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第11話 シャンテのガチャ運は最高らしいですよ。

「ううん。私をさらったのは――」


「私でございます」


 二人の正面に立つタキシード姿の紳士。

 冷たい声と凍った雰囲気を纏ったその男は、否が応でも危険であると認識せざるを得ない。


「申し遅れました。私は暴食の大罪王『ムスカ』様の右腕、メンカルでございます」


 背中から巨大な鎌を取り出し、丁寧に腰を折って名乗ってからゆっくりとその上体を起こす。

 その姿に寒気を感じ、拓海が全身を身震いさせる。


 ――マズイ。こいつはさっき戦ったデネブとバテンの二人より強い。多分レベルが一段階……いや、一次元違う。


「シャンテ」


 恐怖にひきつった喉を無理矢理に起動させ、隣にいるシャンテにひっそりと話しかける。


「うん。二人で力を合わせれば……」


「いや、それでも無理だろう。次元が違う。多分さっきの奴らが束になっても敵わないぐらいだ」


 冷や汗を浮かべ、隣のシャンテに話しかける。その汗が額から頬を伝って地面にしたたり落ちる。


 ――多分どんなことをしても奴には勝てない。でもシャンテを逃がすことぐらいは出来るはず。


 油断なくメンカルを見つめながら、シャンテに見える様に苦笑いを浮かべる。


「どうすればいいの?」


「俺が隙を作るから、その時を狙って逃げろ。その後に援軍を連れて戻って来てくれ」


 拓海の狙いは一つだ。シャンテを逃がし、学園からの救援を待つことだ。


「では、死んで下さい」


 再び凍った声が二人に掛けられると同時に、10メートルはあったはずの距離から、メンカルが拓海の目の前に出現する。


「おわ!」


 咄嗟に右手で持つ剣を振り上げ、メンカルを退けようとする。しかし


「なるほど。さすがの反射神経ですね。確かにデネブとバテンでは、勝てないかもしれないですね」


 拓海の放った切り上げは、メンカルに容易く受け止められていた。いや、正確に表現するならば、メンカルの攻撃を拓海の剣で防御していたのだ。


「くっ! おらぁ!」


 徐々に巨大な鎌が拓海の剣を押していくのが分かり、分が悪いと踏んだ拓海がもう一方の剣で鍔迫り合いに終止符を打つ。

 しかし


「二刀流……ですか。それも自分の能力値の限界を超えての攻撃。なかなかですね。でも、その状態で精霊術を行使するのは、自殺行為ですよ」


「うるせえ! どのみち殺すつもりだろ? そしたら徹底的に足掻いてやるさ」


 拓海はただ剣を振り上げただけではなかった。

 先ほどのバテンとデネブを討った時に使用した精霊術による補助。自分の能力を上昇させて攻撃を行う方法だ。

 恐らくこの方法をとらなければ、今頃拓海の身体は真っ二つに両断されていただろう。その点から考えると、拓海の判断は間違っていない様に思われる。


「ぐはっ!」


 突然拓海が口から血を吐き、その場に膝を付く。メンカルの攻撃を受けたわけではない。

 限界を超えた力を使用すれば、その反動は自分に跳ね返るという事であり、その反動は徐々に自身の身体を蝕むことになる。

 付け加えて今は、先ほどの戦闘で受けたダメージが回復していないため、跳ね返ってくる反動は通常時よりも大きくなる。


「無理はいけません。あなたほどの人材でも、バテンとデネブを同時に相手すれば、ダメージは免れないでしょう」


「タクミ!」


 シャンテの悲鳴にも似た叫びが洞窟内に響き渡る。


「まだもう少しは大丈夫だ」


 拓海の言葉は強がりである。無理やりに作った笑顔をシャンテに向けるが、その表情からは余裕がないのは明らかであった。


「タクミ、私も一緒に」


「だめだ! もうちょっと待っててくれ。必ず逃がして見せる」


 拓海の頭の中では、既に結果は見えているのだろう。だが、ここを退くわけにはいかなかった。仮にここで拓海が負けても、ここで二人同時に殺されるわけにはいかないからだ。


 ――そりゃ、俺だってできれば死にたくない。でも


「ここで逃げてちゃ、男が廃るだろ!」


 叫び、再び全身に精霊術を行使する。しかし今度のそれは今まで拓海が使った精霊術とは違っていた。

 地、水、火、風と現在、拓海に使用可能な精霊術を全て凝縮してメンカルに突進する。


「なかなか面白い術の使い方をしますね」


 水の精霊術を駆使し、傷口の細胞を再生させることで、無理矢理に回復力を高めると同時に火の精霊術で体温を上昇、運動能力を限界まで引き上げる。

 更に風と地の属性を剣に与え、相反する属性を持つ二本の剣を重ねることで発生する、『相克』の効果で触れた箇所から消滅させる。


「あぁ! お前らの世界じゃ思いつかなかっただろ! これが科学の力だ!」


「カガク? なるほど、殆ど廃れた学問だと思いましたが、そのように使えば効果的だとわかりました。ですが」


 拓海の限界を超えた刃がメンカルに届くかと思われた、次の瞬間の事である。


「まだ、少し足らないようですね」


「タクミ!」


 ――何が起こった? 確か俺はスマホゲームをやっていたはずだ。なんで目の前が真っ白なんだ? もしかして気付かないうちに寝落ちしちゃったか?

 それはマズイな。寝ぼけて操作したら負ける可能性がある。確か俺が使ってたキャラクターは「召喚士」だったはずだ。

 ん? 召喚士?


「タクミ! お願い目を開けて!」


「ん……シャン、テ……」


「タクミ! 良かった生きてた」


 拓海の名前を呼びながらシャンテが抱き付き、涙に濡れた頬を押し当てる。


 ――今の一瞬、何が起きた? スマホゲーム――いや、大罪王の幹部「メンカル」と対峙中だったはずだ。

 それなのになんで俺は倒れてるんだ?


「大……丈夫……だ」


 そう言うと、足に力を入れ拓海が立ち上がろうとしたら膝から崩れ落ちてしまう。


 ――あれ? なんだ? 足に力が入らない。いや、足だけじゃない。体全体に力が入らない。ぎっくり腰? そんなわけない。何か別のものだ。


「無理しないで! メンカルに生命力を喰われた(・・・・)ばかりなんだから」


 ――生命力を、喰われた(・・・・)? どういうことだ? いや、この体中の脱力感は、生命力を喰われたから……ということか。


「おや? かなりの量を頂いたはずですが……なかなかどうして、あなたは生命力がかなり高いようですね? 実に喰らいがいのある方だ」


 メンカルが拓海に笑みを含んだ顔で、ゆっくり言葉を投げる。どうやら拓海の予想はあたっていたようだ。


「あいにく、しぶといのだけが取り柄でね。そう簡単にくたばるわけにはいかないんだよ」


 ――奴が生命力を喰うというなら、喰わせなければいい。ただ、さっき奴はどうやって俺から生命力を喰ったんだ? それがわからないと手のうちようがない。


 必死に頭を回転させ、気を失う直前のことを思い出す。


「では、その生命力の尽きるまで、喰らい尽くして差し上げるのが礼儀でしょう。あなたの生命力を食べたあと、そちらのお嬢様を連れて行けば良いのですから」


「だから、俺はしぶといのが取り柄なんだよ。そう簡単にやられるわけには……」


 そこまで口にした拓海だったが、再び膝から崩れ落ちそうになり、両手の剣を支えにしてどうにか踏みとどまる。


「無理はいけませんよ。そうして足っているだけでもやっとでしょう。おとなしくしていれば私が楽に食べてあげますよ」


 ――悔しいけどやつの言っていることは正しい。こうして立っているだけでもやっとだ。もう一度全属性の精霊術を使ってみるか?


 そう思いながら周囲に視線を移してみるが、目に映るのは白と紫、そして黒のオーブ。どうやら先ほどのメンカルへの攻撃で、他の属性のオーブは使い果たしてしまったようだ。


 ――三属性だけか。さすがに今あるオーブを全部使って精霊術を使っても、さっきよりも強力な攻撃ができる可能性は低い。元々あのバテンとデネブの兄弟と戦ったあとだ。もし俺のヒットポイントを見れるなら、多分間違いなく危険域(レッドゾーン)だろうな。どうする? おとなしくシャンテを渡すか?


「その様子ですと、万策尽きたといったところでしょうか? どうです? そちらのお嬢様を私に頂ければ今は見逃して差し上げますよ」


 メンカルの言葉は、表面上で言えば嫁をもらうための挨拶にも聞こえなくもない。しかし当然ながら、そんなロマンチックなものではない。


 ――どうする? 奴の言うとおり今はシャンテを差し出すか?


 シャンテに視線を移すと、両手を組みながら拓海の方をじっと見つめ、微かに口が動くのがわかった。


「……タクミ」


 ――ってそんなこと出来るわけねえだろ!


 シャンテの口が開き、そう言葉を発したように拓海には見えた。もしかしたらそれは拓海の名を呼んだわけではないかも知れない。

 しかし、それでも拓海の中で「シャンテを引き渡す」という選択肢をなくすには十分であった。


 ――考えろ! あがけ! 今ここにあるオーブで出来ることを。風のオーブでバリアを張りつつ地のオーブで精霊術を仕掛けるか? でも今のこの生命力だと使える力はたいしたことない。

 それならやっぱりさっきみたいに魔法連携(スペルコネクト)にするべきか?


 拓海が必死に周囲にあるオーブを見つめながら考えを巡らし、今あるオーブで精霊術の魔法連携にしようと思ったとき、拓海の視界に今までのオーブとは別のものが掠める。


 ――あれって確か!


 拓海の視界を掠めたオーブ。今まで見たオーブよりも鮮やかな色。果実用のような色をしたオーブは、今この場面で使うことを拓海に主張するように、三個だけ存在して宙に浮いていた。


「まだ諦めるわけには、いかねえ!」


 そう叫ぶと目の前に浮いているピンク色のオーブ、命のオーブに指を触れさせてイメージを集中する。

 拓海の体を柔らかな光が覆い、ケガが僅かずつだが塞がっていく。そして立つのがやっとだった拓海の体を


「完全とまではいかねぇけど、半分ぐらいは戻ったみたいだな」


 ――とはいえ、やつがどうやって俺の生命力を食ってるのかわからなければ、手の打ちようがない。それに命のオーブは今ので最後みたいだしな。


「……どうやらあなたを見くびっていたようですね。先ほどよりも強い生命力を感じます」


 メンカルが先ほどまでの余裕の表情を消し、油断なく拓海を見る。


 ――さっきよりも強い生命力? いや全然完全じゃないんだけどな。でも、いまのおれに出来ることをやるまでだ!


 拓海が目をつむって息を吸い込み、ゆっくりと吐き出してから、


「行くぜ」


 静かに呟き周囲のオーブを出し惜しみなく繋げ、イメージした精霊術を一気に解放する。拓海の体を三属性の淡い光が包み込み、そこに台風があるかのような暴風が巻き起こる。

 次の瞬間、拓海の体がメンカルの眼前に現れ、握っていた剣を頭上から振り下ろす。メンカルが身体を斜にして躱し左側、拓海の右側から手に黒い魔力を纏って攻撃を仕掛ける。

 拓海が身体を回転させてそれを躱し、勢いをそのままに左手の剣で横に一閃する。

 拓海の攻撃をバックステップでメンカルが回避し、距離を取ろうとしたところに拓海の精霊術、岩衝隆撃(ガイアクラッシャー)が追撃を仕掛ける。

 拓海が剣で突き刺した場所から大地が隆起しながらメンカルに襲い掛かる。


 ――捉えた!


 拓海がメンカルに決定的なダメージを与えたと確信した時、


「なかなかのコンビネーションです」


 静かにメンカルの声が聞こえた。次の瞬間


「効いていない……のか?」


 間違いなく今の拓海に使える中で、最大規模の精霊術による攻撃だったはずである。しかし、目の前のメンカルは、攻撃が当たる瞬間に追撃の岩衝隆撃(ガイアクラッシャー)を踏みつけ、力ずくで精霊術を破壊したのだ。


「いえいえ、直前に頂いたあなたの生命力がなかったら、今のはさすがに危なかったですよ」


「俺の、生命力?」


 メンカルの言葉に眉根を寄せると同時に、再び拓海の身体を脱力感が襲う。先ほどよりは大分マシな方ではある。しかし、拓海を襲った脱力感は間違いなく生命力をメンカルが喰った証拠だ。


 ――いつだ? いつ俺は奴に生命力を喰われた?


「いろいろ考えておられるようなので種明かしをしましょうか。私があなたの生命力を頂く方法は、私の身体があなたの身体に触れた場合です。今回はあなたの動きが異常に早く、なかなか触れることが出来ませんでしたが……指先一本だけ、間に合いました」


 メンカルがそう言って人差し指を拓海に見せると、触れたであろう箇所から黒い靄が立ち上っている。


 ――なるほど……つまり生命力を喰われずに倒すには、奴に触れられず攻撃を仕掛ければ良いってことか。単純な話だがいくら何でもそれは無理だ。それに、


 拓海が視線を自分の周囲に移し、精霊術を使う時に使用するオーブを確認すると、先ほどより数が大分減っているのが分かる。


「残りのオーブも少ないしな」


 拓海が現状を口にし、残ったオーブで何が出来るかを考えようとした時、


「視線を逸らすのは命取りですよ」


 拓海の視界にメンカルが姿を現した。瞬間移動と言っても差し支えない程の速さで二人の距離を詰め、冷たい笑顔を見せると同時に黒いオーラを纏った右掌を、拓海の左胸目掛けて打ち込んできた。

 打ち込まれたメンカルの攻撃は拓海の左胸に当たる……ことは無かった。メンカルの攻撃をシルフの風精障壁(ウィンドベール)が防いだからだ。

 同時に拓海の身体をメンカルから離し、攻撃の間合いから抜け出させる。


「お兄さん、大丈夫?」


 シルフが拓海の意識に語り掛ける。


「あ、あぁ。大丈夫だ。助かった。それよりもお前は大丈夫なのか? 俺は今意識して精霊術を使ってないぞ」


 拓海もメンカルから視線を外さない様にしつつ、シルフへと意識で語り掛ける。


「うん。大丈夫……って言うのはちょっと嘘。さすがに術者の意識外から力を使うのはちょっとキツイかも」


 本来なら精霊術師である拓海が意識して術を行うのに対し、メンカルの攻撃を防いだのはシルフの独断によるものだ。

 オーブを使用せずに、尚且つ精霊単体で術を行うのはかなりの無理があるらしい。その証拠に拓海の周囲から風の属性を示す白いオーブが消滅している。隣からは緑色の美少女、シルフの荒い呼吸が耳に届くように感じる。


「無理をさせてすまない」


 ――でも今シルフがいなかったら確実にやられていた。助かった反面、もうシルフの助力は無いと考えた方が良いかも知れない。


「くそ、一気にピンチだ」


 拓海の額を脂汗がじっとりと濡らす。


「今のはさすがに驚きました。まさか守護魔法に似た精霊術があるとは思いませんでしたから。しかし、その表情ですと今のが最後の様ですね?」


「いいや、俺は精霊たちに愛されてるからな。今は風の精霊が助けてくれたけど、次は別の精霊が助けてくれるさ」


 拓海の言葉は強がりである。確かに精霊術師は精霊の力を行使する。しかし、だからと言って全自動で精霊が守護してくれるわけではない。

 シルフが拓海を守ったのは全くの予想外の出来事である。


「そうですか。では次も守ってもらえるんでしょうか?」


 メンカルが不敵な笑みを浮かべ、全身から漆黒のオーラを放出する。


「では行きますよ!」


 放出していたオーラを両手に集約し、再び瞬間移動のような速さで迫り、その攻撃が拓海に当たるろ思われた瞬間、


「タクミ!」


 シャンテの声が響き渡り、周囲を眩い光が包み込む。

 徐々にその光が収束し、拓海の視界が回復した。


「今のは……。あれ?」


 回復した拓海の視界が捉えたのは、自分に向かって攻撃を仕掛けてくるメンカルではなく、


「今のは……まさか神獣を召喚したというのか?」


 拓海からかなり距離を離れて驚愕の表情を浮かべるメンカルの姿であった。

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