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朝食会

リアンとフラウが通された離宮の小さなダイニングの壁には、果物のレリーフが埋め込まれていた


壁に掛かった燭台もフルーツのモチーフで飾られている


フラウはこの部屋に初めて入った

一階にある大食堂には父親に連れられて入ったことがある


父が知事に就任したばかりの頃、スオミの重鎮たちと顔合わせのような形で就任を祝う食事会が開かれた


あの時は父の緊張が伝わりフラウもあまり食事に手をつけられなかった


が、今日は気楽な思いで出される食事を楽しみにしていた


なにせ最近は粗食だったから

砂糖が減ることを恐れて紅茶にも砂糖を入れずに飲んでいる


ユアン様は豪族の豊かな暮らしから平民となったリアンのことが気になっているのだろう


きっと様子を心配してくださってるのだ



部屋に通されてしばらくするとユアン夫妻が現れた


席を立ち挨拶をした二人にユアンは


「幸せか」といきなりきいた


はい、と二人は声を揃える


その様子がとても微笑ましくてリュウジュは心からの笑顔になる


席に着いた一同に料理が運ばれてきた


サラダにスープ、卵料理に加工肉を焼いたもの、パンに果物


会話は主に二人の新婚生活への質問と、リアンの役所での勤務の様子、西部での学生時代の話が中心になった




フラウはこの城の主夫妻に貸しがあると勝手に思い込んでいた


特にユアンに


去年の園遊会のときのことである


急に発情したユアンを見たことでユアンの弱みを握ったと思った


そしてそれを誰にも言わなかったことで貸しがあると思っていた


他の人たちにあんな場面を見られたら大変なことになっていたわ

もう社交会の噂になっちゃって

ユアン様の禁欲的なイメージが崩れてしまっていたわね


私とマリナが思慮深いから黙っていられたのよ

リアンにも言っていないし…


ほんと、言いたいことを黙ってるって大変なんだから




リアンはフラウは王子夫妻を前になんの緊張もなくよく食べ物に集中できるなと思った


せっせと卵をふわふわに炒った物とパンとを交互に口に運んでいる

皆の会話に相槌をうちながら


確かにこの卵料理はうまいが…

フラウの作るものとは別物だが…


ふっとリアンの顔に笑みが浮かんだ


それに気づいたフラウはリアンが何を思ったかを察してムッとした


次の瞬間二人は目を合わせ微笑みあった


リュウジュは二人の様子を眺めているユアンを見て、この方にもこの夫婦を羨ましいと思う心があるのだろうかと思った


無いような気がした


最初はこの方を二面性のある人だと思った

けど、そうではないと最近気づいた


ユアン王子には皆が当然のように持っている感情が欠けているところがある


ユアン様が時々見せる非情な言動は心の冷たさがそうさせているのではない


少し人と感覚が違うのだ


スオミの方たちはユアン王子の心の欠けに薄々気づいている


そして欠けている部分を大きく補う何かをこの方が持っているのも知っている


そんなユアン様を皆愛し尊重している


私が

私だけが、ここに来て早々に王子の心の欠けを非難したのだ


私はあの時、この地に無事に着いたことを心から喜び自分の夫になる男の聡明さや美しさを素直に喜び、その気持ちを瞳の輝きにして表せば良かった…


そして王子が自分の秘密を打ち明けてくれたとき、心から同情し

涙を流せば良かった

私達の間に子供は望めないのだと

私達は同じ悲しみを共有するのだと


そうすればユアン王子もあんなひどい言葉を私に投げつけなかっただろう


そんなことを思うリュウジュの目に少し涙が浮かんできた


皆に気づかれないようリュウジュは少し後ろを向いてナプキンでそっとそれをぬぐった



食事が終わったあと、リュウジュはフラウに声をかけた


「フラウ、ユアン様はリアンにお話があるそうです」

「食後のお茶は私の部屋でいただきましょう」


「いらっしゃい」と声をかけ、フラウを自室にいざなった




リュウジュとフラウが退出した後、人払いをしたユアンはリアンに


「リアン、私はお前が思うほどはお前のことが嫌いではない」


そう言ってから今日の本題の話に入った

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