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第5話 火曜日の部活はグランドで行え……ない?

 県立中川高等学校。

 それが俺の通う高校の名前だ。県内ではトップ層に当たる進学校というわけでは別段なく、一応は進学校と言われているが中流クラスの学校である。ただ、それでも2~3年に1度はあの旧帝国大学の中でも最大の難関、この日本を代表する東大に現役生を送ることもある。それに毎年旧帝大の北大、東北は必ず出している。だから、進学校とも言われているわけだ。中川市という県の中央に位置しているため県の北、南、西からと各地から生徒が通ってくる。

 ちなみに男子校。共学校ではない。そもそもこの県には共学校というものが存在してない。進学校の中ではの話だが……。

 さて、そんなことよりそろそろ自己紹介をしたいと思う。

 俺の名前は川波重。

 2年4組出席番号12番。誕生日2月12日。血液型A型。身長171センチ、体重58キロ。好きな食べ物ハンバーグ。嫌いな食べ物漬物。好きなこと陸上の長距離特に5000m走。陸上部所属。

 嫌いな先生 

 将軍こと大泉先生。

 これが俺のプロフィール的なものである。

 さて、いよいよ物語をはじめていこうじゃないか。


 ◇◇◇


 火曜日。

 今日は週に1回だけグランドを陸上部が使うことのできるすがすがしい日だ。

 ははは。ざまあみろ、野球部。はっははは。

 そんなすがすがしい日の最後の授業であったのは全校が集まって行われていた開校記念式であった。毎年秋10月1日のこの時期になると行われる行事だ。

 ここで行われることは要約するとOBが壇上で「おめでとうございます」と言うだけの話だ。聞かなくても良い気がする。寝るか。

 また、毎年OBが講演してくれるのも恒例だった。去年は大手企業であるヤマモト電気の取締役を務めている市川豪也氏が企業に受かるためのコツを講演していた。さて、今年は誰であるのか。


 「では、続きまして講演へと移ります。今回講演していただきますのは中川高校だい79期卒業生大川五郎さんであります」


 お、大川? その名前どこかできいたことがあるようなないような。

 続いて司会を務めている沼宮内先生が大川さんの略歴を説明し始める。


 「大川さんは現在みなさんも知っていると思いますがここ中川市の市長をなされている方です」


 ああ、なるほど道理で聞いたことがあると思った。中川市長だったのか。そんな市長がわざわざ話に来てくれるとは中川高校もかなりのものだ。まあ、男子校だけど……。


 「では、大川さんよろしくお願いします」


 「はい」


 大川さんが沼宮内先生の司会に促されて講演を始める。


 「みなさんこんにちは」


 『こんにちは』


 「私は中川市市長を昨年度から務めさせていただいています大川です。みなさんの中には私に投票してくれた親戚の方もいるかもしれません。まずは、お礼を申し上げたいと思います。さて、今日の講演のテーマは実は昨年度成立しました18歳選挙権に関わり高校生と政治という話をしてほしいと先生方に言われました。みなさんにとって政治とはとてもつまらないもの、信用できないものという認識があると思います。政治に関心のない人が多いと言われています。しかし、政治がないと日本という国は動くことができません。中川市も政治によって運営されています。今日はそんな話をしていきたいと思います」


 大川さんはそれから、政治というテーマで話した。

 日本史、そして政治・経済が得意である俺からすればとても興味深い話であった。


 「例えば、みなさんが普段何気に通っている道路がありますね。あれを作っているのは中川市です。あくまでも市道の範囲ですが、市道を作る際に中川市議会において予算を承認してもらいます。この予算が成立しないと中川市は多くの事業を行うことができません。みなさんの中で中川市内の小学校、中学校出身の人はどれぐらいいますか? 手を挙げてみてください」


 大川さんが言うと、俺も含めて全体の6割程度の人が手を挙げた。


 「かなりの数がいますね。さて、中川市出身の方ならば知っていると思いますが、市内の小学校・中学校の給食は1つの給食センターがまとめて作っています。この給食センターはとても古いものです。そこで、私の選挙公約の1つにこの給食センターの改築というのを提言していました。現在、市議会において給食センター新築の予算案が審議されています。政治というのは、このように身近なものを作る際に代表の人が決めるというものです。決してみなさんが思っている以上には遠くはないのです」


 給食センターの新築については昔から言われていたものだ。俺の家の近くにその給食センターがあるが本当に古くていつ壊れてもおかしくはない。だから、この政策について実行すべきと俺は思っている。1つだけ言いたいのは新しい給食センターで作られる給食を食べることができなかったことだろうか。

 その後も、中川市のこと。国会のこと。などなど大川さんは選挙について語った。

 そして、最後に生徒会長の海野が感謝の言葉を述べてすべてが終わった。

 大川さんが降壇する直前に将軍よりアナウンスが入った。


 「実は、大川市長に見せたいものがあります。大川さんは、我が中川高校の野球部出身です。そこで、現在の野球部の練習を見ていってもらいたいと思います」


 な、なんてことを言うんだ将軍は!

 今日は陸上部が使っていい日だろう。それなのに、練習を見せるとか何を言い出すんだ。


 「今日は火曜日ですね。今は火曜日は陸上部にグラウンドを譲るという決まりはないんですか?」


 そうだ。

 大川さんは言ってくれた。火曜日は陸上部が使うという決まりは大川さんが在学していた当時から存在していた決まりだったようだ。伝統の前に将軍よ膝まづけ!


 「いいえ。そんなことはありません。そうですよね、沼宮内先生」


 「い、いや大川さんの言うとお──」


 「そうですよね、沼宮内先生?」


 「はい。そうです」


 はあ? ふざけんじゃねえよ! 沼宮内先生に事前に話を通さずに何今決めてるんだよ! しかも、完全に沼宮内先生がまだ中川高校に来て2年に対して将軍は6年でありかつ年上という職場でのパワハラだ! 訴えてやる!

 俺の怒りはマックスだった。

 全校が集まっているのなんか気にしない。

 俺は、体育座りの状態から立ち上がろうとした。

 しかし、


 「やめておけ」


 「お、おい何で俺に行かせてくれないんだよ、清田」


 清田に学ランの裾を持たれて立つのを止められた。

 清田も俺の怒りがどれほどのものか理解しているはずだ。それなのにどうして止めるんだ。お前の行動を俺には理解することができない。

 怒りで我を失いかけている俺は清田をつい殴りたくなった。


 「まあ、まて今ここで出ていっても事態は変わらないぞ。とりあえずチャンスを待て。今日のところはあきらめろ。明日にでも直接抗議に行けばいい。ここは、大川市長に迷惑にならないようにしなければいけない」


 「た、確かにそうだが……」


 俺は未だに煮え切らなかった。

 ここで、諦めたくはなかった。どうしても将軍に文句を直接言いたかった。ここで素直に引いてしまえば陸上部の伝統をつぶすようで嫌だった。


 「まあ、明日にでも行こう。今日は我慢してくれ」


 俺はその言葉で気づく。清田が俺を止めている手と反対側の手つまりは左は震えていた。本当は清田も悔しいのだ。将軍に練習までさせてもらえないこの状況に納得がいっていないんだ。口では納得しているつもりでも本当は体は本音は許せなかったのだ。

 俺は、立つのをやめる。


 「……明日絶対に文句を言ってやる」


 「ああ、そうだ」


 俺達のそんな会話があったことを知らずに将軍は大川市長に対して野球部のことを永遠と自慢し続ける。饒舌に語る。

 他の先生方も少しどころかかなり呆れている。

 しかし、視界をしている沼宮内先生は新参者のせいで完全に将軍に舐められているので議事をなかなか進めることができない。

 結局、教頭先生が直接出てきた。そして、教頭先生に叱られ将軍ははっきりと一番前に座っていた俺にも聞こえるような大きさの舌打ちをして自分の席に戻っていった。

 行事はすべて終わった。

 教室に戻り、掃除をし部活の時間がやってきた。


 「みんなごめん」


 部活の最初に沼宮内先生が放った一言がこれであった。

 沼宮内先生は悔しそうだった。


 「先生は悪くありません」


 「悪いのは将軍です」


 「そうだそうだ」


 「そうです」


 俺達2年生、そして後輩の1年生全員が沼宮内先生をフォローする。悪いのは将軍。全員の思いは1つであった。

 明日絶対に抗議してやる。

 その日の部活は結局60分ジョグになったが、明日どうしてやろうかずっと考えながら走っていたので市民ランナー以下のスピードで走っていたのかもしれない。

 足が痛いとか思いはなかった。疲れたという思いもしなかった。


 「明日、絶対に……」


 俺はそんな思いだけを胸にしてその日の部活を終え家に帰った。

 家に帰っても思っていたのはこのことであり、眠りについても結局翌日まで復讐の思いは1センチたりとも減ることはなくむしろ増加する一方であったのだった。

 

次回は明日の18時更新です。

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