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プロローグ

 くしゃみした。

 宮殿は轟轟と軋み揺れざわざわと嵐のような叫び声が何重にも届いた。

 視界を迫らせると宮殿の入り口に陣を張った来訪者どもが結界か!と騒いでいる。

 お、そんな時間か…

 招き入れてやるとするか。

 俺は指先で虚空をなぞると入口の結界を解いてやった。

 宮殿内に張り巡らせた魔力網を伝わせ家臣達を退避させる。

 しかし!と返す声を遮断した。

 ぞろぞろぞろぞろ、岩の様な甲冑を着込んだ大男を先達にして細身の典型的なローブを纏った魔導士が数人と数か所にギラギラと輝く甲冑を纏った騎士が数人。

 大男の大斧も、光り輝く甲冑を纏った男の大剣も、細身の魔導士の持つワンドも、いずれも人の手で作られたモノとは思い難い波動(オーラ)を纏っている。

 「神時(ジャムブウル)と共に眠る勇牙(アーク)か…大したものよ」

 俺が感嘆の声を上げるとズッと勇ましく行進を止めなかった勇者達は足を止める。

「私は王下七有志銀爪おうかななゆうしぎんそうのロベルト!」「同じく破門のガイラルディオ!」「神杖のフィサリス」

 最後に名乗り出た精悍な顔付の勇者は剣を掲げ誇りを前面に出す。

「輝剣のイグニス!!邪神!!貴様を屠り、世界に希望を取り戻す!!」

「フハハハハハハハ!!」

 俺は思わず甲冑に潜ませた口元を牙を剥く様に釣り上げた。

「余を倒すか、フッ、そうかそうか」

「姫はどこだ!!貴様がガラディン王国から攫った姫を返してもらうぞ!!」

 そう急くな。俺は低く、唸ると玉座の隣に腰掛ける姫を見た。

 捻った頭部の甲冑をゆっくりと元の位置に戻す。

「まあ、そのあれだ。こちらがエレンディーン姫だ」

 なに?!一行は俺の戻す前の視線に視点を終結させた。

 ものの見事に服だけ大陸の王宮ドレスを纏った死骸が腰かけていた。

 もちろん絶命している。

 勇者たちは俺の言葉を信じはしなかった。当然だ。惨殺されているのならまだしも俺が姫を攫ったのは血濡れ月(レニ・ヴェルサーレ)がその身を半ばほど浸して満ちるまでの間だ。

 攫った姫が屍になるまでとしては短すぎる。

「余のエナジードレインは常に他の生から搾取し過ぎるのだ」

「貴様!!」「邪神め!!」

 そんなことを言われても困るのは俺の方だ。

 俺自身思いもしなかった。このわずかな間に姫が金糸の髪の毛以外、一切生前の面影を感じさせない醜い屍になり果てているとは。

 うむ、攫わせたときはそれなりだった気がするが。今更俺に怒号を浴びせたところで姫が生気を取り戻すわけではない。

「いいから来い!!余を倒すがいい!!」

 イグニスの掲げた長剣が勇者全員の掲げる勇牙(アーク)の魔力を帯びて光り輝く一振りの大剣となって見せた。

「邪神め!!」「貴様さえいなければ!」「穢れを払ってやる!!」

 ハアアアアア!!!イグニスは俺に向かって踏み出した煌々と輝く長剣を振り被り、雄叫びと共に俺への距離を詰める。ビリビリと勇者達の掻き集めた魔力が俺を圧した。

 大した気だ…これは…

 邪炎神技・煌轟禍覆殺ルーデヴォルグ・アイダギオニ

 指先一つ動かすことなく溜めた魔力、詠唱破棄!

「うるせえクソ勇者がああ!!」

 俺のはなった炎は宮殿内を這い回る様に侵略し尽くし、瞬きの間に勇者一行は勇牙(アーク)ごと消炭になった。

 これが俺の仕事だ。

 生命の欠片一つない宮殿を見回し俺はようやく玉座から立ち上がった。

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