3日目. お家作り 前編
「いけると思ったんだけどなぁ……」
万能ツールを鍋に変化させることができなかったので、葉月はひとまずお風呂に入ることは諦めた。
今日はまだまだ作らなければならないものがたくさんあった。
ストレージから木材を取り出し、板にクラフトする。木材一つと板を六個並べてクラフトすると、木の桶が出来上がった。
これで服を洗濯できる。いい加減新しい服を作りたいところだが、材料がない。寝る前に洗濯して干しておけば、朝には乾いているだろう。
ほかにも石材二つと木材を六個つなぎ合わせて物干し台をつくり、小屋の中に設置した。
次に、ストレージから砂を取り出しかまどの上段に投入する。
下の段にはできたばかりの木炭を投入する。木炭を取り出したかまどには、再び木材を投入し、下の段には木炭を入れる。
木炭を燃料として木材から木炭を作成しつつ、となりのかまどでは砂を熱してガラスを生成した。
加熱され、ドロドロに溶けたガラスの塊を、万能ツールの棒で巻き取って取り出し、作業台の上に移動させる。
真っ赤なガラスの塊をハンマーでクラフトすると、ガラス板が出来上がった。
さっきまで真っ赤に発光していたガラスは透明な板に変わっている。
葉月はクラフトしたばかりのガラス板を手に小屋へ向かった。
天井の隙間にガラス板をはめ、小屋の壁にも一部穴を開けてガラスをはめる。
これでずいぶんと小屋の中が明るくなった。
小屋の中で葉月が立って出来栄えを眺めていると、ぽよんぽよんという音が近づいてくる。
「ソラ」
拠点の探索を終えたらしく、ソラは葉月の肩に飛び乗った。
「よし、ソラという住人も増えたことだし、そろそろちゃんとしたお家を作ろうか」
ソラが葉月の肩でぷよりとゆれた。
葉月はストレージから石材とナラの木材を取り出した。
まずは小屋の隣を一メートルほどの深さに掘る。大きさは横十メートル、縦十五メートルほどの長方形にした。
小屋を囲っていた柵の一部は撤去してから、掘った部分を取り囲むように柵を張りなおす。
これで夜になって時間切れになったとしても、敵対MOBの襲撃を受けることはないはずだ。
葉月は深く掘った部分に石材のブロックを敷き詰めた。
この石材が建物の基礎となる。
周囲は石材を三段分積み上げて、立ち上がり部分を作る。
二対一くらいの比率で内部にも立ち上がり部分を作って、部屋を分ける場所を作った。小さい部屋はあとでトイレにするつもりだ。
石材の上にはナラの木材を土台として横に並べる。この土台の上に更に木材を床として張っていく。
日本の在来工法である木造軸組みで作るのであれば、基礎の上に束を立てて床が沈まないように補強するが、そこは謎の物理的法則よって床がたわむことはなかった。
ここまで作業を終えたところで、ずいぶんと太陽が傾いていた。
「今日の作業はここまでだね」
葉月がソラに向かって話しかけると、肩の上でソラがぷよりとゆれた。
ちなみにソラは葉月の肩に乗ってゆれている以外になにもしていない。
葉月は池の水で手を洗い、喉を潤していると、ソラが肩から下りて池に飛び込んた。どうやら水分を補給しているようだ。
葉月はインベントリからナラの小枝とりんごをいくつか取り出した。枝にりんごを刺してかまどの上に枝を差しこんだ。
まだ火のついた木炭が残っていたので、このまま追加しなくても調理ができそうだった。
しばらくして枝を取り出すと、焼きりんごができていた。
生のときよりも甘みが増している。柔らかな食感を楽しみつつ、葉月はソラにも焼きりんごを手渡す。
ソラは枝ごとりんごを吸収していた。時々体を震わせている。
なんだか嬉しそうに見える。
会話はできないが、葉月はだんだんとソラの感情らしきものがわかるようになってきている気がした。
「おいしそうだから、いいけどさ……」
ぷよりとソラがゆれた。
今日はゆっくりと眠りたい。その前に一仕事だ。
葉月はクラフトした木の桶に水を汲み、小屋に運び入れる。
「ソラ、ちょっと下りてくれる?」
ソラは素直に葉月の言葉に従った。
ぽよんと床の上に下り、ベッドのほうへと跳ねていった。
葉月は入り口の扉を閉め、服を脱ぎ始めた。脱いだ服は桶の中に投げ込み、一糸まとわぬ姿となった。
葉月は桶の中で服を洗濯する。とはいえ、洗剤がないので水洗いするくらいしかできない。
それでも洗わないよりはマシだと信じて、葉月は服を洗った。
「はあ、洗剤ほしいなぁ。せめてタオルがあれば体を洗って拭けるのに……」
葉月がため息をこぼすと、ソラがベッドの上から下りて近づいてくる。
ソラはぽよんと跳ねて、桶の中に飛び込んだ。
「ちょっと! ソラ?」
桶の水が跳ねて葉月にの顔に掛かった。
けれどソラはそんな葉月に頓着せず、桶いっぱいに横に広がった。
「え、え?」
ごにょごにょと動いていたソラがいつものボール状に戻った時には、桶の中の水がすっかりなくなっていた。
ソラの身体もサッカーボールからバスケットボールくらいの大きさになっていて、恥ずかしそうにぷよりぷよりと揺れている。
「も、もしかして、ソラが汚れを食べてくれたの?」
葉月が服を手に取ると、すっかり乾いていて、ふんわりとしている。
ソラが水一緒に汚れを吸収してしくれたようだ。
せっかく作った物干し台だったが、出番がなくなってしまった。
「ソラ、すごい! ありがとう!」
葉月は服を桶から取り出し、再び身につけようとしたところで、葉月の手にソラが飛び乗った。
「ん、なあに?」
ソラは葉月の手のひらに乗ったまま、突然ボール状からまんじゅうのような形に変化し、葉月の手に張り付いたかと思うと、再びボール状へと姿を変える。
葉月の手の濡れた部分が、ソラが触れていた部分だけ水分が完全になくなっていた。
「ソラってもしかして、体の表面の汚れだけって吸収できたりする?」
ソラはぷよりとゆれる。
おそらくこれは肯定の意味だ。
スライムに性別があるのかわからないが、スライムのスキルのお世話になるべきか、葉月は逡巡する。
体の不快さと羞恥心を天秤にかけ、便利さを取った葉月は思いきってソラに懇願した。
「お願い! ソラ、やっちゃって!」
ソラはぷよりとゆれた。
葉月が手を差し出すとソラが手のひらに移動してくる。葉月はソラを手に乗せたまま、体中を撫でるように動かした。
ソラが触れた部分が、見る見る間にきれいになっていく。
くすんでいた肌がたちまちきれいになった。
頭のかゆかった部分もすっきりして、美容院でシャンプーをしてもらったみたいな気持ちよさがあった。
葉月が恐る恐るソラを顔に近づけると、ソラの一部が口の中に入り込む。
一瞬息が出来なくなって慌てたが、すぐに口の中がさっぱりしてきた。
ソラは歯磨きまでばっちりするつもりのようだ。
体中の汚れをソラに食べてもらうと、すっきりとしていた。
お風呂に入るのとは別の爽快感があった。
「ソラ、すごいね。君がいればお風呂要らずかも」
ソラは照れた様子でぷるぷると震えた。
「よし、すっきりしたことだし、寝ようか!」
ふかふかになった服を身につけて、葉月はソラと一緒にベッドにもぐりこんだ。
異世界移住3日目
空腹度:●●●●●●●●●●
体力:●●●●●●●●●●
経験:Lv.23→24
従魔:ソラ(スライム:Lv.1→2)
称号:移住者 (かけだし)、豆腐建築士、臆病剣士、ソラの飼い主
スキル:土木:Lv.3、建築:Lv.1→2、農家:Lv.2、木こり:Lv.3、大工:Lv.3→4、採掘:Lv.2、調教:Lv.1→2、石工:Lv.1→2、料理:Lv.1 New!




