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助けたい

伊織「天然だろ?」

カナリア「さぁ、どうなんでしょう?」

伊織「間違いなく天然だからな」

「うわぁぁぁあああああああああ」


 見事にフラグを回収し、まったりとした時間を壊され、俺は不機嫌なのだ。


「何かあったようですね。行きましょう、伊織さん。事件の予感です!」


 どうしてお前は喜々として事件に顔を突っ込むんだ。

 少年探偵団かッ!?




 てことでやって来ました、事件現場。


「ゴブリンに襲われたのか?」


「どうでしょう。兎に角行ってみましょう」


 俺らは村に逃げ込んできた村人らしきに近寄り、話を聞いた。


「どうされました?」


 見た目から、村の者ではないと判断したのか、嫌な表情を浮かべた。


 俺もカナリアも身なりはいいもんな。俺の顔はダメだけど……


 嫌そうな表情を浮かべながらも男は事情を話す。

 それほどまでに切羽詰まっているのだろう。


「俺らは狩りに出てたんだ。そしたらよ、この村の周辺ではありえないくらいの魔物が湧いてきたんだ。最近は魔物の数が落ち着いてきてたから大丈夫かと思ったんだが……クッソ!なぁ頼む。俺の仲間を――村人を助けてくれよ。……頼むよ……」


 はい、この村の問題の根源は魔王軍ですね。

 魔王軍の侵略により、魔物の数が増加。それを好機と思った人さらい、盗賊たちによる誘拐、窃盗。

 からのからの人間不信。


 うっはー、酷いありさまでやんすな。


「はぁ、助けてやるからそんな情けない声出すなよ。カナリア、一応こいつも治療しといて。使えるでしょ?回復魔法」


「はい……ですが、よく分かりましたね?」


「だってお前は()聖女様、だろ?」


 カナリアは俺の言葉によく分からないといった顔をするが、男の治療をした。




 俺らは村人から聞いた場所へ赴いた。


「どうして助けようと思ったんですか?気乗りしていないようでしたのに」


「なんでだろうな。俺は勇者じゃないし、全ての人を救おうとか世界を救おうとか、そんなことは考えてない。……ただ、嫌なんだよ、人が死ぬっていうのは、助けてと伸ばされた手を払うのが……でも、俺には人を救える力がないからさ、出来るだけ拾える命は拾おうって決めたんだ。俺が無理になった時は頼むよ……カナリア」





 俺が幼い頃、俺の両親は死んだ。

 家の前に捨てられたタバコの火の不始末で火事になった。

 父親は家族を庇い逃げ遅れ、母親は棚に足を挟まれ、身動きが取れない状態だった。


「伊織は逃げなさい。私たちは大丈夫だから……さぁ!早く!」


 俺は泣きながら走った。振り返らずに走った。自分が生きるために。


 最後に見た母の顔は笑っていた。

 でも聞いてしまったんだ。俺の姿が見えなくなった後に母親が放った言葉が。


 ――たす……けて……


 玄関付近まで走った俺は意識を失い、気が付いた時には2人とも帰らぬ人となってしまった。





「なんでこんなこと、まだ会って1日しか経ってない奴に話したんだろうな」


 カナリアは少しの無言を挟み、口を開いた。


「……私はいなくなりませんよ?考えてみてください……私たちはハブかれた者同士。伊織さんが居なくなってしまったら、私は一人ぼっちになってしまいます。私は職業(ジョブ)のせいですぐに親から引き離されてしまいました。その後、ご友人と呼べる人はできませんでした。なので、1人の辛さや悲しみは嫌と言うほど理解しています。あなたが――伊織さんが居なくなってしまったら、私は誰と一緒にいればいいんでしょうか?」


 カナリアの言葉はすんなりと入ってきた。

 知らないうちにそういう言葉を俺は求めていたのかもしれない。


「ありがとう。……でも、何かそれ、告白みたいだぞ」


 正直に感謝を述べるのは、何だか気恥ずかしくて、からかってしまった。


「……ありがとう」


「……何か言いました?」


「いんや」


 カナリアには聞こえないくらいの声でもう一度お礼を言い、赤くなっているカナリアを置いてく速度で歩き出す。





 着いた頃には、昼近くになっていた。


 そして、そこで最初に見たものは――襲われる人と囲う魔物。


 2人はすでに息絶え、1人は足を負傷、もう1人は狩り用の弓と短剣を片手に、足を負傷した人を守っていた。


 だが、拙い守りは今にも崩れそうだった。

 寧ろ、よくここまで耐えたというべきだ。


「カナリアは立っている男の正面を、俺は後ろをやる。誤爆とかすんなよ。死ぬから」


「はい。任せてください」


 ギャァァァアアアアアア


 ゴブリンが鳴いたのと同時に俺は走り出し、カナリアは魔法を撃ちだした。


 手に持つのはアイテムボックスから取り出した、あのよく切れる危ない剣。

 使わないって決めたのに……


 カナリアが使うのは木々を燃やさないように配慮した風魔法と土魔法。

 何ともレパートリーが多い奴である。


 一撃一殺では収まらず、一撃で2、3体を一気に斬り伏せる。

 往なして斬り、躱して斬り、剣で受けて斬る。

 一撃も当たらずただ斬っていく。


 時に頭を貫き、心臓を抉り、四肢を絶つ。

 断末魔を聞き届けず、血を浴び、斬る。


 斬って斬って斬りまくる。

 気分はまさに三〇無双。強者は余裕を見せるものです。

 俺の場合は見栄といいます。はい。


 ゴブリンの死体が30~40体近く積み重なり、大方片付いた頃、地響きが起こるような足音が聞こえてきた。


「ひぃぃぃいいいいい、オークだぁぁぁああああああ」


 健全な方の村人が叫ぶ。


「カナリア!広範囲の魔法でオークを撃て!倒せなくてもいい。取りあえず、動きを制限させろ!残っている雑魚(ゴブリン)は俺で対処する」


「はい!」


 俺は指示をとばし、カナリアの返事を聞く前に動き出した。


 残るゴブリンは十数体。

 どうやら、倒したゴブリンの中に指揮をする隊長のようなものがいたらしく、そいつを失ったゴブリンたちは統率力がなくなっている。


 バラバラになったゴブリンが逃げだして、村の方へ行くのは些か不本意だ。


 これは殲滅戦。なら俺には何が出来る?

 考えるんだ。ものを創ることしか出来ない奴は、戦場で何を考える。


 魔力の消耗具合は感覚で分かる。

 まだ十分に残っている。……なら罠か?

 いや、設置するのに時間が掛かる。


 どうするどうするどうするどうするどうするどうする


 俺の視界の隅にカナリアが掠める。

 カナリアは魔法を駆使し、大規模な攻撃でオークたちを屠っていく。


 そうか、点で考えるからダメなんだ。

 殲滅戦は点じゃなく、面で攻撃しなければ。


幻想創作(イメージクリエイト)


 俺はイメージする。

 決して避けることの敵わない降り注ぐ雨を。


 俺はイメージする。

 重い一閃で貫く神の槍を。


 2つのイメージを繋ぎ合わせる。


 イメージするのは敵を穿つ無数の神槍。


「降り注げ、グングニル」


 敵の頭上に金と銀を織り交ぜたかのような不思議な――でも神聖な光を放つ神槍(グングニル)が無数に出現し、降り注いだ。


 その一撃一撃は神の一撃。

 貫かれた魔物は灰燼と化す。


 あ、やべ、やりすぎた。オークまで屠っちゃったよ。


 自重を知らない俺は反省する。


「目が、ちかちかする。ほんと、無駄に出しすぎたわ、神話級の武具。おかげさまで魔力切れ起こしましたorz」


 意識が朦朧とするのを口内を噛んで耐えた。


 ここで倒れるとか、格好つかねぇだろ?


 全魔物を倒したので、カナリアが駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか?」


 おぉ、ええ子に育ってわしゃ、感激じゃ。

 お前は誰じゃ。


「いや、ちょっとキツイわ。魔力切れキツイわー。カナリアに膝枕されないと死ぬわー」


 事実、冗談言えるほど余裕ではないのだ。

 だが、そこはやせ我慢である。


「私の膝枕でよろしいのでしょうか?それなら、ここでは無理なので村に帰ったら、という事で」


 ん?なんて?君もしかして天然ちゃん?

 無自覚に声が出た。


「……え」


 頭で疑問を抱いても、心は正直なのだ。


 マジか。やったぁぁぁああああああああああああああああ!

 言質頂きやしたぁぁぁぁあああああああ


「「リア充爆発しろ」」


 生き残った村人2人の村人がそんなこと言っていたが、聞こえないふり。


「帰ろうか」


 膝枕が待っている。

 それよりも休みたい。立っているのもキツイんですわ。


「元気な方は一応負傷した方を担いでやれ。傷はカナリアが治したけど、機能回復までには時間が掛かるそうだから」


 最後に指示を出し、1時間ほど歩いて村に帰った。


 最後に出したグングニルは跡形もなく消え、残ったのは魔物の塵と、凸凹になった地面だけだった。





 村に帰り、即行倒れた俺が目を覚ました時には、すでに日が沈んでいた。


 俺は気付く。

 後頭部に触れる感触は枕よりも弾力があり、とても寝心地が良い。

 顔を横に向けると、何やら……むッ!?


 ここここここここ、これはまさか!ま さ か!


「ようやく目が覚めましたか。安心しました。ふふっ」


 視線をあげると、とても近い距離にある天使の微笑み。

 俺は、死んだのか?


 この天使は一体……カナリアかッ!?


 ひっざまっくらーーーーーー!!


 高らかな心の声が鳴る。


 一生このままで居たいという意思を無視して、俺の身体はほぼ反射的に起き上がり、3メートルほどの距離をとった。


 心臓に悪い。惚れるかと思った。

 カナリアは俺の嫁っ!

 とか叫んじゃう所だった。


「ととと、取りあえずありがとう?えっと、いいい、いつこの村でで、出ようか」


 ダメダ、シンゾウ、バクバク、ヤバイ

 コトバ、ウマク、ダセナイ


「明日にしようかと思います。どうやら今夜は宴をするようなので」


 心臓の高まりは収まらないが、話をそらすことには成功したようだ。


「……宴?」


「は。原因だった魔物の殲滅に成功したので、ぜひ……と言われまして」


「了解したのか?」


「いえ、伊織さんに聞いてからと、申したのですが……」


「宴はやるってか。面倒だな。カナリア、もういかね?騒がしいのって苦手なんだよね」


「私も騒がしいのは少々苦手です。行きましょうか」


「おう」


 俺たちは足音も立てずに、空き家を出た。


 ばれた。おさげちゃんに。


「あ、あの、ありがとうございました。その、助けて、いただいて……あの、宴には参加されないのですか?」


 少女はまたおどおどしながら、でも、はっきり言った。


「ごめん。全員救えなくて。だから、俺らにそんな資格はないんだよ。もし、俺らに恩返しがしたいっていうのなら、人を見る目を鍛えて、脱人間不信するんだよ。次にこの村に来た時に、救ってよかったって思えるくらいにいい村にしてね」


 そう言ってカナリアの方を見ると、


「私が言いたいこと全部言われてしまいました」


 と微笑んだ。


「じゃあ」「さようなら」


「ありがとう、ございました」


 おさげの少女は俺たちの姿が見えなくなるまで、頭を下げていた。




「本当によかったのですか?」


「何が?」


「何も受け取らなくて」


「いいんだよ。魔石はいっぱい確保したからな」


 俺はニッと笑う。

 実は戦闘中、しれっと斬った魔物から魔石をぶちぶちっと取っているのだ。


「現金な方ですね」


 カナリアはいつものように微笑する。


 マジ天使。


 緩む頬に力を入れ、


「誰も迷惑してないだろ?」


 皮肉った返事をする。


 カナリアは笑う。俺も笑う。


 いつ以来だろう。こんなに楽しいと笑ってのは。


 俺とカナリアは月が照らす森の中で同じことを考え、同じように笑った。


「ですが、町まで2日かかりますがよかったんですか?」


「え、聞いてない」


 何とも締まらないのが、俺らなんだろう。

神作 伊織 男 16歳


魔法:空間魔法Lv1 生活魔法


固有スキル:幻想創作(イメージクリエイト)


スキル:剣術Lv2(up!) 回避Lv5

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