第8話 金曜日は運動日和
更新がだいぶ遅れました。このまま完結に向けて頑張っていきたいと思います。
県立中川高等学校。
それが俺の通う高校の名前だ。県内ではトップ層に当たる進学校というわけでは別段なく、一応は進学校と言われているが中流クラスの学校である。ただ、それでも2~3年に1度はあの旧帝国大学の中でも最大の難関、この日本を代表する東大に現役生を送ることもある。それに毎年旧帝大の北大、東北は必ず出している。だから、進学校とも言われているわけだ。中川市という県の中央に位置しているため県の北、南、西からと各地から生徒が通ってくる。
ちなみに男子校。共学校ではない。そもそもこの県には共学校というものが存在してない。進学校の中ではの話だが……。
さて、そんなことよりそろそろ自己紹介をしたいと思う。
俺の名前は川波重。
2年4組出席番号12番。誕生日2月12日。血液型A型。身長171センチ、体重58キロ。好きな食べ物ハンバーグ。嫌いな食べ物漬物。好きなこと陸上の長距離特に5000m走。陸上部所属。
嫌いな先生
将軍こと大泉先生。
これが俺のプロフィール的なものである。
さて、いよいよ物語をはじめていこうじゃないか。
◇◇◇
翌日。
金曜日。
金曜日は学校に行く平日の中で1週間の最後を飾る曜日だ。
そのため、学生にとっては1週間の中である意味最高の日ではないだろうか。翌日からは2連休。とりわけ部活をやっていない人は徹夜をできるし、部活をやっている人は週末の部活に熱心に取り組むことができる。そう、だから勝負するのであれば今日なのだ。
「みなさーん!」
俺が叫ぶ。
「どうか、どうか私達陸上部の話を聞いてください!」
俺達は金曜日。朝8時前の校門の前に立っていた。
「私達陸上部には部活をする場所がありません。この状況を改善しようと先生たちに行っても話を聞いてもらえません。どうか、皆様に協力をしてもらえませんか。私達は署名をお願いしたいと思います!」
俺達が取った方法とは、生徒による署名活動だ。
学生運動というと、60年代などの東大闘争などを思い浮かべる人がいるのではないか。まあ、最近の人は知らないことだと思うし、俺自身も歴史や公民の教科書によってその知識を得たわけであって実際にはその現場を見ていないので詳しいことがわからない。だから、俺にとっての学生運動とは署名活動であると考えた。
署名活動ならば、半合法的とも言えるだろう。暴力がなければ先生たちは何も言わないはずだ。うちの学校は基本的は生徒に任せるという校風だ。先生たちはあまり生徒のやることには口を出さないはずである、というよりも出さない。出すと言ったら将軍ぐらいになるだろう。生徒指導を兼ねている将軍ならばやりかねないと俺は踏んでいる。
「どうかどうか」
ビラも配る。
昨日の夜、清田に徹夜で作ってもらったものだ。
書いてあることは、将軍がどうして陸上部に使わせてくれないのか。陸上部の現状などだ。
もともと、将軍は俺達生徒達からとって嫌われている存在である。かろうじて将軍派とも言っていい生徒は野球部ぐらいになるだろう。将軍は体育教員でもあるが沼宮内先生を始めとしてほかの体育教員も将軍のことが嫌いであるぐらいだ。
こういう時に、学校に嫌な部分が出てくると思う。
教員になるってものすごく大変なことであるな。まあ、俺はなるつもりはないけどな。
さて、それはいいとする。
現在、俺達の意見を聞いてくれている人もいる。それは主にサッカー部の部員だ。サッカー部も陸上部と同様に野球部に将軍に憤りを感じていた。
「川波、俺達も協力していいか」
「清田、是非とも」
サッカー部の仲のいい奴らが俺達に是非ともと声をかけてくる。俺達には断る理由なんてない。
「ああ、是非とも頼む」
「ああ」
俺達の活動にサッカー部も加わった。
キーンコーンカーンコーン
朝のHR開始5分前の予鈴が鳴った。俺達は、活動すると言っても学生である以上それだけはわきまえる。
「じゃあ、次は昼休みだ」
田澤がそう言う。
俺達は朝だけでなく昼も活動することにした。
◇◇◇
昼休み。
俺達は活動を開始した。
昼休みの活動は各クラスに行くことであった。
俺達の学校中川高校は1学年200人1クラス40人のため1学年には5クラスある計算となる。つまりは5×3で計15クラスの教室を回ることとなる。しかし、陸上部の全員が手分けをすればすぐに終わる。また、サッカー部からも援軍が来た。そのため、全クラスを回ることなど余裕だ。
俺は、森水と一緒に3年5組に行くことになった。
「……先輩の教室かあ~。はぁ」
俺は3年5組の教室の前でため息をついていた。
だった、先輩の教室だぜ。普通は入ることがないだろう。そんな場所に入るってものすごく緊張するし、それに空気に耐えることができない。
俺にはつらい空間だ。
「おいおい、川波。お前がそんな調子でどうするんだよ」
「いやいや、森水が説明してもいいのだぞ」
俺は、同行している森水に言う。そうだよ。文句を言うぐらいであるのならば森水にやってもらった方がいい。そうに決まっている。
しかし、森水は答える。
「ええー、絶対に川波に方が適任だよ」
いやいや、適任とかそういう問題じゃないし。
俺が言っているのは、簡単な説明をしてくれということだ。
ちなみに森水はバカではない。俺の話を理解したうえでそんなことを言っているのだ。全く困ったものだ。
そう思わせれば絶対に俺がやると思っている。
「はぁ~」
俺は大きくため息をつく。
森水は俺の溜息を聞かなかったふりをする。まったく……結局おれがやるしかないのか。
覚悟を決めるしかないな。
俺は、大きく息を吸って、そして3年5組の教室に入る。
「こんにちはっ!」
3年5組の教室に入って一番にすることは挨拶だった。
俺の言葉と同時に、ざわざわといろいろな雑談をしていた先輩方が話をやめてこちらに目線を向ける。全員から俺達は注目された。
一気に視線を当てられたことでとても緊張してしまった。おそらく今から言葉を話そうとしても高い声が出て先輩たちに笑われてしまうだろう。背中がとても冷たい。おそらく冷や汗をものすごくかいているのだろう。こんな場所から早く出たい。森水何か話してくれよ。俺は、そう願うと援護してくれたのは森水ではなく別の人であった。
「そんなに緊張してどうしたんだ、川波」
「見てられねえぞ。お前もっと肝っ玉据えていただろ」
「会津先輩、美津島先輩っ!」
俺に声をかけてくれたのは、3年生の引退した先輩である会津先輩と美津島先輩であった。2人の先輩は短距離ということもあり練習を直接一緒にやったという機会はあまりなかったが、それでも同じ陸上部ということもあり話す機会もあったので知っている。とりわけ会津先輩は陸上部の前部長なので話す機会があった。
「川波と森水面白いことをやっているみたいじゃないか。俺達も元陸上部だし、ずっと我慢していた。後輩たちにもう二度と俺達と同じような思いをしてほしくないものだから手伝ってやるよ」
「会津先輩」
「まあ、俺達もいろいろと将軍に言いたいことがあるしな。だから、やるなら俺らにも協力させろよ」
「美津島先輩」
「先輩ありがとうございます」
森水が感謝の言葉を述べる。
俺もそれに続いて感謝の言葉を短く言う。
「ありがとうございます」
「いいや、俺らも被害者だ。やりたいから俺らはやるだけさ。別に感謝されるようなことじゃない。このクラスには野球部もいるが、ほかにサッカー部もいる。それに、油井、ちょっと来い」
「ん? 何だ、裕輔」
会津先輩に呼ばれて1人の先輩が来る。黒縁の眼鏡をかけて、髪が短くいかにも野球部だったというのがわかるような坊主頭であった。
ちなみに、裕輔というのは会津先輩の名前だ。
「川波、紹介する。彼は油井幸太郎。元野球部のキャプテンだ」
「え、えぇーっと、野球部のキャプテンをどうして呼んだのですか?」
俺は、将軍を倒そうとしているのにどうして野球部関係者をここに呼んだのかその理由が全く若なら久手会津先輩に尋ねた。
答えたのは、会津先輩ではなく、油井先輩本人であった。
「はじめましてかな。川波君だっけ? 挨拶は後回しにして、どうしてこんな話にしようとしたのかその理由を話そうと思うよ。まあ、僕は野球部のキャプテンだったんだけどねえ。あの将軍の教え方には納得がいっていないんだ。将軍の指導の仕方では野球部は強くなることなんてない。だからこそ、僕はその指導方法を変えてもらおうと直接意見を言ったら引退の1か月前に無理やり退部させられてしまったんだ。僕はその時から将軍を恨んでいる。あの将軍を追い込みたいんだ。だから、俺にも協力させてくれないか?」
ギリギリッ
油井先輩から歯ぎしりの音が聞こえた。怒りを感じ取ることができた。それほど悔しかったのだろう。引退の1か月前……中川高校ではおおよそ野球部は将軍が顧問として就任して以降夏の甲子園の都道府県予選1回戦を突破したという歴史が残っていない。そのため1回戦がある日の翌日が事実上の引退となる。つまりは、最後の試合に出る前に辞めさせられたということだ。高校生活を野球という部活を通して頑張って、ようやく苦しい練習を耐え抜き、最後の1年はキャプテンとして部活を引っ張ってきたというのに最後の最後でやめさせられた。その気持ちは俺には分からない。ただ、推測することはできる。
悔しい。憎い。将軍に対していろいろな思いを抱いただろう。
その結果がこれだ。
俺は、油井先輩の意志を思いを受けなければならないと思った。
「先輩、是非ともお願いします」
俺は、先輩に協力をしてもらうことにした。
いや、むしろ先輩の復讐に俺達が協力するような形となったかもしれない。それはどうでもいい。どちらにせよ俺達の目的は将軍を倒すこと。その結果が得られるのであれば誰とも協力をする。
そのあと、3年生の教室には油井先輩に回ってもらった。元野球部のメンバーの数人が反発してきたが、それ以上に将軍が嫌いな人が多かったためか、反発してきたメンバーはそれ以上のことを言うことができていなかった。
金曜日はこうして終わった。
明日の練習は今度こそ学校のグラウンドだ。明日こそ邪魔させない。
何があっても俺は練習をやりきってやる。