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穢文  作者: 妄執
2/26

自殺を考えているのですか?

暗い内容になっております。苦手な方はご注意ください。

「アタシさ〜かがりくんに告白しちゃおうかな〜」

「また?女子力で負け過ぎてるから女子力修行するとか言ってたじゃん。修行はどうなった修行は」

「だって〜だって〜」



今日も女子共が騒がしい。


女子というのは何故こんなに騒がしいのだろうか。


口を開けばやれ誰が好きだのやれ駅前に美味しいスイーツ店ができただのやれ何々のマスコットが可愛いだの中身の無いロクな話しかしない。とりとめのない浅っい話にころころとすぐ変わる話題、何がそんなに楽しいのか未だ謎だ。


中学でも高校でも女子共の話す内容は変わらない。むしろ高校に入ってからの方が自由が増えた分よりうるさくなった気がする。


私はそう思いつつ、自分の席で帰る支度をしながら隣の女子2人、永年えいねんさんと千葉ちばさんの会話に耳を傾けていた。


「そういえば駅前に新しいクレープ屋ができたんだって〜」

「マジ?美味しいの?どんな感じ?」

「よくわかんない〜」

「なにそれ」


お、それは3日前駅前にオープンしたクレープ屋「クレップン」のことだな。

いつ話しかけられても良いように流行りの情報収集をしている私はクレップンの情報も勿論チェック済みだ。


クレープ専門店クレップン。

粉とクリームにこだわり、モチモチの生地とミルクの香りが感じられる、甘すぎずあっさりとしながらも濃厚なホイップクリームが特徴で、店のイチオシはイチゴクリームクレープ。

元々は隣県で美味しいと評判で2号店が3日前に駅前にオープンしたというわけだ。


よし、話しかけられた場合に備えてイメトレしておこう。


(ねえ、夏野なつのさんは駅前のクレープ屋って知ってる?

知ってるよ。隣の県で有名なお店の2号店で、おすすめはイチゴクリームクレープだって。よかったら今から一緒に行かない?)


完璧だ。完璧なシュミレーションだ。

さあ、私に話しかけて来い、クレップンの話題を振って来い。


「ねえ、夏野さんは知ってる?」

「えっ?」

「駅前にできた新しいクレープ屋さんのこと」

「あっあっ」


本当に話しかけられるとは思わず気が動転して頭が回らない。


「あっ、うん知っ知ってるよ。おすすめはいっイチゴクリームクレープ!らしいよよよ良かったら一緒にいきゅっ」

「へぇ〜そうなんだ〜。でもごめんね夏野さん、私達これから部活だから今度一緒に行こうね」

「じゃ、また明日ね夏野さん」


そう言って彼女たちは教室を出て行った。


・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

(あ゛~~~~~)

失敗した、失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した

恥ずかしさで顔が紅くなる、イメトレまでしたのになんでスラスラと言えなかったんだ・・・

早口になるしどもるし噛むし断わられるし最悪だ、恥だ、惨めだ、穴があったら入りたい、頭を抱えて転げ回りたい。だから私はダメなんだ・・・こんなんだから友達もいないぼっちなんだ・・・

気にしてなさそうなフリしてたけど、絶対気持ち悪いヤツだと思われたに違いない・・・

やっぱり他人と話すべきじゃなかった、自分が恥をかくだけだ・・・損だけだ・・・



自分に打ちひしがれながら鞄を持ってよろよろと立ち上がると教室を出て帰路に着いた。


徒歩通学の私は駅の向こう側に家があるため毎日駅前を通る。

そうして駅前を歩いているとクレップンの行列が目に入った。


(待つのは嫌いだけど、折角だし、また永年さん達と話すことになったら話題にもできるし、今日は頑張ったし、ご褒美に買っちゃおうかな・・・)


そう思いクレップンの行列に並んだ。

20人程が並んでいて、その殆どが女子高生だ。みんな友達と一緒に来ているようで、楽しそうにキャッキャキャッキャしながら順番を待っている。そんな中ポツンと1人で並んでいる自分がより惨めに思えた。

私は携帯を取り出すとお気に入りサイトの巡回をしながら順番を待つ。6件目を見終わったあたりで私の番が回ってきた。


イチオシのイチゴクリームクレープを一つ頼むと750円を払って受け取る。

焼きたての温かい生地にたっぷりのクリーム、大ぶりにカットされた真っ赤なイチゴがふんだんに入っていてとても美味しそうだ。近くのベンチに座って食べようとも思ったが、早く家でやりたいゲームもあるし、少し行儀が悪いが食べながら帰ることにした。


一口かじると、生地のモチモチとした食感とミルクが香る濃厚なクリームにイチゴの酸味がすごくマッチしている。

(お・・・美味しい~~~)

(今月お小遣いが厳しいけど750円出してよかった~~~)

ちょっと感動するほど美味しい。あの長い列を待った甲斐があったと心から思う。今日は失敗もしたけど、そのお陰でこれが食べれたし怪我の功名かな♪なんて♪


クレープの美味しさに浮かれて周りが見えていなかったのか、二口目を食べようとした時に足元に転がっていた空き缶に躓いた。


「あっ!」


その拍子にまだ一口しか食べてないクレープが私の手から離れ、綺麗な放物線を描いて地面にベシャリと落ちた。


「あ・・・」


言葉が出なかった。


少し涙が出てきた。


今日はなんてツイてないんだろう。私の人生こんなんばっかりだ・・・

喜べば必ず落とされる。良いことはその後起こるであろう悪いことのための布石なのだ。運命は私を持ち上げてから落とすのだ。

もう私は喜んだりしないほうが良いのかも知れない。嬉しいことがおきても絶対顔に出さないようにしよう。


それでも道路にゴミを捨てるのは私の流儀に反するので、落ちてグチャグチャになったクレープを拾うと近くの公園のゴミ箱に捨てた。


トボトボと肩を落として家に着いて玄関で靴を脱ごうとしていると、台所から出てきた母に声をかけられた。母の手には財布と買い物用のマイバッグが握られている。


(かえで)、ちょっとお願いがあるんだけど」

「何?」

「今お夕飯作ってるんだけど、ニンジンと缶詰のコーンが足りないからちょっと買ってきてくれない?」

「ええ~~~」

「なんで携帯に連絡くれなかったのよ~」

「ごめんごめん、今気付いたのよ」


この近所で一番近くにあるスーパーは駅前にあるため、また駅まで歩いていかないといけない。二度手間だし正直今日は嫌なことばかりで疲れたから行きたくない。ふと視線を落とすと弟のひろむの靴があった。


「宏帰ってきてんじゃん、宏に行かせなよ。私疲れたからヤダ」

「そういわないで、宏は受験勉強で頑張ってるし、お使いなんて頼んだら可哀相じゃない」


その言い方にカチンときた。


「なにそれ、どこが可哀相なの?」

「大体、私が受験のときには平気でお使いに行かせてたくせに宏のときは違うわけ?私だってイヤなことがあってこの寒いなか疲れて帰ってきたのに私は可哀相じゃないの?」


「でたでた、いつもの嫌味が」


母はうんざりした顔だ。


「嫌味じゃないでしょ?事実じゃない。なんで宏のことばっかり甘やかして、私はその尻拭いしなきゃならないわけ?宏は男なんだよ?長男なんだよ?いいじゃん、お使いぐらいいかせたって。そんな1時間も2時間もかかるわけじゃないし、丁度良い気分転換になるって」


「もういいわよ!アンタはいっつもそういう言い方して!もうアンタには頼まない!はいはい!私がいきますよ!」


母はそう言うと靴を履いて私に肩をぶつけながら玄関の扉を叩きつけるように閉めると行ってしまった。

いつもこうだ、私が正論を言うと母は聞く耳も持たずヒステリーに怒って話を打ち切るのだ。うんざりする。もういい、ほっとこう。


靴を脱いで家に上がり台所でコーヒーを淹れるとそれを持って階段をのぼり自分の部屋に入った。

ゲームする時用の小さいテーブルにコーヒーを置くとベッドにダイブする。バフンと柔らかい布団が私を受け止めてくれた。もう私を受け止めてくれるのはこの布団だけかもしれない。


「はぁ~~~~~~~~~」


ようやく自分の部屋へ戻ってくることが出来た。ほっとする。ここだけが私がやすらげる唯一の聖域だ。できることならもうこの部屋から出たくない。


暫く布団に顔をうずめたあとモソモソと起き上がって部屋着に着替え、ゲーム機の電源を入れると邪魔になる前髪を縛り、ヘッドホンを装着しやりかけの乙女ゲーを起動する。昨日は良いところでセーブしておいたから今日はその続きをやるのだ。



「キミが自分のことをクズだと思っていても、それと俺がキミを好きなことと何の関係も無い」

「俺はそんなキミが好きだよ、ずっと一緒にいたい」

「キミが泣き止むまで、ずっと抱きしめてあげるよ」



「うっ・・・ぐすっぐすっ」

「神ゲーだ・・・これはまさしく神ゲーだぁ・・・」


エンディングムービーを見ながらタオルで涙を拭う。素晴らしい神ゲーだ、これで完全クリアしてしまったと思うと暫く鬱になりそう。


余韻に浸っていると何者かにいきなりヘッドホンを引き剥がされ、驚きで心臓が飛び跳ねる。


「ご飯できたって言ってるでしょ!!」

「かっ・・・」


母だった、どうやら下でご飯ができたと呼んでいたのに返事が無いから私が無視してると思ったのかここまでやってきたらしい。


驚きが一瞬で怒りに変わった。

邪魔された、勝手に部屋に入られた、色々見られた、色々な怒りが反射的に増幅される。


「勝手に入ってこないでっていつも言ってるでしょ!!」

「アンタが返事しないからでしょ!!」

「返事が無いときは携帯に連絡してって言ってるじゃない!!」

「なんで家にいるのに携帯なんか使うのよ!」

「それくらい気使ってよ!!」

「なんで実の娘にそんな気を使わなきゃいけないの!!」

「私の大切な時間を邪魔しといて言うセリフがそれ!?宏には気ばっか使うクセになんで私は気遣ってくれないのよ!!!」

「宏と同じようにアンタにも接してるわよ!!大体気遣うったってアンタこんな下らないゲームしてるだけじゃない!!!」


「く だ ら な く な ん か な い !!!!!!」


「お母さんにとってはくだらなくても私には何より大切なのよ!!!」

「バカじゃないの!?そんなんだからアンタには一人も友達ができないのよ!!」

「!?」


怒った拍子とはいえ何故そんな酷いことが言えるのか、私が一番気にしている私が一番傷付くことを言えるのか、こいつは本当に私の親なのか???


「う・・・うるっさいわ!!このヒステリークソババアが!!!」

「なんですって!!?」


「やめないか二人とも!」


どうやら帰ってきていたらしい父が見かねて仲裁に来た。


「聞いたお父さん!?人のことヒステリークソババアって!!もうこんな子はウチの子じゃない!!!」

「落ち着きなさいお母さん!」

「人が一番気にしてること言っといて自分が言われるのはイヤなわけ?!バッカじゃないの!!!」

「楓も言いすぎだぞ!」

「どこが!!?」

「こんなゲーム馬鹿にされたくらいでそんな怒るな。宏だって腹空かせてるんだから早くご飯にしよう」


怒りで目が回った、この妻にしてこの夫ありだ。ゲームは悪いくだらないものだと思い込んでいる。自分の尺度でしかモノを語れない人間だ。自分の価値観が絶対なのだ。


もう私自身正常な状態じゃない、頭が熱病に罹ったように熱い煮え滾った怒りに支配されている。今まで堪えていたものが溢れ出す。


「こんな?!!何もしらないクセにお父さんに何が分かるの?!!何も知らないクセに人の好きなもの否定して宏が腹を空かせてる!?はぁ?!じゃあ何?お父さんは自分の妻が自分の娘を全否定して娘が一番言われたくない言葉を平気で言って、傷付いてる娘を気にしてきたんじゃなくて、腹が減った宏のためにここまできたわけ?!!」


「落ち着きなさい楓、誰もそんなこと言ってないだろう」

「今そう言ったじゃない!!!」

「もう・・・やだ・・・宏宏うるさいんだよ父さんも母さんも!!!」


「私が小さいときはやりたくもないイヤな習い事ばかりさせれて辞めさせてもくれなかったのに!宏はなに?!ちょっとイヤになったらすぐ辞めさせてさ!!私が困ってるときは何もしてくれなかったのに、宏のときはちょっとしたことで無駄に心配して!!ことあるごとにお姉ちゃんなんだから我慢しなさい、お姉ちゃんなんだから宏に譲りなさい、なんで!?なんで私だけこんなに我慢しなきゃならないの!!?何かあるたびに宏が可哀相、宏が可哀相って甘やかしてばっかでさ!!じゃあ私は!?私は可哀相じゃないわけ?!ちゃんと学校行ってるよ!?ちゃんと授業も受けてるよ!?友達がいないからなんなの!?それが何か問題!?宏が生まれてからずっと宏のために我慢させられて唯一の楽しみを否定されて!!!私ってなんなの!!!?」


「そんなに宏が大事なら私なんか生まなきゃ良かったじゃない!!!」


言い切ると息を切らせた、酸欠と怒りでクラクラグルグルする。


「・・・そうか、お前をそんなにさせて家族を壊すのはこれのせいか」


そう言うと父は私のゲーム機を配線を引きちぎりながら掴みあげた。


「ちょっと!!!何するの!!!!??人の話聞いてないの?!!」

「こんなモノがあるからいけないんだ!」


しがみつく私を振りほどくと振りかぶってゲーム機を床に叩き付けた。バリンと音を立てて粉砕する私のゲーム機。


「あ、あ、あああああああああ!!!」


頭を抱えて絶叫する


「少し頭を冷やしなさい、行くぞ母さん」

「アンタは病気よ!!!生むんじゃなかったわ!!!」


「しっ・・・」


「死ねやクソ野郎どもが!!!てめえらなんか親でもなんでもねえ!!!死ね!!!死んでしまえ!!!!!」


部屋のドアを叩きつけるように閉めると二人は下におりていった。



壊された壊された壊された壊された壊された

壊された壊された壊された壊された壊された

壊された壊された壊された壊された壊された

私の唯一の救いが壊された

私の唯一のやすらげる場所が壊された

私の唯一の心の拠り所が壊された

私の唯一の生きる意味が壊された

私の唯一の希望が壊された


「ぎっぐう、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


頭を抱えながら五体投地のように這いつくばって狂いそうなほど声にならない呻きを上げる。


ずりずりと這いながらベッドにもたれて掛け布団をギリギリと握った。


死ね死ね死ね死死ねクソ野郎どもが死んでしまえ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね


怒りすぎて自分自身が他のモノに変質してまってるような気さえする。きっと今の私は人間の顔をしていない。私はもはや人間ではないのかもしれない。


「ぐううううぅぅぅううううううううう・・・・!!!!!」

布団に押し付けている頭の血管がブチ切れそうなほど悶える。憎悪で思考が塗りつぶされる。目が回る頭がグラグラする。


もうイヤやだ 何もかも全部イヤだ

何のために私は生まれてきたんだ

私が生まれた意味なんて何もないじゃないか

なんで産んだんだ

生きてる意味なんか何もないじゃないか

辛いだけだ苦しいだけだ惨めなだけだ


「だから友達ができないのよ」

「あんたは病気よ 」

「生むんじゃなかった」

「そんなくだらないモノ」

「こんなものがあるから」


私が言われたくないことされたくないことを全てされた 

私が言われたくないことを全て言われた


こいつらは本当に私の親なのか

どうしてここまで酷いことができるのか


結局私の人生に意味なんてなかった

私なんて生まれてこなければよかった

最高に惨めだ


涙が止まらない 嗚咽が止まらない


いつもそうだ、宏宏宏、何かあればいつも宏。お姉ちゃんなんだから宏に譲りなさい、お姉ちゃんなんだから我慢しなさい、宏が可哀相だから。ふざけんな、私は好きで姉になったわけじゃないしあんな弟なんか欲しくもなかった。こんな思いをするくらいなら一人っ子でいたかった。アイツが生まれて良かったことなんて何一つない。私にとっては損しかない。


クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが


私の何がいけないの?私だって私なりに頑張ってるよ。ちゃんと学校に行ってちゃんと真面目に授業を受けてちゃんと宿題もして家事だってたまには手伝ってる。できないけど友達だって作ろうとしてる。



なのに なのに なのに

そんな私のたった一つの楽しみさえ生きる希望さえ奪うというの?


ああ、そうか


そうだった


私はいらない子なんだった


いらない子だったんだった



なら、もういいや





「は、ははは」

「はははははははははははは」



笑った。笑うしかなかった。もう生きていても仕方ない。私疲れたよ。

私なりに頑張って生きてきたよ。だけど、もう無理。

死のう。



携帯を手に取ると検索画面を開いて「自殺 方法」と打ち込もうとした。

が、涙でぼやけた視界と回らない頭と虚脱感で震えた指のせいでうまくタッチパネルを操作することが出来ない。結果なんの意味も無いデタラメな文字列を打ち込んで検索してしまう。


「ん・・・?」


文字化けしたサイトが一件だけヒットした。

特に深く考えずそのサイトをクリックしてみると、真っ黒い画面の真ん中に「アイ文-自殺を考えているのですか?-」と出てきた。良く分からないが全てがどうでもよくなった私はとりあえず見てみようと思いクリックした。



-----------------------------------------------------


アイ文-自殺を考えているのですか?-


貴方様はもしかして自殺を考えているのですか?

生きる意味を見失って自殺を考えているのですか?

自殺なんていけません。そんなことしちゃいけません。それはなんでか何故なにゆえか。

このワタクシがお答えしましょう。答えは簡単完結、元来元々生というものに意味なんて無いのです。

意味なんてありません。


人生に意味なんてありません。人が生きることに意味なんてありません。

命に価値はありません。命は尊くありません。

生に意味はありません。生に価値はありません。


ですから自殺なんてしちゃいけません。

この世はハナから意味のないものなのですから。

生きることに意味なんか最初から無いのです。それに貴方様は気付いてしまっただけなのです。


自殺する人は自殺を考える人はバカなんかじゃありません。

自殺する人は自殺を考える人は頭が良すぎるのです。

つらい死のう。苦しい死のう。疲れた死のう。無理だ死のう。鬱だ死のう。耐えられない死のう。不安だ死のう。退屈だ死のう。

なんという隙の無い完全な理論論理。

インテリです、まさにインテリ自殺です。

誰もこの完璧で完全な理論論理を論破することはできません。


自殺はダメなものなのだと上からモノを言う者の顔をよく見てごらんなさい。

人のことを考えない自己中心の塊で悦に浸った醜い顔の澄んだ瞳の狂信者。

人の気持ちは蚊帳かやそとにて生に意味はあるのだと命は尊いものなのと自分の信仰押し付ける。

結構結構結構なのです間に合ってるのでお帰りください。

あなたは私じゃありません。私の何がわかるのですか。

そうですそうですそのとおり。


生きたくたって生きれぬ人もいるんだぞ!

は?それが一体なんなのですか?私と関係無いでしょう。

全てに希望を失って生きる意味を失って、死を考えているその人に、ワケの分からん他人の話。そんな話を持ち出して、一体何が言いたいのか、正気の思考と思えない。思考回路がイカレてる。知ったことじゃないですよ、そんな余裕はないのです。そんなことも分からんような、程度の低い人間が、人に上から説教するとはこの世も末だね虫唾が走る。


ですが自殺はいけません。

インテリ自殺はいけません。


この世に意味はないのですから何もしなくて良いのです。

耐える意味は無いのですから耐えなくたって良いのです。

立ち向かう意味はないのですから逃げ出したっていいのです。

やりきる意味はないのですから投げ出したっていいのです。

この世に意味は無いのです。人の生に意味は無いのです。

ですから自殺はいけません。インテリ自殺はいけません。


生というハナから意味の無いものに、あたかも御大層な意味を見出すのが人なのです。

子供の頃からそのご大層な意味とやらを植え付けられた哀れな凡人共は一生それに気付かない。


生の意味を見失ったというのなら、それは原初に戻っただけなのです。

むしろ貴方様は他人の思想を植え付けられた凡人共なら一生気付かぬ真理に気付いた賢者なのです。


ならば賢者の貴方様、無意味で無価値な生というモノに、貴方様だけの生の意味を見出して、も一度生きては見ませんか?

貴方様だけが見出す貴方様だけの生きる意味という唯一無二のモノを探しながら、も一度生きては見ませんか?


このワタクシが貴方様を愛しています。

ですからどうか自殺なんてしちゃいけません。


これを読んでる貴方様、このワタクシと、ちょっと生きてはみませんか?

死が迎えに来るそのときまで、ちょっと生きてはみませんか?


生きることが良いことだとは言えませんし言いません。

だからと言って死ぬことが良いことだとも言えませんし言いません。


ですからちょっとはバカになって生きてみようじゃございませんか。このワタクシと生きてみようじゃございませんか?


→はい/いいえ




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ベッドに座りながら読み終えると、真横から花のような良い香りがした。

横を向いてみると全身真っ白い人が私と肩を並べて座っていた。


パッチリとした白黒の左目がじーっと私を見つめている。その物言わぬ優しい瞳にまた涙が溢れた。


「私ね、もう疲れちゃった」


「ホントはね、褒めて欲しかったの、心配して欲しかったの。楓は頑張ってるねって、楓はいい子だねって、元気ないねどうしたのって」


「なのにお父さんもお母さんも宏ばかり可愛がる、私なんて目もくれない。私なんていらない子なんだよ。お父さんもお母さんも宏がいればそれでいいの。私は宏の前に間違えて生まれてしまったいらない子なのよ」


ボロボロと涙がこぼれる。

その涙を真っ白い人が真っ黒い色をした爪の指で優しく拭ってくれる。


「でもね、別にお父さんもお母さんも宏も憎いわけじゃない、恨んでもいない。だけど、今は嫌い。私が好きなものを全部否定して壊して、私の言うこともちゃんと聞いてくれない、宏ばかり目をかけて可愛がるの。だから嫌い」


「私は私なりに頑張ったよ、頑張って努力してきたよ。お父さんにもお母さんにも分からないかもしれないし、他の人からみたら何もしてないように見えるかもしれないけど、私は私なりに頑張ってきたの」


「だけど・・・もう・・・いい。もう全部どうでもよくなっちゃった」


「寂しいのも惨めなのも辛いのも苦しいのも、もう・・・イヤ」


「だから・・・もう、いいの。でも死ぬのはやめた。だから、お願い」


言い終えると、真っ白い人は私を優しく抱きしめてくれた。


体が花の香りに包まれた。


座っていたベッドに真っ白い光で満たされた穴が空く。






           パシャン


楓はその真っ白い光で満たされた穴の中に光の飛沫しぶきをあげて真っ白いヤツに連れられていった。

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