暗黒の三賢者
【前回までのあらすじ♡】
修羅暗黒刹鬼界に君臨し、圧倒的な魔力を誇る邪神サダーシヴァムの前に全世界がひれ伏す。
チート的な能力を誇る勇者といえども邪神の敵ではない。
絶対最強者たる邪神サダーシヴァムを脅かし得るもの、それは、毎日数時間クソ重たい甲冑を着込んで汗まみれになるせいで悪化の一途をたどるインキ●タ●シのみであった。
今、そんな無敵の邪神サダーシヴァムの覇権に、一抹の影が差そうとしていた。
アマゾ●から配達されたばかりの、邪神の愛してやまない鬼畜系エロゲー「ラブエボ」が、邪神の側近である三賢者の手に渡ってしまったのだ。
通販で購入したエロゲーを家族に受け取られてしまうのも切ないが。
部下に受け取られてしまうのはもっと切ない!!
邪神サダーシヴァムの威信に危機が迫る。この、ある意味最大の危機を邪神サダーシヴァムは見事切り抜けることができるのか!?
広さのわかりにくい空間だった。
闇よりも暗い闇に浸された濃密な空気は、あらゆる音を即座に吸い取る。
吐息ひとつで人間の町を吹き飛ばしてしまえるほどの力を持つ最強魔人どもの大音声でさえ、乙女の囁き程度にしか響かない。
不思議な静寂に満ちたその空間に、邪神サダーシヴァムの側近中の側近である三人の魔人が雁首を揃えていた。
劫火のラルヴァンダード。
狂飆のホルミスダス。
偏愛のグシュナサフ。
魔人たちの真ん中に置かれているのは、銀の円盤と、その円盤が収められていたケース。そしてケースに同梱されていた謎の文書であった。
魔人たちにとってはすべてが謎だった。
あきらかに強大な魔力を内包していると知れる銀の円盤は、彼らの困惑をせせら笑うかのように、闇の中でもその完全無欠の曲線を誇っている。
ケースの中に収められていた文書が、彼らの困惑をいっそう深めていた。
人間の男と、獣耳の女が、衣服をほとんど身にまとわない状態でからまり合っている。そのような絵がいくつも描かれている。
獣耳の女はすべて、不自然なまでに巨大な脂肪の塊を二つ、胸にぶら下げている。
三賢者の知る限り、このような特徴を持つ種族はこの世界に存在していない。あからさまに何らかの意図をもって、見せつけるように、強調するかのように描かれているこの謎の脂肪の塊に、いったい何が秘められているというのか。
「なぜ、このようなものが閣下のもとへ……?」
重いつぶやきが、彼らの口から洩れた。
――深慮遠謀という言葉を絵に描いたような賢明で思慮深い閣下のことだ。これはきっと憎き人間どもを一撃で打ち払うための何らかの新しい呪術の道具に違いない。この文書は、呪術を成就させるための方法を説明したものだろう。
そして呪術の発動の鍵となるのがおそらく、この異形の脂肪の塊だ。絵を見る限り、人間の男はこの塊に様々な方法で触れている。この手順が呪術発動のシーケンスを表しているのだろう。
部下たちに世界中を探させ、このような巨大な脂肪の塊を持つ生き物を見つけ出して閣下に献上すれば、きっと喜んでいただけるに違いない。
と、堅物の《劫火のラルヴァンダード》は考えた。
――獣耳と巨大な脂肪の塊を持つこの種族に見覚えはないが、きっとこれが閣下とつながりのある隠れ貴族、《オーンラインの血族》なのだろう。
私が誰よりも早くこの《オーンラインの血族》を見つけ出し、取り入ることができれば、閣下の覚えもめでたくなることだろう。出世のチャンスだ。この機会に、ラルヴァンダードやグシュナサフを出し抜いてみせる。
絶対に、誰にも知られず、この獣耳種族を探し出してみせようぞ……!
と、狡猾な《狂飆のホルミスダス》は考えた。
――や・だ・わ♡ これっていわゆる人間の男が大好きなアレよね。『英雄色を好む』とは言うけど……邪神様も好・き・ね♡
こういう女が閣下のお好みなら。
私の部下の中から適当に見つくろって、閣下に献上いたしましょう。
けれども邪神様は常にエナジードレインを発動させておられる……並大抵の者では、おそばに控えているだけで、あっという間に生命力を枯渇させられてしまう。
邪神様に献上するのであれば、最強の生命力を持つヘルドラゴンかダークモルボルぐらいでなくちゃダメよね♡
さっそく今夜にでも、家柄の良いドラゴンの処女を邪神様の元へ差し向けましょう。邪神様はおっぱい星人のようだから……私の魔術で、ドラゴンにおっぱいを十個か二十個ほど付けて差し上げればいいわね。きっと喜んでいただけるわ!
と、色々やわらか過ぎる《偏愛のグシュナサフ》(♂)は考えた。
完全に勘違いしてしまった邪神サダーシヴァムの側近たちの暴走が始まる――!