本編 其ノ二十二 -アイの救い-
拝殿に歩み寄って扉に手を掛けると、スルスルと引き戸が開く。鍵は開いていた。
普段ならばこの絶対神域は厳重に施錠され余人が入り込む余地など年に二回しかないだろう。なのに今は鍵が開いている。何も不思議は無い。私はこの鍵が開いているだろうと思っていた。開いているのだろうと心の何処かで感じていた。
姿勢を正して深深と頭を下げ、靴を脱ぎ拝殿へと入り扉を閉める。
本殿幣殿拝殿が繋がって一体となっている明かりのない薄暗い内部を一歩一歩ゆっくりと進む。
そのたびに板張りの床がキシキシと音を立て、内部の厳かさをその静寂さを引き立てる。
キシ キシ
目的の幣殿は拝殿と本殿の中間にある 神様への幣帛が奉奠される場所
私の予想が確かならば 幣帛の他に捧げられているものがあるはずだ
キシ キシ
キシ キシ
キシ
足が止まる 幣殿の幣帛が捧げられている台の前に 六段程の階段があり その階段の上には御簾が掛かっている
そうだ
あれが本殿だ
あの御簾の中に
真白様の御神体が御座す
真白様が御座す
真白様がいらっしゃるのだ
人に生まれ 死して人に非ざるモノとなり そして神となられたお方が
あの御簾の中から来日の子を見守っておられる 四百年間もずっと ずっと
それはなんというお優しさなのか なんという御心なのか
麗しき御神体が御座す御簾から本殿へと繋がる階段の下へと目を移す。
幣帛が捧げられている台の手前に床の上に、上質な白布に包まれた六寸程の箱が置かれている。
私はその箱の前に行き、床にゆっくりと両膝をつけると、その箱に手を伸ばした。
高鳴る胸の鼓動を、振るえる腕を抑えながらゆっくりと、丁寧に、女性の服を脱がすように白布を解く。
スルスルと布を外すと、中から桐の箱がでくる。桐箱の蓋を丁寧に開けると、中には白磁の壷が入っていた。その壷の円形の蓋の上に、昨日読んだあの手帳から切り取ったと思われる紙切れが一枚乗せられている。
その紙切れには
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来日の子 白木カレン 此の神社に坐す 掛けまくも畏き 真白姫神の大前を 拝みまつりて 恐み恐みも白さく 穢れたこの身で 穢れた魂で 貴方様の御側に侍ることをどうかお許しください どうか私が条理から外れ現世に留まることをお許しください 私は消えたくないのです 私はどのような形でも在りたいのです どうかこの願いを御赦しください
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「・・・」
その白木カレンの嘆願文を畳んだ白布の上に置くと、両手を添えて、ゆっくりと白磁の壺を桐箱から取り出して、その壷の表面に掘られた諡を確認する。
白木カレン姫□
命と続くであろう文字の所には、鋭利なモノで何重にも引っ掻いたような痕で削り消されていた。
ここに遺骨を置いたのは、恐らくおキヨさんか・・・もしくは・・・
ずっとここに遺骨を置き続けるわけにはいかない。少なくとも年に二回は一時的に持ち去るか隠しておかねばならない筈だ・・・でなければ遺骨があることが村人達にバレてしまうから・・・
「アイ文の白いヤツは・・・その正体は・・・白木・・・カレン・・・」
その名を口に出したのと同時に小さな爆発が起こったような暗い感覚が迸ると、私の眼前にヤツが現れた。
全身真っ白な
真っ白い服を着た
真っ白な肌の
真っ黒な爪の
白黒の左目をした
薄幸の哀れな少女
アイ文の執筆者
消えることを恐れ
祓われることを拒み
人ならざるモノとなりながら
未だ人の温もりを追い続けるモノ
白木カレン
その白黒の左目で、膝を付いて遺骨を見つめていた私を声もなくジーッと見下ろしている。
「やぁ・・・これはキミの骨だろう?白木カレンさん」
「・・・」
あの手記を読んで、そしてこの神社の中に入って、何個か分かったことがあった。
ヤツから私に流れ込んできた泥。これは泥ではない。泥のようなものだが、正確に言えばこれは穢れだ。白木カレンの持つ穢れが、接触したことで私に流れ込んできたのだ。だから私は今、白木カレンと繋がっている。流れ込んだ穢れから伝わる彼女の心が分かる。
だからこそ、私はとても切ない気持ちになる。胸が痛くなる。
コイツは、白いヤツは、白木カレンは、今喜んでいるのだ。
狂おしいほどに歓喜している。純粋な子供のように喜んでいる。
ウレシイ ウレシイ アイニキテクレタ ワタクシニアイニキテクレタ
彼女から伝わってくるその思いの奔流が私の中で渦巻いている。
思えば私が彼女に触れた夜に来たアイ文の内容も「触った嬉しい」だったじゃないか。
白木カレンは、その不幸な人生の中で、ただの一度も人を恨んだことがない。
誰かを呪ったこともない。ただ触れて欲しかった。側に居て欲しかった。消えたくなかった。ただそれだけだったのだ。
ワタクシノ ソバニ イテクレル ワタクシヲ ウケイレテクレル ウレシイ
その冷たい真っ白な手が私の両頬に触れる。
「あ・・・ああ・・・あああ・・・」
病院の間接的な接触時とは桁違いの、圧倒的な量の穢れが身体に流れ込んでくる。
身体と精神が焼き切れそうになる。
その流れ込む穢れは、白木カレンの想いだ。
覆いかぶさるように、ずっと待っていた恋人のように私を抱きしめる。
その想いがもっと深く、もっと鮮明に私に流れ込む。
それは、全く穢れていなかった薄幸の少女の、たった一つの勘違いで、本当に穢れてしまった、白木カレンの想い。
それは穢であって愛であって哀であって相である想い。
彼女は、白木カレンは穢れてなんていなかった。
だが、白木兼家がかけた「お前は穢れている」というこの呪いの言葉が、彼女を本当に穢れた存在にさせてしまった。
穢れとは何か?
穢れとは 死であり 病であり 血であり 不浄であり 気枯れであり 心の持つ闇。
ならば白木カレンは一体何時穢れたのであろうか?
肌白く生まれてきたときか?
ずっと座敷牢で過ごしていたときか?
死を求めていたときか?
消えることを恐れたときか?
病で死したときか?
人の温もりを求めたときか?
違う、生まれながらにして穢れているモノなんていない。生まれながらにして魂が穢れているモノなんていない。
白木カレンは死して、死の穢れを祓われることを拒み、命になることを拒み、死の穢れを持ったまま死霊となったことで本当に穢れてしまった。
穢れをアイを撒き散らすモノとなってしまった。彼女が抱いていた想いは純粋で悪意が無かったのに、その死して身に纏った穢れが彼女を悪意の塊のようにしてしまった。触れられたいと想って人に手を伸ばせば、触られたモノはその穢れを移されてしまう。抱きしめられたいと想って人に抱き着けば、抱きつかれたモノは心と精神がその穢れに耐え切れない。
だが、この白木カレンという存在を心から受け入れることが出来れば、治のように意識を無くすことにはならない筈だ。
何故そう思うのか?彼女を白木カレンを受け入れるという選択を選んだ場合の答えを私は知っていたから。
だから、白木カレンを、アイ文を、穢れを、全て遍く尽く受け入れて白木カレンと生きていくならば、治のように意識を失わず、昏睡状態にもならなくて済む。
彼女を祓わないでも済む。
本当のことを言えば、私は別に受け入れても良かった。
この哀れな少女を受け入れても、良かった。
だけど、それはダメだ。
私は治の兄なのだから。
私は家族を愛しているのだから。
そして、その家族への想いを、もっと強く紡いでくれたのも、また彼女なのだ。
それに、私は白木カレンに触れてしまった。だから今こうなっている。
治に憑いた白木カレンに触ったのは私の過ちだ。
私が彼女に触れてしまったせいで、彼女に希望を抱かせてしまった。彼女にぬか喜びを与えてしまった。彼女の言うとおりだった、触ってはいけない。そうだ、どのような理由があるにせよ、触れてはならない。触れ合うとは、最も重い行為なのだ。
だから私は、自分が犯した罪の償いを、自分の身に合った方法で埋め合わせをしなければならない。
私が今からしようとしていることは、捨てられて泣いている子供に手を差し伸べて、希望を抱いてその手を握り返して笑顔を向けたその子の手を、叩き落とすような最低の行為だ。
けれども、私はそれを今から行う。
それが私の償いであるのだから。
それに、私は彼女に教えてあげなければならない。
キミは穢れていないよと。
キミは消えてなくなったりはしないんだよと。
キミは命になっていいんだよと。
「・・・ごめんね、カレンさん・・・ボクは、キミを受け入れることはできないんだ。だけど、キミの絶望を取り去ってあげることならできる。今のキミは、穢れを纏っているけれど、キミの魂は穢れてなんかいない。だから、祓い清められても、キミは消えたりなんてしない。だから、真白様の御許へお行き。キミは、命になって、いいんだよ」
確かな意思を持って千切れそうな意識を振り絞り、私は紙袋に丁重にいれていた、今朝女将さんから貰った榊と半紙で作った玉串を取り出す。
それを見た白いヤツの表情がハッと変わり、覆いかぶさるように私に抱き付いていた状態から飛び退く。
私は、その玉串をゆっくりと、神前に捧げる。
「東雲早雲、真白様の御前を拝み祀りて、畏み畏みも白さく。どうか、この白木カレンの魂が祓い清められんことを、この白木カレンの御霊が安らかならんことを切に願いもうしあげ致します」
そうして私はゆっくりと全てを祓い清める祝詞、大祓詞を真白様に奏上する。
母から家庭祭祀を任され、月に二回、神々への感謝の念を持ってこの大祓詞を神棚へと奏上し続けてきた。
だが今は、八百万の神々にではなく、ただ一柱、ただ一人、真白様へ、そして白木カレンが為にこの祝詞を奏上する。ただ、ただ、この哀れな少女の魂が祓い清められんことを切に願って。
「高天原に神留まり坐す 皇親神漏岐 神漏美の命以て 八百万神等を神集へに集へ給ひ 神議りに議り給ひて 我が皇御孫命は 豊葦原瑞穂国を 安国と平けく知食せと 事依さし奉りき」
ヤツが、白木カレンが動揺している、恐れ戦いて、声にならない悲鳴を上げている
「此く依さし奉りし 國中に 荒振る神等をば 神問はしに問はし賜ひ 神掃ひに掃ひ賜ひて 語問ひし 磐根 樹根立 草の片葉をも語止めて 天の磐座放ち 天の八重雲を 伊頭の千別きに千別きて 天降し依さし奉りき 」
カレンは必死でこの祝詞から逃げようとしているが、遺骨がここにある限り、何処へも逃げられない。この遺骨こそが、白木カレンのアイ文の白いヤツの本体なのだから。
「此く依さし奉りし四方の國中と 大倭日高見國を安國と定め奉りて 下つ磐根に宮柱太敷き立て 高天原に千木高知りて 皇御孫命の瑞の御殿仕へ奉りて 天の御蔭日の御蔭と隠り坐して安國と平けく知ろし食さむ國中に成り出でむ天の益人等が 過ち犯しけむ種種の罪事は」
祝詞を奏上するにつれ、ヤツの身体から白い煙が上がり始める。
これが祓い清められているということなのだろうか?私にはそうなのかは分からない。
ヤツが必死に身体を捩って苦しんでるさまだけしか分からない。
「天つ罪國つ罪許許太久の罪出でむ 此く出でば 天つ宮事以ちて 天つ金木を本打ち切り末打ち断ちて 千座の置座に置き足らはして 天つ菅麻を 本刈り断ち 末刈り切りて 八針に取り辟きて 天つ祝詞の太祝詞を宣れ」
のた打ち回るヤツは私の後ろにくると、腰に縋りついて私の顔を見ながらイヤイヤと首を横に振る。
その白黒の左目からは赤い涙が止め処なく流れている。
「此く宣らば 天つ神は天の磐門を押し披きて・・・」
腰に縋りついてイヤイヤと必死に首を振る、この白い子が、白木カレンが哀れで涙が止まらない。
涙で祝詞が続けられない。
子供が必死で親にしがみついてやめてと懇願するようで、とても振りほどくことなんて出来ない。
そうだ、この子にいったい何の咎があるというのだろう?
この子は、ただ愛されたかった、ただ抱きしめられたかった、一人ぼっちがイヤなだけなのだ。
私と同じだ。
愛されたかっただけ、一体その気持ちがなんの罪になるというのか?その想いが罪になるというのなら、この世の人間は全て科人じゃないか。
昨日の別れ際に見せた何処と無く嬉しそうなこの子が頭から離れない
きっとこの子は昨夜期待して私と別れたのだ 私がキミに明日会いに行くよと言ったから 自分を受け入れてくれるものだと思ったのだろう
私はなんて酷いことをしてしまったのだろうか 期待を持たせてただそれを踏み躙ってしまった 白木兼家と同じだ 最低な行為だ
思えば、この子は私に何か直接危害を加えるようなことは何もしていないじゃないか
治の病室で、恐らく治に取り憑いていたこの子と出会ってから、この子はずっと私のことを無言で見つめていただけだ 今思えば、なんでこの異様な風体に違和感を感じなかったのか 得体の知れないバケモノと認識しなかったのか分かる気がする この子は必死で人と仲良くなりたかっただけなのだ
こんなに歪で、常理から外れた存在となっても、彼女は白木カレンは今、ずっとずっと心から求めていた自由を、他との触れ合いを得ているのだ。一体その何がいけないというのか?
「あ・・・ああ・・・」
もう無理だ この子は 祓えない どうしてなんの罪も無い この子を祓うことができるのだろう
治はこの子を受け入れられなかった だからその穢れに精神が耐えられず 昏睡状態になった
この子が祓われない限り治の意識は戻らないだろう だけど それでも 治は死んでいない
死してしまえば全ての取り返しがつかない だが治は死んでいない この子を祓う方法意外で 治を目覚めさせられる方法はあるんじゃないか?
「―、――、―――」
「・・・唄?」
唄が聞こえる・・・とても優しい音色の・・・とても慈愛に満ちた唄声・・・
これは・・・彼女が聞かせてくれた・・・来日の子守唄・・・
何処だ・・・?何処から・・・?
その唄声の元を辿ろうと頭を上げると、真白様が御座す、御簾の中からこの唄が聞こえる。
響いている――
「ああ・・・そうなのですね・・・真白様・・・」
やはりそうだった、真白様はこの子をずっと見ておられた赦しておられたのだ。
ずっとずっと気になっていた。
神々は穢れをお嫌いになられる。
なのに何故、この穢れの塊である遺骨の存在を真白様は赦しておられたのか?
何故来日の住人にはアイ文の被害が無いのか?
その答えが、この唄なんだ・・・
「カレン・・・大丈夫・・・キミは、穢れてなんていない。消え去ったりなんてしない。だから、命になるんだカレン。真白様の御許へお行き。真白様はキミを、赦されているのだから・・・」
立ち直って、祝詞を再び奏上する。
もう迷いはない、未練も後悔も無い。
私の腰に縋っていたこの子も、腰を落として、まるで、全ての希望を断ち切られたかのように、ペタンと床に座り込んだ。
そうじゃない、そうじゃないんだよ、カレン。
キミは赦されているんだ、キミの魂は穢れてなんていないんだ。
「天の八重雲を伊頭の千別きに千別きて 聞こし食さむ 國つ神は高山の末 短山の末に上り坐して 高山の伊褒理 短山の伊褒理を掻き別けて聞こし食さむ」
そうして、私はただ偏に希う。
「此く聞こし食してば 罪と言ふ罪は在らじと 科戸の風の天の八重雲を吹き放つ事の如く 朝の御霧 夕の御霧を 朝風 夕風の吹き払ふ事の如く」
この悲しい少女の魂が祓われ清められんことを。
「大津辺に居る大船を 舳解き放ち 艫解き放ちて 大海原に押し放つ事の如く 彼方の繁木が本を 焼鎌の敏鎌以ちて打ち掃ふ事の如く 遺る罪は在らじと」
この少女の魂は穢れてなどいないということを。
「祓へ給ひ清め給ふ事を 高山の末 短山の末より 佐久那太理に落ち多岐つ 速川の瀬に坐す瀬織津比賣と言ふ神 大海原に持ち出でなむ 此く持ち出で往なば 荒潮の潮の八百道の八潮道の潮の八百會に坐す 速開都比賣と言ふ神 持ち加加呑みてむ」
カレン、キミは命になっていいんだよと。
「此く加加呑みてば 気吹戸に坐す気吹戸主と言ふ神根國 底國に気吹き放ちてむ 此く気吹き放ちてば 根國底國に坐す速佐須良比賣と言ふ神持ち佐須良ひ失ひてむ」
キミは祓われて、清められても消えないから。
「此く佐須良ひ失ひてば 罪と言ふ罪は在らじと 祓へ給ひ清め給ふ事を 天つ神 國つ神 八百萬神等共に 聞こし食せと白す」
祝詞の全てを奏上し終えると一礼して、隣を見た。
白木カレンの身体は、殆ど消えかけて、今にも無くなってしまいそうだった。
私はカレンの正面に立って膝を着いて、目線を合わせる。
「・・・」
もう殆どが無くなって消えかけている白木カレンの白黒の左目が私を見た。
「カレンさん。貴女の魂は穢れてなんていない。貴女はこれで消え去ったりなんてしない。真白様が、貴女を赦してる。だから、安心してお休み・・・」
「・・・」
「・・・それと、ありがとう。ボクは、貴女のお陰で、大切なことを思い出すことができました。大切なモノを得ることができました」
そう言って私は、消えかけている彼女を心から抱きしめた。
「安心して、命になるんだ。キミは、大丈夫だから・・・」
「・・・」
抱きしめたその身体から、不安が、怯えが、それでいて諦めきったようなカレンの気持ちが痛いほど伝わってくる。
「―、――、―――」
また、御簾の向こうからとても優しい音色の
来日の子守唄が聞こえてくる――
「ほら・・・真白様がキミを呼んでるよ・・・」
「・・・・・・」
「ホントだ・・・」
始めて、この子の声を白木カレンの声を聞いた。
あどけない少女のような、澄んだとても綺麗な声だった。
カレンは私の抱擁をゆっくりと解くと、私を正面から見据えた。
「・・・」
私は、その姿に息をのむ。
その姿は、アイ文の白いヤツなんかでも、化け物なんかでもない。
肌と髪が真っ白な、とても可憐な、美しい少女だったから。
「私、消えなくていいんだ・・・」
「そうだよ・・・キミは消えない。命になるんだ」
彼女は立ち上がると、私に背を向け、真白様の御簾に向かって歩き出す。
「触れてもらって、抱きしめてもらえて、嬉しかった・・・治くんに、ごめんなさいって伝えて・・・」
そして、御簾の前で立ち止まると、私に振り返る。
「今までごめんなさい・・・それと、ありがとう早雲。あの子を、よろしくね」
そう言うと、光の粒となって、御簾の中へと吸い込まれるように、白木カレンは消えていった。
視線を足元に戻すと、不思議なことに白木カレンの骨壷も、手帳の切れ端も全て無くなっていた。




