本編 其ノ終 -二人の始まり-
全てが終わって拝殿から出ると、彼女が待っていた。
深々と雪の降り積もる中、傘もささず、どれだけ私のことを待っていたのだろうか、そのポニーテールを結った頭には雪が積もっていた。
私はその側にゆっくりと歩み寄る。
「終わったみたいだね」
「ええ・・・全部、終わりました。白木カレンは、真白様の許へと行きました」
「そう・・・」
その顔には、その頬には涙の跡が残って、目も少し潤んでいた。
私は彼女の頭を撫でるように優しく積もっていた雪を落とす。
「・・・座って話さないかい?立ちっぱなしで疲れちゃったよ」
「そうですね」
境内にある屋根付きの休憩所へと歩いて、二人横並びで椅子に腰掛ける。
その時に、マナーモードにしていた携帯に父から着信があった。
治の意識が戻ったとのことで、生まれて始めて聞くあわあわした父の声に私もあわあわしてしまった。
「・・・」
「・・・」
私も彼女も何も話さない。ただ静に、降り積もる雪を眺めながら時が過ぎる。
「何も聞かないんだね、東雲くん」
「・・・一つだけ、聞きたいことがあります」
「なんだい?」
「貴女の、本当の名前を教えてください」
「・・・楓、私の本当の名前は夏野楓だよ」
私は彼女の手を握る。彼女はそれを拒まない。
その手は冷え切っていて、とても冷たかった。
私は正面を見ながら、呟くように、口を開く。
「楓さん。私は貴女が好きです。私とお付き合いして頂けませんか?」
怯えたような、恐れているような感情が、握っている彼女の手から伝わってくる。
「・・・本当に、私なんかで良いのかい?幻滅しただろう?私はクズだよ」
彼女の声は震えて、今にも泣いてしまいそうだった。
私は握る手に力を込める。
「貴女が自分のことをクズだと思っていても、それと私が貴女を好きなことと何の関係もありません。私はそんな貴女が好きなのです。ずっと一緒にいたい、貴女をずっと抱きしめていたい」
言い終えると、彼女の手から力が抜けて何処か可笑しげに笑い出した。
「ふっ・・・ふふっ・・・ふふふっ・・・キミ、実は何処かのゲームから抜け出してきた王子様なのかな?」
「いいえ。私は現実で生きている、ただの学生です」
笑って緊張が解けたのか、彼女の雰囲気が丸くなった。
「生きていれば、良いことがあるっていうのは、本当だね・・・カレンに、感謝しなくちゃ・・・」
被せるように握っていた私の手に、ゆっくりと指を絡める。
「キミがカレンに連れ去られそうになったとき、私はとても怖くなったんだ・・・それに、覚えているかな?始めて部室でキミと合った時、私は何回かキミを校内で見かけたことがあるって言ったのを」
「はい」
「他の人は違うかもしれないけど、私はね、興味の無い人間の顔なんて何回見たって覚えないんだ。つまり・・・キミにカレンが憑く前から、私はキミに一目惚れしていたんだよ」
彼女は深呼吸すると、私の手をぎゅっと握る。
「私も・・・貴方のことが好きです。校内で一目見たときから、あの部室で合う前から貴方のことが好きです。東雲早雲さん。こんな私で良ければ、お付き合いさせてください」
「・・・喜んで、夏野楓さん」
深々と雪の降り積もる境内で、握り合った二人の手は、もう冷たくなかった。
体も心も、二人の想いも、全てがただ、温かかった。




