第1話 金曜の部活はサイクリングロード
新シリーズです。
社会問題シリーズ第4弾目にして初めて主人公が政治家ではなくなりました。また、物語の始まり方も今までとは異なった始め方をしているため今までとは異なるものになるよう努力しています。
将軍。
俺達の学校にはこう呼ばれる教師がいる。彼は野球部顧問である。そして、校庭の支配者でもある。さらに蛇足的に加えると生徒指導の担当でもある。
ただこの場合は野球部の顧問としてが一番の問題だ。野球部のせいでサッカー部、陸上部は校庭を使うことができずに追い出されるのが日常と化していた。サッカー部は一応練習もすることができたが野球部の試合があるとかで土日は河川敷に追放されてしまっていた。陸上部は校庭の隅っこで細々と短距離だけが走っている。長距離に至っては、外周を走ることしかできない。ロングジョグ以外の練習をすることができないありさまだ。
ただ、一応は暗黙の了解というか協定というようなものは存在しており決まった曜日は校庭を使えることとなっていた。だが、それも今では死文化だ。そんなものは関係なくなってしまっている。弱小野球部がこのまま校庭の支配者となるのは気に食わない。
なぜ、野球だけが愛されるのか。サッカーは、そして陸上というスポーツは無視されるべきものなのか。俺達のもやる権利がある。校庭を使う権利がある。走りたい。ボールを蹴りたい。跳びたい。試合をしたい。
だからこそそんな中、ついに俺達はかの将軍に対して抵抗することを決めたのだった。
この物語は将軍こと大泉先生を追放──とはいかないものの校庭部活の尊重を要求するための一高校生運動史である。
◇◇◇
県立中川高等学校。
それが俺の通う高校の名前だ。県内ではトップ層に当たる進学校というわけでは別段なく、一応は進学校と言われているが中流クラスの学校である。ただ、それでも2~3年に1度はあの旧帝国大学の中でも最大の難関、この日本を代表する東大に現役生を送ることもある。それに毎年旧帝大の北大、東北は必ず出している。だから、進学校とも言われているわけだ。中川市という県の中央に位置しているため県の北、南、西からと各地から生徒が通ってくる。
ちなみに男子校。共学校ではない。そもそもこの県には共学校というものが存在してない。進学校の中ではの話だが……。
さて、そんなことよりそろそろ自己紹介をしたいと思う。
俺の名前は川波重。
2年4組出席番号12番。誕生日2月12日。血液型A型。身長171センチ、体重58キロ。好きな食べ物ハンバーグ。嫌いな食べ物漬物。好きなこと陸上の長距離特に5000m走。陸上部所属。
嫌いな先生
将軍こと大泉先生。
これが俺のプロフィール的なものである。
さて、いよいよ物語をはじめていこうじゃないか。
◇◇◇
俺は陸上部の一員として今日も走っている。走っている場所は学校のグランド──ではなく、学校から3キロ程度離れた場所に存在しているサイクリングロード上だ。このサイクリングロードは端まで走ると片道で8キロ程度あるため往復16キロまでの練習をこなすことができる。と、いっても今日のメニューは12キロのペーランである。キロ3分50秒のペースで走っている。3分50秒というとまあまあのペースト言ったところだろうか。俺としては県内で上位に食い込む例えば5000mを14分台で走るような化け物ではないためこれが俺にとっての最適のタイムでないかと考える。ちなみに、俺の現在の陸上競技においての自己ベストは以下のようになっている。
800m 2分7秒29
1500m 4分13秒56
5000m 16分21秒98
こんな感じだ。一応この結果を見る限りでは上位に食い込めずに少し劣るぐらいの感じとなる。800mであればやっぱり2分を切っておかなければならなし、1500mも4分切、できれば3分55秒ぐらいで走れる力がほしい。そして、俺の好きな5000mはやっぱり16分台じゃ相手にならない。やっぱり、15分前半は最低であり、さらにもっと速い14分代の力がなければいけない。
さて、話の話題はずれてしまったがそろそろ現実に戻るとしよう。
「はぁはぁはぁ」
現在、サイクリングロード上を俺は走っている。
陸上部中長ブロックは2年生5人、1年生7人の計12人だ。3年生はすでに受験勉強のため5月に引退している。
「はぁはぁはぁ」
「はぁはぁ」
俺はその12人と一緒に走っている。
現在は、4~5キロ地点を3分50秒で走っているところだ。
「啓太ガンバ!」
12人の中の1人である1年生の沼旗啓太が疲れたのか5キロ地点で落ちかけていた。
俺は必死に応援する。
「はぁはぁはぁ」
1年前の俺は3キロでバテていた。それに比べて5キロ走れる1年生は有能だ。これからさらに伸びる。
「先輩、先に行ってください」
結局、沼旗はペースについていけずに落ちた。
そして、その後も1年生や2年生が落ちていき最後までペースを守りきることができたのは5人だけであった。
え? 俺はだって? もちろん、俺は……あと1キロでバテました。いやーだって、足が完全に動かなくなったのだから仕方ないよな、なな。うーん、はい。ただ単に自分の力不足です。
「おいおい、川波。あと少しだったのに、頑張れよラストスパート」
「し、仕方ないだろう。足が完全に動かなかったんだから。乳酸がたまっていたから乳酸がたまったうえで走る練習をしっかりやっておかなければならないなあ」
俺はそんなことを述べる。
「まったく、まあ、俺としてはお前は真面目にやっているんだから別に文句はないし。それに本来であればお前にブロック長やってもらいたいぐらいだったのだからな」
さっきから俺と会話をしているのは、俺達の陸上部の中長距離ブロック長の清田秀だ。勉強もできるし(こないだなの期末テストは学年198人中3位)、運動もできる(5000mの自己ベストは15分12秒)。
「清田にそんなことを言われると困るんだが……なあ、森水?」
「あ?」
俺は、話を無理やり近くにいたほかの同級生に振る。
俺に名前を呼ばれたやや髪が短く俺よりも若干身長が高い170センチの森水裕也だ。
俺との関係が最も陸上部で良好の奴だろう。まあ、この言い方をすると俺がほかの陸上部の奴との仲がまるで悪いみたいな言い方になるが、別にそういうことはない。普通にみんな仲がいい。ただ、その中でも俺と森水の関係が最も深いというわけだ。
「何の話だ?」
「いやさあ、俺がブロック長になったらいいって清田が言うと困るって話」
「そーだな、清田以外にこの部をまとめられる奴はいないと思うぞ。例えば、あいつとか……」
森水が指を急にさす。
俺は指を指した方を向く。そこにいたのは、1人の暴走した男であった。
「きゃっははははははああああああああああああ」
……走り終わった後なのか疲れて頭がおかしくなってしまったのか絶叫している奴がいた。
「……あの馬鹿」
清田はそう言うと、叫んでいる奴のもとに行った。
「おいっ、射水! また浜岡をいじってるのか!」
「げっ! 清田」
「何がげっ! だ。いい加減浜岡と仲がいいのはいいが、先輩としての威厳を見せてくれよ。ただでさえ、お前は何かと能面ライダー好きっていう変な趣味があるんだからよ」
「能面ライダーを馬鹿にするなよ! 能面ライダーはな、大人の夢なんだぞ。あの日曜朝に約40年間にも及んで何十ともいうシリーズを放映している長寿番組なんだぞ。それを変な趣味といういいからでまとめるんじゃない!」
「……清田さ、こうなった射水はずっと黙りはしないからほっとこうぜ」
「ああ、そうだな。浜岡、変える支度するからこっち来いよ」
「はい、清田先輩」
「──いいか、そもそも能面ライダーはな──」
射水がずっと能面ライダーについて語っているのを横目にして俺達は学校に戻る前に清田からの練習終わりの言葉を聞いていた。
なお、射水は射水勇気というのがフルネームである。勇気という名前からもわかるようになぜか正義感が強いのか強くないのかわからないがヒーローものが好きでよく能面ライダー以外にも○○レンジャーについても熱く語ってくる。
「さて、話も終わったことだし学校に帰るか」
「そうだな」
清田の言葉に合わせてみんな頷く。ここで、ようやく射水は能面ライダーの話を終わらせた。かれこれ10分程度熱く誰もいない中で語っていたわけだ。お疲れさま。
帰りももちろん学校まで軽いジョグで帰る。
そして、およそ10分程度軽いジョグをして学校に帰るとグランドの端っこでは短距離がバウンディングの練習をしていた。どうして短距離はあんなにばねがあるんだか、俺にはバウンディングをどうやればうまくできるかわからないし、できない。そういったことがあるからかなりドリルは嫌いだな。と、どうでもいいことを短距離の練習を横にして考えていた。
「おっ、みんな練習が終わったか」
部室に戻る前に声をかけてきたのは、我が陸上部の顧問である沼宮内先生だ。元陸上110mHのインターハイチャンピオンである実績を持つ先生であるが、今はもう陸上を引退してしまったためその輝かしい業績が嘘かと思えるぐらいおなかが出ている。ただ、そのことについて誰も言ってはいけないのが暗黙の了解だ。
「みんな、集合」
俺達は先生の前に集合をする。そして、先生から明日の予定について言われる。明日は土曜日であるためこの学校からおよそ10キロメートル離れた場所にある陸上競技場に現地集合する予定だ。毎週そうしている。
しかし……
「明日の練習は学校に変更だ。どうも小橋市の陸上競技場はサッカーJ2のガンバ出湯が使うらしいから使えんみたいだ。なので、明日は9時に学校集合ということだ」
そんなあ。何でせっかくの競技場が使える日なのに学校で練習をしないといけないんだ。そもそもガンバ出湯ってJ2といっても万年最下位層でどうせ今年あたりにJ3降格が見えているくせにホームの小橋市の競技場をJ1規格にするっていうわけもわからんことをするサッカーチームじゃねえか。自分たちの実力を知っておけ。現実を見ろ!
と、俺は頭の中で思った。
「ちなみに、職員室に明日のグランドの使用については何も連絡がなかったから長距離も普通にグランドで練習をすることができるぞ」
「おおおお」
それについてはよかった。
明日は野球部がいないのか。最高じゃないか。だったら、家から学校の方が近いし、まあ許してやってもいいか。そんな風に思えた。
しかし、翌日事件は起きるのだった──