碧竜ディペスト
きりが悪かったので短いです。
「東門に近い住民は西門に避難せよ!冒険者は3つに分かれ、防御魔法や結界等が使える者は住民の保護、土魔法が使える者は外壁の修復、その他の戦闘職は前線の維持に当たれ!決して奴を街に入れるな!」
ギルド長の簡潔な指示が魔道具を介し、都内全域に響き渡る。
都市の中心に目を向ければ、逃げ惑う人々の阿鼻叫喚が視界に焼き付けられ、前線へと目を向ければ、冒険者が吹き飛んだりという地獄絵図が広がる。
むせ返るような血の臭い。
巻き上がる土煙。
破壊されていく外壁に住宅。
――この世界の食物連鎖の頂上
――最強の種族の最上位
――魔族ですら敵うことのない敵
そんな最強の一角が猛威を振るう。
「は、はは」
乾いた笑いは誰の耳にも届くことはない。
そんな光景を見た俺は知らず知らずのうちに、
「一級フラグ建築士なんて目じゃないぞ、これ」
そう呟いた。
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――遡ること数分前
「ゴッホゴホ……やばい、体力尽きた」
辺りには魔物の死体がそれはそれは沢山あります。
ほぼカナリアと俺で倒した敵です。
結論から言うと、カナリアとの勝負に負けた。
カナリアが1万体で俺が9000体。他冒険者で1000といったところだ。
一騎当万とかカナリア怖い。
「「「うぉぉぉおおおおおお!!」」」
冒険者は怪我を負った者はいるが、誰一人として欠けることなく、魔物の大氾濫を乗り切ったことに歓喜の声を上げる。
俺も、しれっと混じって叫んでおいた。
やっぱノリって大事だもんね!
そんなことをどうでもいいことを考えていると、服の裾をちょいちょいと引かれた。
引っ張られた方に視線を向けると、金髪の美少女が立っていた。
誰、この美少女?俺の知り合い?という疑問が頭の中をグルグル回るが、冷静に考えてみると俺に友達は2人しかいないことに気が付いた。
前の世界にいる幼馴染と言えるくらい付き合いの長いイケメンくんと美しさそのものを形としたかのような容姿の天使カナリアだ。
つまりそこから導き出される答えは――
「あぁ、カナリアか。こんな奴知り合いにいたっけ?って思ったよ」
口に出して思ったんだが、たぶんこういう入らない一言のおかげで友達ができないんじゃないかなぁ。
「酷いです!怒りますよ!」
何故かカナリアがキレたのだが……
あ、こいつ友達いないんだっけか?
分かる、分かるぞ。
お前誰?って言われたときのあの絶望感。
死にたくなるね、あれ。
そもそも、人の顔忘れるとか人としてどうなわけ?俺は覚えた所で相手が俺のこと覚えてないから覚える必要とか無いけどさ、君たちリア充だろ?広く、浅く、緩くの友達関係がモットーの不可解集団だろ?なのになんで俺のことは――
「あの、遠い目をしてどうかしたんですか?」
「いや、何でもないよ。少し悟りを開きそうになっただけ」
しかし危なかったな。
あのままでは俺の精神が深く暗いところに永久逃亡しそうだった。
現実逃避とも言う。
カナリアには感謝だな。
感謝の意を込め、合掌しておいた。
「それで、どうかしたのか?」
そう俺が問うと、カナリアは訝し気な表情に変わる。
「はい。私は後ろで負傷者の治療を行っていたんですが、魔物の大氾濫にしてはあまり怪我する方が出なかったというか……いえ、そのことは良いことなんですが……」
「あの軍勢に対して重傷者もさほどでなかったからおかしいと?」
「はい、それに魔物の動きも少し気になりました」
「あぁ、それは俺も思った。連携が取れてないというか攻撃が単調だったというか。いつもよりも楽に倒せた気がする。魔物が焦ってるようにも見えたしな。……それに魔物は多種族との仲が悪かったはずなんだよなあ」
言葉にしてみるとますます怪しい。
人為的に起こされたものか、はたまたただの偶然なのか。
疑う要素は数え切れないほどある。
それに戦っている時からずっと嫌な予感が消えない。それは今もだ。
「ちょっと調べてみるか?」
だからカナリアに提案した。
「そうですね、何もなければ良し。何かあれば出来る限り此方で解決しましょう。それでいいですか?」
特に異論をはさむこともない。
「了解。でも、無理そうだったら逃げるか手伝ってもらうか。何かしら手を打っとかないとな」
「はい、解りました」
――その瞬間あり得ない轟音と共に、外壁の一部が崩落した。
壁が壊れた原因を視線を追って辿る。
地面から連鎖的に岩が飛び出していた。
――ダメだ。見てはいけない。
脳が荒々しく警笛を鳴らす。
そんな意思とは関係なく、視線はその根源へとゆっくり向かっていった。
見なくても解る。その脅威が。
肌にひしひしと感じる禍々しいまでの魔力が一層恐怖を煽る。
大量の汗が噴き出す。
だが、たどり着いてしまった。
恐怖の覇者へ。
オーガが子どもに見える程の巨躯に睨むだけで息の根を止めることのできそうな鋭い眼。
全身を覆う深緑色の皮膚に人の丸飲みなど余裕でできる程の大きな口。
そこに生える、牙といっても誰も疑わないような歯。
トカゲのような形状で、その全長は目では測り知れない。
辛うじて小さく見えるその尾は、一瞬であらゆる生物を撲殺できるだろう。
恐怖に支配された脳の残り少ない理性を総動員して、奴に鑑定をかける。
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碧竜ディペスト
食物連鎖の頂点に君臨する5大竜の一角。
火、水、風、土、光、闇とある基本属性の風と土の2属性を司るが、翼は無く飛ぶことは出来ない。
鱗は無く、代わりに物理・魔法耐性の高い、硬い皮膚を持つ。
攻略方法は碧竜ディペストが生まれたとされる500年前から発見されていない。
しかし、碧竜ディペストは四天王――もとい、5大竜最弱……との噂も。
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碧竜ディペスト……か。
鑑定スキルの結果を読みながら気持ちを落ち着かせる。
大丈夫。まだ鑑定スキルが「残念だったな!そいつは四天王最弱よ!」的な感じにふざけている。
「カナリア、大丈夫か?」
「は、はい。何とかですが……」
カナリアは強いな。
怯えていた自分が情けなくなる。
「うっし。まずはギルドに報告しよう。あとはギルドで対処してくれるだろ。俺らはその前に……」
周りを見渡す。
先程まで喜んでいた冒険者たちは恐怖に打ちひしがれていた。
少なからず気を失っている者もいた。発狂してるやつもいるな。
取りあえずはこいつらを安全な場所に移さないとな。
と言っても安全な場所なんてこの近くにないんだがなあ。
落ち着いているやつらに協力を煽るか。
「私が暴れている方を闇魔法で眠らせて、戦闘ができないような方々と一緒にギルド内に転移させます。伊織さんは動けそうな方にギルドへ報告させてください」
カナリアが俺の意を汲み取ったようだ。
心を読む魔法でもあるのか?
まあ、そんなことよりも、
「じゃあ、俺たちはこいつをどうにかしないとなぁ」
憂鬱だ。
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そして時は戻る。
「フラグ……いつ立てたっけ?」
いや、フラグ立てたのは俺じゃない?
他の冒険者か?よし、終わったらそいつ殴る。
誰か判らないから、小物臭がするやつ片っ端から殴ってやる。
ま、そいつ殴るためにこの戦いを終わらせなきゃだな。
「カナリア、魔力は足りてるか?」
「万全です!」
隣にいるカナリアはぎゅっと拳をつくる。
うむ、かわいい。癒される。
カナリア成分も充分補充したし、いっちょ行きますか!
「【影魔法】影化」
――【影魔法】影化
影との同化の完全バージョンだ。影との一体化って言ったほうがしっくりくるだろう。
同化と同じように認識阻害に速度上昇、それに加えて影に潜ったりもできる。
まだ他にも効果はあるがそれはお楽しみってことにしよう。
だが、この影化も魔力の消費が激しいく、もって5分くらいだろう。
頑張ればもうちょいいけるかもしれないが、たぶん魔力が枯渇する。
戦闘中に2つのことを考えるのは難しいから魔力の自己生成も無理だろう。
タイムリミットはたったの5分。
カナリアもいる。いけるさ、きっと。
「最初からクライマックスだぜ!」
歴史に刻まれる戦いが、幕を上げる。
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