邪神サダーシヴァムの優雅な日常
この世界での俺はヴァータムップ・シャクティ・サダーシヴァム十三世。
人間と魔物との戦いが果てしなく続くこの世界で、魔物の軍を統括する絶対最強の最高司令官、それが俺だ。
まばたきしただけで山一つをケシ飛ばせるほど強大な魔力を保持する俺に、逆らう者など誰もいない。
俺は気ままで快適な異世界ライフをエンジョイしていた。
車に轢かれてこの世界へ転生する前のことなど、思い出したくもない。
前世では紫堂 悠斗という名前を持っていたが、そんな名前に特に未練はない。
転生するまでの俺の三十年間は、はっきり言って、パッとしないの一言に尽きた。
今の生活は、まるで天国だ。
(いや、厳密に言うと、天国ではなく修羅暗黒刹鬼界と呼ばれる異界だが)
誰はばかることなく、広々とした居室でベッドに転がり、一日中スマホで動画を見たりゲームをしたりしていられる。
(不思議なことに、異世界でもスマホには電波が届いているのだ。そしていくら使っても充電が減らない。俺をこの世界へ転生させた女神トーデスアイリスの力だろう)
通販で取り寄せたラノベや漫画をベッドの周りに山と積み上げ、気ままに読みあさる。
(不思議なことに、アマ●ンで注文した商品は異世界にも届くのだ。送料も無料のままである。俺をこの世界へ転生させた女神トーデスアイリスの力だろう)
すばらしいのは、こうやっていくらゴロゴロしていても、「いい加減に仕事を見つけて自立してほしい」という親の無言のプレッシャーを受けることもなく、自分一人が世界から取り残されているような焦りを感じることもない、ということだ。
俺は絶対最強無敵の邪神様なのだ。存在しているだけで偉くて尊い存在なのだ。
まっ昼間からアニメキャラの抱き枕に顔をうずめて転がっていたとしても、誰にも文句は言わせない。
最近●マゾンでパソコンを取り寄せたので、それ以来何時間もぶっ続けでエロゲーにひたるようになったが、誰にも批判は許さない。
(不思議なことに、俺の居室にはコンセントがあって、ちゃんと電気も来ているのだ。だからパソコンもゲーム機も使える。俺をこの世界へて[以下略])
俺の生き方に口を出すような奴は、黒き炎で一瞬で蒸発させてやる。
とは言っても。邪神たる者、邪神としての務めを果たさなければならない。四六時中遊んでばかりいるわけにはいかないのだ。
「閣下がお出ましになってくださらなければ軍の士気に関わります!」
と側近たちにせっつかれるからだ。
人間たちとの戦争で、魔物は完全に優位に立っている。俺の部下たちは世界各地で順調に人間の軍隊を蹴散らし、町を蹂躙し、国を滅ぼしている。俺が出ていくまでもないだろう、と思うのだが。
どうもそういうわけにはいかないようなのだ。
はっきり言って、俺は仕事をするのが嫌いだ。
高校を中退してから何度かバイトをしたことがあるが、一か月以上続いたためしがない。二十歳を過ぎてからはバイトさえもしていない。せいぜい、親に言われて仕方なく、単発の力仕事をやったことがある程度だ。それも二、三回。
働かずに済むのに働くような奴はアホだと思っている。
残念なことに、邪神といえども、勤労の義務(日本国憲法第二十七条)から逃れることはできない。もうとっくに日本国民じゃなくなってるというのに。
だから俺は一日のうち午後の一時間だけ(スマホのアラーム機能で時間を管理している)、邪神としての仕事をする。
宮殿を取り囲む結界を解除し、俺を狙う人間どもが自由に立ち入れるようにしてやる。
そして片っ端から焼き払うのだ。
勝ち目がないことはわかっているだろうに。俺を倒そうとする連中は次から次へと現れる。
チートな能力を備えた転生勇者。
勇者以外の職業(場合によってはモンスター)に転生してしまったがチートな能力を備えている転生者。
チート能力は備えていないが、小賢しい悪知恵とご都合主義な運の強さを武器にのし上がってきた転生者。
恋愛の片手間に魔物を倒そうとする頭の軽い悪役令嬢。
みんな、等しく、焼き払ってやる。
いや……「等しく」ではないな。
男としての器量も大して持たないくせにハーレム美少女軍団を引き連れてるようなリア充転生者は、特に念入りにじっくり焼いてやる。楽には死なせん。