6日目. 気づけばレベルが30になっていました
無事ヒヨコを手に入れた葉月は上機嫌だった。
けれどこれで満足してはいけない。
葉月がまったりスローライフを送るためには、まだまだ必要なものがたくさんあるのだ。
再びソラをお供に拠点を出発する。
西側は少し探索しただけで、ヒヨコに遭遇してしまったので、まだほとんど地図はうまっていなかった。
ヒヨコを見つけた場所から更に西へ進む。
時々立ち止まって周囲を見回してみるが、なかなか家畜は見つからない。
一時間ほど歩いたところで、またもやソラが何かを見つけた。
高速で移動するソラのあとについていくと、どこかで聞いたような鳴き声が聞こえてきた。
「ブモー」
白と黒のまだら模様を持った牛らしき生き物が二頭、のんびりと草を食んでいる。
そのうちの一頭の背中で、ソラがぽよんぽよんと跳ねていた。
牛乳パックに描かれている牛にそっくりだったので、おそらく乳牛だろう。
葉月よりも大きな巨体を持つ牛は、ソラにはまったく興味が無い様子で、
葉月はインベントリから麦わらを取り出し、牛に向かって差し出してみた。
牛は麦わらのにおいを嗅いでから、ばくりと食いついた。
もう一頭の牛にも麦わらを差し出すと、すぐに食いつく。
葉月はすかさずステータス画面を表示して確認した
家畜の欄に『乳牛』の文字が増えている。
「やった!」
乳牛であれば乳を採取できるはずだ。
葉月はあまり牛乳が好きではなかったが、乳から作られるバターやチーズは好きだ。
きっと食卓を豊かにしてくれるに違いない。
葉月の頬は緩みっぱなしだ。
ステータス画面を閉じようとして、システムメッセージが表示されていることに気づいた。
『経験値を消費して、新たなMODを追加しますか?』
ファークラのゲーム内において経験値とは、システムはあるもののレベルが上がっても体力などのパラメータが上昇するわけではなかった。
代わりに、レベルを消費して武器に特殊能力を付与したり、体力を増やしたりすることが可能だった。
死ぬと経験値が全てなくなってしまうので、また一からやり直しになるというくらいで、ゲーム内ではレベルを上げること自体はさほど重要ではなかった。
そのため、葉月はステータス画面で経験値が増え、レベルが上がっていることは認識していたが、特に重要視していなかった。
だが、この世界では死ねばそこで終わりなので、葉月は無理をするつもりはない。
今のところ、神様が用意してくれたMODという名の改造データは、万能ツールと謎の種、それから従魔にできたソラがMODに該当すると思われる。
かなり便利で助かっているが、いろいろなMODで遊んでいた葉月にしてみれば、少々物足りない。
そういう意味では、新たなMODの追加は、かなり魅力的な選択肢だった。
「ここはすぐにでも追加してみたいところだけど……」
MODを追加すると、基本的には新たな要素が追加される。システムツールであったり、植物、鉱物などの素材や、MOBや料理、道具などが追加される場合が多い。
もしMOBが追加されるようなMODであった場合、いきなり敵対MOBに襲われることもありうる。
葉月は一度拠点に戻り、万全の態勢を整えてから新MODの追加に臨むことにした。
「よし、帰ろう!」
葉月はソラと牛を二頭引き連れ、足取りも軽く拠点への岐路をたどった。
インベントリから麦わらを取りだしてつんでおけば、しばらく牛が逃げることは無いだろう。
葉月はさっそく牛小屋の建築に取り掛かった。
ストレージ内に余っていた石のブロックを使って、今度は石で小屋を作る。
鶏小屋からは十メートルほど離した場所で、十メートル四方を掘り下げる。
あとは鶏小屋と同様に石を敷き詰め、積み上げるだけだ。
豆腐建築だったが、今はあまり木材を消費したくなかったので、そのうち余裕ができたら改築することにする。
牛小屋の周囲は放し飼いにするための柵を張り巡らせた。
牛を柵の中に放した頃には、すっかり日が傾き始めていた。
どうやら新MODの導入は明日に持ち越しになりそうだ。




