池
柳のような男だとフォンは思った
少し癖のある短い銀色の髪が顔周りで遊んでいる
グレーがかった青い瞳と髪の色がお互いを引き立てている
全てが淡い色合いで構成されていて何か向こうが透けてみえるのではないかという透明感を感じる
人の目を惹きつける繊細な容姿だ
特に若い娘には魅力的に見えるだろう
涼し気な顔立ち、たおやかな体型をしているが、どんな風にも負けそうにない
その中にある強靭な精神は隠しきれない
柔和な外見がより一層厳しい性格を際立たせる、ユアン王子は
リュウジュは侍女を持つことを嫌がった
「私が幼い頃、毎年侍女が変わりました」
「隔離されて育った私には侍女だけが生身の人間として温もりを感じる存在だったのです」
「慣れ親しんだ侍女が代わる度に私は寂しさを感じていました」
「12になったとき私は疑いを持ちました」
「噂とは違うたいして美しくない私の侍女を勤めたものはその後どうしているのだろうと」
「もしかして口封じをされているのではないかと」
「そう思ったとき、私は侍女を持つことを拒否しました」
「その頃兵士として王宮に獣人が入ったことを知り、私はその者を付き人にと希望しました」
「貴重な貴重な獣人なら私の秘密を知っても殺されることはないと思って」
「一騎当千の獣人を軍から外すのには反対もあったようですが、父王は私の要求を受け入れてくれました」
「それ以降私に接するのはフォンだけになりました」
「私は身の回りのことは何でも自分でできます」
「事務的なことはフォン一人で事足ります」
「未だにかつての侍女に対しては申し訳なさを感じているのです」
「そんな訳で私は侍女というものを持つことに抵抗があります」
「しかしこれはあくまでも私の心情」
「ガイナ王家の慣習、ユアン様のご指示にしたがいます」
ユアンはフォンをちらりと見て再びリュウジュの方を向き
「保留とする」
と言った
離宮に着いて10日ほどたった昼下がりリュウジュはユアンに庭園にある池にかかる橋に呼び出された
フォンを伴って急いて行くと、橋の中央部にユアンとルルド、それに初めて見る痩せた老女が立っていた
「フォン、少し離れろ」
とユアンの命令でフォンが後を向いた瞬間巨漢のルルドがリュウジュを抱き上げ池に落とした
水面から橋の高さは1メートル、水深1メートル
水音に気づきフォンはあわてて池に飛び込んだ
池でリュウジュをすくい上げたフォンに向かってユアンは連れて来いと命令した
池から引き上げられたリュウジュは全身びしょ濡れだった
与えられていた薄い絹のドレスが体に張り付き体の線が顕になっている
腰まである長い栗色の毛も濡れて頭の形をはっきりさせていた
橋の中央でそのまま四方を向くようリュウジュは命令された
言われるままにリュウジュは橋の中央で何回も向きを変えた
「どうだ、ツカヤ」
というユアンの問いに対し老女は
「この上なく美しい骨格をしています」
「小さなきれいな形の頭も正しい腰の反りも、癖のない立ち姿も踊りには向いているでしょう」
と答えた
そしてユアンに
「お引き受けいたします」と頭を下げた
それを聞きユアンはリュウジュに着替えて広間に来いと命じた