第6話 水曜日の部活は将軍への宣戦布告
県立中川高等学校。
それが俺の通う高校の名前だ。県内ではトップ層に当たる進学校というわけでは別段なく、一応は進学校と言われているが中流クラスの学校である。ただ、それでも2~3年に1度はあの旧帝国大学の中でも最大の難関、この日本を代表する東大に現役生を送ることもある。それに毎年旧帝大の北大、東北は必ず出している。だから、進学校とも言われているわけだ。中川市という県の中央に位置しているため県の北、南、西からと各地から生徒が通ってくる。
ちなみに男子校。共学校ではない。そもそもこの県には共学校というものが存在してない。進学校の中ではの話だが……。
さて、そんなことよりそろそろ自己紹介をしたいと思う。
俺の名前は川波重。
2年4組出席番号12番。誕生日2月12日。血液型A型。身長171センチ、体重58キロ。好きな食べ物ハンバーグ。嫌いな食べ物漬物。好きなこと陸上の長距離特に5000m走。陸上部所属。
嫌いな先生
将軍こと大泉先生。
これが俺のプロフィール的なものである。
さて、いよいよ物語をはじめていこうじゃないか。
◇◇◇
水曜日。
本来ならば俺達はグラウンドを使うことができない日だ。昨日使わせてくれなかったなら、今日は使わせてくれるだろう。そう言ったことを考えて、昼休みになると昨日グラウンドを使えなかったことを俺達は文句があったので将軍に直接体育教官室まで陳情に行った。陳情に行ったのは、俺と清田、そして陸上部の部長であり短距離ブロック長の田澤明彦、同じく短距離の河合将太の4人であった。
将軍は部屋の奥の机にいた。
「大泉先生」
田澤が将軍を呼ぶ。
「ああ、何だ」
将軍は、興味なさそうに返事をする。
なんていう態度だ。こいつを見ているだけでも怒りが本当にわいてくる。この感情はどうすればいいんだ。いい加減に俺の心情を軽くしてもらいたい。血圧が絶対に高くなっている。
「昨日のことで陸上部から話があるのですけどお時間いいですか?」
田澤が丁寧に事情を話す。
「ああ、そのことか。悪いが俺は今忙しい。後にしてくれないか」
「ふっぜんなよ! 陸上部との約束を守らなかったくせに逃げるつもりか!」
俺に怒りはついに頂点に達した。
爆発した。
何で、俺達だけ部活をさせてもらえないんだ。部活をきちんとした場所でやらせてもらえないんだ。どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。俺の頭の中は疑問でいっぱいだった。いや、完全にクラッシュした。将軍を何としてでも殴りたい。何かをしないと俺の理性はイカレてしまう。
「落ち着け、川波」
「おいっ、教師に対してその態度は何だ。いい加減にしろ」
「何が教師だ。こういう時だけ教師ぶりやがって。約束も守れないような大人が教師を名乗るんじゃねえよ!」
将軍に怒鳴りつける。
我慢の限界だった。清田に抑えられていた俺であったが、必死に抑えている清田の手を無理やりでも突き放そうとする。しかしながら、中学時代は野球部の清田の力は想像以上に強くてなかなか話すことができなかった。
「そうだ! そうだ!」
俺の言葉にずっと黙っていた河合も便乗する。
「うるさい! お前らこれ以上俺を怒らせたら校長に言うからな。大学の推薦取れなくしてやるからな!」
「それは脅しではないですか! そんなことを教師がやっていいと思っているのかっ!」
「いいんだよ! お前ら陸上部なんかグラウンドを使ってやるほどのスポーツじゃねえだろ! どこでも走れる場所があるんだからむしろ部活なんかもいらないぐらいだと俺は思っている。わかったら、さっさと出て行け!」
「「「「いい加減にしやがれ!」」」」
その言葉には俺と河合以外に俺達をなだめていた清田そして田澤の怒りを沸点へとしてしまった。
体育教官室はカオスな状況へとなった。
俺達は将軍とずっと口論を続けた。さすがに、教師に殴りかかりたいという気持ちがあったが実際にやってしまったら休学または退学処分が下されてしまう。チキンだと言ってもいいが、こればかりはできない。やはり大学に将来行くつもりであるからここで休学など内申に悪いようなことだけは書かれたくはない。ただ、もう遅いような気がするけど気にしない。
◇◇◇
将軍との口論はずっと続いた。
キーンコーンカーンコーン
昼休みの終わるチャイムが鳴った。昼休みの時間は30分なのでおよそ25分程度将軍相手に口論していたことになる。
「では、大泉先生は今日私達にグラウンドを使わせてくれないということなんですね」
「使わせるも何も水曜日は野球部が使う日になっているだろう」
「それは、将軍が昨日陸上部が使う日に野球部が使えるようにしたからいけないんだろ。振り返りということで俺達にも使わせろよ」
「そうだそうだ!」
「大泉先生。俺達のことも考えてもらえませんか」
「絶対に断る。俺達の練習を邪魔するな。陸上部の分際で生意気なんだよ。お前らが結果を出したところで注目などないだろ。野球は甲子園がある。注目が違う。野球部のために高校のグラウンドは存在しているようなものなのだ」
将軍の自分勝手な理論がどんどんと語られてくる。
陸上部を完全に舐めた発言。全国にいる高校生、いや大学生、中学生、社会人すべての陸上選手、関係者に対して喧嘩を売った発言だ。
そして、一方で野球を尊ぶのその発言。野球ばっか甲子園を取り上げるのもおかしいと思う。人気のあるないはでかいかもしれないが、ある程度高校程度のスポーツであれば機会均等に広報すべきではないか。
「「「「……」」」」
俺達はあまりの将軍の身勝手さに怒りを忘れて呆然としてしまう。
「ほらほら。チャイムはなった。早く5限が始まるから行きなさい」
俺達がだまったことをいいことに将軍は、さっさと俺達を返そうとさっきなったチャイムの話題を出してくる。
まったくもってふざけてやがる。しかし、あまり長居をしても意味がない。仕方なく、俺達はあきらめて教室へと変えることとなった。
◇◇◇
放課後。
部活の時間。グラウンドはいつも通り野球部が練習を始めていた。しかも、律儀なことに将軍がグラウンドに一番乗りをしていた。俺達が勝手にグラウンドを使わないように監視をする意味があったのだろう。そこまでする努力はほかの場所に持って行ってほしい。とても馬鹿げた教師だ。俺の中での将軍の評価はすでにマリアナ海溝ほど深いものになっていた。つまりは完全にマイナス。もう、あいつを教師としてみるようなことはないだろう。あいつにだけは授業を教わりたくない。
結局のところ、今日の部活もジョグになってしまった。
部活が終わると清田が帰るなと命令した。
部室に全員集めたのである。短距離、長距離合わせて27人。これが俺達陸上部の全部員数である。
「さて、集まったもらったのはグラウンドの件だ」
ごくり。
田澤のこの言葉に誰かがつばを飲み込む音が聞こえた。
俺も、ついにこの話を部長自ら切り出すとは思わなかった。今日の昼休みに一番冷静に将軍と対していた田澤がこの話を切り出すと思わなかった。
どんな気になったのだろうか。
「俺達は生徒会にまず訴えようと思う」
生徒会に訴える。これがもっとも平和的な解決法ではないか。俺もそう思う。生徒会に頼るというのは生徒会室の目の前におかれている目安箱に将軍がグラウンドを使わせてくれないです。どうにかできませんかと、陳情することができる便利な意見箱だ。それに、意見を出せばいい。田澤はそう考えた。
他のメンバーも異論はなかった。
「じゃあ、清田。文章は任せた」
「ああ」
こうして、明日生徒会に対して陳情することが決まった。
ただ、俺の中ではどうしても将軍にぎゃふんと言わせたい。そんな思いも芽生え始めていたのだった。
次回は明日の18時更新です。