1日目. まずは現状把握!
葉月は頬にふわりとした風を感じて目を開けた。
目の前には、草原が広がっている。
「本当に……来ちゃったんだ。ファークラの、世界……」
ぐるりと周囲を見渡すと、遠くの方に山が見える。
なだらかな丘と、花々が咲き乱れる草原が広がっている。ディスプレイ越しに見ていたファークラの世界、そのままだ。
(まずは、持ち物を確認しないと)
ゲームではキーボードで持ち物一覧を開くキーを押していたが、今目の前にはキーボードなど存在しない。
葉月がインベントリを開きたいと思った瞬間、目の前にアイコンの一覧が表示された。
「おお、思考入力なのか」
ゲームで見慣れた画面とまったく同じUIで表示されたことに、葉月はほっとした。が、それは一瞬のことだった。
(ええと……、りんごと……斧と……なにかの種だけ?)
ゲームの初期持ち物でも、これほど少なくはなかったような気がする。
(神様がお詫びのしるしだって言ってたんだもん。これだけってことはない……はず)
宙に浮かぶインベントリから斧のアイコンに触れると、手の中に斧が現れた。
「って木がないんだけど……」
周囲を見回しても草原が広がるばかりで、木を見つけるには移動するしかなさそうだ。
ファークラでまず行うべきは木を採集し、道具を作ることなので、すでに斧があるのはありがたいのだが、斧の採取対象である木がなければ始まらない。
「つるはしだったらすぐに使えたのに……」
葉月がそう呟いた瞬間、手の中の重みが増した。
「え……?」
とはいっても、りんご一つ分が二つ分くらいになったという差しかない。けれど手の中の斧だったものはつるはしへと姿を変えていた。
(もしかして……これがチート?)
試しにスコップになれと念じると、つるはしはあっさりとその姿を変えた。
「えいっ」
葉月はスコップを持ち上げて、地面を掘ってみる。
スコップはさくりと音を立てて、一辺が五十センチほどのきれいな正方形で土を掘り出してしまった。かなり軽い手ごたえだったので、疲れはほとんど感じない。
掘り出した土はブロック状になっていて、近づくと勝手にインベントリの中に収納されたようで、姿を消した。
念のためにインベントリを開いて確認すると、土のアイコンが増えており、数量が右下に一と書かれている。この辺はゲームの仕様と同じだった。
インベントリを閉じてもう一度スコップで掘ると、五十センチ角に掘ることができ、縦五十センチ、横百センチ、深さが五十センチほどの穴が開いた。
調子にのって葉月はどんどんと横に掘り進めていく。
(ひゃあ、楽し~い!)
スコップを地面に突き刺して掘る。横に移動してまた掘る。
無心になって、ひたすら地面をきれいに掘るだけの作業が妙に楽しかった。
ふと気がつけば、五十メートルほど意味のない溝ができてしまっていた。
「ヤバイ!」
慌ててインベントリを開くと、土は百個になっていた。アイコンに触れて土を掴むと、手の中に土のブロックをそのままミニチュア化させたような手のひらサイズの塊が合った。
葉月は掴んだブロックを掘った穴に投げ入れる。するとブロックはぼわんと音を立てて穴に収まった。まるで掘った跡などなかったかのように、きれいに埋めることができたので、よしとする。
インベントリから土を取り出して投げることを繰り返し、全ての土を埋め戻した葉月は、手についた土をパンパンとはたいた。
「ふう」
どうやら無事に環境破壊の痕跡を証拠隠滅することができたようだ。