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嫁入り

城の西口から庭園に出て日の光を浴びたとき、ルルドに意識が戻ってきた



あ…

なぜ私はここに?


ユアン王子と会議室にいたはずなのに


不思議に思うルルドの鼻先に生臭い臭いがしてきた何気なく見下ろすと


袖口や下腹のあたりに血がついている


なんだ?これは?


戸惑うりルルドの頭にゆっくりゆっくり執務室で起きた事が甦ってきた


!!


まさかっ


白昼夢ではないのか!


ルルドはそう思いたかったが自分の服についた血が、頭に浮かんだ映像が現実であることを証明している


これはフォンの血だ…


そして私はユアン王子に刃を向けた


なぜっ!!ルルドは崩れ落ちそうな衝撃を受けた


が、両足を踏ん張り耐えた


そして一回呼吸を整え天を仰ぎ自分の身の振り方を考えた


答えが出た瞬間、ルルドは脱兎のごとく自分の馬をつないである場所に向かい一気に庭園を駆け抜け城を出た


向かった先は塔のある自宅である


謀反者は晒される


たぶん放たれるであろう追手より先に家に帰らねば


ニレ家の事も気になったが…

それよりもリオンの始末をつけなければならないと思った




ああ、私は母の呪いに勝てなかった!


意識が遠のく前、確かに母の声を聞いた


繰り返し聞かされてきた呪縛の言葉を!


…いや、もしかしたら呪いなどではなく、半分流れているエン国の血のせいかもしれない


エン国がガイナに吸収されると思った途端、意識が遠のいたのだから


思えば母は私の幸せなどこれっぽっちも望んでいなかった

ただエン国のために、この日のために計画を立てニレ家に入り込んで父を誘惑し、私を産み育てたのだ


私は生まれてから一度も幸せを感じたことがない

当然だ

私は人して母のもとに生まれて来たのではなくガイナ王家にあだなす道具として生まれてきたのだから


愚かな母の犠牲者は私だけではない


ニレ家の人々もある意味犠牲者だ


私の存在によって両親は不仲だった 


そんな家庭に生まれてきたユリナにロレン

彼らも暖かい家庭とは違う環境で育ってきた


そして私の犯した罪で彼らが被る被害は…


考えたくもない


それに…フォ…ン

すまない




良かった…

ユアン王子を殺めることに失敗して


ユアン王子を仕留めることができなかったことが、逆に私の母への復讐だとルルドは思った


幼い頃転んで泣いていたところを抱き上げられた時の胸の暖かさも、熱を出した額に当てられた手の温もりも、皆偽物の愛情だ


夜中

咳で苦しむ私の背をさするリオン…

あの手の温かさだけが唯一私に与えられた本物の思いやりりだった


置いてゆくわけにはいかぬ




リオンはちょうど第四部隊将軍の家から帰って来たところだった


ミスズに招かれ共に昼食を取りその後ゆっくりおしゃべりを楽しんだ


「夫に買ってもらった宝飾類も、他の夫人の手前着けて出かけるのが何かはばかられるような気がするの」

「ねえ、せめて二人で会うときは思いっきり着飾らない?」


というミスズの提案に同意しこの日リオンはめかしこんでいた


寝室で寝台の上に腰掛け、大ぶりの真珠のイヤリングを外そうとした時ありえないほどの大きな音を立て塔のある家の木の扉が開きルルドが入ってきた


その音に驚き、何事かとリオンは慌てて二階から下の玄関ホールに降りていった


家の召使たちも驚いて集まって来ていた


玄関ホールでリオンが見たのは戸口で肩を激しく上下させているルルドの姿だった


あ、ルルド様怪我をされている


服に付いた血を見てリオンは駆け寄る


そのリオンの脇を引き寄せルルドは言った


「リオン、行くぞ」


とこへ?!




質問をする間もなくリオンはルルドに手を引っ張られ台所の扉から入る塔の内側についた急な螺旋階段を登った


ところどころ階段のレンガが崩れている


危険なので塔の内部には一度も足を踏み入れたことはなかった


暗くてひどく埃臭い


リオンはなにがなんだかわからなかった


ただ…


ルルドの身になにか大変なことが起こったことと、なんのためにこの階段を登っているかということだけはわかる


そういえばこの家に連れて来られたときも同じように強引に手を引っ張られて来た


つかまれてない方の手でそっと耳もに触れる


真珠のイヤリングは落ちずに付いている


そしてたまたまこの日は白いドレスを着ていた


嫁入りだ、とリオンは思った


今日が本当の私の嫁入りだと




塔の頂上の開口部の踊り場に着いたとき、ルルドはそこに落ちていた葛のつるで自分の体とリオンの体をぐるり巻き、しっかりと結び着けた


そして一言の説明もなく、愛の言葉をささやくこともなく、リオンをきつく抱き落ちて行った


ルルドの胸に抱かれ体が宙に飛びたした時、リオンは今まで味わったことのない幸せを感じた



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