴットをクラフトして蛇口も作った。
家の中で大きな水車を作るのは無理があるので、玄関を通るくらいの大きさのパーツに分けてクラフトした。
必要な材料を全てクラフトし終えた葉月は、ソラに手伝ってもらい、パーツを外へ運び出した。
雨は降っていたが、かなり小雨になっていたので、かまわず作業を進める。
まずは水車で水を汲み上げるために、流れを作る必要がある。
葉月は池から新居と鶏小屋の間を通るように水路を作ることにする。木材確保のために植えてあるナラの木は一旦伐採して更地にする。それから、水路を掘り、以前作った水路と同じように勾配をつけてその先にため池を作る。
水路に水車を設置し、汲み上げた水は家に向かって流れるように樋を設置した。
ソラが次々とパーツを運んできてくれるので、かなり楽に作業を進めることができた。
壁の真ん中あたりに木材で貯水タンクを作り、そこに樋を接続する。
貯水タンクのあたりの壁に万能ツールで穴を開け、パイプを通す。
家の中の流し台の下にもパイプを通して、家の外に流れるように排水口も作った。
排水口からは水路に戻るように溝を掘ってため池に流れるようにする。
これで一通り上下水道ができたので、せき止めていた水路の木材を外して水を流してみた。
ゆっくりと水車が動いて水を汲み上げ始める。
水は樋に流れ込み、家の壁に設置された貯水タンクに流れ込んでいく。
葉月は家の中に入って蛇口をひねり、きちんと水が出ることを確認した。あとは排水がきちんと行われる事が確認できれば完成となる。
葉月は再び家の外に出て排水溝を確認した。
きちんと水はため池のほうに流れている。
「よし、できた!」
ようやく味噌作りの続きに取り掛かれそうだ。




