第2話 土曜日の部活もサイクリングロード
県立中川高等学校。
それが俺の通う高校の名前だ。県内ではトップ層に当たる進学校というわけでは別段なく、一応は進学校と言われているが中流クラスの学校である。ただ、それでも2~3年に1度はあの旧帝国大学の中でも最大の難関、この日本を代表する東大に現役生を送ることもある。それに毎年旧帝大の北大、東北は必ず出している。だから、進学校とも言われているわけだ。中川市という県の中央に位置しているため県の北、南、西からと各地から生徒が通ってくる。
ちなみに男子校。共学校ではない。そもそもこの県には共学校というものが存在してない。進学校の中ではの話だが……。
さて、そんなことよりそろそろ自己紹介をしたいと思う。
俺の名前は川波重。
2年4組出席番号12番。誕生日2月12日。血液型A型。身長171センチ、体重58キロ。好きな食べ物ハンバーグ。嫌いな食べ物漬物。好きなこと陸上の長距離特に5000m走。陸上部所属。
嫌いな先生
将軍こと大泉先生。
これが俺のプロフィール的なものである。
さて、話を続けていくことにしよう。
◇◇◇
翌日。土曜日。
俺は、今日の部活が午前中であるということもあり土曜日ながら朝の7時に起床した。ただ、中川高校まで俺の家からの距離は直線距離で約2.1キロということもあり、自転車でこいでいくとざった15分から25分程度で着く。なので、別に早く起きる必要もなく。7時半、最低でも8時に起きればセーフだ。しかし、俺は走るだいぶ前に食べておかないと吐いてしまうので早く起きて朝食を食べる。ならば、朝食を食べなければいいと言う人もいるのではないか。確かにそれも一理あると思う。しかし、朝ご飯はとても大事なものであると思う。朝に食べないと頭もまわらないし、走ることもままならない。だからこそ、早く起きてまで俺が朝食を食べるのだ。
「行ってきます」
朝食を食べ終え、そして学校へと向かう。
学校までの道は先ほども言ったが2キロ程度だ。しかし、上り坂ばっかのためすぐにつくことができない。加えて風が強い。空っ風の影響もありこの時期は特に激しいのだ。だから、風と戦いヘロヘロになりながら学校へ行く。1年生の入学したての時はとても苦労したものだ。1年でここまで成長したと思うと意外と感慨深くも感じる。
そして、自転車をこいでかれこれ15分。俺は、ようやく中川高校の正門を目の前にしていた。ようやく、これで学校にたどり着いた。そう思い、力が自然と抜ける。学校の門をくぐり少し緩やかな上り坂を上るとそのまままっすぐ先にある駐輪所に自転車を停める。駐輪所は奥の方から1年1組、1年2組……となっており手前が3年5組のものとなっている。学年が上がれば上がるほど駐輪所の奥まで行かなくて済み大変楽だ。
さて、自転車も置いたので俺は、グランドへと行こうとした。
しかし、問題は起きた。
カキン
カキン
バットにボールが当たっている音がした。
グランドをよく見ると野球部がグランド全体に線を引いたりしている。これは一体どういうことなのか。
「江本、今日野球部なんかあるのか?」
俺は、仲のいい野球部の江本がちょうど近くでマーカー引きをしていたので、野球部のことについて聞いてみる。
「ああ、今日は長沼高校との練習試合がある日なんだ。だから、今野球部は一生懸命グランドにラインを引いているところ」
「えっ! 今日練習試合なのか。だって、沼宮内先生は職員室に今日のグランドの使用予定について何も書いていなかったから陸上部がグランドを使う予定だったんだぞ」
俺の言葉を聞いて江本はえっと言いたそうな顔になった。
目からうろこ。完全に知らなかったようだ。まあ、確かに職員室の掲示板のことについて先生以外で知っているような人はほとんどいないだろう。俺だって沼宮内先生に言われて今日誰も使うことがないという話を知ったのだから。
「そんな話はないはずだけど……大泉先生が普通に明日練習試合ここでするからよろしくって言っていたからてっきりほかの部活との都合を話していたのだと思っていたけど」
いやいや、そんなことはなかったぞ。だって、沼宮内先生は完全にグランドが空いている前提で部活の内容を決めていたから少なくとも掲示板には書かれていなかった。掲示板には普通に部活をすることは書かなくてもいいが、練習試合や普段ほかの部活(この場合に差すのは陸上部とサッカー部)が練習するスペースも使う場合には連絡として書いておかなければならないルールと職員会議で決められていると前に沼宮内先生は言っていた。また、使う際には掲示板以外にほかの部活の顧問との話し合いもしておくようにと決められている。それもやっていない。
大泉はいや、将軍は本当にふざけていやがる。
ルールも守れない大人はとてつもない屑だ。
俺は怒った。
クソクソクソクソクソ。ふっざけるなよ!
怒ったまま俺は部室へと行った。部室の中には部長の清田と後輩の1年生競歩走選手の冨沢流がいた。この2人は長妻線というJR路線を使って中川駅まで来てから学校へ行っているため電車の時間の関係上、土曜日など休みの練習においては部室に結構速く来る。
「川波先輩おはようございます」
冨沢が俺に挨拶をしてくる。
「ああ、おはよう」
俺は、冨沢に対して挨拶を返す。
「ところで、清田」
「ん? 何だ?」
「今日の部活はどうなるんだ?」
「ああ、そのことか。まだ沼宮内先生が来ていないから何とも言えないが、この様子だとおそらくはサイクリングロードで練習をすることになるだろう。沼宮内先生が大泉に抗議をしても何にもなんないから無理な話だな。それから、短距離の方もサイクリングロード横の緑地公園で練習になるだろう」
「やっぱりか」
俺は、何となくこうなるように気がしていた。2日連続でのサイクリングロードでの練習は本当に嫌だ。サイクリングロードでの練習となるとやはり長い距離を踏むような練習しかできない。スピード練は、サイクリングロードがアスファルトのため足に負担が大きいのでできない。だから、長い距離の練習──具体的には12000mのペーランか、ウェーブ走ぐらいに選択肢が狭まれる。
本当に嫌な話だ。
「おはようございます」
「おはようございます」
「おはよう」
部室に次々と1年生が入ってくる。同級生である2年生もやってくる。2年生は長距離は中距離も含めて5人だが、その内で俺も含めて3人が同じ中川市市内に家があるためぎりぎりまで来ないことが多い。俺自身も学校のある日は結構ぎりぎりに登校している。
そして、全員がそろったところで14人が入るのには狭い部室から出る。
すると、顧問の沼宮内先生がやってきた。
「みんな、見ての通り悪いが、短距離も長距離も緑地公園に移動だ。学校に帰られないで現地解散にするから荷物は全部持って行けよ。自転車で来た者は自転車で緑地公園まで移動だ。一応開始は9時半にするから9時半までに緑地公園に移動しておけよ」
『はいっ』
そう言って、みんな移動し始めた。
「森水行こうか」
「ああ、行くか」
「お前ら俺を置いていくのか」
俺が森水と一緒に自転車組であることから行こうとすると射水が文句を言ってきた。まあ、これはいつもの路線であるから何にも変なことはないんだが。あいつは、いつもいつもこのような会話をする。暴走しているときと暴走していない時の差が本当に激しい奴だ。
そして、自転車をこいでサイクリングロードの横にある緑地公園へと向かう。
緑地公園について徒歩組が着くのを待ち、全員がそろうと沼宮内先生が今日のメニューを発表する。
結局、今日も12000mのウェーブ走であった。
くそ、将軍のせいだ。すべて。
俺は、今日も将軍への怒りの度合いが高まっただけの練習だった。
明日は、練習のオフの日。何とか将軍に一泡吹かせたい。そんな風に思った土曜日であった。
次回は明日の18時更新です。