配置換え
「リアン、明日からはお前はルルドの下に入れ」
「お前が周りと合わせるのが大変そうだと耳に入った」
「明日からは役場の職員としてではなく私直属の側近として主税局に出入りするように」
リアンの口から「はい、かしこまりました」という言葉が出てくるまで少し間があった
王子の側近として
それはリアンの目指すところだったのだが、予想だにしていなかった突然のその申し付けに喜びと戸惑いを感じるリアンだった
「これから話すのは誰にも言っていない、私の計画だ」
「今は各家庭、一族にまかせてある初等教育と、働けなくなった老人の食費を将来的にガイナ王家が面倒を見るようにしてゆきたい」
「そのための資金が必要だ」
「税率を上げる」
「豪族と、市民の」
「豪族から新たに徴収する税で初等教育施設建設と教育者の人件費を賄う」
「スオミは各宗教によって就く職業に偏りがある」
「龍神信仰の者たちは家庭での初等教育に熱心だ」
「それは教える親も、子供の頃熱心な教育を受けてきたからだ」
「自分が学んだことを子供に教えられる」
「故に龍神信仰の者は貧しい家庭に育ったものでも基礎の学問が出来る者が多い」
「そのため龍神信仰の者は本人が優秀であれば役所や貸金業など比較的所得の安定した職につける」
「また貧しい家庭の子供でも高等教育の学問所の試験に受かる者も多い」
「学問所に入る者の宗教分布はほぼ同率だ」
「そのため各宗教の間に学力の差はないように見える」
「だが風神、地神を信仰する者達はそのほとんどが年少期の教育のために個人で教師を雇えるような裕福な家庭の出身だ」
「それに比べ龍神信仰の者は貧しい家庭で育った者が一定数いる」
「それが大きな違いだ」
「私はそこに宗教間の対立の根があるような気がする」
「スオミでは高等教育を受けるのに学費はかからない」
「逆なのだ」
「幼少期の教育こそ誰にでも平等に受けさせるべきなのだ」
「貧しい者は裕福な者に僻みを感じない」
「僻みを感じるのは自分と同じ貧しき者の生活が向上してゆく様を見るときなのだ」
「風神、地神の者たちは親の職業が日雇いなら子供も日雇いになる」
「けれど龍神のものたちは基礎の学問ができるので子供の努力次第では安定した職に就き、出世も望める」
「フラウの父親のスバルがそのいい例だ」
「就く職業への不公平感が宗教間の諍いを増長させている」
「できれば各職業の宗教間の割合を同率にしてゆきたい」
「明日の保証のないものはやけになりやすい」
「簡単に無益な諍いに心を捧げてしまう」
「このスオミの治安の悪さは信仰する神の多さが原因ではない」
「神は対立しない」
「人が対立するのだ」
「地神信仰と、風神信仰の暮らしの安定しない者がが漠然と感じている不公平感と、それらの者から向けられている敵意を感じる龍神信仰の者の警戒心が無駄な争いを生むのだ」
「初等教育を平等に受けさせ、育った家庭による学力の継承の流れを断ち切りたい」
「どの宗教を信仰していても、どんな階級の家庭に生まれてもチャンスの芽は平等に与えてゆきたい」
「そして、市民から新たに徴収する税は朽ちないナリの紙に徴収額を記し、働けなくなった者たちの食費の支給に回す」
「その税を納め続けた者のみ老後の保障の権利を得る」
「それを質にとる」
「大きな犯罪、宗教間の動乱に参加した者の権利は消失する」
「ただそれでは、その後権利を失った者が荒れる可能性がある」
「多少の救済措置は必要であろう」
「それについては考えていかなければならない」
「私は一族の総意に縛られず、自分の頭でものを考え行動できる市民を作り出してゆきたいのだ」
「長い目で見ればそれがスオミの治安安定につながると信じる」
「リアン、税を上げることについてはスオミの豪族や市民の抵抗があるだろう」
「ぎりぎりの率をはじき出せ」
「お前は」
「不満を感じながらも、王家へ反旗を翻るがえすよりは渋々税を納めた方が得だと思える、ぎりぎり承知出来る率を」
「これからは全ての記録をナリの紙に記す」
「市民には自ら納めた税が、役所に記録され、きちんと保存されているのだという安心を与えなければならない」
「先ずナリの紙の優位性を知らしめるために各家庭にこの紙を配布する」
「そして朽ちずに残っているナリの古文書を人々に公開する」
「それがこの計画の初めの一歩だ」
「スオミは人の移動が制限されている」
「そのために記録の管理が行いやすい」
「だからこそ可能な制度になる」
可能…なのだろうか
リアンは話の途中から途方に暮れた
美しい理想だ
だがその美しい理想を現実にするには恐ろしく泥臭く地道な調査と、人々にその趣旨を理解させるために噛み砕いての何回もの説明が必要だ
私に…
全ての要となる資金調達のための税率を出せとおっしゃっている
なぜ…
私に
「ユアン王子、一つだけおききしてもよろしいでしょうか」
少し青ざめた顔でリアンはユアン王子に尋ねた




