闇貴族の陰謀と邪神の凶宴
OHHHH!!!!
Aaaaaaa!!!!
盾と盾を打ち鳴らし!!セスタスとセスタスを打ち合わせ!!槍の底で地を突き!!銀の剣を掲げ!!はためく旗槍!!輝く鉄!!
興奮気味の私の感嘆の声すら地を振るわす喧騒の中に飲まれてしまう。
「凄まじいな!!さすがは邪神様!!過去これほどまでに我等の士気が上がったことがあろうか!!」
この勢いならば血塗れ月レニ・ヴェルサーレが欠けるまでには人間の大陸は更にもう一つ我ら魔族のものとなろうぞ。
しかし邪神様、凄まじい威厳だ…最果ての地エルロンドの賢者の石の如く動かず見守っておられる。
あちい…
おいおいおいふざけんなよこいつら暇かよ。
いや、忙しいのかよお前とか言われたら誠に残念ながらエロゲー攻略するだけなんだけどよ。
やかましいわ俺にとっちゃ仕事みてえなもんなんだよ。
しかしこいつら半端ねえよ。パレードでもなんでもねえよこんなのひたすら武器と武器ド突き回して叫んでるだけじゃねえか。
こんな調子で三時間半とかバカだろ。
すでに俺の鉄の掟毎日一時間労働が破りに破られている。
この鉄の掟は自分を戒めるものでありながら時として自分を庇護するためのモノなのだ。
二時間半も残業しちゃってるよ俺。
投影魔術が出来ないことはない。一応全ての魔術を指先一つで扱えるのが邪神だからな。
けどよくあるだろ?魔術ってレベル上げ過ぎると変質するんだよ。
威力だけが取り柄の魔法とか最大になると自動追尾とか始めちゃうし、相手のステータス読み取るだけの魔法だったはずなのに勝手に弱点まで洗いざらい弾き出すようになるし…
で、投影するとどうなんだよって事なんだが勝手に軍隊率いて人間の大陸を攻撃し始めちまう。
俺本来の役割を折れの何倍もこなしてくれるわけだぜ。
俺は征服には興味がない。とりあえず一日一時間だけ甲冑着込んで玉座座ってリア、違う違う勇者共を焼き払う。
そしてとっとと寝室に籠ってエロゲーだ。そして何重にも登録したオンラインゲームもやらなくてはならない。
オンラインもばっちり届いてるぜこれも一重に俺をこ――以下略
「邪神様!!兵士達に何かお言葉を…」
マジかよ。何言ってんだ参謀この野郎。コイツをクビにしてとびきりぴちぴちのを秘書にしてえ…
もう今なんか言えって言われてもあちいかだりいか帰りてえしか出てこねえよ。
俺は大勢の前で話すのが苦手だ。そりゃ当然だ。俺が前の世界で一番大人数を前にした瞬間と言えば環境美化委員会の委員長に欠席している間にされた時くらいだ。
その演説の日が俺の最後の登校日になったがな。
「あ、あ、あ、――
地声で話すだけなのにどもってマイクテストみたいになっちまった。
ふざけんな俺が堂々と喋れるのなんて最新の体感型エロゲーぐらいだっつーの。
「ら、ラ、ラブエボ」
終わった。
あまりの緊張で今日届くはずのエロゲーのタイトルを口にしちまった。こいつらどうせ知りもしねーからいいけどよ。頭領があほだってばれたらやべえだろうが。
俺は甲冑の外皮の様に垂れるマントをばさりと片手で翻して背を向けた。
「全大陸を我らが眷属のモノに…」
OHHHHHH!!よし、必要以上に盛り上がったぜ。後ろむけば呟く程度には喋れるからな。あんまり張り切らねえで欲しいけどな。
そのまま俺は宮殿の自室へと歩く。
ゴツゴツゴツ…ああ、重え、マジ重ぇ…魔力体力全てMax突き抜けているとはいえ一重に魔術のせいであって俺自身のステータスはほぼほぼ変わっていない。
こんな全身分掻き集めたら軽く30キロぐらいになりそうな鎧来てたら膝ががくがくして当然だ。
ゆえに俺は一時間仕事をしている時も玉座で待ち構えているのだ。
くそがあ…甲冑がじとじとしている。とっとと脱いで洗濯させよう。
そして抱き枕とパソコンを我が手に…
一度スマホで時間を確認する。あと三十分か…結局四時間近く仕事しちまったな…こっちのやつらは血の気が多すぎて困るぜ。
邪神様のお声を聴けたのは一度だけか…まあ仕方あるまい。
む?なんだあれは?
私は間者の様なモノを発見した。浮世離れした着物を着た男。どうやら人間の様だ。ワイバーンでも馬を駆るでもなく歪な四角いモノに乗り込んでいる。
これはなにやら怪しいぞ…
「貴様!!我らの宮殿に何ようだ!!」
「あ、すいません、このあたりだと思うんですけど、邪神様ってどこにお住まいですかね?お題はオンライン決済なんでモノだけ」
「なにい?!オーンラインの血族だと?!」
邪神様とつながりのあるほんのわずかな隠れ貴族は存在すると知ってはいたが…
「あ、そうっす。オンライン決済なんで渡すだけっす」
「私がサダーシヴァム様に直々にお渡ししよう…」
私は凄みを聞かせて邪神様の息の掛かった血族であるフリをした。
私が手を差し出すと人間はひょいと奇妙な四角い乗り物から小さな包みを取り出し手渡した。
「あ、じゃあお願いしますね。助かりました。広すぎんだもんなあ…」
男が頭を下げて視界から消えると同時に私は紙包みを広げた。
なんだこれは?
表面には銀の刻印の施された箱だ。中央の絵は獣耳の女が3、4人大きく書き出されている。
これはつまり…
ふあああ…大きく伸びをして首を鳴らす。
っっかしーな…来ねえなアマ○ン。