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エン国

自身の経験があったのでエン国で王族間における激しい覇権争いが起きた時、この上ないチャンスだとガイナは思った


エンを攻め、領土を広げる


権力者の内部分裂がどんなに国力を弱めるか身を持って知っている


隙だらけのエン国に戦を仕掛けたが、それなりにエン国は手強かった


完全に侵略するにはガイナにも大きく被害が出ると考えたガイナの王は、領土編入ではなく国の形としてエン国を残し、同盟という名のもとにゆるくガイナの支配下に置くことにした


ガイナがエン国を守るという名目の許、エン国の軍は一旦解散させられ、再編成された軍隊はその指揮系統をガイナに握られている


国の統治の権利はそのままエン王族に残した

これを取り上げたら最後まで徹底抗戦されるだろう


エンの王はガイナから派遣された提督という立場で国の統治を行う


また各地方の長も、ほとんど王家の親戚筋に当たるものがガイナの任を受けた大使という名で施政を行うという体をとる


最後まで戦うよりは犠牲が少なくぎりぎりエンが受け入れられるであろう停戦条件をガイナは提案したのだ


大陸を縦に走る銀の道の通行税の権利もエン国に残した


ただこの道の通行税はその金額を下げさせた


それによりエン国に加勢していたトヨ国とネム国は様子見に転じた


税が下がればこの道を通って入ってくる物資の数々か今までよりも安くなる

それは周辺各国にも旨味がある


ナリ国は最初から最後まで中立の立場を守った


エン国の王族はガイナの支配下に入ったことで心に大きな傷を負った


実質的には銀の道の通行税を下げただけで他は今までとは何も変わらない


だが国自体は事実上ガイナの属国の扱いだ


エン国の国民もプライドを傷つけられる面もあったが、その国民の怒りを一つにまとめ上げる力が当時のエン王家にはなかった


これはユアン王子の曽祖父が王を務めた時代の話である




エン国王の弟でバアツ地方を収めるナチカは蓮畑を通るときいつもナリの姫を思い出す


あの生意気なナリの姫をここで仕留める事ができなかったのは自分の最大のしくじりである


いつもイライラしながらあの姫がユアン王子の子を産んだという知らせが届くのを心配していた


ユアン王子は政治に私的感情を持ち込まないたちであるということは兄から聞いて知っている


自分の妃がエンでひどい目にあっても、それによりエンをどうこうしようという気にはならないだろう


だが、子供は…

子供はどうだ?


幼い頃から母親にエンへの恨みを聞かされ育った子供が王になった時、エンをどう扱うだろう




ナチカがそう心配するのには理由がある


ナチカの母の従姉妹ルシルが自分の娘にガイナへの恨みを聞かせ続けて、少しおかしいのではないかと思うほどガイナに敵愾心を持つ人間に育てあげた


母の従姉妹なのでルシルは王族の血を引いているわけではない


だが私の母が王に嫁いだことで従姉妹である自分も王家の一員になったような気になったルシルは誰よりもエンを属国扱いしているガイナへの憎しみを募らせた


一般人であるにもかかわらず…


美しくはあるが少しエキセントリックなところがあるルシルは常に周りから浮いていた


彼女はガイナへの憎しみを周りに語ることによって自分がこの国の王家に縁のある者なのだと皆に知らしめたかった


そして彼女は娘のケイトに幼い頃から私達はこの国を属国扱いしているガイナになにかしらの罰を与えなければならないと洗脳し続けた


親は子供を洗脳することができる

もしナリの姫が生まれてくる子供に同じようなことをしたらエンの将来の危機を呼ぶ




三十年ほど前に行く方知れすになったルシル親子…


もしや上手にガイナに潜り込んでいるのではないかと思う時がある


マトハがナリの姫を連れてきたとき、ナチカが姫に会わなかったのは、自分と多少顔の似ているはとこのケイトのことが気になったからだ


考え過ぎかも知れないが、もしケイトがあの美しさを利用してナリの王宮に上手に潜り込んでいたら…


万が一のことがある

用心のため自分の顔をナリの姫に見せないほうがいいだろうと思った


ケイトがあんな狂信的な人間に育たなかったら、私は彼女を妻に迎え入れていたかもしれない…


ナチカは繊細な顔立ちのケイトへの子供の頃の淡い恋心を思い出す




ナチカはため息をひとつついた


そしてあのナリの姫がユアン王子の子を生まぬようにと今日も地の神に願をかけるのだった







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