勇者じゃねぇよ!
投稿がものすごい遅れてすいません。
べ、別に筆が進まなかったとかネトゲにはまっていたからってわけじゃないんだからねっ!(自白)
「どぅわっふぁ!?」
忘れていた。
この部屋が俺だけでないことを……
目の前に映る半裸の少女。
女性特有の丸みを帯び、肢体を滑らかに伸ばし、どこか別次元の住人なのではと思わせる程の容姿。
大きいとも小さいとも言えぬ胸だが、それすらも気にならないくらい美しかった。
てか、巨乳より貧乳が好き。手に収まるくらいはもっと好き。
そんな絶世の美女の名は、そう
――カナリアだ。
って何言ってんだ俺……!?
朝起きたら、一足先に起きてたらしいカナリアのお着替えシーンを人生初のラッキースケベで目撃しちゃったよ!
パニックだよ!変な声出たわ!
「ひ、ひゃあっ!」
カナリアは袖を通しただけの服をギュッと押さえて、その場に座り込んでしまった。
「ご、ごごごごごめんなさーい!」
謝るのと同時に駆けだし、脱兎の如く部屋を出る。
失念していた。
そうだ、着替える必要があったんだ。
風呂に入った時は脱衣所のような小さいスペースを使っていたが、今は朝だ。
ミル村では部屋がいくつかあった。だから問題なかった。
だが、今回は違う。
カナリアは早起きして、俺が目を覚ます前に着替えてしまおうと考えたのだろう。
が、予想以上に俺が早く起きてしまった。
そしてラッキースケベ!
俺はラノベ、マンガ的シュチュエーションに憧れてはいるが、それが叶うなど思っていない。
いや、いなかった。
でも、現に叶ってしまったのだ!
異世界バンザーイ!イヤッフゥゥゥウウウウウウ!!
あ、これダメだ。完全に頭パニクってるわ。
「……あ、あの……伊織さん。もう入ってきても大丈夫です……」
「あ、ああ」
カナリアの呼び声に応じるが、今は入ってしまうのは何だか気まずい。
そうだ。無心になろう。
心頭滅却うんたらかんたらー。
うっし!今の俺は完全に悟りをひらいた者だ。
いける!いける気がしてきたぞおおお!
俺はドアノブを捻り、部屋の中に足を踏み入れた。
やはり、最初に目についたのは真っ白なローブに身を包んだカナリアだった。
カナリアの顔はさっきの出来事を思い返してしまったのか、耳まで真っ赤に染め上げられている。
あぁ、何だろうこの気持ちは。
癒されるというか、ほんわかするというか……尊い。
俺はどうやら三次元に萌えてしまったようだ。
二次元の美少女たちで目がこえた俺を萌えさせるとは中々にやりおる。
カナリアに一言だけ声をかけ、ちゃちゃっと着替えを済ませ、宿を出る。
今日の予定はすでに決まっている。
今日から2、3日はギルドランクの昇格を目標として、そこから一週間程度は路銀を稼ぐ。
ギルドランクを上げるにはいくつか依頼を達成しなければならない。
ギルドランクを上げる理由は、最低ランクのFランクに討伐クエストがないからだ。
Fランクには街のお手伝いと採取しかない。
なんでも、ランクが高くなるにつれ、稼ぎの悪い手伝いのような依頼は受けなくなるため、最低ランクの人たちに押し付けようとか何とか……
路銀を稼ぐのは一応だ。
カナリアの所持金だって無限じゃない。
いつ散財するかわからないから、稼げるときに稼ぐだけだ。
カナリアの手作りサンドイッチを口に頬張りながら、予定を振り返っている内にギルドに着いた。
「何だか、人に見られてますね。どうしてでしょうか?」
「知らん。強いて言うなら、Cランク冒険者を一撃で倒したことが漏れたのか、この格好じゃないか?」
……うん。確実にこの格好だよな。
真っ黒な俺と真っ白なカナリア。
そりゃ目立つ。
目立つのは好きじゃないが、カナリアは普通の格好をしていても目立つので、ここ最近は慣れたもんだ。
誰にも絡まれることなく受付に行き、依頼を受ける。
「依頼を複数受けるときは、達成するごとにギルドに来ても、全て終わってから来ても構いません。では、お気を付けて」
美人しかいない受付嬢から見送りの言葉をかけてもらい、ギルドを出た。
気を付ける依頼など受けていないが……
ああ、大変だった。
実に大変だった。この2日間よく耐えたよ、俺は。
この2日間でこなしてきた依頼の数は30にも及ぶ。
犬っぽい愛玩動物との散歩したり串焼きを作るお手伝いをしたり、薬草から傷を癒すポーション作りに溝の掃除、店番。
思い返すだけで体が悲鳴を上げる。
カナリアなんかは手伝いに行った服屋で試着専用の人形と化していたっけ?
いや~実に素晴らしかったよ。
眼福ものだった。
だがそれもこれで終わりだ。
最後の依頼は『うちの子を探して!』という行方不明になった少女の捜索だ。
年齢は7歳で、くすんだ茶髪だと聞いている。
なぜこんな面倒な依頼にしたかと言うと、カナリアが「一刻も早く助けなければいけません!」と聖女な部分を出してきたからだ。
行方不明になったのは昨日の夕方。
公園で遊ぶと言って家を出たきり帰ってこなかったらしい。
俺たちはまず、その公園に足を運んだ。
公園と言うには何もなく、あるのは2つのベンチだけだった。
「事件のにおいがしますね、伊織さん!」
「面倒ごとに顔突っ込むなよ……勇者かっての」
どこか楽しそうに迫ってくるカナリアに、俺はかなりうんざりしていた。
こういう厄介ごとは勇者が巻き込まれるべきであって、何故俺なんかが……
そもそも、カナリアはいつも……
内心では色々と愚痴を垂れ流してしまっているが、受けてしまったものはしょうがない。
それに、依頼に失敗するとギルドや町の人の評価は下がるわ、違約金は取られるわでかなり面倒なことになる。
ここは依頼達成を目指すほかないか……
「……はぁ」
思わずため息が出た。
公園内を数十分散策してみたが、特に得られる情報も無し。
いや、この広いとも言えない公園に痕跡を残すような輩は、総じて馬鹿だろ。
誘拐とか無計画にやっちゃう系の奴だろ。
まぁ、誘拐って決まった訳ではないが、その可能性は高そうだな。
今どきの7歳って行動力ありそうだし、お友達の家にお泊りでもしているかもしれんが……
それでも、流石に親には言うか。
うーむ、分からん。
推理小説ものは苦手なのだ。
最後にトリックが明かされるまで、延々と悩んで、考えて、唸っていた記憶しかない。
面白いっちゃ面白いんだけどな……分かったらだけど。
それからというもの、暗がりや路地裏などなど怪しい所はひたすら探し回ったが、何もなし。
人に訊いても「分からない」
もうやだ。エリチカ、おうちに帰る。
俺は足先を宿の方へ向け、歩き出した。
「ぐへっ!」
カナリアに服を引っ張られ、変な声が出てしまった。
カエルの鳴き声かよ。
それに最近変な声出すぎだろ。
「どうして帰ろうとしているんですか!伊織さんはララちゃんがどうなってもいいんですか!」
カナリアが珍しく怒った。
が、目尻をつり上げ、むーっとしているその表情は、ただただかわいかった。
『K・K・K』である。
ちなみにララちゃんというのは依頼主の娘で、今回の捜索対象者だ。
それからそれから時は経ちまして、夜になりました。
電灯の少ないこの街、というかこの世界は太陽と共に起きて太陽と共に寝るという、なんとも素晴らしい生活を送っているのである。昼夜逆転生活していた俺とは大違いだ。
「……いませんね。ララちゃん」
「そうだな、帰ろうか……」
俺は先ほどの失敗を活かし、足音を立てずに――
「ダメです!真面目にお願いします!」
と襟元を掴まれてしまった。
仕方ない、さっさと終わらせて――
「カナリア、静かに。誰かいる」
近くの路地裏に身をひそめ、聞こえてきた会話に耳を傾ける。
「ひひっ、これで何人目ですかね、奴隷商に流した人数は。がっぽりですよ」
「……静かにしろ、誰が聞いてるか分からないんだ」
「だいじょーぶですよ」
「いいから黙れ」
そして会話は止んだ。
あぁ、これは物凄い厄介ごとじゃないか。
奴隷商ね。ミル村の攫われた村人とも関係がありそうだ。
「カナリア、奴隷って借金奴隷と犯罪奴隷だけだよな?だったらこういう場合ってどうなるんだ?」
「違法奴隷は法で罰せられるはずですが、『奴隷の首輪』を付けられて契約して、奴隷になってしまったら主人に絶対服従になってしまうので、『私は違法奴隷だ』という発言そのものができなくなってしまいます」
『奴隷の首輪』は人を隷属化させるための魔道具だ。
血の契約を行えば、契約主に絶対服従となる、非道な魔道具なのである。
今はそんなことはどうでもよくて……
「どうする?捕まえて吐かせるか、尾行するかどっちが得策だと思う?」
「尾行だと撒かれる可能性があります。判断は伊織さんに任せますが、私はここで捕まえておいた方がいいかと。人質……としては使えませんけど……」
「んじゃ、それでいこう。ちょっと待って、鑑定してみるから」
盗賊のような身なりをした2人に視点を合わせ、「鑑定」と呟いた。
2人とも剣術がLv3なことと罠師がLv2だということしか分からなかった。
やはり、鑑定スキルのレベルが低いとこれが限界のようだ。
【幻想創作】でレベルアップとかできないかなぁ。
そんなことできたらチート超えちゃいそうだけど……
「剣術が俺よりレベルが高くて、罠も設置できる。いくらなんでも、道端に罠は設置してないだろうから、警戒するのは得物である短剣と鑑定しきれなかった他のスキル、魔法だ。たぶん短剣には毒が塗ってあると思うから十分に気を付けて」
カナリアは魔法特化だからそこまで接近されることはないだろうけど、一応伝えておいた。
ま、カナリアって少しだけなら接近戦もできるらしいけど。
高スペックです、元聖女さん。
それと、毒が塗ってあるってのは勘だ。相手の職業、盗賊だったし。
生まれて決まった職業が盗賊って嫌だな。
鼠小僧みたいなことしてくれるのなら、歓迎だが。
「はい。それで、作戦はどうしましょうか?火魔法は家に燃え移ってしまうと大変なのでしませんが……」
作戦……作戦ねぇ。
やべぇ、何も考えてなかった。
……あ、そうだ!
「今から創ればいいんだ!」
「伊織さん!しーっ、ですよ!」
カナリアが自分の潤った唇に人差し指を当て注意する。
や、やばい。
結構、声大きかった気がするけど、ばれてないよな?
そーっと路地裏から顔を出し、2人の盗賊を覗き込むが、変わらず話し込んでいるようだった。
うん、よし、大丈夫。
「それで、なにを創るんですか?」
カナリアが首を傾げ、キョトンと聞いてくる。
カナリアも俺が何を創ろうか気になっているのだろう。
そして俺はもう創るものは決まっている。
「【影魔法】だ」
「【影魔法】……ですか?聞いたこともありません」
それはそうだ。
だってこれは固有魔法なのだから。
【幻想創作】といえど、スキルや魔法を無尽蔵に創れるわけではない。
物を創るには、大きな魔力が必要で、スキルや魔法を創るにはそのものの適性が必要になってくるのだ。
前に俺は「斧とか使ってみたいな」と思い、それに関連するスキルを創ろうとしたのだが、弾かれるような感覚がして、創ることは叶わなかった。
つまり、スキルも魔法も得手不得手があるってわけだ。当たり前だけど。
そして、何故今回創るのが【影魔法】かというと――
俺にぴったりじゃん。影薄いし。
日本で培ったスルースキルとか隠密スキルとかも活かせるし。
そして何より、固有魔法にレベルは存在しない。
それは、最初からその魔法の力を最大限に活用できるという事だ。
これだけの条件が揃っているのに【影魔法】を選ばないなんて、【影魔法】が泣いちゃうよ。
――イメージする
闇に紛れ、音もなく近づく影を
――イメージする
足元の影がなくならないように、逃れられない影を
――イメージする
日本から影の薄かった俺を
――イメージし、重ね合わせる
――創るは魔法
絶えず想像し、幻想を現実に
「【幻想創作】」
ユニーク系には【】をつけるようにしています。
あれ、こんなに話が進まない予定じゃなかったんだけど……




