お香はあかん
投稿遅れてすいません。なにぶん、体調が優れませんでしたので。
今回はコメディー色おおめで、いつもより800字ほど少なめです。
自称敏感系男子(笑)
――買い物なう。
いやぁ~、こんなにかわいい娘とお出かけ出来て僕は幸せ者だなぁ!
嘘です。
カナリアの細い横顔を、穴が開くほど見つめるのはとても幸せではありますが、買い物となると別です。
俺は今、カナリアと2人で大通りの露店や店舗を見て回っている。
実は、買い物をスタートしてから、30分も経っていない。
が、聖女故に気軽に外を出歩けなかったらしいカナリアは、片っ端から店を冷かし、楽しそうに目を輝かせている。
そんな所に、疲れたなんて無粋なことは言えない。
日本で陰キャだのなんだの言われてきた俺には、当然体力はない。
増してや、この通りには俺の苦手とする『人』が多くいるため、もう帰りたいの一心である。
もちろん、そんなこと言えやしないが……
街を歩き回り、数時間したところで、
「お昼をとりましょうか」
俺はその提案に乗り、近くの飲食店によった。
「何にしますか?」
席につくや否や、カナリアは注文をみて目を輝かせていた。
正直、この世界の食は全くと言っていいほど知らないため、寄ってきた店員に「オススメを一つ」とだけ言い、料理が出来上がるのを待った。
うんうん、と悩みに悩んでいたカナリアも結局は俺と同じものを注文していた。
カナリアと他愛のない雑談を交わしながら、待つこと数分。
やってきた料理には度肝を抜かれた。
「……な、何だこれ……!?」
別にまずそうな訳ではない。そこまで量がある訳でもない。
ただ、何というか、インパクトがものすごいのだ。
名状しがたいこの料理……ただただ圧倒されるばかりである。
「い、いただきましょうか……」
カナリアも若干引き気味だ。
「いただきます……んっ!?」
口に放り込んだ途端に広がる、よく分からない香ばしさ。
それを引き立てるよく分からない草!
しかし、うまくマッチしている。
う、うまいのか、これ?
最後までよく分からん味でした。
結論
「……カナリア……一生俺に、飯を作ってくれ」
「~~ッ!?」
俺のこぼした一言に、カナリアはむせ返りそうになり、慌てて水を流し込んだ。
「な、何をいきなり言うんですか……もぅ」
耳まで真っ赤になっているカナリアを見ながら、俺は思考する。
どこに、照れる要素が……?
一生、ご飯。
気付いた。
世界には「一生俺に味噌汁を作ってくれ」とかいう個性的な告白もある。
つまり、俺はカナリアに告白していたらしい。
流石、敏感系男子の俺。即座に気付けた。
などと、頼んでもないのに火照っていく顔を誤魔化しながら、もっとよく分からなくなった料理を口に運び続けた。
食べ終わり、店を出た時には、太陽が真上から少し傾きつつあった。
1時ぐらいだろう、と勝手に目星をつける。たぶんあってる。
ぼっちだったために、日の出から日の入りまでひたすら太陽を見続けたことのある俺が言うんだ、間違いない。
閑話休題。
俺たちは今、通りにある服屋と防具屋を探している。
防具は命を守ってくれるものだから、俺の拙い想像に頼らないことにした。
武器はいらないのか、と思うだろうが、いらない。
カナリアは魔法使いらしく杖を持たないのか、と訊いたところ、「杖は、杖に魔力を通して魔法の威力を上げることが可能ですが、私の魔力ではすぐに杖がダメになってしまいます」だそうです。
恐るべし、元聖女!
ちなみに、俺は創れるのでいらない。使い捨ての方が疲れるが、手入れがいらなくて楽だからな。
最初に創ったよく切れる剣は、一度立ち寄った武器屋に売ったところ、銀貨10枚頂きやした。
日本円にして10万円ですよ。儲けもんですな。
というわけで所持金には余裕があります。
まあ、カナリアは5年は遊んで暮らせるほど持っていたけどね。
お金は大事だよ。たくさんあってもそうそう困らないしね。
そんなことを考えている内に、防具屋に着いた。
そしてラッキーなことに、隣に服屋があった。
早く帰れるか!?俺!
まず入ったのは防具屋だ。
それぞれ、店内を物色し、自分のサイズや好みにあったものを手に取ってゆく。
数十分間かけ、店内を回り、購入した。
俺が選んだのは、軽いが丈夫だと店主が言っていた胸当てと、属性耐性のある真っ黒なコートを買った。
銀貨8枚である。ぼったくりではないのか、と思ったが、そうでもないらしい。
冒険者になればすぐに元が取れるからだそうな。まさに一攫千金!夢の職!である。
それにしても、このコートに指ぬきグローブなんて嵌めたら、ただの中二病だ。
気を付けねば。
一方、カナリアの防具は。
俺とは対極に、真っ白なローブに背中に金の刺繍が施された気品溢れる防具だった。
何を着ても似合うな、カナリアたんは。癒される。
ローブのお値段。なんと、金貨10枚!一等地に家が建てられます。一等地は無理かな……?怖いです、元聖女さん。
ま、それもそのはず。ローブの効果は、着ている人の魔力の大きさによってダメージ軽減だそうだ。
カナリアの魔力なら雑魚の魔物の攻撃は通らないはずだ。恐ろしいよ、やっぱり。
でも、かわいいから許しちゃう!
なぜこんな高価なものが、こんな防具屋に売ってあるのかは、もうご都合解釈でいいんじゃないでしょうか?異世界だし?
「あ、あの……伊織さん?」
「あ、ごめんごめん。隣だよね?」
見惚れていた俺をカナリアが現実世界へ引っ張り上げ、隣の衣服店に足を踏み入れた。
ここからが長かったのである。
流石は女のこと言うべきなのか何なのか……
俺がこの世界の衣服を数着と防具の下に着こむインナーを数着買い終わっても、まだカナリアは店内を回っていた。
カナリアが服を買い終えたのは、日がほとんど傾きかけてからだった。
――夜。
俺らの泊まる宿をお忘れではないだろうか。
そう。ここは歓楽街にほど近い、「獣の宿」といういかがわしい宿なのである。
受付のおっちゃんは愛想がいい人なので結構好感が持てるが、何かと俺ら2人のことをからかってくるので、±0ってことで。
割り当てられた部屋は201号室。
カナリアと同室だ。仕方なかろう。空いてないんだから。
あのおっちゃんの言う事を信じるなら、だが……
「おぉ、すごいです」
部屋に入るとカナリアが感嘆の声を上げた。
うむ、確かに内装はキチンと整えられていて、声を上げるのも無理はないだろう。
カナリアに先にお風呂をすすめ、ベッドの上に腰を下ろして、部屋を見渡した。
ふと、視界の隅に怪しげなものが掠めた。
何だろう、とじーっと見つめる。
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やらしいお香♡
焚くとちょーっとHな気分になっちゃうよ
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んんっ!?
視界の右端に半透明の膜のようなものが視えた。
俺は目を疑った。
何だこれ!?
慌てて「ステータスオープン」と言うと、こう表示されていた。
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神作 伊織 男 16歳
魔法:空間魔法Lv1 生活魔法
スキル:剣術Lv2 回避Lv5 鑑定Lv1
固有スキル:【幻想創作】
職業:創造者
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鑑定:凝視したものの性質を知ることができる。Lvによって表記される内容が変化する。
どうやら、無意識にスキルを創っていたらしい。
それにしても、俺の鑑定スキルはお茶目と言うか、ふざけているというか。
俺は急いで駆け寄り、お香を処分した時、不意に後ろから、
「何してるんですか?」
首を少し動かし、肩越しに振り返る。
そこには、お風呂から上がったばかりのカナリアが立っていた。
風呂上がりなため、髪は少々湿っており、肌は上気していて、それが何とも艶かしい
というかエロい。
……ハッ!?何考えているんだ俺は!?
お香か!?お香なのか!?
「お風呂入ってくる」
お香の恐ろしさを実感しつつ、俺は浴室へ向かう。
なんと、浴槽がありました。
そこには当然、湯が張ってある。
カナリアの入浴時間はそれなりに長かった。
つまり、この湯にカナリアは浸かったということだ。
カナリアの浸かった残り湯を堪能できるなんて、俺は……俺はぁぁぁあああああああ!
ハッ!?またお香パワーがッ!?
邪念を取り払い、無心を意識した。
それから、身体を隅々まで洗い、カナリアの残――お湯に浸かった。
生活魔法の「クリア」でも身体はきれいになるが、やはり自分で洗った方がきれいになった気がする。
10分ほど浸かり、上がったところ、カナリアが何故かもじもじしていた。
「どうしたんだ?」
カナリアからの返事がない。ただの屍のようだ。
こんなかわいい屍なんかいてたまるか!?
「どうしたんだよ?」
もう一度訊く。
「な、何だか、いつもと違う気がして……」
ん?何がだ?
……あ、いい。言わなくていい。敏感系男子には分かる。
そういう事だな。
こんの、クッソお香がァァァアアアアアア!
残り香でカナリアまで変な気にさせやがって!
肉食系男子には、いいシュチュだがよ!こちとら、異性交友ほぼ皆無のドゥーテーなんじゃあああ!
ハードル高いッつうの!
「カナリア、さっさと寝ろ!ベッドはひとつしかないが仕方ない。おら、早く!」
弱欲情中のカナリアを無理矢理ベッドに押し付け、俺も布団の中に潜った。
カナリアと同じ布団で寝るのは2回目だ。
大丈夫。モンダイナイ。
俺は念のために、鼻栓を創造し、鼻に詰めた。
そう、残り香対策である。
カナリアにも詰めてやろうかと思ったが、流石に気が引けたので俺だけでも、ということで。
ひつーじが一匹、ひつーじが二匹……
羊を日本語で数えるのは、意味ないそうだ。
羊は英語でシープ。その発音が眠りを誘っているらしい。
だが、そんなことどうでもいい。
我は寝るのだ!
すでに横からカナリアの規則正しい寝息が聞こえている。
そこから数分経ち、気持ちの良いまどろみが訪れたと思ったが、隣の部屋から嬌声らしき声が聞こえたので、耳栓も詰める羽目になった。
もう、やだ――
それを最後に、意識は切り離されていった。
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「おい!早くしろ!」
静まり返った夜の街に男の声が静かに響く。
タタタッと街をかける男たちは静かに、されど確実に歩を進める。
抱えているのは子どもが1、2人入りそうな大きな袋。
男たちは目的地である建物に入っていくと、街は何事もなかったかのように、いつも以上にいつも通りになった。
――不穏な風が夜道を撫でた。
やっと1章のプロット考え終わりました。1章はあと10話ほどで終わるんではないでしょうか。
感想等お持ちです。参考にさせていただきます。
いやーお香!