地獄、思惑、そして決意
お久しぶりですねっ!勝手にお休みしてごめんなさい!言い訳はあとがきで!
魔物との戦闘を開始してからどのくらい経ったのだろうか。
日はとっくに沈み、いつの間にか月が出ていた。
迷いの森は都市ダニアの東にあるため、まだ高くは昇っていない月がよく見える。
これは余談なのだが、この都市の名を知ったのはつい最近だ。
あんまり都市名とか興味がなかったからだ。
やけに月がきれいだな、なんて思いながら、寄ってきた魔物をあれよあれよと切り倒していく。
これだけなら余裕そうに見えるが、実はそうでもない。
さっきからゼーハーという粗い呼吸音を通り越して、ヒューヒュー言っている。
体力がないのは昔からだ。
どうやら勇者召喚は体力面に補正を掛けてくれなかったらしい。
酷いよ、全く。
スタミナなんてとっくに底を尽いているが、それもあと少しの辛抱だ。
残りの魔物は約200体。
魔物の数が減ってからは、怯えていた冒険者たちも討伐に取り掛かり始め、ペースは上がっていった。
おかげで魔力の限界が見え始めていた俺は、具現化させる剣の本数を減らせたために助かった。
いくら魔力を創ることが出来ようが、消費魔力が生産魔力を上回ればジリ貧で減っていくのは目に見えているだろう。
それに、妄想力無限大の俺でも2つ同時の想像は難しい。
綺麗なお姉さんキャラの横に可愛い妹キャラが並んだ美人姉妹。なんて似たような構造なら想像するのも容易いものだが、剣に不可視の物質って……どうすりゃいいの?
てなわけで【幻想創作・具現化】を使ってからは魔力は創っていなかった。
これでも一応、Aランク級には魔力があるのだ。大抵のことでは魔力が尽きることは無い。
そう思っていた時期が俺にもありました。
【幻想創作】の燃費ははっきり言って悪い。
要所要所でかける魔力を増やしたり減らしたりして何とかやり繰りしていたのだが、限界ってものがある。
「まぁ、魔物も雑魚ばっかになったし数も減ったし後は時間が解決してくれるだろう」
誰に聞かせるでもなく、ポツリと呟いた。
こんなことを呟いたのがいけなかったのだろうか。
この発言から数分後。
俺は――
――地獄を見た
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ダニアより近いとも言い難いが遠くもない。
そんな微妙な場所にある王都の王城の王室にて、一人の騎士が国王に面会していた。
そしてその面会の理由は
「王都より南に位置するダニアで魔物の大氾濫が起こった模様です」
主要都市には通信用魔道具が設置されている。
幾重にも魔法陣を重ね合わせて作ったため動かすことは出来ないが、こうした緊急の連絡には役に立っていた。
「何!?それで魔物の数は?」
国王が顔を顰め騎士に問うた。
「魔物の数はおよそ2万。対処にあたっている冒険者の数は500人程度です。いかがなさいますか?」
冒険者ギルドと国の関係はさして悪いものではない。どこの国でもそうだ。
何故なら、冒険者が狩った獲物をギルドが買い取り、その金で冒険者は商品を買う。
商品や市民には当然、税を払う義務があり、所得によって納める金額が変動するものもある。
所謂、累進課税制度ってやつだ。
そうなってくれば、国の財政も潤う。
金が回れば国も回るという事だ。
さらに、魔物の討伐も行っているため、その地域は比較的安全になる。
さらには、王都に滞在している騎士の対応が間に合わない土地での早急な対処も行っている。
こうしてみれば国だけが儲かっているように思えるが、実際にはそうでもない。
緊急時には対処にあたった冒険者に、ギルド明記で国からの給付金がでるからだ。
緊急クエストの報酬が高いのはこのためだったりする。
つまりはwin-winな関係というわけだ。
だからこそ、冒険者のみではどうしようもない場合、国が動くというのは当たり前だった。
「治療魔術師と騎士を送れ。数は少なくても構わん。どうせ間に合わぬからな」
王都からダニアまでは歩いて2~3日、馬で飛ばしていけば半日と少しかかる。
今から行っても間に合わない。そう判断したのだろう。
「分かりました。では数名、魔術師と騎士を募らせ、準備に取り掛からせます」
そう言い残し、騎士は王室から立ち去った。
「全く、ダニアが潰されてしまえば、わしに入ってくる金が少なくなってしまうではないか。あそこは迷いの森の近い、金を搾取するのに適しているというのに」
国が動くのは当たり前だ。
それがどんなに不純な動機であっても、だ。
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――城の中がやけに騒がしい。
そう思い、近くを通りかかった騎士を捕まえ、事情を訊いた。
「すみません、何かあったんでしょうか?」
相手に無駄な警戒心を抱かせないように、表情には細心の注意を払った。
「どうやら少し先の南の方で魔物の大氾濫が起こったのだとか。名前は確か……ダニアでしたか。その対応に騎士団が動いているのです」
「お忙しい所にすみませんでした」
そう言うと、騎士は一礼しそそくさと廊下の角に消えていった。
「……ねぇ、勇……」
「分かってるッ!」
僕の名前を呼ぶのは幼馴染の1人である、水谷零。
声をかけたのは、僕の雰囲気から何かを察したからだろう。
あの騎士の前では平然を装っていたが、内心では物凄く荒れていた。
――僕は、勇者なのにッ!!
魔物の大氾濫が起こった時の被害は途轍もなく酷いものだと聞いた。
その時の死者の数だって馬鹿にならないことも。
そもそも馬鹿にできる命なんてないが。
「僕には何も出来ない!今までの訓練は何のために!」
騎士の話を聞いた時からずっと自分に何もできないという怒りが頭の中を巡っていた。
僕と零ともう1人の幼馴染である姫路結衣には移動系の魔法もスキルもない。
この国の地理はある程度学んでいるため、ダニアに行くまでにどれほどかかるのか知っている。
騎士が動き出していることから考えるに、報告があってから少しの時間が経っているはずだ。
――間に合わない。
未だ沸々と湧き上がる怒りの中、ここに来てからの1か月……いや、それより少し前のことを思い出していた。
この世界に来たのは日本で言うところの9月の初旬。
長く楽しかった夏休みを終え、皆が気だるげに、それでも友と久しぶりに顔を合わせることができることから少し楽し気にそんな表情で登校し始めた始業式のことだった。
始業式滞りなく進み、その日の全日程が終了した放課後。
僕たち3人は教室で最近発売されたゲームについて話していた。
別にオタクなんて呼ばれるほど、ゲームに時間は注いで居ない。
話題作り、話に乗るため。
そんな感じで友達から進められて始めたゲームだ。
しかしこのRPGに嵌まってしまった僕が幼馴染の2人に進めた結果、2人とも嵌まってしまったのだ。
ゲームについて話していた時、とある闖入者が教室にきた。
神作伊織くんだ。
クラスでも目立たない特に突出した特徴もない平凡そのものな男子生徒。
僕の印象はその程度でしかなかった。
僕が話しかけてもまともに相手にしてくれないからだ。
寧ろ、「親の仇!」ってほどに目付きを険しくしてくる。
両親が亡くなっているそうなので、そんな冗談口には出来ないが……
神作くんはどうやら教室に忘れ物をしたらしく、取りに来ただけのようだった。
僕たちは特に気にも留めず、話を続けた。
結衣だけはチラチラと様子を窺っていたようだが。
その時だった。
突如として教室全体が白い光に包まれた。
気が付くとそこは異世界で、魔王に世界を支配されそうなのだと。
嵌まったゲームもこの手のものだった。
それに人助けは僕の趣味というか生き甲斐でもあった。
だから僕は世界を救う勇者となった。
――はずだった。
この世界での1か月は過酷なだった。
朝は騎士団の誰かと稽古に励み、昼からは王都から小一時間行ったところにある、見習い騎士の訓練場ともなっている地下迷宮に行き、夜は魔法の練習。
そんなハードな一日を繰り返してきた。
だけど今、その努力が報われないことを知った。
将来的には報われるかもしれない。
でも!救えなかった。
人の命を救えなかった!
怒りが身を焦がしそうになる中、廊下に立ち並ぶ柱に拳を打ちつけ呟いた。
「何が、勇者だよッ!僕は!僕たちはもっと強くならなきゃいけないんだッ!」
パラパラと欠けた廊下の柱の破片が落ちる音だけが辺りを支配した。
勇者くんは救えなかったと思っているようですが、あちらには神作くんがいるので大丈夫でしょう!たぶん!
受験勉強、受験、卒業式とさらにはクラス会なる謎行事。そして何故かの体調不良。クラス会などとかいうもんは断り切れない僕の精神の弱さから参加する羽目になりました。んーー、ぼっちには辛い!
まぁ、復活しましたのでこれからもよろしくです。




