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うぬぼれ

「ユアン王子、なぜ私なのでしょうか」


「私はここに来るまでは学生でした」

「実家の金鉱の経営にも携わってはいません」


「その私になぜこんな重要な数字を出せとおっしゃるのでしょう」

「なぜ誰よりも早く私にこの計画をお話下さったのでしょう」


ひんやりした顔でユアンはリアンに言葉をかけた


「リアン、そんなに自惚れなくてもいい」

「お前の出した数字を使おうとは思っていない」


えっ?!

ではなぜ?


「数字は主税局の長、ムラキに出させるものを使う」


「ムラキの出した数字を精査するために、リアンにも数字を出させるのだ」


「ムラキの英明さはよくわかっている」

「だが、ムラキは長く主税局に務め、この土地の豪族とのしがらみも多い」


「感情が数字に誤差をもたらさないとも限らない」

「0.01の数字の読み間違いが、計画の遅れを呼び、また不満の爆発の引き金になる」


「リアンが机上の空論で出した数字を参考に、ムラキに出させる税率を精査するつもりなのだ、私は」


机上の空論…

そうか、机上の空論でいいのか


リアンは力がふっと抜けた

そして青ざめていた顔に血色が戻ってきた


年内中に数字を出すと約束して、リアンはユアン王子と別れ、フラウの待つリュウジュの部屋に向かった




リアンがリュウジュの部屋を訪ねると、フラウは長椅子でリュウジュの隣に座りポリポリと砂糖菓子を食べていた


その様子を見た時、リアンは体の力が拔けるのを感じた


ああ、まだこんなに体に力が入っていたのかと気づかされる


「リュウジュ様、ユアン王子より配属替えのご指示がありました」

「明日からはルルド様と共に王子のお側近くに使えることになります」


その報告にフラウはびっくりした

ユアン様の側近!


リュウジュは

「そうですか、では城の出入りも増えますね」

「王子のために、スオミのために、しっかり務めるように」


そうリアンに言葉をかけた


「あなたもおかけなさい」


そう言ってリュウジュは長椅子の向えの椅子に座るよう促したのだがリアンは


「これから主税局に行って仕事の引き継ぎをしなければなりません」

「私はこれで失礼します」

と頭を下げた


そして「フラウは置いていきます」と少し微笑んで言ったが、リュウジュにはリアンはフラウを連れて帰りたそうに見えたので、一緒に帰した


次の刺繍の会には出てくるように言い渡して




帰りの馬車の中、リアンは王子に言われた一言を思い出していた


私はお前が思うほどはお前のことが嫌いではない


お前が思うほどは…


ふふ、やはり私の事が好きではないのだな


思わず一人苦笑する


そんなにリアンにフラウは

「リアン、よかったわね」

「出世したかったんだものね」


と声をかけ、リュウジュにもらった紙の包をガザガザと開け、中に入っていた砂糖菓子をリアンの口にほおり込んだ


出世…

出世したかったわけではない


私は自分にひどく自信があった


知力体力共に優れていると

人にも胆力のある男と思われてきた


だからこの能力を活かすために国の中枢で仕事をするのは当然だと思っていた


けれど…

私の胆力などはこの妻の前では無きに等しい


あの王子の前で大口を開け卵をむさぼるフラウの前では


リアンは口の中の砂糖菓子をカリカリと噛み砕きながら、フラウの頬を指でつついた


その柔らかさと温もりを確かめるように


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