第7話 木曜日は抵抗日和
県立中川高等学校。
それが俺の通う高校の名前だ。県内ではトップ層に当たる進学校というわけでは別段なく、一応は進学校と言われているが中流クラスの学校である。ただ、それでも2~3年に1度はあの旧帝国大学の中でも最大の難関、この日本を代表する東大に現役生を送ることもある。それに毎年旧帝大の北大、東北は必ず出している。だから、進学校とも言われているわけだ。中川市という県の中央に位置しているため県の北、南、西からと各地から生徒が通ってくる。
ちなみに男子校。共学校ではない。そもそもこの県には共学校というものが存在してない。進学校の中ではの話だが……。
さて、そんなことよりそろそろ自己紹介をしたいと思う。
俺の名前は川波重。
2年4組出席番号12番。誕生日2月12日。血液型A型。身長171センチ、体重58キロ。好きな食べ物ハンバーグ。嫌いな食べ物漬物。好きなこと陸上の長距離特に5000m走。陸上部所属。
嫌いな先生
将軍こと大泉先生。
これが俺のプロフィール的なものである。
さて、いよいよ物語をはじめていこうじゃないか。
◇◇◇
木曜日。
俺は、今日は朝練がないので友達と一緒に学校に通う日であった。眠い目をこすってカーテンを開ける。
ザーザー
窓の外は激しい雨が降っていた。
「今日は雨か」
雨の日は自転車で行くのは嫌なので歩いていくことにしている。歩いて行っても30分程度しかかからないのでいつもよりも少し早めに出ればいいだけの話だ。8時に出れば学校には間に合う。
俺はゆっくりしていた。そして、8時に近づいたので家を出た。
小学校から一緒の友達の家に行き、一緒に学校に行った。そのあたりの話は今回特には関係ないので話すことはしない。それに特にいつも通りであり特に記載すべきことがない。まあ、あえて言うとしたらいつも通りくだらない話をしたり、アニメの話をしたり、ラノベの話をしたり、ゲームの話をしたり、政治の話をしたりなどなどオタクのするような会話をしながら歩いていた。
学校に着く。
さて、今日はどうしたものか。
昨日、陸上部内の意見が一致し、生徒会に訴えるという方向が決まった。教員に意見を求めるという方法もあったかもしれないが、将軍はうちの学校でも古株。そのため生徒会に直接意見を求めて生徒の意見とした方が話が進むと考えたのだ。
教室に入ると、清田が俺に声をかけてきた。
「川波。一応、津本に陸上部の意見を書いた紙を渡しておいた。津本とにっしーならどうにかしてくれるだろう」
「ああ、あの2人ならば信用できるな。清田があの2人と仲良くてよかったよ。俺は、あの2人とは直接話したことがないからさ」
津本とにっしーこと西泉の2人は生徒会役員だ。
津本幸三。2年5組所属の生徒会副会長。かなり体型のいい男で得意教科が日本史ということで俺とよく学年1位争うをしている。ちなみに、俺は世界史もできるが津本はカタカナは苦手ということで世界史は全くできないらしい。また、人を笑わせることができる才能を持つとても面白い奴だ。
にっしーこと西泉弘樹。2年5組所属の生徒会会長。学年でもトップクラスの成績を持つ男で文系ではトップ3人の1人に挙げられる。部活はゲーム部というパソコンを使ってゲームを作っている部活に所属しているほどのオタクだ。ちなみに最近のおすすめのアニメは大人気漫画が原作の『ココロおどる帰宅部』だそうだ。この漫画はギャグ漫画で俺も面白いと思っている。
さて、話が逸れたのでもとに戻そうと思う。
清田がこの2人に意見を出したので、どうにかなると思う。ただ、生徒会にはほかに3人のメンバーがいて1人が2年理系あと2人が1年生で、とりわけ1年生の1人は野球部であるため反対することが目に見えている。それをどうにかしてもらえるだろうか。
まあ、俺には何もできない。考えていても何もすることができない。俺にできることは待つだけだ。今日は確か生徒会のある日だ。今日、何かが変わってほしい。
俺は、津本と西泉の活躍を願った。
◇◇◇
その日の放課後。
部活のメニューは、沼宮内先生が私用により学校を欠席したため各自で考えることとなった。清田は俺達に課したメニューは、坂ダッシュ10本2セットであった。坂ダッシュの時間はセット間のレスト時間が7分なのを考えるとそこまで長くはないのですぐに終わるメニューだ。
俺は清田があえてすぐに終わるメニューにしたのではないかと考えた。
なぜならば、今日の放課後にも生徒会からの返事が届くみたいだからだ。一番冷静な姿勢を見せている清田も実は内心かなり動揺しているようだ。俺には、冷静にしているのが強がりのように見えた。
「……川波何か変なことを考えてないか?」
「い、いや……そんなこと、ないよ」
10本目が終わり7分間のレストに入るため地面にバタリと倒れこんでそのようなことを考えていたのを清田に文句を言われる。疲れているから顔に出ているのは疲れた表情だけのはずなんだけどな。どうして清田にバレたのだろうか。不思議だ。
「さて、休憩時間終わったし始めるぞ」
清田は、そのまま練習を開始した。切り替えの早い奴だ。全く……
「1本目。よーい、ゴー」
「2本目。よーい、ゴー」
「3本目……」
1本1本坂ダッシュをしていく。坂の長さがどれぐらいかわからないがおよそ20秒程度で走っていることを考えると100mちょっとあるのだろう。100×10ともなると単純計算で1000mは走っていることになる。
「ラスト10本目ー!」
『はいっ!』
「よーい、ゴー!」
「はぁはぁはぁ」
どうにか20本坂ダッシュをこなすことができた。
坂ダッシュの坂は学校の横を利用しているため、たまに車が通る。疲れているので倒れたいのはやまやまであるが、さっさと学校のグラウンドにでも戻ることにする。
「川波先輩、タオル忘れてます」
「おー、すまない。啓太ありがとな」
「いえ、ところで川波先輩。今日のメニュー苦手そうでしたね。先輩に追いつきそうでしたよ」
「あー、俺スピードないんだよね。啓太はスピード型だから800m向いていると思うよ」
「そうですか! じゃあ、次は800mにでも出てみます」
「頑張れよ。同じ中川中学出身なんだからな」
「ええ、先輩には中学からお世話になっていますから」
俺は、後輩の啓太と一緒に中学時代の話をしながら部室へと戻った。どうでもいい話だが、実は俺は中学時代はバスケットボールをやっていた。理由は簡単で陸上部が中学になかったからだ。適当にバスケ部を選んで入部した。まあ、ものすごく下手であったが。ちなみに啓太も同じバスケ部出身だ。中学で同じ部活であり高校でも同じ部活。ものすごく気が合う。
「川波。清田が呼んでいるぞ」
森水に呼ばれる。
「啓太は待っていて、どうやら2年生だけで話がしたいみたいだから」
「2年だけ? 清田がそう言ったのか?」
「ああ、まあ正確に言うと清田ではなくて田澤なのだが」
「さあさあ、そんなことはどうでもいいから行くぞ波ちゃん」
池山が俺をせかしてくる。
「わかったわかった。今すぐに行くから。あと、射水は俺の横で何でタオルをぶつけてくるんだ。ばれているからな」
俺は、横で射水がタオルをぶつけていたことを無視していたのだが、とりあえず忠告をしておく。そして、にらみつける。
「冗談だよ。本気にしないでよ。川波」
……冗談だってことぐらいわかっているが、射水の対応はとてもめんどくさいんだよな。だから黙って睨み付ける。
「じゃあ、行こうか」
「……川波は俺の扱いがひどくないか! なあなあ」
俺は、射水をこれ以上かまうことなく部室へと向かった。
「さて、みんな集まったか」
「ああ」
田澤が確認する。俺も周りを見渡す。2年生10人全員がそろっていた。
「さて、一応2年生にだけは伝えておこうと思ってね。生徒会からの返事についてどうなったか」
「で、どうなったんだ?」
「ああ、結果は残念ながら……生徒会としてはこの件については解決できないとのことだ。理由としては1年が猛反発したことと生徒会の顧問の水出先生が将軍から直接意見を通さないようにと言われたそうだ。つまりは、将軍の根回しの勝ちということだな」
『……』
田澤から結果を聞いてほかのメンバーは黙ってしまう。
田澤も顔を下に向ける。唇を強くかみしめていた。
「川波、根回しってそこまで怖いものなのか?」
射水が俺に聞いてくる。
「ああ、政経の知識でいいなら言うが、根回しというのはものすごく恐ろしいものだ。特にホール活動というものがあるんだが、これは自分たちの意見をお偉いさんに直接伝えるために活動することだ。具体的な例でいえば隣の国の活動を見ればわかる」
「確かに、あれは強力だな。それと同じことをやられたと考えるべきか」
「ああ」
「清田どうするんだ」
「どうするか。森水の方がそういったことを考えるのが得意だろ」
「いや、思い浮かばない。学年でも頭がいい清田か不本意だが渡辺ならば……」
「俺か? いや、理系だからこういった方面は弱いぞ。そういったことなら、やっぱり政経・日本史が得意な川波の仕事だと思うけど」
「ちゃっかり俺に仕事を回すなよ渡辺」
「いいだろう。さあさあ考えてくれよ」
渡辺が俺に促してくる。
まったく、調子がいい奴だ。渡辺は短距離で理系クラスの奴であり頭は学年でもトップクラスであり志望校は旧帝大という実力を持っている。体は若干ふっくらしているが、その見た目に反して足は速く、4継(4×100mリレー)のメンバーの1人だ。
そんな渡辺が俺をじっと見つめてくる。渡辺からの視線に屈した俺は周りを見る。すると、周りも俺を見ていた。
「み、みんな?」
「川波しかいないんだ」
「そうだ。今まで身に着けてきた社会科の知識は今日のために役立つだろ」
「将来政治家になるつもりだろ?」
「いや、政治家になるつもりはほんの1パーセントしかないし」
「いや、1パーセントでもあるなら考えてくれよ」
「な」
「なあ」
「え、ええーっと、どうすればいいんだ」
俺は、若干引く。
だって、この状況でいい考えが思い浮かぶはずがないだろう。それに俺より絶対にいいアイデアが思いつくやつがこんなかにいるだろう。
「なあ、川波」
「川波」
どうだけ俺に期待するんだよ。
期待しすぎだよ。
どうすればいいんだ。
校長先生に直接言う。確かにいい考えかもしれないが、校長先生にあえなくては意味がない。校長室は基本的に立ち入り禁止だ。
他の先生に言う。これはもう試した。そして、意味がなかった。
生徒会に頼む。これも失敗した。
じゃあ、残っているのは何か。
俺には1つだけ考えがあった。日本史の知識を使ってだ。しかし、これをやってしまったら俺達は学校を退学しなければならないリスクを負う。そんなリスクを負うぐらいであれば現状に満足するべきでないか。
この案だけは言えない。
俺はずっと黙っていた。
「なあ、川波。俺達は別にどうなってもいい。だから、言ってくれ。お前は1つだけ何か考えがあるんだろ」
「いや、そんなこと……」
「わかっている。でも、俺達には覚悟がある。だから、言ってくれお前の案を」
清田に説得される。
清田以外も俺を見つめる。その眼には覚悟があった。強い瞳であった。
「……わかった。俺の考えた案は──」
次回更新は4月後半になる予定です。




